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ふふふ、いいモン持ってきたぜ?

「ちわーっす! ミモザ、いるかー?」


 その後、何とか場を収めた俺は、「女だけで話し合うことがある」という皆と別れ、モブローだけを連れてミモザの鍛冶屋へとやってきた。何となく嫌な予感がするが、今回も明日の自分に期待である。


 ということで店内に入って俺が声をかけると、奥から子供にしか見えない、だが実際には同い年の……同い年なら子供でいいのか? まあとにかく小柄なボディにパワーを漲らせた鍛冶師の少女、ミモザが顔を出した。


「はいはーい、お待たせ……って、なんや兄ちゃんやんけ。今日はどうしたん?」


「新しい武具の素材を集めてくるって言ったろ? いい感じのが手に入ったから持って来たんだよ」


 そう言って、俺はあらかじめモブローから受け取っていた太陽鋼の鉱石をミモザに渡す。するとそれを受け取ったミモザがしげしげと観察し、太い眉をキュッと眉間に寄せた。


「うーん? なんやこれ? 見たことない鉱石やけど……」


「聞いて驚け。なんとそれ、太陽鋼の鉱石なんだよ」


「ほーん、そりゃまたえらいもんを持ってきたなぁ……で、実際はどうなんや?」


 本当の事を告げたのだが、ミモザがあっさりと流して再度問うてくる。ま、そのリアクションは予想通りなので、俺は肩をすくめて言葉を続けた。


「どうって言われてもな。ミモザがわかんねーのに俺にわかるわけねーだろ? ただ今の俺達が攻略できるギリギリの難易度のダンジョンで手に入れたもんだから、相当いい金属だとは思うぜ?」


「そっか。ならまあ、ウチも気合い入れて仕事させてもらうけど……流石にこれ一個じゃ、造れて短剣程度やで?」


「ああ、そりゃ平気だ。モブロー」


「どうぞッス」


 俺の呼びかけに、モブローが追加で一一個の鉱石をインベントリから取り出す。普通なら「なんやそれ!? どっから取りだしたんや!」と騒ぎになりそうなところなんだが、以前に俺が見せたことがあるせいかミモザはそれを一切気にせず、腕のなかに溢れる鉱石にこそ焦った声を出す。


「待ち待ち待ち!? そんな一度に渡されても持ちきれんわ! てか、幾つあんねや!?」


「全部で一二個だな。こんだけあれば……何がどんだけ造れるんだ?」


「せやなぁ。正確なところはちゃんと精錬してみなよう言われへんけど、この金属だけで造るなら普通の長剣で二、三本。鎧ならハーフプレートで一着半ってところやな。


 ただこの金属にどんな特性があるかわからへんから、まずはそれを調べてみんと何とも言えんわ」


「おっと、そりゃそうか。じゃあ調べといてくれるか?」


「ええで。そんなら三日くらいしたらまた来ぃや」


「え、三日?」


 三日という時間を提示され、俺は虚を突かれたような声をあげる。だがそんな俺の反応に、ミモザが思い切りジト目を向けてきた。


「なんや、文句あるんか? 言っとくけど、正体不明の金属の特性を調べるのに三日って、相当に早いんやで?」


「あーいや、そうだよな。すまん、今のは俺が悪かった」


 これがゲームで存在するアイテムだった場合、ミモザに素材を渡すと「ほなちょっと待っててな」と店の奥に引っ込み、ものの五秒ほどで戻ってくると「ほら、できたで!」と完成品を持ってくるのだが……そうか、ゲーム補正がないアイテムだとそうなるっていうか、現実なら時間がかかって当然だよなぁ。


「いや、そんな頭を下げられるほどのもんではないけど……じゃあ三日後でええか? どうしてもって言うならもっと急いで簡易的に調べるでもええけど……」


「いや、むしろもっと時間がかかってもいいから、しっかり調べてくれ。その金属は今渡したのが全部で、多分二度と手に入らねーんだ。だから少しも無駄にしたくない」


「さよか。ならウチがしっかり調べといたるわ!」


「おう、頼んだぜ」


 ドンと胸を叩いて言うミモザに別れを告げ、「ちっぱいがぷるんと揺れる様には侘び寂びを感じるッス!」とほざくモブローの頭を引っ叩いてから、俺はそのまま男子寮の自室へと帰り、ベッドに倒れ込んだ。


