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退路なんて最初から期待してねーさ

 さて、ゲームなら移動先を選ぶだけで飛行船でビューンと飛んでいくだけだった「絶望の逆塔」だが、この現実世界にてそこに辿り着くのは困難を極める。とうのも塔にある程度近づくと、通常ではあり得ない自然環境が猛威を振るうからだ。


 暑いを通り越し熱いとなった灼熱の炎が吹き出したかと思えば、次の瞬間には音すら凍り付かせた雪があらゆる命を終わらせようと降り積もり、また次の瞬間には城ですら吹っ飛ぶんじゃないかと思うような竜巻が発生する。


 しかも周囲は大小の岩が転がる荒れ地ではあっても普通の平地であるはずなのに、何故かとんでもない急斜面を登っているような感覚や、逆に真っ逆さまに落ちてるんじゃないかと錯覚するほどの勢いで進まされることもある。


 なるほど、こりゃ飛行船であってもドラゴンの宝珠を揃えてアップグレードしなかったら辿り着けねーわ。ゲームだと「この先は危険すぎて進めない」ってメッセージが出て選べないだけだったが、その理由に納得である。


 が、そんな過酷な環境も、今の俺達には関係ない。四つの宝珠を取り付けた馬車は全ての悪条件を無効化し、馬車に乗っている分にはただの平地を走っているのと変わらない。


 単純に距離があるので時間こそかかったものの、俺達は危なげなく「絶望の逆塔」の入り口へと辿り着くことができた。


「あー、やっと着いたか」


 そこは大地に空いた巨大な穴。底なしにすら思える暗黒の中央には逆さになった塔が存在し、大地から繋がるぶっとい鎖の上を移動すれば、その底面に辿り着くことができる。


 そんな底面の中央にはあまりにもわざとらしい小さな下り階段が存在しており、そこがこの裏ダンジョン「絶望の逆塔」に入ることのできる唯一の場所だ。


「正直もっと禍々しい場所を想像していたのだが、こうして見る分にはそうでもないな……いや、道中は本当に酷かったが」


「凄く広いのに、何もないですもんね……まあ塔の底だと言うことなら、何もなくて当然ですけど」


「これ、縁からロープを垂らして下に降りたら、一番下に直接行けたりしないニャ?」


「流石に無理でしょ。ロープどころか縄ばしごでも、六六六階分降りようとしたら、絶対途中で手が痺れたり足が滑ったりして落ちる未来しか見えないもん」


「ハハハ、そうだな。ま、そうじゃなくても外から中に直接繋がるとは思えねーけど」


 外からのダンジョンアタックは現実ならではの考え方だが、ごく一部の例外を除けばダンジョンの外観と内部の空間は一致しないし、何よりダンジョンの外壁を壊して中に入るなんて事はできない。それができるならそもそも壁抜きして一直線に攻略とかできちゃうだろうからな。


 それに、この「絶望の逆塔」はゲーム中唯一のランダム生成ダンジョンだ。もし万が一外壁を破壊できたとして、果たしてまともに内部に繋がっているかと言えば……うん、かなり微妙だな。無限ループする閉じた異空間とかに飛ばされそうで、もしチャンスがあっても飛び込みたいとは思えない。


「そういう抜け道を探すのも楽しそうだけど、今回はなしだ。何せ真っ当に攻略しても、とんでもなく時間がかかるダンジョンだからな……はぁ」


「ふむ? 貴様がダンジョン探索をそんな風に言うのは珍しいな?」


「そうか? いやでも、ここはなぁ……」


 意外そうな顔で言うアリサに、俺は思いきり表情を歪める。このダンジョンは本当に……本当にクソなのだ。きっちり作り込まれた高難易度フロアが一〇階層とかなら「攻略してやるぜ!」という気にもなるが、適当なランダムフロアが思いつきだけで決めたであろう六六六階層とかアホにも程がある。


「気持ちはわかるわよ。アタシだってここは二度と攻略したくなかったもん。ゲームですらダルかったのに、それが現実となると……どうなるのかしら?」


「わからん。わからんが『これからが本当の地獄だ』になるのは間違いねーだろうな。


 まあでも、『久遠の約束』と同じで、ある程度進めばショートカットが解放されていく仕様なのは救いだ。まずは一〇階層を抜けてレベル上限を解放したら、その後はじっくり進んでいこう」


