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こんなところにも現実の壁があるとは

「最初に数を見た時はやや焦ったが、終わってみればどうということもなかったな」


「ま、所詮はスケルトンだしな」


 戦闘を終え、俺はアリサとそんな言葉を交わし合う。大見得切っておいて初戦で撤退という赤っ恥を晒さなくて済んだのは僥倖だろう。


「とはいえ、運が良かったってのもある。もし万が一、俺達が広場にいる状態で全部の通路からスケルトンが襲ってきたりしてたら、負けるとは言わねーけどかなり苦労してたはずだしな」


「これだけの数で纏まって動いてる相手に、クロが気づかないはずないニャ!」


「そりゃそうでしょうけど、でも気づいた時にはーってこともあるんじゃない? 魔物の出現法則ってよくわかってないんだし」


 ダンジョンの魔物の出現方法は、未だ以て謎に包まれている。ダンジョン内では別種の魔物だろうと争うことはなく、餌を食べたり交尾して繁殖したりしている気配がまるでない。加えて人が目にする個体は全て成体であり、卵こそドロップアイテムとして存在するが、幼体……成長過程の子供が存在しないのだ。


 まあ死んだら霧になって消える存在が真っ当な生き物のわけがねーからそれはそれでいいんだが、問題は「何処からどうやって出現しているかわからない」ということだ。


 魔物の出現する瞬間を見た人間は、この世界の歴史上一人として存在しない……らしい。少なくとも正式に確認された事例はゼロだ。


 なので行き止まりだと思っていた通路の先で魔物が湧き、あり得ないバックアタックを食らう……なんてことはごく稀にだがあるらしい。つまり広場に陣取った俺達にスケルトンが押し寄せてきたので、今回みたいな作戦用に確保していた行き止まりの通路に戻ってみたら、そこにもスケルトンが湧いていて挟み撃ち……というのも、可能性としてはあり得るのだ。


 ちなみに「だったらダンジョン中に人を配置して常に誰かが見てる状態にすれば魔物が湧かないのでは?」という問題に関しては、確かに魔物は湧かなかったものの、近くの別のダンジョンで魔物が大量発生したり、明らかに難易度の高い新しいダンジョンが生まれたりしたことから、ダンジョンを物理的に塞ぐのと同じ結果を生むということで禁忌とされているらしい……閑話休題。


「そういうイレギュラーも『あり得ること』と想定して、常に複数の撤退路を検討しとくのがいいってところだな。それじゃ今度こそ先に進もうぜ」


「そうですね。消耗もほとんどありませんし、どんどん進みましょう!」


 一戦で五〇体くらいのスケルトンをぶっ倒したが、こっちが使ったのはわずかな魔力とポーション一つだ。当然撤退なんてまだまだ先の話なので、俺達は引き続きクロエの先導の元、ダンジョンを進んで行く。


「徐々にだが装備の質があがってきたか……? むっ!?」


ボワッ!


 そうして辿り着いた、第五階層。スケルトン達の身につける装備がボロボロからボロくらいに徐々に格上げされていくなか、アリサの構えた盾に小さな火球が命中する。


「チッ、ソーサラーがいるのかよ!? アリサ!」


「問題ない! だが魔法となると、種類によってはそう受けられんぞ!」


 俺の声かけに、アリサが斜めに盾を構えつつ答えてくれる。アリサが装備しているのは金属製の盾なので、火の魔法を連続で食らえば熱くなるし、氷の魔法なら冷たくなって持てなくなる。


 特に電撃系は致命的だ。ゲームでは金属っぽい敵にこっちのサンダーみたいな魔法がよく効くってだけだったが、現実では敵の使うそれ系の魔法に、金属製の装備をした味方がやられることになる。


 有効打が敵だけなんてことはないのだ。現実はいつだって平等である。


「ハァァ、シールドバッシュ! むんっ!」


 そんなアリサに、スケルトン軍団の奥からヘロヘロと何発か火球が飛んでくる。アリサは正面近くのスケルトン達を跳ね飛ばしてから剣で火球を斬って散らすが、そんな器用なことを何度も続けさせるわけにはいかない。


