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今更「ゲーム主人公転生」かよ!?  作者: 日之浦 拓


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ガチ勢の考えることはわからん……

「よーし、到着! どうだ? 本当に戻れただろ?」


「そう、ですね……」


 ダンジョンに入った時点でショートカットは解放されていたため、俺達はそれを使って学園に帰ってきた。光る渦を通り抜け、気づいたら学園の校舎内部という状況に、皆がそれぞれの反応を示している。


「あー! 馬車に乗らなくていいのサイコー! シュヤク様々ね」


「楽ちんだったニャー」


「いや、これ楽とかいう次元の話じゃないですよね? 流通に革命が起きますよ!?」


「……違うぞロネット、それどころではない。ダンジョン内部という人目に付きづらい場所に人や物を運べるというなら、その利用価値は計り知れない。


 小悪党なら密輸程度だろうが、強力な破壊兵器や軍隊を送り込めば他国を容易く蹂躙できるし、凶悪なテロリストなら伝染病に感染した動物の死骸をばらまいたりもできるだろう。何せ国境の検閲がないのだからな。


 おいシュヤク、貴様この力をどうするつもりだ? 事と次第によっては……」


「いやいや、そんな難しく考えなくてもいいでしょ。こんなのダンジョンを円滑に攻略するための手段でしかないんですから」


 剣呑な視線を向けてくるアリサに、俺は気楽にそう告げる。そうとも、俺はゲームシステムを悪用なんてしない。


 なに、大丈夫。この二人ならわかってくれる……いや、メインヒロイン(この二人)なら、そんなこと最初からわかっている(・・・・・・・・・・)はずだ。


「あわわわわ……あの、あのねロネット。アリサ様も――」


「……そう、ですね。確かにシュヤクさんがそんなことするはずないですよね」


「そうだな。この私とした事が、くだらない懸念を口にしたものだ。謝罪しよう」


「いいってそんなの。それじゃクエストを受けてた鍛冶屋に行こうぜ」


「はい!」「うむ!」「ニャー」


「えっ? えっ!? それでいいの!? あれ?」


「何してんだよモブリナ、さっさと来い」


「ちょっ、待ちなさいよ!」


 グズグズしているモブリナを急かし、俺達はザガン魔導武具店へと歩いて行く。店に入ればすぐに店主であるミモザがいたので、俺はインベントリからクエストアイテム「赤炎石」を五個取り出してミモザに渡した。


「赤炎石五個、確かに受け取ったで。んじゃこれが報酬や!」


「おおー!」


 赤炎石と引き換えに渡されたのは、これを使って生産することのできる「灼熱の剣」だ。普通の店売り装備ではあるが、おおよそレベル一〇くらいのキャラが使うのに丁度いい性能がある。


 まあ予想外のエンカウントでレッドドラゴン(ボス)を倒した結果、俺のレベルがあがったせいで若干格落ちした気がしなくもないが、それでも初期装備に比べれば雲泥の差……って、そうだ。


「なあミモザ。これを売りたいんだけど」


 言って、俺は腰に佩いていた剣を外してミモザに差し出す。すると何故かモブリナが驚いたような声をあげた。


「えっ!? シュヤク、それ売るつもりなの!?」


「ん? そうだけど、どうかしたか?」


「どうって……」


「ふむふむ。いい感じに手入れはされとるけど、ごく普通の数打ちの剣やね。買い取りならいちま…………二〇エターってところやな」


「やっぱそんなもんか。じゃあそれで――」


「ちょ、ちょっと待って!」


 頼む、と言おうとした俺の腕を、モブリナが強引に引っ張る。そのまま店の隅に連れて行かれると、モブリナがもの凄い形相で俺を睨んできた。


「アンタ、どういうつもり!? まさか本気で売るの!? しかも二〇エターって、その辺の鉄くずより安いじゃないの!」


「んなこと言ったって、初期装備の剣なんて持ってても仕方ねーじゃん。俺に縛りプレイでもしろってのか?」


「違うわよ! 武器を変えるのはいいけど……でもあれ、思い出の品なんでしょ?」


「思い出?」


「そうよ! あれは誰かを助けるための剣だって、そういう思いを託された剣なんだって、アンタ大事にしてたじゃない! それをたった二〇エターで売っちゃうのかって聞いてるのよ!」


