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何だか不思議な人だったわねぇ

今回はモブリナ視点です。

 明けて翌日。アタシとロネット、アリサ様は、三人揃って王都の商店街を練り歩いていた。


 といっても、勿論今回はシュヤクとミーアの姐さんのデートをストーキングしているわけじゃなく、前回と同じシチュエーションの方がいいだろうという判断からだ。


 ならシュヤク達はどうしているかというと、一人で馬車の旅を続けているクロちゃんに対するあれやこれやを話し合ったりしているらしい。くぅぅ、シュヤクのやつ、このアタシを差し置いて姐さんと密会するなんて、やっぱり奴には裁きの鉄槌が必要――


「キーッヒッヒッヒ! どうやら――」


「出たわね、妖怪占いオババ!」


 と、今回もそんなことを考えていると、不意に道の端から覚えのある声が聞こえてきた。アタシがそう言葉を返すと、前回と同じくさっきまで存在しなかったはずの横道のなかから、何とも苦々しげな表情を浮かべる老婆が姿を現す。


「誰が妖怪だい! ちょっと前に会ったばっかりだろうが!」


「いいじゃない。そこはほら、お約束ってやつよ」


「まったく、本当にろくでもない小娘だねぇ! まあいいさ。どうやら約束のものは手に入れてきたみたいだからねぇ。キーッヒッヒッヒッヒ!」


「ま、それはね。はい、どーぞ」


 アタシは腰につけていた鞄から、「真実の塔」で手に入れた水晶を取りだし、老婆に差し出す。すると老婆はピクリと眉を動かしてからそれを受け取った。


「おや、随分あっさりだねぇ? てっきりもっと勿体つけられるかと思ったんだが」


「出し惜しみはしない主義なのよ。勿論適当な事言って騙そうっていうなら、こっちも手加減しないけど」


「キッヒッヒ、怖いねぇ……安心おし、こっちも商売だからねぇ。もらった報酬分はきっちり質問に答えてやるよぉ」


 実際嘘を言われたら、アタシなんかに何ができるってわけでもない。それでも強気で言うアタシに、老婆はクックッと楽しげに喉を鳴らす。これは多分、このお婆ちゃんも楽しんでいる感じだ。


 ふふふ、わかる。いいわよねこういうやりとり! ああ、やっぱりシュヤク達との冒険を諦めなくてよかった……って、それはそれとして。


「さあ、それじゃお婆ちゃん! アンタのことを教えてもらうわ!」


「いいけど、具体的には何が聞きたいんだぃ?」


「まずは名前ね! お婆ちゃん、何て名前なの?」


「アタシの名前? アルマリアだよ」


「アルマリアお婆ちゃんね。で、ここで何してたの?」


「何って、そりゃ商売さね。学生相手に占いをやってただけだよぉ」


「あー、うん。そう……なら何の目的でうちの生徒に混乱をまき散らしてたの!?」


「何って、だから商売だよぉ。それとアタシは占って欲しいって相手に占いをしてただけだから、それを聞いた客がどうするかまでは知ったこっちゃないよぉ? そこに責任を求められても困っちまうねぇ」


「う、うぅぅ……じゃ、じゃあ、占いっていうには色んなことを知りすぎてるのは? テストの問題とか、占いでわかるものじゃないでしょ!?」


「そう言われてもねぇ……アタシの占いがよく当たるってことだろぉ? 外れたんならまだしも、当たったことに文句を言われても困るさぁ。キーッヒッヒッヒッヒ!」


「ぐぐぐぐぐ……ど、どうしよう?」


 底意地が悪そうな笑い声をあげるお婆ちゃんに、アタシは背後の二人を振り返った。こっちこそもっと回答を誤魔化されるかと思ってたのに、何か普通に当たり障りのない答えを教えてもらっただけに、アタシにはこれ以上何を聞いていのかわからない。


「む? いや、私に振られてもな……確かに『占い師が学生相手に占いをしていた』というだけであれば、何を言うこともできんわけだが……」


「ならお婆さん。仕事する場所や相手を変えてみるつもりはありませんか? お望みであれば、私の方で店舗を用意することもできますよ?」


 アリサ様は同じように困り顔をしていたけれど、ロネットは新しい提案をしてくれる。そうか、問題なのは無秩序に占いの影響を受けまくることだから、こっちである程度お客さんをコントロールできればいいのか! 流石ロネット、頼りになるわね!