「一気に奥まで突っ込んで、ソーサラーを潰してくる!」


「無茶をするなシュヤク! 囲まれてやられるぞ!?」


「大丈夫だ!」


 クロエならアリサのシールドバッシュで飛ばしてもらうんだろうが、俺にはそんな芸当はできないため、アリサがシールドバッシュで崩したところにまっすぐ突っ込んでいく。


 すると当然すぐに囲まれるわけだが……そんなことは想定済みだ。


「食らえ! 回転斬り!」


 剣を横に構え、円を描くようにクルリと振り抜く。常識で考えれば一体二体斬ったところで勢いが落ちて止まるはずだが、これはゲームの技なのでそうはならない。そのままの勢いで周囲を囲むスケルトン達の胴を斬り跳ばし、空いた隙間を二歩進んだところで同じ技を重ねる。


「回転斬り! 回転斬り!」


 それを幾度か繰り返せば、かなり強引だが敵の隊列を抜けることができた。あとは接近されて間抜け面を晒すスケルトンソーサラーをぶった切るだけだ。


「えいっ! やあっ! たあっ!」


ズバッ! カラカラカラ……


「よし、仕留めた! 後は挟み撃ちだ!」


 前門の虎、後門の狼。挟まれたスケルトン軍団はどっちを攻撃するか迷ってオタオタとし始め、その隙にズバズバと切り倒されていく。そうして戦闘が終了すると、アリサが珍しく俺に渋い表情を向けてきた。


「シュヤク、貴様どういうつもりだ! あんな無茶をするなど……」


「ははは、悪い悪い。でも先に仕留めとかねーと、万が一ってのがあるからな」


 俺は自分で自分をどうにかできる算段があったが、アリサが盾を使えなくなった場合、背後にいるリナやロネットの安全確保に重大な問題が生じる。そっちの方がリスクが高いと判断したからこそ突っ込んだのだ。


「つっても、今みたいな強引な手段はそう使えねーからな。ソーサラー対策は考えねーと」


 回転斬りはゲームの技なので、使うと魔力を消費する。今の俺なら五回や一〇回で魔力切れなんてしねーけど、それでも体力と違って魔力はしっかり寝ないと回復しない有限リソースであることに代わりはない。


「後ろから見てた感じだと、アタシが狙い撃つのは厳しいかなー。距離が遠いのもあるけど、何よりあの密度の隙間は狙えないと思う」


「私のポーション投げなら届くと思いますけど、今後毎戦闘ごとに消費となると、流石に数が気になりますね」


「クロならあいつらの脇を走り抜けられるニャ。でもそうすると、後ろからスケルトンが来た時にリナやロネットを守る人がいなくなるニャ」


「俺がそっちに回るって手もあるけど、そうなると前衛がアリサ一人になっちまうからなぁ。それで持久戦は厳しいし、いっそ敵を見つけ次第こっちから突っ込んで、クロエに速攻でソーサラー系だけ仕留めてもらうか?」


「その場合敵が集まりきっていないから、後続部隊が存在する懸念があるぞ? 二部隊に挟まれて孤立したら、それこそクロエが危険だろう」


「む、それは確かに。俺みたいに範囲攻撃があるわけでもねーから、囲まれちまったら撤退も無理だしなぁ」


 今更言うまでもないが、クロエはゴリゴリの回避キャラだ。大抵の攻撃はスルリと避けてしまうが、代わりに装甲は紙である。


 そしてゲームにしろ現実にしろ、攻撃の回避率というのは同時に相手にする敵の数が増えれば増えるほど激減する。ましてや敵が魔物……味方を巻き込まないように攻撃を加減したりしない存在となれば、敵に囲まれたクロエが無事に生還するのは相当に難しい。


 ゲームなら高いステータスとHPという無敵の鎧のおかげで、ただ通常攻撃を連打すればいいだけだった雑魚の集団。それが現実になったことによってこんなに面倒になるのかと厄介さを噛みしめつつ、俺達はあーだこーだとしばしスケルトン軍団の対策を話し合うのだった。

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