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おいおい、随分と本気の対応だな

 さて、何か色々ワチャワチャとあったものの、ひとまずは当初の予定通りという方針が改めて定まったことで、俺達は早速動き出した。


 と言っても結局は最初の予定通りなわけだし、特別何かをしたわけじゃない。その日は美味い飯を食い……伯爵様は同席しなかった……ふかふかのベッドで寝れば終わりだ。


 翌日もバターをたっぷり使ったクロワッサンとか、専用のコップみたいな器に入ったゆで卵なんかを堪能したら、預けておいた猫馬車に乗って出発だ。そこから半日かけて辿り着いたのは、実に意外なことにでかくて古めかしい墓地であった。


 ガッシリとした金属製の柵に覆われ、入り口のところには見張りの兵士も立っている。近くにはしっかりした兵舎のようなものもあり、受ける印象は何ともちぐはぐな感じだ。


「へー、ここが『覇軍の揺り籠』なのか?」


「鉱物を産出するとのことだったので、てっきり洞窟のような場所だと思っていたんですが……」


「ははは、そうだな。知らぬ者なら勘違いして当然だが、間違いなくここだ。と言っても、正確にはこの奥なのだが」


「奥?」


「うむ。まあ入ればわかる……ご苦労。私はアリサ・ガーランドだ。父であるエドウィン・ガーランド伯爵より『覇軍の揺り籠』の探索許可は得ている。中に通してくれ」


 言ってアリサが書状を差し出すと、門番の兵士がそれを受け取り、軽く確認してアリサに返す。


「確認致しました。伯爵様よりお話は伺っております。馬車はこちらでお預かりしますので、皆様はどうぞお通りください」


「ありがとう。では行こうか」


 門番の人がスッと横に動いたので、俺達は墓地の正面にある門を通って中に入る。するとすぐにダンジョンに……ならない?


「あれ? ここまだ通常空間だよな?」


「そうだ。本当のダンジョンの入り口は、この先なのだ」


「ああ、それで『奥』なのね」


 てっきりこの墓地全体がダンジョンなのかと思ったが、そうではなかったらしい。


「なら何で墓地全体を警備してるニャ? 入り口のところだけ守った方が簡単ニャ」


「いや、そうでもないのだ。見ての通り、墓地というのは身を隠せる場所が多いからな。それに半端に入り組んでいるから、警備兵が巡回するのも手間が掛かる。それなら最初から墓地全体を警備対象としてしまった方が守りやすいのだ」


「なるほど。確かに墓地の中って死角が多そうだもんなぁ」


「それに周囲が平原だから、どう逃げたって目立つものね」


「侵入させないのではなく、逃がさない警備ということですか。確かにそちらの方が賊に対する効果は高そうですね」


「ま、そういうことだ……ほら、あれが入り口だ」


 雑談をしながら歩いていくなか、アリサがそう言って視線を向ける。釣られて俺達も見れば、そこには上部にドクロのデザインがあしらわれた、如何にも地下に続いてそうな石造りのゲートが建っていた。


「おぉぅ、スゲーそれっぽい……てか、他の人はいねーのか?」


「いつもならいるはずだが……ちょっと待て」


 首を傾げる俺に、アリサがさっきの許可証を取り出して中を見る。するとすぐに顔をしかめ、俺達にも見せてきた。


「見てもいいのか?」


「構わん。我々にも関係する内容が書いてあったからな」


「んじゃ失礼して……あー、そういうことか」


 許可を得て読んでみると、そこには「俺達が入るまで、誰もダンジョンに入らないこと」という一文が記載されている。つまり「通常の採掘部隊が先行して魔物を片付けることで、俺達が楽に奥まで到達できてしまう」ことを防いでいるわけだ。


「何これ、嫌がらせ? 伯爵のくせにセコいやり方ねぇ」


「いえ、一概にそうとも言えませんよ? 先行部隊がいないということはダンジョンの魔物や罠がそのまま残っているということですから、実力を超えた階層にいきなり辿り着いてしまうことがなくなります」


