主人公の力を思い知りやがれ!
「シュヤク!? 貴様、大丈夫なのか…………!?」
「ん? ああ、そっちもあったか……」
背後から聞こえる声に、俺は振り向いて呟く。それから驚愕の表情を浮かべているアリサを、俺は意志を込めてジッと見つめた。するとその頭上にはHPバーが表示され、62/174 という数字も見えてくる。
これぞ俺が取り戻した三つの機能のうちの一つ、ステータス表示。戦闘中なら凝視するだけでこうして簡易的な数字が見えるし、通常時ならレベルや各種能力値なども全部が数字で見える便利機能だ。
(なんだ、まだ三割近くHPが残ってるのか。なら平気だな)
もっとヤバそうなら回復薬を渡すのも考えたが、あれならもう一回くらいはレッドドラゴンのブレスを防げるはず。ならばいいと、今度は壁際で動かないクロエの方を注視する。目に映るHPバーはレッドゾーンに到達しており、こっちはかなり危ない状態だ。
「ロネット! クロエにこれを!」
言って、俺はインベントリからさっき自分に使ったのと同じ回復薬を取り出して投げる。俺が取り戻した二つ目の機能、インベントリ……莫大な量のアイテムをどこだかわからん別空間に収納して持ち運べるという、ゲームならではの便利機能筆頭と言える力だ。
だがそれだけなら、俺はこれを選ばなかった。選んだ決め手になったのは、今のやりとり……そう、どういうわけだか、インベントリに最初から幾らかの中身が入っていたのだ。
「わかりました! って、これまさか、エリクシールですか!? シュヤクさん、どうしてこんなものを……」
「いいからさっさとやれ!」
「は、はい!」
ちょっと強めにコマンド入力してやると、ロネットが慌ててクロエの側に駆けより、薬を使った。するとすぐにクロエが目覚めるが、いつまでもボーッと成り行きを見守ってくれるほど、レッドドラゴンは間抜けじゃない。三度目の正直とばかりに、その口が大きく大気を吸い込んでいく。
「シュヤク、マズいぞ! またブレスだ!」
「大丈夫だ! 光のヴェール!」
焦った声を上げるアリサをそのままに、俺はインベントリから淡く輝く布っぽいものを取り出して放り投げる。すると周囲にオーロラのような光が広がり、ワンテンポ遅れてドラゴンのブレスが吹きすさぶが……
「ぬ? これは……」
「ハッハー! もうそんなもん効かねーんだよ!」
消費アイテム、光のヴェール。効果は三〇秒間ブレス系のダメージを八割カット。それでもたかだかレベル五しかない俺の体は本来なら焼け焦げるはずなんだが……炎の嵐が吹き抜けたのち、俺の体には小さな火傷の一つどころか、服に焦げ跡すらない。
これぞ三つの機能の最後の一つ、HPだ。HPがゼロにならない限り、俺は一切怪我をしないし、戦闘能力も損なわれない。瀕死だろうと十全の動きができてこそゲームだろ!