「えぇ? そんなこと言われても……」


 妙に熱心に訴えてくるモブリナに、俺は戸惑いで言葉を詰まらせる。たかがゲームのイベントにそこまで入れ込むのはガチ勢らしいが、俺に同じ熱量を求められても困るのだ。


 それに二〇エターは、ゲームでの(・・・・・)初期装備の買い取り金額だ。確かに安いが、何もおかしいことはない。初期装備の価値なんてそんなもんだろう。


「あーもう! じゃあもういいわよ! はいこれ、二〇エター! これであの剣はアタシが買ったから! いいわね? いいのよね?」


「お、おぅ。別にいいけど……」


 と、そんな思いが顔に出ていたのか、モブリナが自分の腕輪をちょいちょいといじり、俺の腕輪に叩きつけるように合わせてきた。それにより俺の腕輪に二〇エター分の魔力を移すと、モブリナがいそいそとミモザの方に駈けていく。


「じゃあそういうことで! ごめんなさいミモザさん、その剣、アタシがもらうことになったんで!」


「そうなん? 別に構へんで。ならせっかくやし、サービスで研いだるわ」


「ホント!? やったー、ミモザさん大好き!」


 大はしゃぎするモブリナの姿を、俺は軽く首を傾げて見つめる。あいつ、そんなに初期装備の剣が欲しかったのか?


 って、そうか。あれ一応非売品だから、アイテムコンプが目的なら確保したい逸品なのか。うむ、それなら納得だ。


「ま、いいや。新しい武器も手に入ったし、明日からは改めてメインダンジョンの攻略、頑張ろうぜ!」


「「「オー!」」」


 俺の提案に、全員が声を揃えて気炎を上げる。そうして次の日から、俺達の新たな快進撃が始まった…………となると思っていたんだが。





「何だよモブリナ。俺疲れてるから休みてーんだけど?」


 メインヒロイン達と別れた後。何故かモブリナに呼び出され、俺はいつもの作戦会議場所……即ちショートカットから飛んだ初心者ダンジョンのなかにやってきていた。


 如何に無敵の主人公とはいえ、疲労しないわけではない。ムッとする俺に対し、しかしモブリナもまた腰に手を当て詰め寄ってくる。


「何だよじゃないわよ! みんないたから聞かなかったけど、流石にそろそろ説明しなさいよ!」


「説明って、何を?」


「だーかーらー! いきなりインベントリが使えるようになったり、そこから超強力な攻撃アイテムを取り出して使ったことよ! あれ、裏ダンの魔物のドロップアイテムでしょ!?」


「あー、それか。何でって言われてもなぁ……ほら、ピンチから能力覚醒って、主人公あるあるだろ?」


「……それを信じろって?」


 ジト目を向けてくるモブリナに、俺はひょいと肩をすくめてみせる。


「ゲーム世界転生してることに比べたら、よっぽど現実的(・・・)だろ?」


「うぐっ! それを言われるとそうだけど……でもじゃあ、あのアイテムは?」


「インベントリのなかに、最初から入ってたんだよ。だから何で入ってたのかって言われても困る」


「むぅ……あ、じゃあ他には? 何が入ってたのか、全部教えなさいよ」


「いいけど……」


 モブリナの頼みを聞いて、俺はインベントリの中身を教えてやる。するとモブリナはしばし思案顔をしてから、ぽつりと言葉を漏らした。


「うーん……その内容だと、裏ダンを突破した直後って感じね」


「ん? そうなのか?」


「そうよ。回復薬とか対策アイテムは裏ボスとの決戦用に用意して使い切らなかったやつじゃないかな? で、攻撃アイテムは道中で倒した雑魚が落としたのを、そのまま持ってたって感じ。裏ボス相手にあんなの使わないし」


「ふむ? そりゃまあそうだな」


 最終盤の攻撃アイテムとはいえ、その威力は三〇レベルしかないレッドドラゴンを一撃で倒すことすらできない程度のものだ。裏ボスに挑むならカンストのレベル二五〇だろうから、そんなもの使うよりスキルの一発も撃った方がよほど強い。


「だから、全力で裏ボスと戦って勝って、そこでセーブした中身みたいだなって思ったのよ。まあ装備とかが一切ないのが不思議だけど、自分が身につけてる分は別枠だし……インベントリに必要最低限のアイテムしか持ちたくない人なら?」


「ふーん……」


 その意見を、俺は適当に聞き流す。正直なことを言えば、何で中身が残っていたかなんてどうでもいい。重要なのはそれを俺が活用し、今後のレベル上げに使えるということだからな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ふむ…さしずめ『転生者(プログラムされていない存在=この世界からすれば異物)』から『ゲームの主人公=プレイヤーキャラ(この世界に存在=プログラムとして登録されてる)』…
[一言] あー。プログラム追加は人格が侵食されるのか。確かに全プログラム入れてたらいきなり終わってましたね。恐ろしい罠だ。
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