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くっ、俺の認識が甘かったのか……

「…………ということなのだ」


「えぇ……?」


 アリサからの説明を受けた俺の心境は、「うわ、面倒くせぇ」であった。何となくトラブルに巻き込まれる予想というか予感はあったが、想定の五倍くらい面倒くさい。


 そしてそれに伴い、俺のやる気も急下降だ。仲間と協力しながら未知のダンジョンを攻略するってのは楽しそうだったんだが、それが「でかいこと言うなら攻略してみせろ」と上から命令されるとなると、途端に作業とか仕事になってしまう。


 これはあれだ。そろそろ部屋を掃除しようかと思った瞬間に「何でアンタはいつもいつも散らかして! いい加減片付けなさい!」と怒られるやつだ。「掃除をする」という行動が変わらなくても、自主的にやろうと思っていたことを他人にやれと言われると、モチベーションの低下が半端ないのだ。


「そこまで嫌な顔をしなくてもいいだろう? 私とてお父様には説明しようとしたのだ。だがどうしても話を聞いてくれなくて……」


「いや、それもあるけどさ。そもそも何で『踏破』なんだ? 何処まであるかわかんねーダンジョンを踏破しろって、普通に無茶だろ?」


 俺達が挑む予定である「覇軍の揺り籠」なるダンジョンのことを、俺は何も知らない。リナも知らないし、聞いてはいないがモブローもおそらく知らないだろう。だってゲーム時代にそんなダンジョンは存在しなかったのだから。


 つまり、何階層あるかわからない。以前に聞いた話だと今は一五階層くらいまで攻略されているようだが、大体のダンジョンは一〇階層刻みなので、最低でも二〇階層、場合によっては三〇とか四〇とか……五〇階層くらいまでなら現実的にあり得そうな数字となる。


 そしてそこまでいったら、いくら俺達でも一週かそこいらでホイホイ攻略できる深度ではない。訝しげな視線を向ける俺に、しかしアリサもまたジト目を向けてくる。


「それは貴様が余計な事を言ったからだ」


「余計な事? 何だよ?」


「私達の実力が、王城の近衛兵に匹敵するなどと言っただろうが! あれを聞いた時、私は正直心臓が止まるかと思ったぞ!?」


「へ?」


 その言葉に、俺は思わず首を傾げる。あの発言に嘘はないし、俺なりに配慮もしたつもりだったからだ。


「いやいや、何でそんな? ちゃんと『実際には戦ってないからわからない』ってフォローもしといたし、それに俺達の実力ならそのくらいはあるぞ?」


「そんなことは関係ない! いいか? 我等貴族の権威は、国王陛下から認められることで保たれているのだ。そして国王陛下の権威は、陛下が率いる国軍の力によって保たれている。


 なのに陛下を守る最精鋭である近衛兵と同等と主張するとは……場が場なら不敬罪で首を刎ねられるところだぞ!」


「そんなに!? いやいやだって、別に相手を貶めたわけじゃねーし……」


 食い下がる俺に、アリサが渋い顔で首を横に振る。


「貴様にその気がなかったとしても、受け取る側の感覚は別だ。王国の最強戦力とたかだか一五歳の学生が同等だと主張すること自体が不敬なのだ。


 逆に考えてみろ。我が国の最精鋭の騎士は学園に入学して一年目の子供と同程度の力しかないと言われたら、あからさまな侮辱であろう?」


「……あー、それはまあ?」


「今回貴様の発言が見逃されたのは、貴様が私の仲間であったからだ。見知らぬ貴族に同じ事を言っていたら……つまみ出される程度なら温情、下手をすれば捕縛されることだってある。そのくらい迂闊な発言だったのだと理解してもらわねば困るぞ?」


「おぉぅ……」


 呆れたように言うアリサに、俺は思わず変な声を漏らす。どうやら俺は、まだ封建政治の世界を舐めていたようだ。


 なるほど、それで自分の言葉に責任を取れってか……そう言われると、確かにこの理不尽な要求が理に適っているような気がしてきた。


「あ、そうだ。丁度いいので聞いてしまいますけど……シュヤクさん、私達の実力って本当に近衛兵の方々と同じくらいなんですか?」


 と、そこでロネットが怖ず怖ずと問うてきた。今の流れからすると、これを聞くのも本当はマズいんだろうなぁ。おお怖い怖い……っと、それはそれとして。


「ああ、そうだな。勿論要人の護衛とか、集団で軍として動くとか、あとは対人戦なんかだと練度の問題で俺達の方が負けるだろうけど、たとえば五人パーティで知らないダンジョンに入って攻略速度を競え、とかだったらかなり高い確率で俺達の方が勝てると思う」


「そ、そうなんですか……正直実感が全然わかないんですが……」


「むむむ、クロはいつの間にかそんなに強くなってたニャ?」


「ステータスだけみたら、そうなのよねぇ。アタシも実感は全然ないけど」


「ま、言っちまえば料理人に戦闘技術で勝ってるって言うようなもん……いや、流石にそこまで遠くはねーか? とにかく相手の本領で勝ってるって言ってるわけじゃねーからな」


