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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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フッ、汚ぇ勝利だ(色んな意味で)

「あー、重かった! やっと着いたぜ……」


 明けて翌日。俺達が準備万端でやってきたのは、「火竜の寝床」の隠し部屋前だった。背負ってきたでかいリュックを床の上に置くと、言葉と共にホッと一息つく。


「シュヤクはだらしないニャー。クロはこのくらい楽勝ニャ!」


「お前は何も背負ってねーじゃねーか! いや、いいんだけどさ!」


 今の俺達からすれば、このダンジョンに出る魔物は雑魚だ。が、それでも斥候が動けないのはあり得ないので、クロエの装備はいつもと変わらない。


 なので楽勝で当然だけど、それは俺達が求めた結果なので文句を言うことでもなく……うぬぬぬぬ。


「ほら、馬鹿なことやってないの! 時間ないんだから、さっさと準備しましょ」


「わかってるって。んじゃロネット、頼む」


「お任せ下さい!」


 俺がリュックの蓋を開けると、その中身にロネットが特製ポーションを振りかけていく。ゲームには存在しなかった薬なのだが、ロネットがレベル二〇で習得しているはずの「アイテムの使用効果二〇%アップ」を期待してのことだ。


「できました!」


「では中に入るぞ。リナ、頼む」


「りょーかい! ポチッとな!」


 アリサに言われ、リナが仕掛けを操作する。すると閉じていた隠し扉が開き、中の小部屋が露わになった。中に人影はなく、未だに俺達以外でここの存在に気づいた者はいないらしい。


「それじゃロネット、アレも頼む」


「わかりました。皆さん、集まってください」


 部屋に入る前に、最後の一工夫。こちらはゲーム時代からあったアイテムを使用してもらうと、俺達は息を殺して室内に入り、背後の穴が消える。


 閉じ込められた。つまり今回も問題なく、この部屋のギミックは発動してくれるようだ。


「アリサ」


「うむ! えーいっ!」


 気合いと共に、アリサがリュックの中身を部屋の中央に投げていく。それが終わるのと同時に俺達全員で岩陰に姿を隠すと、それから一〇秒ほどであの日と同じく、レッドドラゴンの巨体が室内に出現したのだが……


「グルルルルルルルル…………?」


(うっし!)


(こっちに気づいてないみたいニャ)


 目の前に獲物がいないことに、レッドドラゴンが不思議そうな顔をしているように感じる。フフフ、どうやら一つ目の関門は通り抜けられたようだ。


 俺達がロネットに使ってもらったのは、使うと一時的にエンカウント率が下がる「姿隠しの香水」というアイテムだ。ゲームと違って現実のエンカウント率とは何か? と考えた時、魔物に感知されづらくなるんじゃないかと予想したのだが、それがバッチリ当たった形となる。


 勿論、密室での強制エンカウントに対し、そう長時間気配を消すことなどできないだろう。だがここにはもう一つ、奴の興味を引く存在がある。


「グルル……?」


(食いつけ、食いつけ……いった!)


 リュックから放り投げた生肉に、レッドドラゴンが食いつく。俺の重くて生臭い運搬業務が報われた瞬間だ。さあ、これで二つ目も上手くいった。あとは三つ目となる最後の仕掛けだが……その結果が出るより早く、レッドドラゴンの視線がこっちに向けられた。


「グギャァァァァァァァ!!!」


「気づかれた! 戦闘開始!」


 奴が雄叫びを上げるのと同時に、俺達全員が岩から躍り出る。するとレッドドラゴンは大きく息を吸い込み、挨拶代わりの火炎ブレスをお見舞いしてきた。前回はこのひと吹きでアリサが膝を突くことになったが、今回は違う。


「フフフ、この私が同じ轍を踏むものか!」


 戦うことがわかっていたのだから、準備は万端だ。リナの魔法で塗らし、ロネットのフリーズポーションで薄氷のコーティングをされた盾は見事にドラゴンブレスを防ぎきり、アリサが不敵な笑みを浮かべている。


「クロエ、出るぞ!」


「クロにお任せニャ!」


 その背後から、俺とクロエが飛び出していく。当然レッドドラゴンは迎撃しようとしてくるが、二方向から同時に攻めればどうしたって意識が散漫となり、今の俺達なら十分に対処できる。


