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客に出すのはお茶だけにしてくれねーかな

「お? こいつは……」


 そうして辿り着いた三〇階層。階段を降りた先にあったのは、見上げるほどに巨大な両開きの扉であった。こんなあからさまな演出をされては、この先にボスがいるのは間違いないだろう。


「この感じだと、三〇階層で終わりみたいね。あーよかった」


「そうだニャー。これ以上強い骨が出てきたら大変だったニャ」


 そんな扉を見て、リナとクロエが安堵の声を漏らす。そしてそれに追従するように、セルフィが珍しく疲れたような声で言う。


「二九階層の魔物は強敵でしたね。狙ったわけではないのでしょうが、まさか魔物があのような対策を講じてくるとは……」


「対処が面倒な分、反射より厄介だった」


「骨のくせにパリピとか生意気ッス! そのモテ要素を自分にも分けて欲しかったッス!」


「いや、モテは関係ねーだろ……浮かれたパーティカラーではあったけども」


 二九階層のスケルトンは、赤やら青やら黄色やらと色とりどりの装備をしていた。そしてそれは当然見た目だけじゃなく、対応した属性の攻撃をほとんど無効化するというとんでもない耐性を有していたのだ。


 しかも、兜・盾・鎧で全部違う色を装備しているという、ゲームなら「差分が幾つになると思ってんだよ!?」と怒られること請け合いの仕様だ。おかげで有効な属性がかなり限られ、一〇体の集団にオーレリアが魔法を打ち込んでも倒せるのが一、二体という体たらく。


 こうなると範囲攻撃魔法はあまり意味がないので一体ずつ倒していくことになり、必然数の差が露骨に響いてきて……まあ結局、最後はいつものごり押しだ。正直モブローが回復アイテムを提供してくれなければ、ここに辿り着くことはできなかっただろう。


「って、そうだ。なあモブロー、アイテムはまだ平気か?」


「えーっと……流石にちょっと厳しくなってきたッスね。雑に使えるレベルのやつはあんまり残ってないッス」


「そうか……」


 モブローのインベントリには様々なアイテムが所持数限界まで入っていたらしいが、決して無限ではない。使えば当然なくなるし、ゲームの時間軸としてはまだ一年生の後半……つまりは序盤をちょっと出たくらいなので、今の俺達のレベル帯でまともに使える回復アイテムは、ほとんど補充が効かないのだ。


「色々持ち出させちまって悪かったな。この埋め合わせはきっちりやるから」


「期待しとくッス。でもその前に、アリサとロネットを助けないとッス」


「ああ、そうだな……多分これが、最初で最後のチャンスだ」


 物資の消耗具合を考えれば、今回みたいなごり押しの攻略は二度とできない。もし失敗して撤退となったら、次はかなりの時間をかけてレベル上げを行わなければ、ここに戻ってくるのは難しいだろう。


 それに何より、ここまで俺達をおびき寄せた敵が逃げるのを許すとも思えない。現実にロードはないのだ。負けたら負けた状態で世界は進んでいってしまう。


 ならばこそ、勝つしかない。俺が皆の顔を見回すと、皆もまた静かに頷き……俺は一歩前に出ると、扉に手を当て力を込めた。数百キロ、あるいはもっとあるかも知れない扉は最初こそびくともしなかったが、ほんのわずかに開き始めると、そこからは勝手に開いていく。


 そうして扉の向こうに広がっていたのは、ここまでの雰囲気とは打って変わって真っ白な空間だった。壁も天井も全てが白で、距離感が全くわからない。ただ空気の流れから、おそらくは相当に広い空間だろう。


