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その道はもはや相容れず

今回は三人称です

「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? 一体何が……何故こんなことになったのデースか!?」


 目の前で起きた現象を理解できず、デルトラが大声で叫ぶ。必勝を期して用意した一万体の邪神……それがわずか一手で全滅するなど、一体どうすれば想像できるだろうか?


「確かに私がここにキータ時、聖剣は何処にもなかった! でも何故それをお前が持っていルーノだ!? しかも、それを私の脳に突き立てて、邪神を消す!? 一体何をしターノだ!?」


「はっはっは、まあ色々あったんだよ」


 激しい頭痛に苛まれながら必死に問い詰めるデルトラに、シュヤクは苦笑で応える。その背後には仲間達がやってきており、すぐにシュヤクと合流して声をかけてきた。


「来たぞシュヤク! どうやら上手くやったようだな」


「あんなにいた邪神が、全部消えちゃったニャー」


「アンタ本当に、やるときはやるわよねぇ。さっすが主人公!」


「あとはその人だけですけど……」


 全員集合したシュヤク達が、油断なく身構えながらデルトラに視線を向ける。すると取り乱していたデルトラがようやく息を整え、どうにか元の紳士然とした様子でその場に直立した。


「ふぅぅ……あまりの驚きでエレガントでナーイ態度を取ってしまったことを謝罪しまショーウ。それに勝った気でいるヨーウですが、勝負はまだこれカーラですよ? さあ、もう一度現れなさい! 『Re:Brith(リバース) |Engineeringエンジニアリング』!」


 デルトラが手を伸ばし、再び力を発動する。だがその前に再び邪神が現れることはない。


「な、何故!? ガズやアリマリアと違って、邪神のデータは世界に刻まれた不変の数字! 私の脳の限界はあれど、一度や二度で使えなくなるハーズが……」


「おっと、悪いな。そいつはこっちで防がせてもらった。新たな召喚は遠慮しとくぜ」


「防ぐ? 何を…………オァァァァァァァァ!?!?!?」


 と、そこでデルトラの脳に新たな異変が走る。聖剣による回線の切断……それが脳と邪神の接続のみならず、デルトラの万の脳を繋ぐネットワークすらも切断し始めたのだ。


「ぐっ、がっ!? うし、失われていく!? この私の万脳が……っ!? あっ、ああっ、あぁァァぁぁァぁぁ!?!?!?」


 それは単純な痛みなどではなく、悲痛なる自己の喪失。デルトラは慌てて拡散していく自我をかき集め、体のなかに……普通の人間と変わらぬ小さな脳にそれを刻んでいく。


 その間、およそ一〇秒。量子コンピュータから真空管の計算機まで性能の落ち込んだ脳髄に辛うじて己という存在を書き込み終えたデルトラは、びっしょりとかいた汗を手で拭いながら、睨め付けるようにシュヤクの顔を見た。


「ふぅ、ふぅ、ふぅ…………攻撃してこなかったのは、余裕デースか? それとも哀れみデースかね?」


「そんなんじゃねーさ。ただ俺は、あんたに聞きたいことがあったんだ」


「聞きターイこと?」


「そうだ……なあ、このままだと世界って終わっちまうのか?」


 今回、シュヤクは相当にやらかしたという自覚があった。ならばこそガズやアルマリアの言っていた「自分のせいで世界が崩壊しかかっている」という言葉の重みを、内心でずっと背負い続けていた。


「フッ。今サーラそんなことを聞いて、どうするつモーリだね? まさか世界のために自殺デーモしてくれると?」


「いや、そりゃ無理だ。俺だって死にたくねーし、俺の死を悲しんでくれる奴もいるからな。なら安易に『世界を救う犠牲になって死ぬ』なんて言えるわけねーだろ。


 でも、それ以外なら……俺が協力することで世界の崩壊? それを防げるんだったら、俺にできることはしようと思ってる。


 てか、普通そういうのって最初に相談しねーか? 何で初手から襲いかかってくるんだよ!」


「ならばキーミは、『世界を救うために世界の操り人形となって生きろ』と言われて受け入れターノかね?」


「うぐっ、それは…………」


 ここがプロミスオブエタニティというゲームを再現した世界であり、自分がそのゲームの主人公として転生したという事実を、シュヤクは特に否定も悲観もしていなかった。勿論望まないハーレム展開は御免だったが、英雄として活躍することや、世界を救うために努力することに否やなどなかったのだ。


