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なお、スケルトンは呼吸していなかった模様

「クロエ、行けるか?」


「やってやるニャ!」


 スケルトン軍団との戦闘の最中、アリサとリナで物理と魔法の両方を防ぐなか、俺が声をかけるとクロエが力強く頷く。


 ならばあとはぶっつけ本番。いざという時の準備を終えると、俺はそっとクロエの肩を叩く。するとクロエがピクッと尻尾を震わせ、自分の目で状況を見極め……


「フシャー!」


 気合いと共に駆け出したクロエが、ダンジョンの壁を走る。そうしてスケルトン軍団をやり過ごすと、最後はトンと壁を蹴り、スケルトンウィザード達の頭上に舞い降りた。


「シャドウスティング!」


カカカッ! ガラガラガラ……


「やったニャ! 仕留めたニャー!」


「よっし、よくやったクロエ! 一気に攻めるぞ!」


「「「オー!」」」


 遠距離攻撃がなくなったことを受け、俺とアリサで前線を押し上げていく。そこに時折リナとロネットのサポートも加わり、第一五階層の精鋭スケルトン軍団を見事討伐することに成功した。


「ふぅ、討伐完了……クロエ、やったな!」


「クロちゃん偉い! 流石ねー」


「フフーン! 頑張ったニャ!」


 得意げなクロエを、俺とリナが全力で褒める。するとそんな俺達のところに、ロネットがクッキーを手にやってきた。


「お疲れ様です、クロエさん。はい、これどうぞ」


「サバクッキーだニャ! ありがとニャー……はぐはぐ」


「にしても、本当に壁を走っちゃうなんて……いえ、練習で走れるのは見ましたけど、でもやっぱり……」


「だよなぁ。自分が走るわけじゃねーのに、俺も緊張したぜ」


 かつて……と言うほど前じゃねーけど、第五階層で初めて魔法を使うスケルトン軍団と戦った時、クロエは「自分なら軍団の脇を走って抜けられる」と言っていた。


 だがそれがまさか壁走りだったとは思わなかった。まあ確かに大量のスケルトンの間を走り抜けるよりは、壁を走った方が楽……なのか? 俺には絶対できねーから何とも言えん。


 ちなみに、何故あの時止めた作戦を今になって許可したかと言えば、ここまでくると全員が安全策を取っていては勝ち抜いていけないからだ。いざという時の備えはあるので、多少のリスクは許容していかなければならず、その先鋒がクロエだったというだけの話だ。


「ちなみにクロエ、今のって毎回やれるのか?」


「毎回がどのくらいかによるニャ。連続でやるのは辛いニャ。でも一回やった後に一〇分くらい休んだらまた走れるニャ」


「そっか。ならやって欲しいときはまた頼むから、基本的には今まで通り後ろでリナとロネットを守っててくれ」


「わかったニャ……むむ? 向こうから来てるニャ!」


「もうか!? なら今回は俺が札を切るか」


 クロエの指摘に身構えて一〇秒ほど待つと、新たなスケルトン軍団が通路の奥から姿を現す。今やピカピカの金属装備に身を包むスケルトン達の奥には、当然今回もでかい宝石のついた杖を構えるスケルトンウィザードの姿があるが……


「食らえ! ハイエス・マルチマナボルト!」


 斜め上に伸ばした右手の指から、五本の青い魔法の矢が飛んでいく。それは隊列の最後尾にいたスケルトンウィザード三体と、おまけでその側にいた通常スケルトン二体の頭を打ち抜いて活動停止させた。


「うし、ウィザードは落とした! あとは普通に押し込むぞ!」


「「「オー!」」」


 最初の一手で勝負の趨勢は決まり、そのまま残りのスケルトンが駆逐されていく。そうして勝負が終わると、リナが何だか呆れたような感じで声をかけてきた。


「やっぱりアンタって主人公なのねぇ。もう全部アンタ一人でいいんじゃない?」


「何だよ、ツッコミ待ちか? そうじゃねーのはリナだってよくわかってんだろ?」


「そりゃあね。だから言ってみただけ」


 ハイエス・マルチマナボルトは、ゲームでは指定した範囲内の敵をまとめて攻撃する魔法だった。現実においては指定できる敵の数が五体まで減っているようだが、問題はそこではない。この魔法は……燃費がもの凄く悪いのだ。