 そしてそんな空間の中央には、俺達を待ち受け、俺達が求める存在が静かに佇んでいる。


「キーッヒッヒッヒッヒ! よくきたねぇ」


「ああ、来たぜ。招待に応じたんだから、俺の仲間を返してくれねーか?」


 ゆっくりと歩み寄りながら、俺は謎の老婆に声をかける。その左右にはアリサとロネットが閉じ込められた水晶柱が、物理法則を無視してぷかぷかと浮いている。


「キッヒッヒ、『アタシに勝てたら』って言ったろぉ? にしても……」


 楽しげに口元を引きつらせた老婆が、俺の左右に視線を向けて軽く顔をしかめる。


「まさか正規の仲間じゃなく、出来損ない二体を引き連れてくるとはねぇ。しかもここまで早く……アタシの読みじゃ、アンタ達がここに来るのは半年は先だと思ってたんだが」


「フンッ! 読みが外れて残念ね! アンタの占いなんて、所詮そんなものってことよ!」


「誰が出来損ないッスか! 先輩もリナも出来損ないなんかじゃないッス!」


「キッヒッヒ、まあいいさぁ。アタシとしてはずーっと来ないでいてくれた方がよかったんだが、来てくれたんじゃあ相手をしないわけにはいかないねぇ。


 はぁ、戦闘なんていつぶりだったか……」


 ビシッと指を突きつけるリナと、ナチュラルに自分を「出来損ない」から除外したモブローをそのままに、老婆がため息を吐いた。左右に浮いていたアリサとロネットが何処かに消え、老婆がゆっくりとローブを捲り上げると、それに合わせて長く垂れ下がっていた髪の毛も持ち上がっていく。


「えっ、カツラ!?」


「婆ちゃんなのにハゲてるッス!?」


「キッヒッヒ、そうだよぉ。髪の毛なんて生えてたら、目に入って(・・・・・)痛くてたまらないからねぇ……むんっ!」


 瞬間、つるりとはげ上がった頭皮に無数の目が出現した。いや、それは頭だけじゃなく、突如不自然に長く伸びた腕や手のひらにも目が開いていく。


「ひぃぃ、気持ち悪っ!? 何か見えないところがゾワゾワする!」


「目が一杯出てきたニャ!?」


「人を惑わす魔物が正体を現したようですね」


「見つめられるなら美少女がいいッス! 後期高齢者ノーサンキューッス!」


「……危険。対処を――」


「もう遅いよ! 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、パララアイズ!」


 老婆の目がピカッと輝き、周囲に光がばら撒かれる。するとそれに触れた部分が何だかピリピリとし始めた。


「っ!? ヤバい、麻痺か!?」


「すぐ回復を! レストアパラライズ!」


「ミード・マルチフレアボルト」


 セルフィが麻痺回復を使い、オーレリアが老婆の目を狙って攻撃魔法を放つ。しかしそれらは老婆の周囲に張り巡らされた光る膜のようなものによって打ち消されてしまう。


「効かないねぇ! このアタシを傷つけるには、その程度の魔力じゃ全然足りないよぉ! 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、スリープアイズ!」


「ぐ……っ!?」


 またも老婆の全身の目が光ると、猛烈な眠気に頭がふらつく。どうやらあの光を浴びると該当する状態異常を食らうようだ。


「くっそ、光なんて回避できねーぞ!?」


「これならどう!? 『ウォーターシールド』!」


「キッヒッヒ、そんな魔法で無効化されるほど、アタシの熱視線は甘くないよぉ! 百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、チャームアイ!」


 リナの作った水の盾。しかしそれは老婆の放つ光をわずかに屈折させることもできず、そのまま素通ししてしまった。そして光を浴びた俺の意識が、無意識に強く老婆に引きつけられてしまう。


「この気持ち……まさか新たな性癖に目覚めたッスか!?」


「これ以上変態になるのはおやめください! レストアオール!」


「っ……食らえ、ハイエス・マルチマナボルト!」


 セルフィの魔法を受けて、老婆に対する親しみが消えた。なので俺は今使える最強の魔法を老婆に向かって放つ。だが……


百眼の魔女(ヘカトンゲイズ)、ステイシスアイズ!」


 俺の放った魔法が、空中で動きを止める。麻痺や睡眠、魅了なんかはともかく、発動後の魔法を無効化できる能力なんてゲームには存在しなかった。


「嘘だろ!? 何だよそのインチキ!」


「キッヒッヒ、このくらい――」


「シャドウスティング!」


 驚いて見せる俺に余裕の笑みを浮かべる老婆。だがその時、足下の濃い影から飛び出したクロエの短剣が、老婆の腕についていた目を素早く四つほど突き刺した。


 強い光を生み出せば、その分濃い影も生まれる。あわよくばと思って放ったこっちの攻撃を全て防いだのは流石だが、裏の本命であるクロエの接近には気づけなかったようだ。


「ギャァァァァァァァァ!!!」


「フギャーッ!?」


 老婆がけたたましい叫び声をあげると、老婆を中心とした衝撃波が発生し、更に追撃しようとしていたクロエの小さな体躯を吹き飛ばす。


「うぅ、四つしか潰せなかったニャ」


「いやいや、上出来だクロエ」


 どうやら状態異常ばらまき系のボスのようだが……ファーストアタックはこっちがもらった。さあ、ここから刻んでいくぜ。

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