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おいおい、そんな装備で大丈夫か?

 明けて翌日。無事に夜を乗り切った俺達は、そのままダンジョンの探索を続けた。そんななか活躍が目覚ましいのは、やはりセルフィとオーレリアである。


 モブローも言っていた通り、強い敵はそれだけ大量の経験値を持っている。そしてこのダンジョンの魔物は常に集団で活動し、その二人は集団を一発で倒せる魔法を持っている。


 つまり、相性がよすぎる。俺達が撤退を余儀なくされた二三階層からはこっちの魔法を反射する厄介な敵が増えるわけだが、それだって初見じゃないなら対処はできる。


 具体的にはセルフィの強力な補助魔法でパワーアップした俺とクロエが物理攻撃で蹴散らすとか、オーレリアが魔力消費を増やすことで<貫通>の特性を魔法に付与し、反射を無効化するとかだな。


 勿論、どちらも大量の魔力を消費する。普通なら使い処を見極める必要があるが、こっちにはモブローがいる。魔力という回復が難しく限られたリソースを消費するから強力であることを許された攻撃を無制限に使えるとなれば、それが弱いはずがない。結果として俺達は、するすると二五階層までを突破することができた。


 ということで、次は二六階層なわけだが……


「おぉぅ、こう来たか……」


 目の前に現れたスケルトン軍団は、鏡のようにピカピカに磨かれた銀色の武具を身に纏っていた。これを見た俺の印象は「絶対魔法を反射するやつじゃん」である。


「アホみたいに露骨ね。でもまあ一応……『ウォーターボルト』!」


 リナの発動した魔法がスケルトン軍団に飛んでいったが、戦闘の一人が銀色の盾で受け止めると、予想通りに魔法が反射されてこっちに飛んでくる。


「おっと。やっぱり見た目通り……うん?」


 ひょいと飛んできた魔法をかわすと、リナの魔法を受け止めたスケルトンの盾が輝きを失い、鈍色に変わっているのに気づいた。ほほぅ、これはひょっとして……?


「俺とクロエが前に出て支えるから、リナはできるだけ弱い魔法を連発してくれ! セルフィは俺達に補助魔法をかけてから、全体に魔法防御を! モブローとオーレリアは待機だ!」


 そう声をかけてから、俺はスケルトン軍団に向かって駆け出す。すぐ隣にはクロエもいて、俺達の体をほわっと柔らかい光が包み込むと、体の奥底から力が湧いてくる。


「いくぜ……回転斬り!」


 敵が剣の間合いに入ったのとほぼ同時に、俺はこのクラスの敵に対しては明らかに力不足なスキルを発動。剣を持ったままクルリと回転する体にガンガンと重い手応えが伝わってくるが、その切っ先は銀色の盾にかすり傷すらつけられない。


 だがそれでいい。これで物理攻撃スキルは反射されないことは判明した。なら遠慮無く強いスキルをぶっ放せるってわけだ。


「いくわよ! 『ウォーターボルト』! 『ウォーターボルト』!」


 そんな俺の背後から、水の太矢が幾つも飛来する。それらは周囲にいた他のスケルトン達が盾を構えて反射していくが、セルフィの張った魔法防御の結界によりリナ達がそれでダメージを負うことはない。


「『ウォーターボルト』! 『ウォーターボルト』! 『ウォーターボルト』! はぁ、弱い魔法の連発って地味に疲れる……『ウォーターボルト』ぉ!」


 故にリナの魔法乱射は止まらない。魔力を消費し攻撃魔法を発動させ、だがそれが反射されて別の奴が魔力を消費してそれを防ぐ。一見するとこちらばかり損をしていることになるが……遂にその結果が見えた。


キィン! キィン! ……バシャッ!


「通った!」


「やっぱり! 魔法反射は回数制限つきだ!」


 リナの魔法を反射する度、盾の、鎧の輝きが消えていったのだ。こんな分かりやすいフラグをゲーマーが見逃すはずもない。くすんだ防具に身を包むスケルトンの頭蓋骨に水の矢が命中したことで、ずっと控えていたオーレリアが杖を構える。


「ハイエス・ファイアボルト」


ゴォッ!


