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事実だからって何言ってもいいわけじゃねーんだぞ?

 そうして話し合った結果、俺達が選んだ結論は「消耗をあまり気にせず、敵部隊を見つける度に速攻で叩く」というものだった。通路に誘導して確実に減らしていく今までとは真逆の作戦だが、それはあくまで長期戦を想定していたから。魔力や物資の消耗を許容するなら、一〇体程度のスケルトンなどあっさり片付けられる。


 ということで見敵必殺を繰り返した俺達は一〇階層までの攻略を終え、下り階段を発見するところまでは行ったのだが……


「これで消耗は五割といったところか……なら予定通り帰還だな。皆、一度地上に戻るぞ」


「「「了解」」」


 アリサの言葉に皆が頷き、全員で来た道を引き返す。特に苦労もなく引き返して地上に出ると、外はすっかり真っ暗になっていた。


「お?」


「ん?」


 そしてそんな地上では、ダンジョンの出口のすぐ前に人影があった。墓場でたき火を囲む野盗かごろつきのような人相の悪い筋肉質の男達が三人。俺達が警戒して身構えると、その中の一人……三〇代くらいのひげ面の男が立ち上がって声をかけてきた。


「念のため確認するんだが、そこから出てきたってことは、アリサお嬢様のパーティで間違いないか?」


「ああ、そうだ。お前達は?」


「俺達は伯爵様に雇われてこのダンジョンの採掘作業をやってる者さ。で、俺がその総責任者のガシムだ。宜しくな、お嬢様」


「ふむ、ガシムか。覚えておこう……それでガシム、お前はここで何をしているのだ?」


「何って言うなら、待機だよ。もし万が一ダンジョンに異変が起きたらすぐに動けるようにって、伯爵様から指示が出てるのさ。仕事が中止になった分の給料が補填できるのはいいんだが、とにかく退屈でなぁ……


 んで、お嬢様の方はどうしたんだい? 予想じゃ二、三日は潜ってると思ったんだが……まさかもう諦めたのか?」


 無精ひげの生えた顎を手で擦りながら、ガシムがニヤリと笑って言う。だがそんな挑発めいた言葉に、アリサは余裕の笑みを浮かべて答えた。


「ふふふ、この領を出た頃ならともかく、今は相応の実力を身につけたからな。その程度の挑発に乗ってはやらんぞ?


 ただまあ、半分は当たりだな。確かに今回の(・・・)探索に関しては、途中で断念して戻ってきたところだ」


「ヘッ、でかい口を叩いた割には……うん? 今回の?」


 更に挑発しようとしたであろうガシムが首を傾げると、今度はアリサがニヤリと笑う。


「ああ、今回の、だ。一〇階層まで攻略して、大体感じは掴めたからな。次はもっと長期戦を想定して物資を調達し……そうだな、おそらくは一〇日くらいは潜ると思われる。


 それで駄目なら更に準備を整え――」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! お嬢様、アンタまさか踏破できるまでこのダンジョンに潜るつもりなのか!?」


 驚いて声をあげるガシムに、アリサがキョトンとした顔で言う。


「私はお父様にこのダンジョンの踏破を指示されたのだ。そこに期間の指定がない以上、最後までやり遂げるのは当然ではないか?」


「はぁっ!?」


「? 何をそんなに驚いているのだ?」


「ははは、そりゃこいつらと俺達とで、前提っていうか認識が違うからだよ」


 不思議そうに首を傾げるアリサに、俺は笑って答えを口にする。


「この人達や伯爵様からすれば、俺達はそこそこにダンジョンに潜って、俺達の実力じゃこれ以上は無理って早々に諦めると読んでたんだろ。


 でも俺達からすりゃ、このダンジョンは今のところしっかり準備して時間をかけりゃ、普通に踏破可能だと思えるだろ? その違いだよ」


「…………なるほど、だからお父様はダンジョンの閉鎖を指示したのか」


「確かにアタシ達が口だけで弱っちかったら、何日か粘った挙げ句に『ごめんなさい!』って泣きつくのが道理だもんねぇ」


「でも、クロ達はそんなに弱くないニャ!」


「早く理解して撤回した方が、伯爵領の財政も……いえ、これは差し出口ですね」


 たとえば俺達のレベルが一〇とか二〇くらいだったら、この「覇軍の揺り籠」というダンジョンは半年とか一年かけて少しずつ攻略するダンジョンということになる。


 だが流石に伯爵もそこまでの期間は許容しないだろう。おそらく数日で「進捗はどうだ?」と聞かれ、大して攻略が進んでいない俺達に「大口を叩いておいてそれか!」と責め立てるというのが筋書きだったはずだ。


