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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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洗脳とか精神操作はNGの方向でお願いします

「つまりあのモブローって奴は、あの日の俺と同じ状態ってことか?」


「かも知れない、だけどね。そんなの確かめようがないし」


「そう、か。まあそうだな。でもそれって……」


「おーい!」


 話を続けようとする俺達に、少し離れたところから声がかかる。見ればそこからアリサとロネット、それにクロエが三人揃って近づいてきた。


「すまない、待たせたか?」


「廊下でバッタリ会って、少しだけ話し込んじゃったんです」


「クロが急かさなかったら、まだ話してたニャ。まったく二人は仕方ないニャー」


「そう言うなクロエ……シュヤク? どうかしたのか?」


 笑い合う三人のうち、ふとアリサが眉をひそめて俺に声をかけてくる。


「ん? どうしたって、何が?」


「いつもと顔つきが違うだろう? 貴様がそういう顔をするときは、大体何か悩んでいる時だ」


「へ!? え、俺そんなにわかりやすい感じなのか?」


「他人がわかるかは知らん。だが少なくとも私はわかる。ふふふ、思い人なら当たり前だろう?」


「っ……」


 楽しげに笑いながら言うアリサに、しかし俺は改めて顔をしかめてしまう。するとアリサが表情を一転させ、心配そうな声をかけてきた。


「本当にどうしたのだ? また私達には話しづらいことだというのなら聞かぬが……」


 アリサの視線が、チラリとリナの方に向く。ああ、そうだよな。俺とリナがこっそり話してることくらい、そりゃ気づいてるよなぁ。


 だというのに、それを咎めることも追求することもなく、黙って流してくれているんだ。そんなアリサの気遣いが嬉しくて、だからこそ俺の胸が締め付けられる。


「……なあ、アリサ。ちょっと変なこと聞いていいか?」


「何だ? ちなみに香水なら使ってないぞ。今私から香っているのは、純然たる私の体臭だ! そっちの方がいいらしいと聞いたのでな」


「一体誰からそんな話を聞いたのかはスゲー気になるけど……いや、まあ、うーん……」


「何だ、はっきりせんな。それとも暗に二人きりになりたいということか? それなら連れ込み宿にでも……いや、あれは情緒がないな。やはり初めては私の部屋で――」


「いやもう、本当にそれはいいから! そうじゃなくて…………あー…………」


 何故かそっち方面だけ暴走するアリサを諫めつつ、俺はガリガリと頭を掻いて顔をしかめる。二重の意味で聞きづらいが、気づいてしまった以上問わないわけにもいかない。


「あの、さ……アリサって、何で俺のことそんなに好きなんだ?」


「は? 何だ突然?」


 俺の問いに、アリサが変な顔で驚く。そりゃいきなりこんなことを聞かれたって困るだろう。だがこれは、ここから前に進むために絶対に必要な確認だ。


「だってほら、アリサが俺に好きだって言ってきたの、俺がアリサとの模擬戦に勝ったからだろ? でもあの程度のことで、本気で人を好きになんてなるもんなのか?」


 あの日、俺がミモザに剣を二〇エターで売ろうとした時、みんなあの場にいたのに、違和感を覚えたのはリナだけだった。クロエはともかく、自分も剣を使うアリサや、商売人であるロネットすらあんな不当な取引に何も言わなかったのだ。


 それはつまり、あの時の俺の影響力が、取引をする俺とミモザだけではなく、俺の周囲にいたリナ以外の全員の意識を書き換えていたことになる。


 だとしたら……だとしたら、だ。


「今冷静に考えてみたら、不自然じゃねーか? なあアリサ、お前は本当に、俺のことを好きなのか……?」


 たとえあそこまで強力ではなくても、ヒロイン達が主人公に惚れるというシナリオの力は、当時から今もずっと発揮され続けているのではないだろうか? 彼女たちが俺に向けてくれる行為は全てシステムによって自覚なく強制されているものだとしたら?


 恐ろしい。その事実を突きつけられるのが、大口を開けたドラゴンの前に立つより何倍も恐ろしい。こんな風に誰かを気遣える優しい子達の意思を、もし俺が都合良くねじ曲げてしまっていたのだとしたら……


