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主人公vs主人公

今回は三人称です。

「まずは小手調べといこうか。ブレイブストラッシュ!」


「なっ!?」


「皆下がれ! イージスシールド!」


 宙に浮かんだカイルが、何気なく剣を横に振る。するとその軌跡に白い三日月のような剣閃が走り、シュヤク達に向かって跳んでいった。咄嗟に前に出たアリサがスキルを使って受け止めたが……


バリッ!


「一撃でだと!? 何と言う力か!」


 邪神やデルトラの攻撃でもしばらくは受け止められたイージスシールドが、ただの一撃でヒビを入れられ明滅する。しかしその結果に、カイルは少しだけ顔をしかめた。


「へえ、やっぱり防がれるのか」


「当たり前だ! この私がいる限り、お前の攻撃を通しはせん!」


「いや、そういう意味じゃないんだけどね」


 気炎を吐くアリサに、カイルは内心で苦笑する。G.A.M.E(せかい)の力を宿したカイルの一撃は、巨大な城を両断するほどの威力が込められていた。それはどれほど強くなったとしても、人が防げるような攻撃ではない。


 だがアリサは曲がり形にも防いでみせた。もう一、二度同じ技を当てればシールドを破れるだろうが、警戒すべきはそこではない。


(あれを防げるということは、シュヤクだけでなく彼女も世界の後押しを受けているということか。となると他の子達も……)


「ホーリーライト!」


「む?」


 セルフィの唱えた魔法が、場の中央付近の上に光の球を浮かべる。とはいえここでは視界が普通に通っているため、ぱっと見では何の変化も起こらない。


 だが、この場に立つような者達が無駄なことをするはずがない。カイルの足下から黒い影が音も無く出現し、その体に刃を突き立てようとする。


「シャドウスティング!」


「おっと」


 クロエの不意打ちを、しかしカイルは余裕の表情で剣で受け止めた。するとクロエは即座にその場から飛び退き、シュヤク達のところに戻っていった。


「フニャー、失敗しちゃったニャ」


「なるほど、黒くはあっても暗くはないこの場所にあえて光を生み出すことで、影もまた生みだしたわけか。とはいえそれは概念への干渉に近い。普通の魔法でそんなことできないはずなんだけどね」


「ふふふ、それは偉大なる神のお力です」


「あーいや、それはまあそうだと思うけど……」


「天の点より転にて落する、秘して火なるは緋の光! 眩しきもの輝けるもの、万象一切灰燼と為せ! フォーリングサン!」


 微妙な表情でセルフィにツッコミを入れるカイルの頭上に、突如として真っ赤に燃える小さな太陽が出現する。それは狙い違わずカイルに落ち、その体が灼熱の火球に包まれた。


「はぁっ!」


「そんなっ!?」


 だがカイルが気合いを入れて翼を広げると、それに合わせてその身を包んでいた火球がはじけ飛ぶ。鉄が溶けるどころか蒸発するような温度の火球を食らってなお、火傷どころか髪の毛一本燃えていないという事実にオーレリアが驚きの表情を浮かべ……そんな彼女の肩を、シュヤクがポンと叩く。


「焦るなって。無傷ってのは逆にわかりやすい。やっぱりお前、HPを持ってるんだな?」


「ははは、もうバレちゃったかい?」


「へっ、隠す気なんてねーくせに」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて肯定するカイルに、シュヤクが軽く悪態を吐く。HP……それは残っている限り如何なる攻撃を食らっても一切傷つかず、十全の状態で戦い続けられる無敵バリアだ。それを持っているかどうかで戦い方は大きく変わってくる。


 もっとも、シュヤクからすれば自分が半端にG.A.M.Eの力を得た時にHPも一緒に身につけていたのだから、全てを受け入れたらしいカイルがHPを持っていることは予想済みだったし、カイルにしても強く隠そうという意志はなかった。


 故にカイルはあっさりとHPの存在を認め、それを受けてシュヤクは頭の中で新たな戦略を組み立てていく。


「HPがあっても状態異常は通る! ロネット、ポーションのストックは?」


「前と同じで、全部(・・)持ってますよ!」


「ほぅ? なら特製(・・)のをガンガン投げてやれ! リナが牽制してオーレリアがでかいのを撃ち込む! アリサは防御を、モブローも体張って肉壁になれ! セルフィは回復! 俺とクロエは隙を見て切り込む! さあいくぞ!」


「「「オー!」」」

「え、自分だけキツくないッスか?」


「作戦会議は終わったかい? なら僕も攻撃を再開するよ!」


 若干一名を除いた声が重なり、シュヤク達が改めて一斉に動き出す。それを受けてカイルもまた縦横無尽に剣を振るい、辺りに光の斬撃がビュンビュンと飛び交っていく。


「イージスシールド!」


「おら、モブローガード!」


「うひぃぃぃ!? 自分は盾じゃないッスよ!?」


「レベルがカンストした後だって遊んでたわけじゃないんだから! 食らえ特訓の成果、『ウルト・ウォーターボルト』乱れ打ち!」


 後衛に迫る光の刃はアリサが受け止め、シュヤクとクロエはモブローの体を盾にそれをやり過ごす。その隙にモブリナが発動した水の矢が豪雨の如くカイルの体に降り注ぐが、カイルはそれを剣で一蹴。魔法は攻撃力を失い、無数の水滴へと変わった。


「フレアボム!」


「むっ!?」


 と、そこに再びオーレリアの生みだした火球が炸裂した。水滴は熱せられて一瞬で水蒸気となり、カイルの視界が塞がれる。そしてそこに重ねるように、ロネットの投げたポーションが飛来する。


「えいっ! えいっ! えーいっ!」


「フンッ、こんなもの!」


パリンパリンパリン!