「? つまりどういうことニャ?」


「俺達が……ってかアリサが無茶して死なねーように配慮した結果がこれってことか?」


 首を傾げるクロエに、俺がそう補足して問う。するとロネットは静かに頷いてから言葉を続けた。


「私はそう思います。そもそも半日だろうと採掘部隊の仕事を止めれば、相応の損失が出るはずです。伝え聞く伯爵様の人となりを考えれば、私達への隔意のためにそのような損失を許容するとは思えません。


 なので、これは純粋な親心なのではないかと……アリサさんはどう思われますか?」


「む……さあな。お父様の考えは私の知るところではない。が、別にどうでもいいだろう? 私達がダンジョンに入ることに変わりはない」


「ははは、そりゃそうだな」


 ドライな意見を口にするアリサに、俺は笑って同意する。その頬がちょっとだけ赤くなっていたが、そこは指摘しないのが男ってもんだろう。


「んじゃ、ご厚意に甘えて早速入ってみますかね。クロエ、斥候を頼む」


「わかったニャ!」


 俺の言葉に元気に返事をして、クロエがダンジョンの入り口に入っていく。当然俺達もそれに続いていつもの隊列で入っていくと、そこには今度こそ現実とはひと味違う不思議空間が広がっていた。


「へぇ、洞窟になってんのか」


 てっきり墓地が続くのかと思ったが、ダンジョン「覇軍の揺り籠」は洞窟ダンジョンだった。階段を下った先にはかなり広めの空間があり、その壁に幾つも穴というか、通路が存在してる感じだ。


「迷宮型とはまた違った感じね。これ、正解以外の通路は行き止まりなの? それとも奥でそれぞれの通路も繋がって迷路になる感じ?」


「行き止まりの場所もあるが、基本的には通路の先にはここのような広場があり、そこからまた別の通路が伸びている感じだな。浅い階層では通路が直接他の通路と繋がることはなく、必ず広場を経由していたはずだ。


 それと採掘地点は基本的に広場の部分にしかなく、一つもない場所もあれば最高で三つまである場所もある。採掘地点そのものは固定だが、採掘可能な状態になっているかどうかは、日によって違うそうだ」


「ほほぅ? 採掘箇所の数より、上限値の方が低い感じか……あ、そうだ。今回の場合って、俺達はこの辺でも採掘していいのか?」


「うん? そう言えば特に何も言われていないが……どうなのだろうな?」


 ふと思いついた疑問を口にすると、アリサもそう言って首を傾げる。だがそこにロネットがそっと手を上げて話に入ってきた。


「私の個人的な見解ですけど、やめておいた方がいいと思います。伯爵様の側は一日にどれだけ掘れるかは完全に把握しているはずですから、ここで私達が採掘したらすぐにバレるでしょうし……」


「ま、あんだけ啖呵切っといて浅いところで掘ってたら、思いっきり馬鹿にされるわよねぇ」


「ぐっ……ならやめとくか。別に焦る理由もねーしな」


 ニヤリと笑うリナの言葉に、俺は苦い表情で告げる。確かにこんなところでちょこっとズルした結果、後でそれを指摘されるのは死ぬほどウザい。


「なら長居しても仕方ねーし、サクサク進むか。クロエ、道はわかるか?」


「うーん……多分あっちニャ」


 頭の上の猫耳をピコピコやったクロエが、そう言って通路の一本を指差す。今までのダンジョン攻略でもそうだったが、多分普通の人間とは違うワイルドセンスで何かを感じ取っているんだろう。


 ということで、クロエを先頭に俺達はダンジョンを進んでいく。当初の予定では既に攻略されてる階層に関しては、地図を見せてもらってそのまま通り過ぎるくらいのつもりだったんだが……それを却下されたってことは、やっぱりちゃんとした手順での攻略を求められてるんだろうなぁ。


「!? 何か来てるニャ!」


 と、そんなことを考えながら歩いていると、クロエが不意に声をあげた。皆が気を引き締め戦闘態勢を取ると、通路の奥から気配の主が姿を現す。


カラカラカラ……


「なるほど、『覇軍の揺り籠』ってのはこういうことか」


 乾いた音を立てて迫ってきたのは、朽ちた武具を身につけたスケルトン。墓地の段階でわかっちゃいたが、どうやらここはアンデッドの巣窟のようだ。

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