「そうだな……確かに今考えると、ごく一般的な好感を持つならともかく、あの瞬間にあれほど貴様を求める感情がわき上がったことには、少々の違和感を感じないでもない」


「っ……」


 不安が高まりすぎて返って無表情になる俺に、アリサが告げる。その言葉に俺は思わず体を震わせたが、アリサはそれを意に介すことなく苦笑しながら言葉を続けた。


「だが、それはただその時だけのものだ。実際状況に酔って一目惚れ……というのならすぐにその熱も冷めただろうが、今も私は貴様に惚れたままだしな」


「何で!? 俺、アリサに好かれるようなこと、特に何もしてねーだろ!? なのにどうしてそこまで……っ!?」


「何もしてないということはないだろう? 貴様と出会ってまだたったの二ヶ月だというのに、私達が一体どれだけの冒険をしたと思っているのだ?」


「そうですね。『石の初月』をあっという間に踏破してしまったと思ったら、すぐに学外に遠征に出て、その先ではまさかのレッドドラゴンと戦って……」


「それが終わったら『久遠の約束』に閉じ込められたりもしたニャ。正直なんで自分が生きてるのか不思議なくらいだニャ」


「そうねー。体感(・・)してみてわかったけど、これ普通の人生の密度じゃないわよね」


 呆れたようなアリサの言葉に、他の皆が追従する。まあ確かに、現実として過ごすには相当に密度の濃い日々を過ごした自覚はある。けど……


「いやでも、それだって別に俺が大活躍したてわけじゃねーだろ?」


 そう、俺は本物の主人公みたいに、八面六臂の大活躍をしたわけじゃない。アリサにはいつも最前列で危険な役を押しつけてたし、クロエには斥候としてこっちも危ない橋を渡らせてたし、ロネットのポーションがなかったらそもそも生き残ることすらできなかったし、リナの機転や魔法にだって何度も助けられている。


 俺だけじゃない。俺はあくまで皆のなかの一人。仲間として認められるくらいの自負はあるが、特別な好意を寄せられるほどの活躍は――


「ハハハ、確かに貴様はその見た目に反して、自分一人が輝いて皆に憧れられるような英雄とは違うのだろうな」


 そんな俺の言い分を、アリサが笑って肯定する。だが優しい目をしたアリサの言葉はまだ終わらない。


「だが私も皆も、決して節穴ではないのだ。冒険中にしろ町中にしろ、貴様がいつだってさりげなく私達を気遣ってくれていることを、皆知っている。どんな苦難を前にしても決して諦めず、最後まで全力を尽くす生き方を知っている。


 出会ったばかりの誰かのために一生懸命になれることを知っている。己を犠牲にしてでも私達を守ろうとしてくれることを知っている。


 苦手なことを克服しようと努力していることを知っている。何か秘密を抱えている事も……知っている。


 知っている、知っているんだ。たった二ヶ月であっても、一緒に過ごして知ってきたんだ。そして知れば知るほど、私は君を好きになった。それは燃え上がる炎のような想いではなく、熾火のように側にあり、ずっと私を温めてくれるような想いだ。


 天に輝く星でなくてもいい。誰もが求める宝石でなくてもいい。私だけが知る私だけの宝物。それが君だ。出会いの時に感じたわずかな違和感など、その後の日々に比べたらどうでもいいことさ」


「はわわわわ……アリサさん、大胆です」


「聞いてるこっちが照れくさいニャ」


「うぎぎぎぎぎぎぎぎ…………」


 そのものズバリなアリサの愛の告白に、ロネットは頬に手を当てて照れ、クロエはしょっぱいものでも食べたように顔をしかめ、リナは変な唸り声を上げながらギリギリと歯を食いしばり……だが程なくして大きく息を吐くと、俺の肩に手を置いて話しかけてきた。


「ま、まあ? 今回は推しのこれ以上ない笑顔を見られたから大目に見て……見てあげる、けれども!」


「痛い痛い! 肩が千切れるから!?」


「そのくらい我慢しなさいよ! おかげでアンタのくだらない悩みは吹っ飛んだでしょ?」


「……気づいてたのか?」


「あったり前でしょ! このアタシを何だと思ってんのよ!」


 肉を引きちぎらんばかりにギュウギュウ握っていた手を離すと、今度はリナがバンバン背中を叩いてくる。その痛みに思わず涙目になると、リナが俺の顔の前でニヤリと笑う。


「安心しなさい。アタシの大好きなヒロイン達は、アンタ程度にいいように操られたりしないから! それに前例もわかったから、もしまた変な感じだったら、今度はきっちり目覚めさせてみせるわ!


 そうよ、オーレリアちゃんもセルフィママも、アタシが目覚めさせてあげればいいのよ! そしたらこう、あの静かな声でぼそっとお礼を言われたり、ギューッと抱きしめてくれたり……うへへへへ…………」


「うわ、リナがかつてないほどに気持ち悪い顔をしてるニャ」


「何だかよくわからんが、とりあえず気持ち悪いな」


「えっと……あはははは…………」


「え、何でアタシが誹謗中傷を受けてるの!? いやでも、これもある意味ご褒美……?」


「「「えぇ……?」」」


 クネクネと体をくねらせるリナの気持ち悪さが限界突破し、アリサ達が引きつった笑みを浮かべる。


「みんな、ダンジョン行かないニャ?」


「おっと、そうだな。流石にそろそろ行こうぜ! さあ、今日は満を持して、『久遠の約束』の一一階に突入だ!」


「腕が鳴るな」


「どんな場所なんでしょうね?」


「頑張るニャー!」


「ふぅ……もうちょっと堪能したかったわね」


 四者四様の言葉と共に、俺達はダンジョンへと向かっていく。俺の中にあった恐怖は、気づけば綺麗さっぱり消え失せていた。

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