「いくわよ、ウォーターボール! ウォーターボール!」


「投げます! えーいっ!」


 そうして俺達が注意を引いている隙に、リナが威力は低いが炸裂して広範囲に攻撃できる魔法を連発し、そこにロネットがこれでもかと詰め込んできたフリーズポーションを投げつける。ゲームだと鞄の中身を入れ替えるなんてできなかったが、現実なら使わないファイアポーションの代わりにフリーズポーションを持ってこられる。


 つまり、残弾はたっぷり。節約する理由などない。広範囲を濡らされ凍らされたレッドドラゴンが、たまらず悲鳴をあげて身をよじる。


「グギャァァァァ!?!?!?」


「おら、隙だらけだぜ! 全力斬り!」


「疾風二段斬りニャ!」


 そうして怯んだところに、更に追い打ち。レベル的にはまだまだ格上の相手だが、これだけメタを張れば十分に戦えるのだ。


「グァァァァ!」


「チッ、またブレスか! 下がれ!」


 二度目のブレスの予兆に、俺とクロエは慌ててアリサのところまで下がる。すると炎の嵐が吹き抜け、それを受けきったアリサがきつそうに息を吐いた。


「くぅぅ……何とか耐えたか」


「アリサさん、これを」


「ああ、ありがとうロネット」


 盾の工夫は一度きりなので、二度目以降は素で受けるしかない。あの頃より強くなっているので即座に崩れたりはしないが、それでも何度も受けられるものではない。


「アリサ、平気か?」


「ロネットの回復込みで、あと二回なら防いでみせる。だが三回となると厳しいな」


 俺の問いかけに、アリサが笑顔を浮かべて答えてくれる。戦えることと勝てることは別。これだけ準備を整えてようやく五分なのだから、負けることだって十分にあり得る。


 もっとも、それは皆納得済みだ。危険があっても勝ち目がある、その先に望む未来があると信じて、俺の作戦に乗ってくれた。ならあとは全力を尽くして結果を待つのみ。


「わかった、攻撃は俺とクロエでやるから、無理はしねーで休んどいてくれ。それにそろそろ……お?」


「グァァァァ……?」


 不意に、レッドドラゴンが動きを止める。不自然に尻があがり、代わりに俺達の方に首が下がって狙いやすくなる。


「来た来た来た来た! アリサ、前言撤回だ! 総攻撃準備!」


「クォォォォォォォォーン!」


ブリブリブリブリッ!


 レッドドラゴンの下がった尻から、猛烈な臭いを放つ半固形の物体が噴出する。餌に混ぜた下剤が遂に効果を発揮したのだ。


 さあ、全目的達成! 後はこいつを仕留めるだけ!


「うぉぉぉぉ! 全力斬り! 全力斬り! 全力斬りぃ!」


「ウニャニャー! 疾風斬りからの、双月乱舞ニャ!」


「何と言うか……すまん! クロススラッシュ!」


「ごめんなさい! ポーション乱舞!」


「マナブースト! ダブルマジック! 全部持ってけ……ミード・ウォーターボルト!」


「グギャァァァァァァァ!?!?!?」


 排便中の無防備な首に、俺達の全力が炸裂する。その結果レッドドラゴンは「そりゃないぜ」みたいな情けない声をあげて倒れ伏し、その体が光の粒子となって消えていった。


「ハッハー! 勝ったぜ!」


「うむ、勝ったが……いや、勝ったんだが……」


「何だか凄く悪いことをしたような気がします」


「まあ、これを勝ったとは言いづらいわよね」


 雄叫びを上げる俺の横でアリサとロネットが微妙な表情を浮かべ、リナが苦笑して言葉を続ける。ふふふ、甘いな。どんな汚いハメ技を使おうが、勝ちは勝ちなのだ。


「さて、それじゃ目的のブツを採取しましょうかね」


「シュヤク、これ本当に持っていくニャ?」


「当たり前だろ? これを取りに来たんだからな」


 クロエがもの凄く嫌そうな顔をしているが……そしてその気持ちは凄くわかるが……それでも俺は、生肉を入れていたリュックを回収し、そこに消えずに残ったドラゴンの糞を詰めていく。


 これが最後の勝利の鍵。あとは結果をご覧じろってとことだな。

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更新お疲れ様です。 一昔前…ラノベが流行る前のファンタジーものだと『ドラゴンのうん○=貴重な素材(錬金術など)』という設定が有りましたが。果たしてシュヤクはそっち方面で活用するのか、はたまた貴重な素…
哀れダンジョンドラゴンくん 下剤で肥料製造機か…
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