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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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基礎がないのに応用を教えられてるようなもんだからなぁ

 その後、俺達は近くにいたヴァネッサ先生を捕まえ、自習室の利用を申請した。テスト前ということで利用者は沢山いたようだが、そこは王立学園。自習室自体も沢山あるらしく、無事に一〇人くらいまで入れる部屋を借りることに成功したのだが……


「ぐぬぬぬぬ…………」


「何よ、まだ覚えられない?」


 教科書とノートを前に唸り声をあげる俺に、リナが苦笑しながら声をかけてくる。その何処か優越感をほのめかす態度は若干イラッとするが、実際苦戦しているのだから受け入れるより他ない。


「まだって言うか……むしろ何でリナはこんなの覚えられるんだよ?」


 リナのアドバイスで要点を書き写したノートには、「ポペパテフ王がディム・グロギル・ガングードをスニーフェッチによって平定し、それがアージェ・モラリフとネージェ・トラフンガとの争いの原因になった」と記載されている……うん、書いたのは俺なんだが、さっぱり意味がわからん。


「何でって言われても……慣れ? あとはひたすら丸暗記かしら? 正直地理とか歴史に関しては、全部覚えるしかないんじゃない?」


「身も蓋もねーな……」


 楽な道も抜け道もないと言われ、思わずガックリと肩を落とす。するとそんな俺を見て、今度はアリサが話しかけてきた。


「ふむ? ああ、プロシーダル戦役のことか。確かに王族の関係性などを深掘りすれば難解な部分はあるが、テストに出る範囲ならばそう難しくはないのではないか?


 どれも特徴のある名だから、聞けば出身地のイメージくらい湧くだろうし、スニーフェッチが主流だったのは旧アスガル帝国時代の話だというのも、広く一般に広まっている常識だからな」


「あー…………」


 そんなアリサの言葉に、俺は何とも言えないしょっぱめの表情を浮かべる。これは常識というか認識というか、この世界における一般的な知識……言うなれば前提知識の有無の差だ。


 たとえば「山田太郎がブラジルでコーヒー豆を買い付け、(ワン)さんに売った」という歴史があった時、俺は「山田太郎は名前からして日本人だろう」「ブラジルは南米にある」「(ワン)さんは多分中国人かな?」などと様々な情報が頭に浮かんでくる。


 更にそこから南米は熱帯雨林があるとか、人の移動は飛行機だが商品の配送は船便だろうとか、一つの物事から次々とイメージが連想できる。これは俺の中に地球の地理や歴史、文化などの知識が存在しているからだ。


 だが同じ文章をアリサやロネット、クロエに見せたとしても、彼女たちが俺と同じ事を思い浮かべられるはずがない。事によれば人名と地名と品名の区別すらつかないことだってあり得るだろう。


 つまりそういうことだ。ロネットが「山田太郎を日本人」だと認識できないように、俺だってポペパテフ王が何人かなんてわかんねーし、ちょんまげを結ってる人がいたら江戸時代だとわかっても、スニーフェッチが主流の時代なんてわからないのだ。


 てか、何だよスニーフェッチって。図解によるとソリ? スキー板みたいなのがついた荷車の絵があるんだが、これがスニーフェッチなのか? 戦争に使ってたなら、これが決め手になってたってことだろうか?


 わからん。この世界だと魔法の要素が絡むから、何でこれがそんなに強いのかがまるでわからん。そういう細かなところもまた、俺の理解を微妙に遠のかせてくるのだ。


「スニーフェッチは本当に画期的な発明ですよね。空からの爆撃は、今でも十分に脅威だと思います


「え、これ空飛ぶの!?」


 アリサの言葉を聞いてしみじみ語るロネットに、俺は更に驚きを重ねる。えぇ、飛ぶの? マジで? この形で空からの爆撃って、中に爆弾を満載して、勢いをつけて飛び出させるみたいなのだろうか? それとも両サイドに羽が生えてフワッと飛ぶとか、スキー板みたいなのが空中に描いた軌跡が爆発する? 急にスゲー気になってきたぞスニーフェッチ……