「お返しだ、これでも食らえ!」
俺は再びインベントリに手を突っ込み、なかからでかい氷の結晶みたいなのを取り出す。なるほど、実物はこんな形だったのかと納得しながらフリスビーのように投げつけるのは、攻撃アイテム「絶対零度の氷結晶」だ。
飛んでいった氷の結晶、そのとんがったところがプスッと刺さった瞬間、レッドドラゴンの体を猛烈な吹雪が多う。
「ギャオォォォォォォォ!?!?!?」
「へっへーん! どうだすずしくなっただろう? お代わりもあるぞ! ていっ!」
「グギャァァァァァァァ!!!」
裏ダンに出るレベル八〇の魔物が落とす攻撃アイテムは、レベル三〇しかないレッドドラゴンには随分と効果てきめんらしい。目に映るHPバーがギュンギュン減っていき、たった二発で残りは三割未満になった。
つまり、あと一発当てれば倒せるということだが……
「残念、今ので打ち止めか」
インベントリに入っていた「絶対零度の氷結晶」は二つしかなかった。そうして追撃がないことに気づいたレッドドラゴンが、怒りの形相を俺に向けてくる。
「ギャァァァァァァァァ!!!」
「シュヤク! 今助けに行く!」
「そうよ! アタシが注意を逸らすから、その隙に――」
「いらん! 俺一人で十分だから、クロエとロネットを守ってろ!」
「だが……リナ?」
「わかったわ、シュヤク……本当に大丈夫なのね?」
戸惑うアリサの肩を掴んで止めながら、モブリナが俺に問う。なので俺が頷いてやると、真剣な表情をしたモブリナがそのままアリサを引っ張って壁際まで移動していった。
なんだ、モブでも役に立つじゃねーか。ならこっちは最後の詰めだ。
「ギャァァァァ! ギュォァァァ!!!」
「きかんきかん! そんな爪なんて俺にはきかねーっての! いい加減わかれよ!」
消費アイテム「鉄壁のクルミ」……効果は三〇秒間、物理ダメージを九九%カット。流石にここまで上位のアイテムを使えば、レベル差があってもダメージなんてほぼ食らわない。
だが敵の攻撃が通じなくなったからといって、こっちの攻撃が通るようになるわけではない。俺の今の攻撃力だと倍になっても大したダメージにはならないので、今は余裕の笑みを浮かべながら無抵抗で殴られ続けている。
「どうしたどうした? ぬののふくすら切れないヘナチョコの爪に、クサいだけの息がお前の全てか? ならそろそろ……あ、ヤベ」
三〇秒の効果時間が切れたことで、浮かんでいたオーロラが消える。それに俺が焦った表情を浮かべると、レッドドラゴンが醜悪な笑みを浮かべてその口を開く。
「スゥゥゥゥ……」
口腔内に膨らむ、灼熱の光。光のヴェールの効果が消えた今、そいつを食らえば一発退場間違いなしだが……俺はあえて前に走り出し、レッドドラゴンとの距離を詰める。それを嫌ったドラゴンが爪を振るうが、当たったところで俺にダメージは入らない。
「グァァァァァァァァ!!!」
故にドラゴンは、触れらそうなほど間近でその口を開いた。至近距離から放たれる灼熱のブレスは一瞬で俺を戦闘不能にするはずだったが……
「へへっ、この距離ならよけられねーよな?」
インベントリから取り出したのは、攻撃アイテム「灼熱の玉」。火属性なので耐性のあるレッドドラゴンにはダメージ半減、普通に使うとこれだけじゃ倒せない。
だがそれが爆発するのが、口の中だったら? さっき口を閉じて防いだってことは、部位によるダメージ差は存在するってことになる。果たして結果は……
ドカンッ!
「ギャァァァァァァァァ!!!!!!」
口の中での爆発により、レッドドラゴンが悲鳴をあげる。口からダラダラと血を流しながら遂にその場に倒れ込み、殺意に満ちた瞳がそれでも俺を睨み付けているが、奴にできるのはもうそれだけだ。
「グ……ァ…………」
「そう睨むなって。そっちが先にクソみてーな戦闘を押しつけてきたんだ。なら俺だって理不尽な奇跡を押しつける権利がある。なにせ俺は主人公だからな」
腰に下げていた初期装備の剣を抜き、その目に思い切り突き立てる。そうして半分以上埋まった刀身をグリグリとかき混ぜてやると、レッドドラゴンはビクビクと体を震わせ、やがて鮮やかな赤色のウロコを残してその巨体が光と消えた。
「た、倒した……のか? レッドドラゴンを?」
「フニャー。クロはまだ夢を見てるニャ?」
「凄いです、シュヤクさん!」
「やったわね、シュヤク!」
「ハッハー! 当然の結果だ!」
その結末を見届け、声を掛けてくるヒロイン達に俺は笑顔で親指を立てる。こうして俺達は絶望的な状況をひっくり返し、見事目的を達成して生還を果たすのだった。
――Quest clear!
get exp 31050
Level up! 5 → 15
get item 火竜のウロコ
get new title 「ドラゴンスレイヤー」
Humanity check......no problem! You are Player! :P