 だがシナリオに沿って生きる……逆に言えばシナリオに関係ない一切の行為を禁止すると言われたら、それは流石に無理だ。精々二、三〇時間分のシナリオに描かれた部分など三年の期間のほんの一部であり、それ以外を誰とも会わず何もせず寮に引き籠もって生きるなど、自我のある人間に耐えられるものではないことくらい、シュヤクにもわかる。


「それに君が気づいてナーイだけで、我々とて最初は『穏便な手段』をとっていたのダーヨ。だがどうやっても君はシナリオから外れ続けていくノーデね。ならばもはや、殺してやり直すしかナーイだろう?」


「そうなのか!? そりゃあ……えっと……何か、ごめんな。いやでも、なら直接言えよ! 何で言わねーんだよ!」


「……そうできないようになっていたカーラだよ。事ここに至って……取り返しのつかない状況にまでならなケーレば、伝えようとする度に何らかの邪魔が入っていたダーロウね。


 君とて神の……世界の意志がこの世界に様々な影響を与えていることは理解しているダーロう?」


「うっ、それは……」


 恋愛漫画で告白しようとする度に不自然な邪魔が入るとか、お約束中のお約束だ。そんな事あり得ないとは口が裂けても言えやしない。


「つまり、こうして会話できる時点で、我等に戦う以外の道などナーイのだよ。故に遠慮無くかかってきたマーエ! 邪神を倒したこの力にて、今度こそ私が直接お前達に引導を渡シーテやろう!」


「……わかった。そっちがその気ならこっちだって本気だ! 最後の悪あがき、俺達の手で止めてみせる!」


 まるで抱擁を求めるように大きく両手を広げたデルトラの態度に、シュヤクはカチャリと剣を構え直す。


 デルトラにとって、邪神はこの舞台を整えるための材料でしかなかった。シュヤクを殺した時点で強制リセットがかかるように仕込んであるので、その後の世界のことなどそもそも考慮していない。


 だがシュヤク達の視点ではそうではない。シュヤクがデルトラの能力を封じたのは、原理的には邪神を封印していたのと同じ……つまり学園にあるメインダンジョン「久遠の約束」の最奥に辿り着けば、その封印を解く鍵が存在するのだ。


 もしデルトラが何らかの手段でそれを手に入れることができれば、一万体の邪神という悪夢が再び復活してしまう。ならばこそシュヤク達にとっても、デルトラは絶対にここで倒さなければならない敵になっていた。


「ウルト・ダークボム!」


「いきなりかよ!? アリサ!」


「イージス……くっ、ルナライトシールド!」


 デルトラの放った闇属性範囲攻撃魔法に、アリサは咄嗟に最強の防御スキルを使おうとした。だが大量の邪神の攻撃を受け止め続けていたせいでその魔力は尽きており、合流の際にロネットから渡された低級のポーションで回復した魔力では、格下の防御スキルを発動させるのがやっとだった。


「ぐぅぅ……っ!?」


 だがそれでも、アリサはデルトラの魔法を一身に受け止めて堪える。そうして闇の奔流が収まる一瞬前、その脇から闇より蒼く夜より黒い猫娘が飛び出した。


「シャドウスラッシュ!」


「ハッ! 食らわないのでアール!」


 自身の放った魔法の影から放たれた一撃を、デルトラは振り返りすらせず左手で受け止める。鋼鉄すら易々斬り裂く刃を素手で受け止め刀身を掴むと、そのままクロエの小さな体ごと投げ飛ばした。


「フギャッ!? あいつ邪神より力が強いニャ!」


「このっ! 『ミード・ウォーターボルト』!」


 クルリと空中で回転してから着地したクロエを横に、アリサが攻撃魔法を放つ。二重化したとはいえそもそもの魔法の威力が低過ぎる魔法……だがその目的は牽制と目くらまし。デルトラが軽く手で払いのけるとバシャリと水が弾け、ほんの一瞬その視界を塞ぐ。


「轟雷稲妻斬りぃ!」


 その瞬間、シュヤクがかけ声と共に剣を振り下ろす。デルトラはそれをクロエの時と同じく手で掴んで防ごうとするが、ギザギザとあり得ない軌道を描く刀身の動きを把握しきれず、伸ばした腕と体に深い切り傷を負った。


「ぐっ……小賢シーイ! ハイエス・ヒール!」


「おいおい、ボスの回復魔法は反則だろうが!」


 これだけの手数を使ってやっとつけた傷をあっさりと癒やされ、シュヤクが思わず悪態を吐く。シュヤク達対デルトラの第二ラウンドは、まずはデルトラ有利で始まった。

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うっ!HPを削る時は最後まで削り切らないと8割回復されるドラゴンのトラウマが…!
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