「ほらほらシュヤク、歴史は丸暗記しかないってわかってるんだから、そっちは後で自分でやるとして、そろそろ魔法学の方にも手を着けなさいよ。そっちも駄目なんでしょ?」


「うん? あー、そうだな。駄目ってほどじゃねーけど、どうもうっかりミスが多いって感じだ」


「そうなの? 何で?」


「いやだって、こっちはこっちで法則が……なぁ?」


 魔法によって生じた現象は、通常の物理法則とは違う反応を示すことがある。たとえば火。通常の火は酸素を燃やしているわけだが、魔法による火は魔力を燃料にしているため、それこそ真空だろうが水中だろうが燃える。


 ではその火が燃やしたものに関してはどうか? 仮に木を燃やしたとすると、魔力によって生じた火は内在する魔力が尽きるとその場でフッと消えてしまう。だがその火の熱によって生まれた火は通常の火なので、そのまま燃え広がっていくことになる。


 つまり、魔法の火と通常の火は明確に違う。だが魔法で通常の火を出すこともできたりするし、水をかけた時の反応も、通常の水と魔法の水とで違ったりする。そういう細かな違いはこの世界に生きていると「日常に存在する当たり前のこと」として理解できるのだが……


「あー、そっか。シュヤクってまだ目覚めてから二ヶ月も経ってないんだもんね。そりゃ混乱するかぁ」


「そーいうこった。こっちも慣れるしかねーのはわかってるんだけど、どうにもややこしいっていうか……」


 重力の計算式なんてわからなくてもリンゴは木から落ちるし、揚力だの何だのなんてさっぱりだろうと、紙飛行機は空を飛ぶ。結果をまず知っているからその過程を学ぶ効率があがるわけで、「物が上から下に落ちる」ことを理解していない人間に万有引力がどうとか言われてもピンとこないのである。


「……ねえ、シュヤク。ちょっといい?」


「ん? 何だ?」


 と、そこで不意にリナが耳元に口を近づけてきた。歳相応の青少年ならドキドキするところなんだろうが、俺は(口が臭くない!? 若いってスゲーなぁ)とアホみたいなことを考えていると、リナがこっそり囁いてくる。


(元の……って言っていいのかわかんないけど、一五歳になるまでのシュヤク君の記憶って、その辺はどうなってるの? そっちがあるならそこまで混乱しないんじゃない?)


「ああ、それか。正直微妙っていうか……何かぼんやりしてるんだよなぁ」


 それは別に、元シュヤクの記憶に欠落があるとか、そういうことではない。そもそも俺……田中 明の記憶だって、はっきり覚えていることはそこまで多くない。印象に残っている出来事ならともかく、小学校くらいの記憶ですら、よっぽど仲の良かった友達のことくらいしか覚えていないし、具体的にどんな授業を受けていたかなんてとこまでいくと、本気で何も思い出せないくらいだ。


 なので、それはシュヤク少年も同じだ。普通に生活する分には不足のない知識や常識は備わっているが、田舎村の子供が王都の学園で学ぶような地理や歴史を知っていたかと言われれば違うし、当時は魔法だって使えなかったのでそっちの知識も当然ない。


 そこに田中 明(おれ)という記憶が強烈に上書きしてしまったので、当たり前過ぎて気にしていなかったこっちの常識なんかは吹き飛んでしまったんじゃないかというのが、俺の推測である。


「ふーん……じゃあとにかく、全部コツコツやっていくしかないってことね」


「だな。というわけだから、指導宜しく」


「いいわよ。ビシビシ教えてあげる!」


「ウニャー! 疲れたニャ! そろそろ休憩したいニャー!」


「おいクロエ、まだ始めたばかりだろう? もう少し頑張れ」


「ですね。あと三〇分頑張ったら、最近うちで開発しているサバクッキーを差し上げます」


「サバクッキー!? それなら頑張るニャ!」


「サバクッキー……?」


「皆さんの分もありますから大丈夫ですよ。是非忌憚のない感想を聞かせてください」


「お、おぅ……っと、いかんいかん」


 サバクッキーのインパクトで抜けそうになった知識を、俺は慌てて頭の中に反芻させる。そうとも、地獄の三〇連勤に比べたら、こんなもの何でもない。さあ、地道に暗記していこう……サバクッキー……スニーフェッチ…………

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