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その伏線は、俺もわかるところに張っといて欲しかったぜ

「誰だ!?」


 突如現れた謎の人物に、俺は腰の剣を抜いて構えながら叫んだ。すると俺の隣で、リナが当該の人物を見て大きく目を見開く。


「妖怪占いオババ!? 何でアンタがこんなとこに……!?」


「妖怪? 何だそりゃ、リナの知り合いか?」


「アタシのっていうか、ほら、ミーアの姐御のイベントで、町に占い師が来てるって言ってたでしょ? その人よ」


「……? 何でそんな奴が、ここにいるんだ?」


 俺は直接会ってないが、リナ達の話から占い師は町を去ったと聞いていた。それがどうしてこのタイミングで、こんなダンジョンの中にいるのか? そんな理由、当然思い当たるはずもない。


「あーもう、うるさすぎるニャ! いい加減静かに寝る……フギャー!? 何でアリサとロネットが固まってるニャ!?」


「クロエ!? 起きたのか!」


「シュヤク! これは一体どういうことなのニャ!?」


「いや、俺にもわかんねーんだよ。胸元辺りがいきなり光ったと思ったら、こうなっちまって……」


 問い詰めてくるクロエに、俺もまた戸惑いながら説明をする。するとそんな俺達をそのままに、リナが一歩前に出て老婆に話しかけた。


「お婆ちゃん、これどういうこと? 今の『上手くいった』って何?」


「キーッヒッヒッヒッヒ! そりゃ勿論、言葉の通りだよぉ。アタシが渡したお守りは、ちゃんと動作したって意味さぁ」


「お守り……っ!?」


 その言葉に、リナは素早くポケットに手を突っ込むと、何かを床に叩きつけた。するとパリンという硬質な音を立てて、その何かが砕け散る。


「……騙したのね?」


「キッヒッヒ、人聞きの悪いことを言うもんじゃないよぉ! アタシは騙してなんかいないさ」


「騙してるでしょ! 何が『心を守るお守り』よ! これのどこが!」


 事情がわからず俺とクロエが見守るなか、リナが激昂して声を荒げた。だがそれに怯むことなく、老婆はローブに隠れてよく見えない口元を楽しげに歪ませる。


「そっちのお嬢ちゃんが言っただろう? 人の心は移ろうものさ。だけどアタシのあげたお守りは、人の心を守るもの。そのお嬢ちゃん達の心が変わろうとしていたのに反応し、心を守る為にその身を閉じ込めたのさ!