 王の護衛たる近衛とダンジョンを探索する討魔士では、求められる能力が全く違う。彼らの多くがグランシール学園の卒業生であることや、伯爵に与える言葉のインパクトを優先して引き合いに出したけど、普通なら比較する対象ではないのだ。


「だからこそ大丈夫だと思ったんだけど、それがここまで……っと、話が逸れちまったな。んじゃ本題のダンジョン攻略の話だが……どうしたもんかな」


 色々と話を聞いて認識のズレを理解した今、確かに俺も悪かったかなという気持ちが湧いてきたため、やる気は大分持ち直してきた。


 だがそれはそれとして、「人がいないところまで潜ってちょっと採掘する」と「ダンジョンの踏破」には天と地ほどの開きがある。流石にこれは俺だけで判断していいものじゃない。


「皆はどうだ? 踏破ってなると相当に難易度が上がると思うんだが」


「クロは別にやってもいいニャ。でも危なかったら途中で逃げるニャ」


「アタシもいいわよ。ひとまず様子見ってことで行けるところまで行ってみて、それからまた考えてみたらいいんじゃない?」


「そうですね。まずはやってみて難易度を測らないことには何も言えないと思います。ただだからこそ、『踏破する』と確約は絶対にしたくないです。アリサさんには申し訳ないですが、商人としてそんな迂闊な契約を結ぶのは許容できません」


「だ、そうだが?」


「ああ、勿論それでいい。私としても無茶を言っているのはわかっているのだ。それにお父様とて、私達が本気でダンジョンを踏破してしまうとは考えていないはず。おそらくは当初の予定通り、採掘部隊より奥まで行って相応の素材を入手できれば、それで十分認めてもらえるはずだ」


 皆の言葉にそう答えたアリサが、そこで深く頭を下げる。


「すまない。皆の装備を調える手助けをするつもりが、まさかこんなことに巻き込んでしまうとは」


「そんな! 別にアリサさんが悪いわけじゃないですよ!」


「そうそう。誰がって言うなら七割くらいシュヤクが悪いし。だからこういうときは……ね?」


「……ああ、そうだな。どうか私に力を貸してくれ」


 俺にジト目を向けてからニヤリと笑うリナに、顔を上げたアリサが頼む。すると皆が笑顔を浮かべ、その身にやる気を漲らせた。


「任せるニャ! 美味しいおやつの分は頑張るニャ!」


「てことで、改めてダンジョンの攻略計画を練りましょうか!」


「ですね。当初の予定よりも補給を厚めに計算し直さないと……シュヤクさん、採掘する鉱物素材に関してはどうしますか? 攻略優先となると、持ち出せる量が減ってしまいますけど……」


「いや、そこは変えない。俺達の目的があくまでも装備更新のための素材集めだ。そこをブレさせると今後の活動そのものに支障が出ちまうからな。


 だから最初のうちはそっちを優先し、その段階でダンジョンの感触を掴むことにする。で、それから無理のない範囲で徐々に深い階層まで探索範囲を広げていき、結果としてダンジョンを踏破しちまうことがあるかも……くらいの方針だな。


 あー、それとアリサ。これだけははっきりさせとくんだが……」


「ん? 何だ?」


「……仮にダンジョンを踏破しても、別に結婚とか婚約とかはしねーぞ?」


 それは俺にとって、もっとも重要で譲れない部分だった。なので真剣に言う俺に、アリサは何故かキョトンとした表情を浮かべ……やがて小さく吹き出す。


「フッ、フフフッ……何を言い出すかと思えば…………」


「ばっか、これ重要だろ!? なし崩しで婚約とかされたらたまったもんじゃねーよ!」


 貴族の娘と正式に婚約なんてさせられたら、平民の俺から断ることなんて絶対にできない。下手なことをしたら「面子を潰された」ということでこれこそ首が飛ぶ案件だ。


 だからこそ必死な俺に、しかしアリサが笑いながら言う。


「わかっている。お父様は私がきちんと説得すると約束しよう。まあその前に貴様の気が変わってくれるなら、それはそれで説得の仕方も変わるのだが……」


「変わんねーから! 別にアリサが嫌いとかってわけじゃねーけど、とにかく今は恋愛とかそういうのは全部ノーサンキューなんだよ」


「わかったわかった。では…………では、本当にいいんだな?」


 最後に真顔になって問うてくるアリサに、俺は仲間達と顔を見合わせ頷き合ってから答える。


「おう! 俺達で見事ダンジョンを踏破して、伯爵様に吠え面かかせてやろうぜ」


 知らず天に向かって唾を吐いたからって、その場に棒立ちで浴びてやる理由はない。何処まで行けるかはそれこそ俺達にだってわかんねーけど、まずはとくとご照覧あれってな。

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