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今回は三人称です。

「はぁ、はぁ、はぁ…………へっ、なかなかやるじゃねーか」


「ふっふっふ、そちらもそれナーリには戦えるようですねぇ」


 戦闘開始から一〇分。愛しい人との語らいならば瞬きほどにしか感じられないであろう時間も、命を削り合う死闘であればまるで数日間戦い続けたかのように永い。


(マズいな、このままだと負ける……)


 服こそ切れて無数の血汚れがあるものの、その全ては即座に癒やされ事実上の無傷。余裕の表情を浮かべてこちらの様子を窺うデルトラを前に、シュヤクの脳裏に敗北が過る。それは決して弱音ではなく、純然たる事実に基づく予測だ。


「フーッ、フーッ……まだまだやれるニャ!」


 チラリと視線だけを動かし、シュヤクが仲間の姿を確認する。クロエは左足の太ももに深手を負っており、残っていた回復薬では即座に癒やしきることができなかった。もうこの戦いの最中は本来の機動力を発揮することはできない。


「無理をするなクロエ。私がカバーする!」


 魔力が切れスキルが使えなくなったアリサの盾は、直接攻撃を受け止め続けたせいでベコベコにへこんだり、端の方が欠けたりもしている。それでも無理矢理防御し続けたせいで、アリサ自身の体力は限界が近い。


「いざとなったら、これでぶん殴ってやります!」


「アタシも付き合うわよ、ロネットたん!」


 ロネットが予備のメイスを手にしているのは、投げるポーションがもう残っていないからだ。怪我こそしていないが、補助要員のロネットが邪神に並ぶような強敵と接近戦をこなして無事で済むはずがない。


 そしてそれはモブリナも同じだ。こちらはまだ幾らか魔力を残しているが、それは本当にどうしようもないときに初級の回復魔法で死だけは回避するためのもの。この二人が前に出て戦うのは最後の悪あがき程度の意味しかないのだが……その時はもう近いように思える。


「くっ……」


 そして何より、シュヤク自身も全身に無数の切り傷を負い、魔力も体力も尽きかけている。弱みを見せれば一気に踏み潰されるとやせ我慢しているが、今立っているのは半ば意地のようなものであった。


(どうにか打開策を……)


 噛みちぎるような眼差しで、シュヤクがデルトラを睨む。だが睨まれる方のデルトラもまた、厳しい視線でシュヤク達を見つめていた。


(フーム、このままではマズいデースね……)


 万の脳との接続が切れたデルトラは、それ故に魔法の行使に大きな負担を強いられていた。通常時と同じ効果を発揮するには、数十倍の魔力を消費して無理矢理発動させねばならなかったのだ。


 加えて、デルトラはあくまでも後衛よりの中衛であり、近接戦闘もできなくはないが、あくまでそれなりに戦える程度だ。それでも邪神を倒せたのは邪神が決められた動きを繰り返すだけの存在だったからであり、常に考え裏をかき、工夫して自在に戦うシュヤク達との戦闘とはまるで違う。


 わずかな傷でも莫大な魔力を消費して即座に癒やしたのは、そうやって十全の肉体を維持しなければ戦闘にならないから。総合ステータスがどれだけ高かったとしても、それを扱う力が……脳の処理能力が突如万分の一に落とされたのだから、むしろ普通に戦えている事の方が奇跡なのだ。


(このまま戦い続けても勝機がない。なら……)


(このままデーハ、こちらの魔力の方が先に切レール。ならば……)


 互いに自分が不利だと考え、この状況を打破するための一手を考える。先に動いたのはシュヤクの方だ。


「……皆、俺がでかいのを一発撃つ。動けない間の防御と時間稼ぎを頼めるか?」


「無論だ。この私がいる以上、貴様にかすり傷一つつけさせん」


「クロが本気で時間稼ぎしたら、お昼寝だって余裕でできちゃうニャ!」


「か弱い女の子に守らせるんだから、ちゃんと決めなさいよ?」


「報酬はデート三回でお願いします!」


「流石にそれを黙ってマーツほど、私も甘くナーイよ?」


 腰を深く落とし、抜刀術のような構えで目を閉じて集中するシュヤクに対し、デルトラが素早く襲いかかる。


「させん!」


 その一撃を、アリサが盾で受け止めた。だがその盾をデルトラが直接掴み、強引にアリサの手から剥ぎ取って投げ捨てる。


「なっ、盾が!?」


「邪魔ダーヨ!」


「バラバラになるニャー!」


 バランスを崩してよろけるアリサ。だがそこにクロエが駆けより、デルトラに斬りかかる。しかし魔力が尽きて影に潜れず、負傷した足では踏み込みも甘くなり、短剣の振りは遅い。