 霧はすぐに晴れ、飛来するポーションは剣で撃ち落とされる。だがその衝撃で瓶が割れると、水色の液体がカイルに降りかかる。


「スリープポーション? 流石にそれは通らないよ!」


 確かにHPは状態異常を防ぐことはできない。だがそもそも「睡眠」という状態異常は、ごく序盤の魔物を除くとそれを弱点とするような魔物以外にはまず通らない。


 となると主人公の体と抵抗力を持つカイルを眠らせるには、相当量の蓄積が必要となる。この戦闘中では棒立ちになって無防備に浴び続けなければ「睡眠」になる可能性はないと判断し、カイルはそれを無視することに決めた。


 無論ロネットもそれはわかっているのか、水色の合間に黄色や緑のポーションも投げていく。しかしカイルはそれら……麻痺と毒のポーション……のみを的確に回避することで食らわない。


「悪巧みはそこまでかい? 君達なら、僕が思いも寄らないような逆転の一手を打ってくると思っていたんだが……」


「ハァ、ハァ、ハァ……イージス――」


「遅い!」


「うあっ!?」


 疲労と魔力の多量消費によりスキルの展開が遅れ、カイルの剣がアリサの盾を直接捕らえる。ガンッと弾かれ一五〇センチもある巨大な盾が宙を舞うと、ひらりと翻った剣がアリサの胴体を狙う。


「やらせないッス! うぎゃーっ!?」


 そこにモブローが飛び込んで防いだが、その背中に裂傷が走る。モブローのHPは既に尽きており、セルフィによる回復も間に合わなかったのだ。


「ぐ、が……ちょ、超痛いッス…………」


「モブロー様!? 今回復を――」


「させないよ」


 焦るセルフィの言葉を遮り、カイルが三度刃を閃かせる。自分と同じHPを持つモブローは邪魔だと判断し、ここで仕留めると決めたのだ。


「『ウルト・ウォーターボルト』!」


「フレア……駄目、近すぎる」


 それを阻もうとモブリナの魔法が放たれたが、それはカイルのHPをわずかに削るだけで行動は止められない。しかもオーレリアの用意していた魔法では威力と範囲が大きすぎるため、このタイミングでは使えない。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 そこにシュヤクが全力で駆け込む。だが人外の速力を以てしてもまだ足りない。モブローの首元に刃が迫り……


「黒影乱舞!」


「何!?」


 カイルの背後から出現したクロエによる、連続攻撃。今となってはかなりランクの低い技だが、手数の多さはカイルの体を揺らし、かつ最後の一撃に含まれる確定クリティカルはカイルの高い防御力を無効化して、戦闘開始から初めてカイルの体に小さな傷が刻まれた。


「チッ、侮りすぎたか! でも……」


「ロネット、投げろ!」


「はい!」


 ロネットの投げたポーションがシュヤクに向かってまっすぐ飛び、シュヤクはそれをキャッチしてカイルに押しつける。


「寝ちまえ!」


「断る!」


 今まで浴びたスリープポーションの量を頭の中で計算し、まだ許容範囲内だと判断したカイルがシュヤクを無視して剣を振り下ろす。だがその体が不意にがくりと揺れ、剣はモブローの首の皮をかすめるだけで終わった。


「な、に……? これは、一体……!?」


「へへへ、油断したな? 知らなかったんだろ。傷口に直接ぶち込むと、効果がスゲー高くなるんだぜ?」


「そう、なのかい? でも、それにしたってこれは……?」


 確かにあの瞬間、シュヤクはカイルの腕についた小さな傷にポーションを押し当てて砕いた。だが今自分の体を襲っているのは眠気ではないことに、カイルは戸惑いながら問いかける。


 するとシュヤクはニヤリと笑って、もう一つ同じポーションを取りだしチャプチャプと振ってみせる。


「これも知らなかったみてーだな? ポーションは混ぜられるんだ」


「…………っ」


 それは現実なら当たり前の、しかしゲームならあり得ない仕様。世界の……G.A.M.Eの力を受け入れてしまったが故に、カイルの中から消えていた可能性。


青い(フリーズ)ポーションと緑の(ポイズン)ポーションを混ぜて作った特別製だ。効果は弱くなるけど、お前みたいに見た目で判断してくれるような頭のいい魔物対策に作ってもらってたやつなんだが……ははは、最後の最後でようやく役に立ったぜ」


 凍結と毒の効果で動きが鈍り、両手を突いてその場に崩れ落ちてしまったカイルの首筋に、シュヤクがそう言って剣を突きつけた。

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