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これにて一件落着! だといいんだがなぁ

 たいようこう……太陽光? いや、鉱石なんだから太陽鋼だろう。太陽鋼……うーん、どっかで聞いたことがあるような……?


「太陽鋼!? え、嘘でしょ!?」


「あれ? リナは知ってるのか?」


 隣で驚くリナに問うと、リナは俺に信じられないアホを見るような目を向ける。


「なんでアンタが知らないのよ!? 太陽鋼よ!? 邪神を封印してる勇者の剣の材料じゃない!」


「……あー、そういえば」


 言われてようやく、俺の中で話が繋がった。そして思い出せなかった理由も判明する。


 聖剣ソルブライト……それは勇者リベルタ・アーランドが使っていた剣であり、世界最大のダンジョン「絶望の逆塔」の最下層……あるいは最上階にて、今も邪神を封じるべくその身に突き刺さっている。


 その剣を作るのに使われたのが太陽鋼……現在はこの世界の何処にも存在しないという、幻の鉱石である。


 そう、太陽鋼は存在しない。少なくとも「プロミスオブエタニティ」というゲーム中にアイテムとして存在することはないし、それを使って作られた勇者の剣も、邪神の封印を解く際に砕け散ってしまうので、プレイヤーが手にすることはない。


 要はテキスト上でちょこっと語られるだけのものなのだ。「聖剣を作り直す」みたいなサブクエストがあるわけでもなく本当に設定の一部でしかないので、俺が読み流してしまっていたのも無理からぬ事であろう……うん、きっとそうだ。


「へー、これが太陽鋼……スゲーな、実在してたのか」


「そりゃ実際に邪神が封印されてるんだから、世界のどっかにはあるでしょ。それがここだったっていうのはビックリだけど」


「だなぁ……でもこれ、本当に太陽鋼なのか?」


 手のひらに乗せた鉱石をしげしげと観察しつつ、俺は改めてロネットに問うてみる。するとビキッと固まっていたロネットが、我に返って震える口を開いた。


「あ、えっと、すみません。私も本物の太陽鋼を見たことがあるわけじゃないので……ただ、話によるとそれは太陽のように光を放つ鉱石だということだったので、もしかしてと思ったのですが……」


「なるほど。確かに何か光ってるし、温かいもんな」


 ダンジョン内は明るいのでわかりづらいが、確かによく見ると鉱石自体が光ってる気がする。あとそろそろ効果が切れるかなって頃の使い捨てカイロくらいの温かさもある。これが太陽鋼である可能性としては十分だ。


 だが誰も本物を見たことがない鉱物なんて、どうやって判別したらいいのかわからない。「名称不明」みたいなアイテムがあるゲームじゃねーから、鑑定スキルとかもないし……あ、そうだ。


「なあモブロー。ちょっとこれインベントリに入れてくれ。そしたらアイテム名が表示されるだろ?」


「おお、流石先輩! やってみるッス!」


 インベントリの仕様は、アイテムの名前がリスト表示されるタイプだ。それを思い出した俺が鉱石を差し出すと、それを受け取ったモブローが虚空にしまい込む。


「あ、出たッス! 『太陽鋼の鉱石』って表示されたッス!」


「おおー! マジか! スゲーな、大発見じゃん!」


 インベントリが嘘を吐くとは思えないので、どうやら本当に太陽鋼らしい。俺は内心でテンションをあげつつピッケルを振るい続けると、四つ目の鉱石が落ちたところで採掘ポイントそのものがガラガラと崩れ落ちてしまった。


「へ!?」


「ちょっ!? シュヤク、アンタ何してんのよ!?」


「いやいや、普通に掘ってただけだって! でも突然崩れて……どういうことだ?」


「復活しない採掘ポイントだったんじゃないッスか? ほら、ここってボスの報酬部屋で、通常の採掘ポイントとは違うわけッスし」


「あー、それはあるかもね。太陽鋼が無限にとれたら、ゲームバランス崩壊待ったなしだもん」


「むぅ……なら他も掘ってみるか」


 一定の納得を得たので、俺は隣の角にあった採掘ポイントにもピッケルを振り下ろす。するとそちらも四つ鉱石が転がり落ちたところで採掘ポイントそのものが崩れてなくなってしまった。