 そうして気づけば一日終わり、その後も久しぶりに出た残り少ない二学期の授業をボーッと受けたり、改めてミーア先輩にお礼を言ったり、アリサやロネットからの微妙な視線にビクビクしていたらあっという間に時が過ぎ、四日目の放課後。今度はモブロー達も含む全員でミモザの店を訪れた。


「おーい、ミモザー! 来たぞー!」


「おー、兄ちゃん。来たか……って多っ!? 何こんな大人数で押しかけてきとんねん!」


「いやぁ、それが皆あの金属の事に興味津々でさぁ」


「大挙してしまってすまんな。だがたい……ゲフン、シュヤクが渡した金属のことが気になって仕方がなかったのだ」


「こんなお金の匂いがする場所を見逃すわけないです!」


「クロだけ仲間はずれは寂しいから来たニャ」


「皆来るのにアタシが来ないなんてあり得ないでしょ!」


「それでビキニアーマーは完成したッスか!? メイドアーマーとかゴスロリアーマーでも可ッス!」


「申し訳ありません。ですがモブロー様がずっとこの様子で、放置するわけにもいかず……」


「モブローはどうでもいいけど、その金属には凄く興味がある」


「あーもう! わかったから少し静かにしとき! あとその辺のものに触ったらあかんで! 刃物は危ないし、ベタベタ指紋つけられたら掃除が大変なんや!」


「「「はーい」」」


「返事だけはええなぁ……ホンマに頼むで?」


「大丈夫だって、多分……で、ミモザ。例の金属の特性はわかったのか?」


 いい返事をする皆にミモザがジト目を向けるが、俺はそれを苦笑で遮りつつ問いかける。するとミモザが腕組みをしながら渋い表情になった。


「うーん、それがなぁ……」


「え、何だよ。わかんなかったのか?」


「いや、わかったで? 正確にはウチが試せる範囲でのことはわかったけど……ただ結局、あれが何て金属なのかがわからんかってん。どんだけ調べてもこれやってのがなくてなぁ」


「あー……ま、まあそういうこともあるんじゃねーの? ほら、産出量がスゲー少ないなら、知られて不思議じゃねーし」


「そうかぁ? でもウチ、これでもドワーフやで? ジイちゃんのところに手紙出しといたから、二週間くらいあれば答えが返ってくると思うんやけど……」


「うーん。俺達的には別にこの金属が何て名前かってのは、ぶっちゃけどうでもいいからなぁ。それより今わかってるのはどんな特性だったんだ?」


 俺達的には、別にこの金属が太陽鋼だと判明しようとしまいと関係ない。できれば謎の金属のままの方が厄介事は減るだろうが、いざって時はモブローのインベントリに入れて証拠隠滅しちまえば「そんなものはなかった」で終わる話だしな。それよりも重要なのは、これがどんな風に活用できるかなのだ。


「むぅ、まあ使う側の認識はそんなもんやろなぁ。なら説明するけど、まず一番の特徴は、この金属が他のものと一切混ざらへんってことやな」


「混ざらない?」


「せや。溶けるのは溶けるんやけど、ちょうど水と油みたいに、どうやっても他の金属と混ざらへんねん。まあ混ざらへん金属自体はたまにあるけど、その中でもこれはダントツやな」


「ほーん……でもそれ、何か問題なのか?」


 合金にできないらしいというのはわかったが、それの何が問題なのかがわからない。軽く首を傾げる俺に、ミモザが深くため息を吐いてからその口を開く。


「はぁ……それが大問題やねん。それがあの謎金属のもう一つの特徴や。あれな……メッチャ脆いねん」


「脆い? 錆びやすいとか、そういうことか?」


「そうじゃなくてやな……なら直接見てもらおか」


 首を傾げるアリサの言葉に、ミモザが背後にあった棚から太陽のようなオレンジ色に輝くインゴットを取り出して、近くにあった金床の上に置いた。


「これがあの鉱石で造ったインゴットや。よーく見ててな……フンッ!」


ガキィン! ボキッ!


「……………………は?」


 気合いを入れたミモザが、ごく一般的なサイズ……つまり一〇センチくらいの太さがあるであろうそれにハンマーを振り下ろす。すると太陽鋼の……邪神すら封じる剣の材料であるはずの金属の延べ棒が、まるで木の棒か何かのようにあっさりとへし折れた。

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