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さあ、ボス戦の始まりだ!

「キヒーッ!? いたいけな老婆にこんな酷い仕打ちをするなんて!? まったく最近の若いのは、年長者に対する敬意が足りないねぇ!」


「ハッ! 自業自得だろ? ウチの仕入担当を誘拐されたせいで、そういうのは品切れなんだよ婆さん……そういやお前、名前はあるのか?」


 潰れた目から血の涙を流し、然れどこれといったダメージを負った風でもない老婆に対し、俺は油断なく剣を構えながらふとそんな疑問を口にする。すると老婆の方もまた軽く首を傾げ、その視線が俺の背後に向かった。


「おや、そっちの小娘から聞いてないのかぃ? アタシの名前はアルマリア。百眼のアルマリアさぁ!」


「へぇ、そうなのか。こっちの名乗りは……必要ねーよな?」


「キッヒッヒ、そうだねぇ。よーく知ってるからいらないよぉ!」


(ひゃくがん……百眼? だろうなぁ。あんだけ目があるんだし、違ったらそっちの方がビックリだ)


 名は体を表す。特にゲームにおいてなら、敵キャラには分かりやすい名称が用いられるもんだ。まあボスとかのネームドキャラはその限りじゃねーが、今回は親切にも二つ名で補足してくれたようだ。


「対象、百眼のアルマリア。目から発する光で状態異常を引き起こす。回避も防御も困難。おそらくは状態異常特化の魔物。本人の戦闘力は低いと推定」


 と、そんなことを考えていると、背後でオーレリアが小さいがはっきりと聞こえる声で敵の分析を口にする。このゲームにはアナライズ系の魔法はなく、メニューから見られる魔物図鑑が全てだったため、あくまでもオーレリアの洞察力の賜だ。


「高度な魔法防御あり。攻撃は物理が有効。見えている目を全部潰せば大幅に弱体化、あるいは無力化できる?」


「なら続けて俺とクロエで近接戦を仕掛けるか。セルフィは回復とデバフの解除を優先。オーレリアとリナは弱くてもいいから手数で敵を封じてくれ。モブローは全体の魔力管理とアイテムでの補給を。特にセルフィの魔力が切れたら秒でやられる可能性があるから、しっかり頼む!


 それじゃ、第二ラウンド開始だ! 行くぞ!」


「「「了解!」」」


 俺のかけ声に合わせて、皆がそれぞれに動き出す。だが当然、敵だってそれを黙って見ていてはくれない。


「くるかぃ? 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、クリムゾンボルト!」


「はあっ!?」


 アルマリアが両手を突き出すと、手のひらのでかい目だけでなく、なんと一〇指全ての末節部……指紋があるところ……に目がついていた。それらがピカッと光を放つと、走る俺とクロエ目がけて幾十もの炎の矢が飛んでくる。


「普通の攻撃魔法も使えるのかよ!?」


「あっついニャ!?」


 セルフィの魔法で状態異常対策はしていたが、普通の攻撃魔法は予想外。クロエは慌ててその場を飛び退いたが、俺の方はそこまで器用には動けない。両手を頭の前でクロスさせつつ身構えると、全身に炎の矢が突き刺さっていく。


「ぐぅぅ……っ!?」


「ハイエス・ヒール!」


 だがその傷は、セルフィの魔法によって即座に癒やされる。体の芯にジクジクとした痛みの感覚は残っているものの、動く分には問題ない。そのままアルマリアに駆け寄ると、思い切り剣を振りかぶる。


「食らえ! 稲妻全力斬り!」


 別に雷属性があったりはしない、全力斬りの上位スキルを発動。文字通り稲妻の如き勢いで振った剣は、しかしアルマリアの首に当たる寸前、ピタリとその動きを止めた。


「キッヒッヒ、せっかちな男は嫌われるよぉ?」


「チッ、やっぱり無理か」


 おそらくこいつはギミックボス。全部の目を潰さない限り、こっちの攻撃は通らないのだろう。だがまあ、今はそれが確認できただけで上等だ。


「シャドウスティング!」


「っ!? またこの小娘……っ! ギャァァァァァァァァ!!!」


「うおっ!?」


「フニャー!」


 俺が注意を引いている間にアルマリアの背後に回ったクロエが、頭の目をグサグサと突き刺す。それを受けてアルマリアが叫ぶと、俺とクロエの体が前回と同じように吹き飛ばされた。


