やっぱ相性は侮れねーな
クロエが俺達と合流したのは、それから三〇分ほどしてからだった。その頃にはこっちの準備も終わっていたので、俺達は改めてショートカットから「覇軍の揺り籠」へと戻る。
その後は五人+一人の変則パーティで最短距離を突っ切って行ったのだが……
「摂理に叛きし哀れな者達よ、神の慈悲を受け安らぎと共に眠りなさい。ホーリーブレイド!」
ガラガラガラガラ……
セルフィが詠唱を終えると、その前方に三日月のような形の白い刃が水平に射出される。それがスケルトン軍団をすり抜けると、一〇体以上いたスケルトン達の体が音を立てて崩れていった。
「おぉぅ……改めて見るとスゲーな」
「流石はセルフィッス! 俺の嫁は最強ッス!」
「何言ってんのよ! セルフィママはアタシの嫁よ!」
「お褒めいただき恐縮ですわ。それと私はモブロー様ともモブリナ様とも結婚はしていないのですけど……いえ、お二人の好意を無下にするとか、同性愛というものに対して否定するような意図はありませんが」
「セルフィ、この二人の言うことは真に受けなくていい」
興奮する馬鹿二人にセルフィが困った表情を浮かべると、オーレリアが素っ気ない口調でそう告げる。完全にその通りなので俺も深く頷いておいたが、それはそれとして今はセルフィの魔法のことだ。
(まだ五階層の雑魚ではあるけど、俺達より大分レベルの低いセルフィの魔法がここまで有効なのか……やっぱ弱点補正は半端ねーな)
軽くモブロー達からこれまでの活動内容を聞いた感じだと、おそらくモブローパーティの平均レベルは三〇をちょっと超えたくらいだと思われる。つまり俺達の半分より少し上くらいなわけだが、それでも弱点補正によるダメージ二倍があれば、俺達とさほど変わらない……どころか下手な攻撃よりよっぽどダメージが出ていることだろう。しかも集団攻撃だしな。
「シュヤクー! 次がくるニャー!」
「ん。じゃあ次は私がやる」
と、そこでクロエが警告の声をあげると、今度はオーレリアが前に出る。万が一に備えて俺も隣に立つが、やってきた敵集団がこっちを見つけて駆け寄ってくるより早く、オーレリアの詠唱が完了する。
「落日の罪果。熟れた血の実は地の身に墜ちて、眼前に蔓延る我が敵の一切を、その灼熱にて焼き尽くすものなり……フレアバースト」
ゴウッ!
オーレリアの頭上に出現した直径一メートルほどの火球が、スケルトン軍団の前衛に炸裂する。するとその着弾点から炎の渦が立ち上り、迫ってきていたスケルトン達が一瞬にしてダンジョンの霧へと変わった。
「おおっふぅ……こっちもスゲーな」
「流石はオーレリアッス! 俺の嫁は最強ッス!」
「何言ってんのよ! オーレリアちゃんはアタシの嫁よ!」
「……どっちの嫁でもない。あとこのくらいは普通」
繰り返されるボケにツッコミを入れつつも、オーレリアが少しだけ得意げにフンスと鼻を鳴らす。それも当然と言えるほどの威力だが……うーん?