 まあ、そりゃあそうだろう。器用万能な主人公様とはいえ、本当に一人で何でもできてしまったら仲間の意味がない。完全に特化育成させてもその分野のヒロインには微妙に勝てないというのが主人公の宿命ってやつなのだ。


 ……なお、ステータスを永続であげる系のアイテムを湯水の如く注ぎ込んだ場合は除く。低確率のレアドロップを死ぬほど集める根気があれば、誰だって最強になれるからな。まあ「ベッドで寝る」まで時間が流れなかったゲーム時代と違って、現実の世界でそんなことできるとは思えねーけど。


「そう言えば、もの凄く今更だけど、何でアンタ回復魔法使えないの?」


「うん? あー、それなぁ……」


 リナの指摘に、俺は思わず腕組みをして首を捻る。そう、主人公であるカイルは攻撃魔法のみならず、回復魔法や補助魔法も覚える。覚えるはずなんだが……


「理由はわかんねーけど、何か使えねーんだよなぁ」


「えぇ? 何それ、そんなことあるの?」


「あるんだから仕方ねーだろ」


 知力(INT)の値によってある程度魔法の習得に制限はかかるが、それにしたって「上級魔法(ハイエス)」が使えるのに基本の「ヒール」が使えないなんてことは、ゲームでならあり得ない。


 が、実際今の俺は回復魔法や補助魔法を使えない。そして何でそうなっているのかは、俺にもわからない。知ってる魔法は一通り試してみたが、どれ一つとして発動しなかったというのが全てだ。


 何らかのバグが生じているのか、それとも俺がゲームの力を拒否したからか? 考えられることはあるが、試してみるにはリスクが大きすぎることが多い。


「それにほら、俺達最初からステータスが見られなかったろ? どのみち完全にゲームキャラそのままってわけじゃねーから、その辺が影響してるんじゃねーか?」


「うーん、そう言われると納得できるようなできないような……」


「ま、使えないことには変わりねーんだから、そこは割り切っていこうぜ」


「アンタの能力でしょうに……でもまあ、そうね。できないことは仕方ないわよね」


 俺もリナも元日本人でそれなりに大人だったので、「頑張ればきっとできるようになる!」みたいな主人公マインドは持ち合わせていない。頑張ったって人は空を飛べないし、ボーッとモニターを眺めているだけではプログレスバーは一ミリだって進まない。


 なら両手をバタバタさせて宙に浮かぼうとするより、両手をカタカタさせてキーボードを叩いて仕事を終わらせる。社畜とは悲しくも現実的な生き物なのだ。


「おいシュヤクよ。何となく話を聞いていたのだが、貴様本当は回復魔法が使えるのか?」


「いやいや、違うって! 使えそうな素質はあったんだけど、今のところ使えねーって話してたんだよ」


「む、そうか。貴様が回復魔法を使えるなら、今後の戦略の幅が随分広がると思ったのだが……」


「ハハハ、そこはロネットのポーションに期待してくれ」


「うぅ、責任重大ですね。これは効果の高いポーションを早く開発してもらわないと……」


「怪我を治したり魔力を回復したりばっかりじゃなく、飲むと元気になれるポーションも欲しいニャ。そうしたらクロはもっと走り回れるニャ!」


「それは何か危ない感じがしない? ほら、疲労がポンと抜けていくような……」


「やめろよマジで! そんなのねーから! プロエタは健全なゲームだから!」


 リナの危ない発言に、俺は慌てて訂正を入れる。いやでも、エナドリなら実装されてたよな? 別に疲労度なんてステータスはねーからHPがちょこっと回復するだけのフレーバーアイテムだけど、ひょっとして……?


(いやいや、駄目だ駄目だ。なんでファンタジーなゲーム世界に来てまで寿命の前借りをしなきゃならねーんだよ! うん、エナドリは手に入っても封印しておこう)


「てか、何でそんなもんが出てくるんだ? お前実は五〇歳くらいサバ読んでんじゃねーだろうな?」


「は!? そんなわけ――」


「サバ!? リナがサバを五〇匹呼んだニャ!? 大変ニャ、すぐ捕まえるニャ!」


「うぉぉ!? 何だよクロエ、突然どうした!?」


「お前達、いい加減にしろ! これ以上騒ぐとまた魔物がやってくるぞ!」


「アッハイ、すんません……」


 アリサに怒られ、俺達はしょんぼりと黙り込む。ぬぅ、なんたる理不尽……この恨みはスケルトン軍団にぶつけさせてもらうぜ!

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