 だが、俺達は伯爵の予想より大分強い。そりゃ探索した結果予想を大きく超えて深かった場合、最終的には音を上げる可能性もゼロじゃないだろうけど、少なくともまだまだそんな段階じゃない。


「まあとにかく、私達は今後も当分はダンジョンの攻略を続けていく。それに何か問題があるというのなら、私ではなくお父様に言うがいい」


「ぐっ……いや、俺達は別に…………」


「ま、待ってくれ! アンタ達、本当にもう一〇階層まで辿り着いたのか!?」


「そうだぜ! だって昼過ぎに潜って……夜っていっても、実質半日くらいだろ? それで一〇階層は、いくら何でも……」


「クロ達は嘘なんて言わないニャ。ちゃんと一一階層に下る階段の前まで辿る着いてから戻ってきたニャ」


「そうよ! てか、別にアタシ達が何階層に辿り着いてようと、アンタ達には関係ないでしょ?」


「それは……」


「待ってください。実は関係あるんじゃないですか?」


 口籠もる二人の男の態度に、ロネットが徐に声をあげる。


「ロネット? 何でこの人達が関係あるの?」


「これはあくまで私の予想なんですが、ひょっとしてこの人達は、私達の護衛……いえ、救助も仕事なんじゃないでしょうか?」


「む?」


 ロネットの言葉に、アリサが反応して眉根を寄せる。だがロネットはそれを気にせずそのまま話を続けた。


「勿論ダンジョンの異変を見張るという先ほどの言葉も嘘ではないんでしょうけど、それなら墓地の周囲を警備している兵士の方達だけでも十分ですよね?


 なのにわざわざここで待機しているというのなら、それは私達に……正確にはアリサさんに何かあったとき、すぐに助けに迎えるようにするためでは?」


「そっか。確かに警備の人達を救助に向かわせたら、この墓地が空になっちまうもんな。だから別働隊を待機させてると……ふーん?」


「アリサの父ちゃんは心配性だニャー」


「でも、それだけ愛されてるってことじゃない? ですよね、アリサ様?」


「むぅ……」


 俺達の言葉に、アリサがそっと顔を逸らす。その頬が若干赤いのは、たき火に照らされているからだけではないだろう。そしてそんなアリサをニヤニヤしながら見ていたリナが、続けて声をあげる。


「あっ、そうか! このダンジョンの最深攻略階層って一五階なのよね? アタシ達がそこより下に辿り着いちゃったら、この人達じゃ救助できないわけか。だから焦ってたのね」


「救助対象より弱い救助隊なんて役にたたないニャ。でもそれはクロ達が強すぎるからだから仕方ないのニャ」


「あー……ガシムだったな。私は別にそれをお前達の実力不足と責めるつもりはないし、必要ならその旨を記した手紙も渡そう。だから気に病まずともいいぞ?」


「この場合、問題は報酬なのでは? ただ見張っているだけの伝令といざという時にダンジョンに入って救助する人員では、支払われる報酬が随分違うでしょうし……」


「あーくそっ! そこまで言われちゃもう我慢ならねぇ! おいガキ、テメェ俺と勝負しやがれ!」


「…………え、俺!?」


 当人達にそのつもりはなかっただろうが、ヒロイン勢の無自覚の煽りを受けたガシムが立ち上がって俺を名指ししてきた。だが……


「ちょっと待ってくれよ! 何で俺が!?」


「アァ? テメェがこのパーティのリーダーなんだろ? それとも女の尻に隠れて指示だけ出してる腰抜け野郎だってのか!?」


「そうだそうだ! 男なら受けて立ちやがれ!」


「まさか女を盾にして逃げるなんて、そんな恥ずかしいことはしねーよなぁ?」


 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるガシム達の挑発。こんなもの別に聞き流してもいいんだが……


「わかった。その喧嘩買ってやるよ」


 俺は腰の剣を鞘ごと外しつつ、そう言って一歩前に出た。

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