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やっぱ本物は違うぜ……

「着いたぞ。ここが領都グラハムだ」


 そうして旅を続けること、七日ほど。俺達は遂にガーランド伯爵領の領都へと到着した。立派な石壁に囲まれた町の中は沢山の人で賑わっており、まさに俺達が想像するファンタジーな世界観である。ただ……


「凄い人ニャー。でも王都に比べるとそこまででもないニャ?」


「ははは、勘弁してくれ。王都と比べられては流石に立つ瀬がない」


 クロエの素直な感想に、アリサが苦笑する。王都の町並みはそれこそ現代日本がチラチラと見えるくらいに発展していたので、そこから比べると確かにこっちの方がショボい。


 ただ、それは比較対象が悪すぎるからだ。向こうはゲームの舞台として整備されまくっていたのに対し、こっちはゲームだと描写すらされない場所だからな。むしろ王都だけが異常で、こここそがこの世界で真っ当に発展した都市なんだろう。


「ではお嬢様。お屋敷に先導するので宜しいですか?」


「ああ、頼む。クロエ、すまないがその男に従って馬車を走らせてくれ」


「わかったニャ。スズキ、マッカレル、その人の後をついていくニャ」


「にゃあ」「なーん」


 鈍色の金属製ヘルメットを被り、チェインメイルの上から家紋っぽいものが描かれたサーコートを羽織る衛兵らしき人に先導され、俺達は町中をゆっくりと移動していく。


 そうして人混みの方から避けてくれる道のりの先にあったのは、これまた立派な壁に囲まれた大豪邸であった。


「アリサお嬢様とそのお仲間の方々をお連れしました!」


「ご苦労。では後は私が引き継ぎます」


 馬車が停車し、外からそんな会話が聞こえると、徐に扉が開かれる。するとそこに立っていたのは、白シャツに黒のスーツを身につけた初老の男性という、執事という役職を体現するような見た目の人物であった。


「お帰りなさいませ、お嬢様。さ、他の皆様も、どうぞお降りになってください」


「うむ。さあ皆、降りてくれ」


 まずはアリサが降り、それに続いて俺達も馬車を降りていく。そうして全員が外に出ると、アリサが執事の人に笑顔で声をかけた。


「久しいなジョエル。息災だったか?」


「お嬢様もお変わりなく……いえ、以前よりお強くなられましたか?」


「わかるか? 学園に行って、随分と鍛えられたからな」


「それはようございました。部屋の準備は整ってございますので、まずはそちらでお休みください。馬車はこちらで回しておきますので」


「わかった。では皆、行こう」


 アリサに促され、俺達は揃って豪邸の庭を歩いていく。綺麗に手入れされた庭園は冬だというのに花が咲いており、日本なら入場料に一〇〇〇円くらい取られそうな感じだ。


「うん? 今の時期にピルピスの花が咲いているのか?」


「お嬢様のお好きな花でしたので、庭師のアントンが魔導具を用いて調整致しました。お気に召されましたら幸いでございます」


「そうなのか? また無茶なことを……だがその心遣いは素直に受け取ろう。感謝を伝えておいてくれ」


「畏まりました」


「……………………」


「ん? どうしたシュヤク、そんな顔をして」


「あ、いや、アリサって本当にお嬢様だったんだなぁと思ってさ」


 奉仕する者とされる者。誰かに尽くされることを当然と受け入れるアリサの姿に、俺は思わずそんな感想を口にしてしまった。するとジョエルさんの眉がピクリと動いたが、当のアリサは楽しげに笑い声をあげる。


「ハハハ! 確かに学園でこのように振る舞う機会などなかったからな。まあだからといって何かが変わるわけではない。流石にお父様には失礼のないようにしてもらいたいが、私に対しては今までと何も変えることはないぞ?」