「おいモブロー。特攻のセルフィはともかく、オーレリアの魔法は威力が高すぎねーか? 今レベル三〇くらいだろ?」
「ああ、それならあれのおかげッス!」
そう言うモブローの視線を追うと、オーレリアの指に紫色の宝石のはまった指輪が見えた。多分装備すると魔力が上がる的なアイテムなんだと思うが、ビジュアルだけだと俺にはよくわからない。
「あ! オーレリアちゃんのそれ、ひょっとして『紫星の指輪』じゃない?」
「そう。モブローがくれた」
「そうッス! 先輩達がレベリングとかしてる時に、自分達も幾つかダンジョンを攻略したッス! その時に手に入れたのをオーレリアにプレゼントしたッス! 自分とオーレリアの愛の証ッス!」
「そんなことはない……けど、ちょっと嬉しかったことは否定しない」
「くぅー! クーデレ最高ッス!」
指輪を見つめ小さく口元を緩めるオーレリアの様子に、モブローが絶妙に気持ち悪い感じで身悶えする。なるほど「紫星の指輪」か……確か装備すると魔力が二割増しだっけ? 一応魔物からのレアドロップだけど、オフラインゲーだけあって増加率がエグいな。
「あれ? でもそれ、確か魔力の消費量も増えるんじゃなかったか? 平気なのか?」
「エーテルは結構使っちゃったッスけど、ハイエーテルはまだまだ大量にあるから大丈夫ッス! それにもっと上の回復薬もあるッス!」
「そうか。今後も何があるかわかんねーからあんまり乱用はして欲しくねーんだが……そこは適切にな」
「わかってるッス!」
エーテルは魔力回復ポーションの上位互換で、回復量は魔力回復ポーションの倍くらいあるうえに、飲み薬ではなく体に振りかける香水みたいな感じなので、使ってもお腹がタポタポにならないという優れものである。この設定を考えたバイトの林田君には感謝の念を送っておこう。
ただこのエーテル、店売りされるのは来年の二学期以降なので、現在は手に入れる方法がかなり限られる。更に上のハイエーテルともなると三年の三学期まで買えないし、もっと上の薬ともなると宝箱や強い魔物のドロップからしか手に入らず、それのあるダンジョンや持ってる魔物は今の俺達じゃ倒せないので、補充は当分不可能。
どれも効果は抜群だが、いざという時のことを考えれば乱用は避けたい。まあその辺はモブローもわかってるっていうか、明らかに過剰回復なので意味もなく無駄遣いはしないと思うけどな。
「よし。二人とも俺の想像より大分強かったし、これなら問題なくいけるはずだ。ひとまずは雑に魔物を蹴散らしながら、最速で二〇階層を目指そう」
「「「了解!」」」
俺の提案に皆が頷き、俺達はダンジョンを攻略していく。モブロー達は初めてだが、俺達はもう三回目だし、ロネットの残したマップもあるので道中で迷うことはない。
更に大火力の二人が加わり、その魔力消費すら気にしなくていいとなれば、進行速度は爆速だ。日付が変わる直前とはなったが、何とその日のうちに俺達は二一階層に続く階段へと辿り着くことができた。
「二人共凄いニャー。クロ達は大変だったのに、あっという間にここまで来ちゃったニャ」
「私達だけの力ではありませんわ。ロネット様が残してくれた地図や、クロエ様の的確な先導があればこその成果だと思います」
「私達は敷かれた道を歩いてきただけ。だからこのくらいは当然」
「ははは、謙遜するなって。ただ、明日もこのペースで……ってのは無理だと思う」
「そうね。一応二二階層までは地図があるけど、二三階層は降りてすぐのところでちょっと戦っただけだし、その先は完全に未知だもんね」
「自分達なら大丈夫ッスよ! それにここまでの道中で、セルフィやオーレリアのレベルだってあがってるッス! 大量の敵が一度に襲ってくるから、稼ぎ効率が滅茶苦茶いいッス!」
「それは確かに……もはや無双ゲーくらいの倒し方してたもんねぇ」
楽観的なモブローの言葉に、リナが呆れつつも同意する。言われてみれば、今日一日だけでセルフィもオーレリアも何百ってスケルトンを倒してるもんな。レベルが見えるわけじゃねーが、それだけ倒せば間違いなくあがってるだろう。
「ま、油断は禁物くらいの感じでいればいいさ。いざって時はモブローを盾にすればいいしな」
「ちょっ、いきなり何言い出すんスか!?」
「何だ、嫌なのか?」
「当たり前――」
「モブロー、私達を守ってくれない?」
「怪我をしたらすぐに私の魔法で回復してあげますわ」
「……自分が全部受け止めるッス! どんな攻撃もバッチコイッス!」
「モブロー、アンタって本当に……まあいいんだけど」
「それより、クロはお腹が空いたニャ! そろそろご飯を食べてぐっすり寝たいニャー」
「おっと、そうだな。んじゃ飯食って寝るか。モブロー」
「お任せッス!」
俺の言葉に、モブローがインベントリから食事を取り出す。そうしてできたての料理を美味しく食べると、流石に今回は恥ずかしい思い出話を語るなんてこともなく、アリサ・ロネット救助作戦の初日は終了した。