「うむ。急がば回れということだな」


「私相当強くなったと思うんですけど、まだ強くなるんですね……正直もう想像がつかないです」


「スズキとマッカレルはここでお留守番ニャー。いい子で待ってるニャ」


「うにゃあ!」「んなーん!」


「よし、それじゃ行くぞ」


 皆に声をかけてから、俺は先頭で階段を降りる。するとそこには部屋の奥に丸見えになっている下り階段の他、ほのかに光を放つ水がなみなみと湛えられた噴水のようなものや、台座に乗った青い水晶玉、今は光を失っている魔法陣などが存在していた。


「む? これは一体……?」


「ここはこのダンジョンの唯一の良心だよ。その水を飲めば全回復するし、その水晶に触れれば登録されてる階層に直接飛べる。魔法陣は学園へのショートカットなんだが……無効化されてる? 何でだ?」


 確かに学園は閉鎖されているが、だからといってシステム的な力……学園へのショートカットが無効化される理由にはならない。というか、今まで巡ったダンジョンでは普通に光っていたので、ここだけ不自然だ。


「なあリナ、これってクリアまで無効化されてるとか、そんなことなかったよな?」


「アタシの知る限りでは、そうね。何でだろ?」


「最近はずっと使わなかったのがここでも使えなくなってるだけなのに、何か問題があるニャ?」


「大ありだクロエ。使わないことと使えないことには天と地ほどの差がある」


「使わないだけなら、いざという時衛兵に見つかる覚悟さえあれば即座に王都に帰れるんです。でも使えないということは、何があっても来た時と同じ時間をかけて馬車で移動しなければならないんです」


「クロちゃんに分かりやすく言うなら……そうね。非常用にサバ缶を持ち歩いてたらもの凄ーくお腹が空いたときに食べられるけど、持ってなかったらお腹が空いても食べられないでしょ? 今すぐ食べないのが同じでも、それは違うと思わない?」


「ニャニャ!? それは大変ニャ! 生きる気力がなくなってしまうニャ!」


「ま、使えねーもんは仕方ねーさ。向こうには仕込み(・・・)もしてあるし、空の感じからすると悠長に王都に戻る時間も、多分もうない。俺やリナの持ってる知識を総動員して、ここからは最高効率で攻略していく。


 ということで、まずは次の第二階層に出てくる魔物なんだが……」


 そう言って、俺は皆に説明を始める。第二階層からいきなりレベル九〇……少し前に死力を尽くして倒して回ったボスドラゴン達とほとんど変わらないレベルの魔物が雑魚として出現するわけだが、とはいえ一応雑魚なので、ボス特有の全状態異常耐性みたいなのは持ってないので、やりようはある。


「てわけで、キングゴーリー……でかいゴリラは睡眠が有効だ。ただロネットのポーションはもう補充ができねーだろうから、買い込んだアイテムの方を優先して使っていく。


 モブローほどじゃねーけど俺のインベントリにも大分アイテムを詰め込んだから、しばらくはそれで保つはずだ」


「わかりました。タイミングを見て使います」


「アリサの立ち回りは今までと同じだ。でもキングゴーリーは攻撃力がバカ高い上に、防御無視の技も使ってくるから気をつけてくれ。できれば敵の挙動からそういうのを見分けて、回避と防御を任意に選べるようになってくれると理想だな」


「格上相手にそれは難しそうだが……努力しよう」


「頼むぜ。この辺ならすぐここに戻って回復できるから、何なら最初のうちは攻撃を食らいながら覚えてもいい。ただ深く潜るとそうはいかなくなるから、その戦い方に慣れないように気をつけてな」


「了解だ」


「クロエもしばらくの間は、いつも通りの斥候を頼む。上限突破してもっとレベルが上がれば色々便利スキルを覚えるから、それはその時教えるから。


 あ、それと攻撃よりは回避を優先してくれ。この辺の魔物だと一発食らったらそのまま戦闘不能になりかねないからな。ダメージは俺が稼ぐから、安全第一だ」


「わかったニャ。慎重にいくニャ」


「よし。ならとりあえずはこのくらいってことで……あとは実戦あるのみだ。改めて……皆、行くぞ!」


「「「オー!」」」


 気合いの入った返事を受けて、俺達は第二階層へと降りていく。初回で何処まで辿り着けるか……ともあれまずは最初の一歩だ。

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