 そう! これでもうその子達の心は永遠に変わらない! いつまでもいつまでも、お守りを渡したときの心を持ち続けることができるってわけさぁ! キーッヒッヒッヒッヒ!」


 そう言った瞬間、俺達の側から水晶柱に閉じ込められたアリサとロネットの姿がかき消える。そしてそれが現れたのは、謎の老婆の隣だ。


「なっ!?」


「二人が消えたニャ!?」


「ちょっと! アリサ様とロネットたんをどうするつもりよ!?」


「キッヒッヒ、別にどうもしないよぉ? このままアタシと一緒に、永遠を過ごしてもらうだけさぁ」


「ふざけないで! そんなことさせるわけないでしょ! 『ミード・ウォーターボルト』!」


 リナが攻撃魔法を発動させ、老婆に向かって打ち出す。だがその魔法は老婆に当たる前にかき消えてしまい、如何なるダメージも与えられない。


「キッヒッヒ、その程度の魔法じゃあ、アタシを傷つけるのは無理だねぇ」


「くっ……返して! 二人を返してよ!」


「返せと言われて返すくらいなら、最初からこんなことしないよぉ! それに……くっ」


 不意に、老婆が頭を抱える。その顔が苦しげに歪み……やがてこちらを見上げると、その口がゆっくり開く。


「チッ、やっぱり縛り(・・)からは逃げられないのかぃ……おい小僧、アンタはこの二人を取り戻したいかぃ?」


「当たり前だろ」


 老婆の問いに、俺は冷静にそう答える。相手の手札が不明すぎて今はこちらから攻撃はできねーが、アリサとロネットを見捨てるつもりなど毛頭ない。


「なら、このダンジョンの最下層まで来るんだねぇ。そこで見事アタシに勝てたら、この二人を返してあげるよぉ」


「ダンジョンの最下層?」


「なるほど、アンタ本当に妖怪……てか魔物だったわけね」


「好きに受け止めればいいよぉ。それじゃアタシは、先に行って待ってるからねぇ」


 一方的にそう言うと、老婆とアリサ達の姿がフッと消える。そうして残されたのは俺とリナ、クロエの三人だけだ。


「うぅ、二人が連れて行かれちゃったニャ……」


「くそっ、何だってんだ!? おいリナ、もうちょっと説明してくれ!」


「う、うん……」


 剣を収めながら問う俺に、リナが追加の説明をしてくれる。といっても追加情報は「真実の塔」で手に入れたアイテムを渡したら、そのおこぼれ的なものとして謎のお守りを貰ったというだけのことだ。


「お前、そんな怪しいもんを持ち歩いてたのかよ……」


「だ、だって! サブクエの達成報酬っていうか、完全攻略による追加報酬かなって考えたら、そりゃもらうでしょ!」


「まあ気持ちはわからなくもねーけど……もう他にもらったもんはねーんだな?」


「アタシが自覚してる範囲に限れば、そうね。ただ無意識に何かの魔法をかけられたとか、イベントのフラグを踏まされてる可能性までは否定できないわ」


「ま、そうだわな。となるとこれからどうするかだが……」


「アリサ達を助けに行かないニャ?」


 考え込む俺に、クロエが心配そうに声をかけてきた。なので俺はできるだけ優しい笑みを浮かべてそれに答える。


「まさか! アリサ達は絶対に助け出す。でも今の俺達じゃ、おそらく最下層には辿り着けないし、そもそも辿り着けたとして、あの婆さんに勝てる気がしない」


 五人フルメンバーですら、二三階層の魔物に苦戦したんだ。なのに最低でも三〇階層だと思われる最下層に三人で辿り着けるはずがないのは火を見るよりも明らかだ。


 あるいは何らかの手段で辿り着けたとしても、わざわざボスフロアを指定したなら、最後はあの婆さんとバトルになる可能性が高い。そしてそこで戦うからには、婆さんもまたボスに相応しい強さを持っているんだろう。


 となればやはり、俺達三人では勝ち目がない。が……


「ならどうするの?」


「ひとまずは引き返す。第一階層まで戻れば、王都に戻るショートカットが使えるはずだ。そしたら助っ人を引き入れて、改めて最下層を目指す」


「助っ人……あー、何か酷いことになりそうな気がしてきた」


 ニヤリと笑う俺に、リナが苦笑を浮かべる。ああ、そうだ。大事な仲間を掻っ攫われて、俺だって頭にきてるんだ。ならもう加減も自重も必要ない。


 そしてこんな時、俺には頼れる仲間がいる。一人は人格的にちょっとアレな感じはあるものの、その能力は世界を理不尽でねじ伏せることができるほど圧倒的だ。


「他人頼りってのは情けねーけど、頼ったら助けてもらえる関係を築いていることもまた俺の力ってことで許してもらおうぜ」


「そうね。ここは派手にぶっ放すべき場面よね!」


「クロは何のことかわからないニャ! クロにもわかるように話して欲しいニャ!」


「ははは、わかったって。ならひとまず戻りながら話すとしよう」


 幸いというか当然というか、寝ていたロネットは背嚢を背負っていなかった。つまり物資や地図は残っており、これがあれば既知の階層を戻る分には何とかなる。深層階をごり押しできる程度の魔力回復ポーションは残っているし、その後は純粋な身体能力でごり押しできるからな。


「てわけで、いくぞ。確実に二人を助け出すために……今は撤退だ。クロエ、斥候を頼む」


「うぅ、わかったニャ……」


「大丈夫、すぐ戻ってくるわよ……絶対ね」


 戸惑い、憂い、そして決意。それぞれがそれぞれの想いを抱えながら、俺達は階段を上っていく。


 俺はもう、やられっぱなしで泣き寝入りなんてしない。できなかったことを歪めて、自分を慰めるなんてまっぴらだ。


(今度は……取り返す!)


 逃げるためではなく、戻ってくるために。俺はあの日と同じく来た道を引き返すのだった。

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