 俺のすぐ側を、燃え盛る炎の矢がとんでもない勢いで通り過ぎていく。それは狙い違わず防具の力を使い切ったスケルトンの頭蓋骨に命中し、あっさりと燃やし尽くしてダンジョンの霧へと変えた。


「うぉぉ!? おいオーレリア、まだ近くに反射できる奴がいるんだぞ!?」


「大丈夫。自分が狙われてるわけでもない状況で、この距離。私が外すわけがない」


「そ、そうか……でもまあ、安全第一頼むぜ?」


「オーレリア様の魔法を反射されると、私の魔法ではとても防げません。どうか慎重にお願いしますね?」


「……善処する」


 俺だけでなくセルフィにもやんわりと指摘され、オーレリアが少しだけしょんぼりする。だがオーレリアの魔法を反射されるとマジで全滅する可能性があるので、こればっかりは仕方ない。


「んじゃリナ、引き続き頼む! クロエ、俺達は反射が残ってるスケルトンを積極的に倒すぞ!」


「了解ニャ!」


 まあそれはそれとして、改めて分業開始。後ろに抜けられると一気にピンチになるので俺やクロエは敵を押し留めることに集中し、リナの魔法で反射を使い切ったスケルトンをオーレリアが狙撃するという一連の流れを繰り返すことで、俺達は何とか二六階層での初戦を勝利で終わらせることに成功した。


「ふーっ。危ない場面もあったけど、何とかなったな」


「でも、これ毎回はキツいニャ。クロは何回も斬られちゃったニャ」


「あー、悪い。慣れないことさせちまったからなぁ」


 回避重視のクロエに、敵を押し留める役を任せてしまった。逃げながら引きつけるならともかく敵を通さない壁になるのは明らかにクロエに向いていない作業だが、アリサがいないのだからこればかりはどうしようもない。


「仕方ないニャ。それにセルフィがすぐ治してくれたニャ」


「ふふふ、勿論です。クロエ様の綺麗な肌に、小さな傷の一つだって残しませんよ」


「フニャッ!? 綺麗なんて言われたら照れちゃうニャ……」


「でもこんなのを続けてたらいずれ大怪我をする。対策は必要」


「そうッスね。装備のパッシブだと<貫通無効>もセットのはずッスから、多分自分のアイテムも反射されるッス」


「それなんだよなぁ」


 モブローの言葉に、俺も渋い顔で頷く。スキルや魔法による一時的な反射効果は<貫通>を付与すれば無効化できるんだが、防具についている<反射>の効果には<貫通無効>もセットになっている。


 要はスキルと違って一戦闘に一回とかの決まった回数しか発動しない代わりに、効果が無効化されないようになっているのだ。まあ一部のボスは何回でも使えて同じ効果のある<反射結界>とかを使ってきたりもするが、それは今はいいとして。


「反射されるのを前提で、弱い全体攻撃魔法を連発して剥がす……それだとセルフィの負担が大きすぎるか。となると……」


「あのー、いい? 実はちょっと試してみたいことがあるんだけど……」


 悩む俺の横で、徐にリナが手を上げる。その内容を聞き、俺達は早速次の戦闘で試してみることにした。


「じゃ、やるわよ……オーレリアちゃん、お願い」


「ん。ブーストマジック。ワイドマジック。ダブルキャスト」


「ふぉぉ、力が湧き上がる! アタシは人間を辞める――」


「……効果時間が切れる。早くして」


「あ、はい。じゃあやるわよ……クリエイトウォーター!」


 オーレリアから魔力増幅、魔法全体化、二重発動の補助を受け、リナの魔法が発動する。するとスケルトン軍団の上に大量の水が出現し……


バシャン!


「やったわ!」


 魔法で生みだした水を浴びた結果、スケルトン達の身につけた防具全ての反射判定が消えた。より正確には水を反射したんだろうが、頭の上から降ってくるだけの水を反射したところで何が起きるでもない。


「ほらほら、オーレリアちゃん! 今よ!」


「ハイエス・フレアバースト」


ドゴーン!


 ウキウキのリナに声をかけられ、オーレリアが魔法を発動させる。すると気合いの入った一発はただそれだけでスケルトン軍団を吹き飛ばし、その大半がダンジョンの霧と変わった。


「ふっふっふ、どうこの発想! ウォーターボルトがいけるんだから、これでもいけるって思ったのよ!」


「むぅ……」


 ただの水をぶっかけても当然<反射>は発動しないが、「魔法で生みだした水」を「直接」かけてやれば攻撃判定になるのでは? というリナの予想は的中した。その奇抜な発想と、それが有効であったという事実にオーレリアが何やら難しげな顔つきで考え込むが、すぐに首を横に振って表情を引き締める。


「気になるけど、考えるのは後。リナ、まだいける?」


「勿論! この調子でガンガン倒しまくっちゃいましょ!」


 集団攻撃魔法に対するメタ装備を持ち出してきた敵を、バグのような機転で無効化する。こうして俺達は再び魔法によるごり押し戦法が使えるようになり、更にダンジョンを進んで行くのだった。

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