「フンッ! そんな雑な攻撃ナード、効くもノーカ!」


「フギャッ!?」


 ならばこそ、デルトラは斬られることを受け入れそのまま左腕を振り回した。握った拳がクロエの腹を打ち、空気と共に悲鳴を漏らしたクロエが床に転がる。


「ここは通しません!」


 次いで立ちはだかったのはロネット。訓練以外では使ったことのない金属製のメイスを思い切り振り下ろしたが、その攻撃はあっさりと回避されてしまう。


「あうっ!? そんな!?」


「素人娘の出る幕ではナーイの……っ!?」


「『ウォーターアロー』!」


 そんなデルトラの顔面間近で、最後の魔力を込めたモブリナの水の矢が炸裂する。しかしその水が弾けて消えた時、デルトラの鋭い眼光は揺らぐことなくモブリナを捕らえている。


「同じ手が通ジールとでも? シッ!」


「がふっ!?」


 デルトラの抜き手がモブリナの腹を穿ち、クロエに次いで床に転がる。シュヤクはまだ動かず、もはや遮る者はない。デルトラがとどめの一歩を踏み出そうとした時、その足がガクッと何かに引き留められる。


「いかせない……ニャ!」


「チッ! 鬱陶シーイ!」


「あうっ!?」


「うぉぉぉぉ!」


「なっ!?」


 クロエを蹴っ飛ばすデルトラに、今度はアリサが捨て身の体当たりを敢行した。よろけるデルトラ。だがそれでも倒れることなく踏みとどまってシュヤクを見ると……


「……皆、ありがとな」


 剣を収めた鞘のなかから、眩い光が溢れ出る。その光に押されるように剣を抜き放つと、シュヤクはデルトラに向かって叫んだ。


「最終奥義、プロミナスカリバー!」


 何処かで聞いたことがあるようなスキル名と共に、勝利を約束された黄金の剣閃がデルトラに向かって振り下ろされる。発動時HPが一、MPが〇になる代わりに必中、確定クリティカルという「女神スキル」と同等の効果をもたらし、何より発動時に(・・・・)カットインが入る(・・・・・・・・)ため、現実であっても絶対に発動を潰されないという必殺の一撃は違うことなくデルトラの体を真っ二つに両断し、中身を盛大にぶちまけたデルトラの体が床の上に倒れ伏した。


「はぁ、はぁ、はぁ……どうだ、俺の……俺達の勝ちだ!」


「やったなシュヤク!」


「いたたたた……やったわね、シュヤク!」


「やりました! 私達、遂に勝ったんですね!」


「クロ達の大勝利ニャー!」


 よってきた仲間達に囲まれ、シュヤクの顔に笑顔が浮かぶ。そんな主人公達の姿を見て、二つに分かれたデルトラの左目が輝き、最後の魔力をずっと送り続けていた右手の中身をグッと握りつぶす。


パリンッ!


「えっ…………」


 デルトラの手の中で青い宝石が砕けた瞬間、強い怒りと憎しみの表情を浮かべたアリサの剣がシュヤクの腹を貫き、同じ顔つきをしたロネットのメイスが背後からシュヤクの頭を砕いた。バシャンと音を立て、自らの血の海の上にシュヤクの体が倒れ伏す。


「……え? え!? しゅ、シュヤク!? いや! いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「アリサ、ロネット!? 何てことするニャ!」


「ち、ちが、私は……私は何を……!?」


「あ、あぁぁ!? あぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」


 それはデルトラがアルマリアのために用意した、フラグの立っているキャラのシュヤクに対する好感度を反転する、最強にして最凶の切り札。アリサとロネットのシュヤクに対する好感度がもっとも高くなり、もっとも油断した瞬間に発動させることで唯一無二の親愛を不倶戴天の殺意へと転じさせた、究極の一手。


(ふっふっふ……これで私の……私達の勝ちでアール…………)


 戸惑い叫び、泣き崩れる主人公不在のヒロインパーティを眺めながら、デルトラの意識が失われ……この世の全てを否定する慟哭と共に、世界はギュルリと捻れて消えていくのだった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 えぇぇぇぇぇぇぇ!?(旧パラガ○ボイス) 此処に来てこの展開ですか……そういえば前作でもこういう「闇に堕ちろ…(某アコー○並感」な展開有りましたっけか。果たして此方ではどうなる?…
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