「そうか? 前みたいに敬語に戻してもいいんだぜ?」


「それは私の方が寂しい。今更貴様に他人行儀にされたら……」


「……されたら?」


 アリサがグッと顔を近づけ、俺の耳元に唇を寄せて囁く。


「距離を詰めるために、少々強引な手段に出てしまうかも知れんな」


「いやそれ、脅しじゃねーか! 何でだよ、普通逆だろ!?」


「それこそ私の望むところだ!」


「……お嬢様。そちらの御仁とは随分親しいご様子ですな?」


 と、そんな誤解しか生まないアリサの言動に、ジョエルさんがキラリと目を輝かせながら俺の方を見てくる。だがアリサは当然、そんなことを一切気にしない。


「フフ、そうだな。シュヤクは大事な仲間だ。私としてはそれ以上の関係も期待したいところだが……」


「いやいや、勘弁してくれよ。俺達は全然そういう関係じゃないですから!」


 ニヤリと笑うアリサの言葉を否定しつつ、俺はジョエルさんにそう告げた。しかしジョエルさんはまるで品定めでもするように俺に鋭い視線を向けてくる。


「ふむ。確かに軽薄そうな見た目をしている割には、女性慣れしている感じはありませんな。歳相応と言ってしまえばそれまでですが……」


「軽薄そうな見た目て……いやまあ、いいですけど」


 割とストレートに批判された気がするが、実際俺の顔はハーレム系主人公に相応しイケメンなはずなので、強く否定するのも違う気がする。とはいえジロジロ見られるのは流石に気分がよくない。


「あの、もういいですか? 本当に俺はそういうのじゃないんで……」


「おっと、失礼致しました。お嬢様にお伝えいただいた話とは少々印象が違いましたので、つい観察してしまいました。お許しください」


「話の印象ですか? えっと、どんな感じに伝わってるんでしょうか?」


「魔物やダンジョンに関する深い造詣を持ち、また戦闘においても全体的に高水準な実力を誇り、リーダーとしての判断力にも優れ、皆を引っ張る存在である、とのことです」


「そりゃ吹かし過ぎだろ。アリサ?」


「何だ? 私は嘘を言ったつもりはないぞ? 確かに好意的な表現はあっただろうが、討魔士の実力を過大評価などしたら命に関わるからな。素直に私の抱いた感想を伝えただけだ」


「おぉっふぅ…………」


「ふふふ、そんなに謙遜しなくても、私もシュヤクさんは立派なリーダーだと思いますよ?」


「そうだニャー。シュヤクは頼りになるニャ。サバ缶もくれるしニャ」


「実力は普通にあるわよね。総合力でシュヤクより強い人って、そうはいないだろうし」


「おいおい、何だよ急に!? 皆してそんな……何? 俺絵画とか売りつけられるの!?」


「何だ、絵が欲しいのか? ならいい画商を紹介するぞ?」


「そうじゃなくて! ぐぅぅ……終わり! この話はもう終わりだ!」


 何だかもういたたまれなくなって、俺は強引に話を打ち切る。よくない。この流れはとてもよくない。これならまだ「何処の馬の骨ともわからぬ男が、お嬢様に近づくなど……」とか言われて勝負を仕掛けられた方がまだマシだ。


「ほらアリサ! 伯爵様を待たせたら駄目だろ。もう行こうぜ!」


「そう慌てるなシュヤク。お父様の方にも準備の時間は必要なのだぞ?」


「客室を準備しておりますので、まずはそちらにおいで下さい。美味しいお茶とお菓子にておもてなしさせていただきます」


「わーい、お菓子ニャ! 皆、早く行くニャ!」


「あ、クロちゃん待って!」


「すみません、クロエさんはちょっと自由なところがあって……」


「ほほほ、構いませんよ。ですがはぐれてしまっては大変ですから、すぐに追いかけた方がいいでしょうね」


「ったく、しょうがねーなぁ! おいクロエ、待てって!」


「ははは、人の家に来たというのに、相変わらず賑やかな者達だな」


 走り出したクロエを追いかけ、俺達も屋敷の方に移動していく。ひとまずいい感じに誤魔化せたが……今回も何だか面倒な事になりそうだぜ。

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