「いてててて……クロエ、幾つ潰せた?」


「前と同じ、四つニャ!」


「なら一度に潰せる目は四つまでか? 先が長そうだな」


 百眼というのが実際に目が一〇〇個あるのか、あるいは「沢山」という意味で百を使ってるだけなのかは不明だが、少なくとも見えている範囲には一〇〇個も目があるようには思えない。


 加えて、潰れた目が再生する気配もない。なら今ある目を潰しきると新しい目が開く? それともまさか、ダメージが蓄積すると服が破けて、体にも目があるとか? その展開はレーティングが変わりそうなので勘弁して欲しいところだが……


「ま、今やれることはこれだけだ。クロエ、もう一回行くぞ!」


「わかったニャ!」


 俺達は立ち上がり、再びアルマリアに向けて駆け出す。毒、麻痺、混乱、盲目、魅了などの状態異常に加えて炎、水、雷などの矢が俺達の行く手を阻むが、ある時はかわし、ある時は受け止め、セルフィの回復魔法を頼りに切り込んでいく。


「止まりな! 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、アイシクルボルト!」


「うおっ!?」


 足下に突き刺さった氷の矢。それ自体は回避したのだが、刺さった部分から広がった氷が俺の右足を捕らえ、その場でつんのめってしまう。大きな隙を晒した俺に、しかし致命の追撃はやってこない。


「クリエイトウォーター!」


バシャン!


「ヒエッ!? 何だいこりゃ? 水!?」


「ブリザードストーム!」


「キヒッ! だからその程度の魔法じゃ……キヒェェェ!?!?!?」


 ずぶ濡れになった体を冷気で冷やされ、アルマリアが身を震わせながら悲鳴をあげる。


「どうよ! まともな攻撃魔法じゃないから、アタシの水は防げない! そして……」


「魔法の攻撃そのものは防げても、発生する冷気までは防げない。傷つけたり凍らせたりは無理でも、寒いだけなら攻撃じゃない」


「ヨボヨボの体には堪えるでしょ? 早く家に帰ってコタツに潜り込んだ方がいいんじゃない? アルマリアお婆ちゃん?」


「キヒーッ! 小賢しい小娘共だねぇ! 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)――」


「おっと、そいつは通さねーよ! 神速斬り!」


 これだけ時間があったなら、とっくに体勢は立て直している。走り込んだ俺が放ったのは、今使える最速の一撃。


「これもおまけニャ! シャドウスティング!」


「ギャァァァァァァァァァ!!!」


 俺の剣がアルマリアの本来の右目を貫き、クロエの短剣が頭部の目をグサリと刺す。それと同時に吹き飛ばされたが、慣れたものとばかりに俺達はすぐに起き上がる。


 さあ、これで指先とかの明らかに狙えない場所を除けば、見えている目の大半は潰した。あとはどうなるか……?


「キッ……ヒッヒッ…………随分と好き放題やってくれたねぇ…………」


 刺し潰された目から流れ続ける血の涙で、もはや全身が血塗れとなったアルマリア。しかしその痛々しい見た目とは裏腹に、そこから発する圧力のようなものが際限なく膨れ上がっていく。


「でもまあ、おかげで縛り(・・)が外れた。これでアタシも本気を出せるってもんさね」


「させるかよ!」


 敵の変身を待ってやる趣味は俺にはない。全力で走って振り下ろした剣が……何とアルマリアの頭部を両断し、腰の辺りまでが真っ二つになる。


「え、嘘だろ!?」


 まさか攻撃が通るとは思わなかった。絶対何か不思議な力で無効化されると思っていただけに、目の前の光景を俺自身が一番信じられない。


 だがそんな俺の戸惑いを嘲笑うように、どこからともなくアルマリアの声が響いてくる。


「キーッヒッヒッヒ! いたいけな老婆を一刀両断なんて、アンタそれでも主人公かぃ?」


「なっ!? 生きて!?」


 驚く俺の前で、アルマリアの体がドロリと溶けていく。そのどす黒い液体が床に染みていくのと同時に、天井に黒が広がっていく。


「見て! 天井!」


「フギャー!?」


「こいつは……!?」


 空を埋め尽くした闇に、星のような無数の光が生まれていく。そこを起点にガバッと闇が裂けると、その全てが人の目に変わる。


 百眼? ははは、ご冗談を。数える気すら起きないほどの大量の目が埋め尽くす最悪の夜空に、アルマリアの甲高い笑い声が響く。


「キーッヒッヒッヒッヒ! さあ、これがアタシの本気だ! 百眼のアルマリアの力、その目に焼き付けるがいいよぉ!」

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