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逆らえない流れってのがあるんだよ

「……ということがあったんだよ」


「アンタ、何で早速やらかしてんのよ」


 午後。学園長先生のありがたい話という入学式が終わり、初日ということで軽い自己紹介のみで終わった放課後。俺は早速校舎裏にて、リナに捕まって話をしていた。


「よりにもよってアリサ様と揉めるなんて……アンタ死にたいの?」


「死にたくはねぇなぁ……てか、アリサ様?」


「何よ、推しを様付けするなんて普通でしょ?」


「アッハイ。そっすね」


 ジロリとリナに睨まれ、俺は素知らぬ顔で頷いておく。まあ俺だって本人に対しては様づけで呼んだし、伯爵令嬢なんだからおかしいってこともないだろう。


「んで? そっちはどうだったんだ?」


「アタシ? ロネット様とはすっかり仲良くなったわよ! やっぱり同性っていうのがよかったみたい。むしろゲームの主人公より仲良くなれたかもね」


「ほーん、そいつはよかった……でいいのか?」


「いいんじゃない? あの感じならダンジョンに誘える好感度ラインは超えてると思うから、アンタがアタシに協力を要請するって形にしたうえでアタシが同行を頼めば、結果としてアンタとロネット様の距離感を維持しつつロネット様の戦闘力を高められると思うわよ」


「おー、そりゃいいな」


 ダンジョン攻略はプロエタのメインコンテンツだ。別にソロでも入れるが、どうせなら仲間を連れて行って一緒にレベルを上げた方がいいに決まってる。


 だが、ダンジョンという命がけの場所に同行してもらうには、相応の好感度が必要になる。本来の流れで助けていればロネットは初期からダンジョンに連れて行けるキャラの一人だったので、それが可能だというのは朗報である。


「ん? 待て、リナも一緒に来るのか?」


「当然でしょ!? 何でハーレム野郎の主人公とロネットたん……ゲフン、ロネット様を二人きりにすると思ったの?」


「だからハーレムはお断りだと……いやそうじゃなく、リナは戦えるのか?」


 俺は主人公なので、当然戦える。ロネットもメインヒロインなので同様だ。だがリナはゲーム中では名前すら出ないモブだ。果たして戦えるのかという俺の疑問に、リナはチッチッチッと舌を鳴らして不敵に笑う。


「勿論戦えるわよ。てか、そもそもロネット様を助けたのはアタシなのよ?」


「あ、そう言えば……」


「まあ勿論、アンタやロネット様みたいな成長補正はないと思うけどね。それにモブとしてでもこの学園に入学できる前提があったんだから、そもそもこの国ではそれなりに強い方なんじゃない? その上で必死に努力もしたから尚更ね!」


「おー、凄い凄い。てことは、もう結構レベルが高かったりするのか?」


 ドヤ顔をするリナに、俺が何気なくそう問う。するとリナは一瞬呆気にとられたような表情をしたのち、すぐにしたり顔でウンウンと頷いた。


「あー、そっか。アンタ記憶が目覚めたのは昨日なのよね。なら知らないと思うけど……この世界の人、自分のレベルなんてわからないわよ?」


「えっ!? そうなのか!?」


「ていうか、アンタこそ自分のレベルわかるの?」


「それは……ステータス、オープン!」


 俺はお約束の文言を口にしながら、右手をまっすぐに伸ばす。だが残念というか当然というか、目の前にステータス表示が出ることはなかった。


「……………………」


「ま、そういうことよ。実際ゲームの時だって、登場人物が自分のレベルを口にすることなんてなかったでしょ?」


「そりゃまあ……チッ、そういうことか」


 ゲームのキャラクターが、逐一変化する自分のレベルに反応して台詞を喋るなんてことをしようとしたら、それこそ台詞のパターンが膨大な量になる。なのでそれに触れないことに何の不自然も感じなかったが……なるほど、つまりステータス表示はあくまでもプレイヤー、外側の世界の視点であって、ゲームのキャラクターになってしまった俺にはもう見えないということか。