「こりゃ一カ所につき四つで確定だな。なら――」


「待て待て待て! ちょっと待ってくれ!」


 と、そこで突然アリサが焦ったように声をあげ、俺の肩を掴んで引き留めてくる。


「何だよアリサ。あ、ひょっとして掘ってみたいのか?」


「違う! そうではなく……こんな貴重なものを、そんなに簡単に掘っていいのか!? しかも掘れば失われてしまうのだろう!?」


「そりゃそうだけど……」


「あの、アリサさん? お気持ちはわかりますけど、ここに伯爵様や国王陛下をお連れするのは、流石に現実的ではないんじゃありませんか?」


「そうですね。教会の神聖騎士様方であれば辿り着けるのかも知れませんが、モブロー様のように不思議な力に守られているわけでもない方を守りながらとなると……」


「そんな状況で万が一が起きたら、政治的な問題になる。貴族としての責務や矜持はわかるけれど、それを考えると公言するのは控えた方が賢明」


「それにこれはクロ達がダンジョンを攻略したご褒美なのニャ。ならクロ達が手に入れるのが当然なのニャ」


「……そうか、そうだな。すまない。私の浅い考えで作業の邪魔をしてしまったな」


「ははは、別にいいって。それじゃ続けるぞ」


 皆に言われてしょんぼりしながら謝罪してくるアリサに、俺は気にしてないと笑って答えてから残りの採掘ポイントにもピッケルを振り下ろしていく。そうして合計一六個の太陽鋼鉱石を手に入れたことで、全ての採掘ポイントは崩れ去り、残るは中央の魔法陣のみとなった。


「さて、取るものも取ったし、今度こそ返るか」


「アタシもうクッタクタよ……早く寮のベッドで泥のように眠りたい…………」


「おっと、リナ。そうはいかないぞ? 戻るのはあくまでも領都だ。お父様にダンジョン踏破の報告をしなければならないからな」


「あー、そっか。そう言えばそうなのね…………」


 苦笑するアリサの言葉に、リナがガックリと肩を落とす。そんなことを話しつつ第一階層まで戻ると、俺は改めてモブローパーティに向き合った。


「それじゃ、自分達はここまでッスね」


「すまないなモブロー、セルフィ、オーレリア。本当はお前達の功績もお父様に伝え、然るべき名誉と報酬を与えたいところなのだが……」


「王都までのショートカットのことを秘密にするなら、仕方ないッス。これはこれでバレるとヤバいやつッスからね」


「そんなことより、お二人を無事に救出できてよかったです。これもきっと神の思し召しですね」


「友達を助けるのは当然。でもお礼をくれるというなら、また珍しい魔導書が欲しい」


「ハハハ、いいとも! 交流のある他家にもあたって、とびきりのものを用意するとも!」


「ならそれにかかる費用は私が負担しますね。是非受け取ってください」


「ん」


 笑うアリサとロネットに、オーレリアが満足げに、そしてちょっとだけ照れくさそうに言う。うんうん、仲がいいのはいいことだ。


「さて、それじゃ行くか。モブロー、太陽鋼は頼んだぞ?」


「任せて欲しいッス! インベントリに入れておけば、盗まれたり無くしたりすることは絶対にないッス!」


「おう、頼むぜ」


 胸を張って言うモブローにニヤリと笑ってそう告げると、俺達の前からモブロー一行が消える。さあ、あとは俺達が普通にダンジョンから出るだけだ。


「えーっと……今入ってから何日目だ?」


「五……六日? よくわかんないけど、一〇日は経ってないでしょ」


「そんなもんか。それだとまだあの……ガズは違う奴だから……ガラ……ガル……」


「ガシムか?」


「そうそう! あの人まだ入り口のところで待ってんのかな?」


「どうでしょう? 期間的にはいてもおかしくない程度ではありますけど」


「墓場でキャンプを一〇日も続けるなんて、クロなら飽きて尻尾がヘンニョリしちゃうニャー」


 まるで何事もなかったかのように益体もない雑談をしながら、俺達はダンジョンを出て行く。


 本当に色々あったダンジョンだった。あまりにもありすぎたせいで、きっとこの後アリサやロネットから言葉通り質問攻めにあったりもするのだろう。


 だが、誰も何も失わなかった。俺の隣ではアリサもロネットもクロエもリナも、皆が元気に笑っている。それでいい、それで十分だ。それ以上に望むものなんて何もない。


 ダンジョン「覇軍の揺り籠」と、ミーア先輩のところから続いていたらしいサブクエスト「百眼のアルマリア」、完全攻略。やり遂げた満足感とほんの少しの寂寥感を抱えて、俺達は激動の地を後にするのだった。

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