「これ、地味だけどかなりキツい変更点じゃねーか? 自分の強さが感覚的にしかわかんねーとなると、ダンジョンの攻略はかなり慎重に行く必要があるだろ」


「でしょうね。でもこれが現実(・・)なら、そんなの当然じゃない」


「……………………」


 リナが当たり前のように言った当たり前の台詞に、俺はただ言葉を失う。


 ゲームなら、全て見えている。自分や仲間の能力値や、体力と魔力の残量を数字で把握し進行か撤退か選べるし、万が一死んだところでセーブ箇所からやり直しするだけだ。


 だが、これは現実。自分自身のことですら曖昧にしかわからねーし、死んだら多分それで終わり。その当たり前過ぎる事実を改めて突きつけられ、俺は背筋が寒くなる思いを感じた。


「……これひょっとして恋愛フラグがどうとか言ってねーで、ガチで仲間を集めねーとヤバいやつか?」


「少なくとも『原作知識で楽勝!』みたいな流れではないでしょうね。あ、それとも開発者しか知らない裏技みたいなのがあるとか?」


「ねーよそんなもん……ないよな?」


 俺はあくまでSEであってPGではないので、奴らが何らかのコードを仕込んでいる可能性までは否定できない。が、ガチのやり込み勢らしいリナが知らないなら、おそらく存在しないだろう。


「ふーっ……わかった。じゃあ入学後は気合い入れてレベル上げするか。現状誘えるのは、俺とリナとロネットの三人だけど……できればもう一人、前衛が欲しいな」


 多少条件の違うダンジョンもあるが、このゲームにおけるメインダンジョン……学園地下に広がる『修練の迷宮』は、五人パーティで潜るのが基本だ。別にそれ以下で入れないわけではないが、五人を想定した難易度なので、当然攻略が難しくなる。


 ゲーム時代ならあえて人数を減らすとか、多少バランスが悪くてもお気に入りのキャラだけで攻略……なんて遊び方もありだったが、さっき「これは現実」という話を聞かされた手前、可能なら万全を期したい。


「自分で言うのも何だけど、俺がまともに戦えるかわかんねーからなぁ」


「何よ、情けないわね! まあでも、アンタの童貞喪失チャンス(チュートリアル戦闘)を奪っちゃったのはアタシだし、ちゃんと実戦経験のある前衛が欲しいってのは同意だわ。でもその条件を今満たしてる子ってなると……」


「…………アリサ、だよなぁ」


 他のヒロインとは出会っていないので、当然選択肢はアリサしかない。加えてアリサは本来もう少し先で仲間になるキャラなので、初期装備もいいしレベルも高めだ。初めてのダンジョン探索に同行してもらえるなら、これほど心強い人物はいないだろう。


 が…………


「え、じゃあ俺、マジでアリサと模擬戦やらないとなの? 普通に嫌なんだけど?」


「そこは主人公パワーで何とかしなさいよ! っていうか、アリサ様の性格なら、どうせ断ったって無理矢理予定組まれるんじゃない?」


「うぐっ!? それは確かに……」


 実剣を使う「決闘」ならいざ知らず、単なる「模擬戦」なら簡単に申請が通る。アリサの行動力と実家の権力があれば、下手したら明日にでも予定が組まれている可能性すらありそうだ。


「アンタが勝てば、多分アリサ様はダンジョンについてきてくれるわ。そうなればパーティとしての安定度は一気に上昇して、アタシ達のレベル上げもスムーズにいくと思うの。


 つまりアンタの実力に全てがかかってるってことよ! 今回だけは目を瞑ってあげるから、主人公パワーでどうにかアリサ様を倒してみせなさい!」


「他人事だと思って、気楽にいいやがって……」


 思わずジト目でリナを睨むが、そんなもの何処吹く風とばかりにリナはニマニマ笑っている。


 だがまあ、うん。そうだな。主人公っぽいイベントは御免なんだが、かといって全部を避けていたら寂しい学園生活……どころか三年後には世界が滅んでしまう。ならここはひとつ、気合いの入れ処でもあるだろう。


「うっし、なら今の俺でも勝てる方法を考えてみるよ」


「ならアタシは……かなり無理っぽいけど、一応アリサ様が模擬戦を仕掛けるのをできるだけ遅らせてみるわ」


「おう、頼むぜ」


 互いに頼りない限りだが、互い以外に頼りになる存在はいない。俺達は握った拳をゴツンと打ち合わせると、それぞれの全力に期待して話し合いを終えるのだった。

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