 でもそんなロネットの提案に、お婆ちゃんはゆっくりと首を横に振る。


「キッヒッヒ、いや、遠慮しとくよぉ。これ以上アタシがここにいるのは、面倒ごとが増えすぎるみたいだからねぇ」


「……それも占いですか?」


「ま、そんなところだよぉ。実際アタシがここに来たのは、ここで仕事をすればこの水晶玉が手に入るって占いに出たからだからねぇ。目的を果たした以上、さっさと消えるのがお互いのため……そうだろぉ?」


「む……まあ、それはそうだけど…………」


 店舗で囲わずとも、お婆さんがいなくなればそれでも問題は解決だ。でも別に悪いことをしたわけでもない人を追い出して終わりというのは、どうにも寝覚めが悪い。


 でも、そんな思いは単なるアタシの我が儘だ。だからこそモヤモヤした気持ちを抱えていると、そんなアタシを気にする様子もなく、お婆ちゃんが懐から別の水晶玉を取り出した。


「さて、それじゃ早速やろうかねぇ……むぅぅぅん!」


「えっ!? うわっ!?」


 アタシが渡した水晶玉と、懐から取り出した水晶玉。お婆ちゃんがそれぞれの手に持った水晶玉を近づけていくと、まるでそれが水滴か何かだったかのようにぐにゅんと歪んで混じり合い、そのまま一つになってしまう。


 その不思議な光景にアタシがポカンと口を開けていると、お婆ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて一つになった水晶玉を優しく撫で始めた。


「キーッヒッヒッヒッヒ! どうやら上手くいったようだねぇ」


「二つの水晶玉が一つになるとは……占いの道具とはそういうものなのか?」


「キッヒッヒ、これはオババの力が浸透した特別製だからだよぉ。でもまあ、そうだねぇ……よっ!」


 しげしげと眺めるアリサ様の前で、お婆ちゃんがそっと水晶玉に手を当てる。するとそこからポンポンと三つ、三センチほどの小さな水晶玉が分裂した。


「えぇ、何それ……?」


「水晶って、そういうものじゃないですよね? 一体どうなって……?」


「キーッヒッヒッヒ! 細かいことは気にするんじゃないよぉ。それよりほれ、一人一個ずつだよぉ」


「ご老人、これは?」


「オババの力がたっぷり詰まった、お守りみたいなもんさぁ」


「お守り……変な生き物が孵って寄生されたりしない?」


 さっきのポコンと分裂する様が、何か蛙の卵みたいで若干気持ち悪かった。ならばこそのアタシの言葉に、老婆が思いきり嫌そうな顔をする。


「アンタ、本当に失礼だねぇ! ちょっと力が余ったからくれてやっただけさぁ。嫌ならその辺に捨てりゃいいだろぉ!」


「ごめん! ごめんって! でも水晶玉がポコって増えたら、そりゃ不審じゃない?」


「見た目まではアタシの知ったこっちゃないよぉ! ほら、いるのかい? いらないのかい?」


「いるいる! いります!」


「では、私も一つもらおう」


「私もいただきます」


 苛立つお婆ちゃんの手から、アタシ達は一人一つずつ水晶玉を摘まみ上げる。しっとりと吸い付くような感触で、ほのかに温かい……本当に卵じゃないわよね?


「こいつは『心を守るお守り』さぁ。肌身離さず持っていれば、きっとアンタ達を守ってくれるだろうねぇ」


「心を守る……? 随分と大層な触れ込みだな?」


「もう少し具体的な効果とかは……?」


「キッヒッヒ! そんなのはないよぉ! お守りなんてのはそんなもんだろぉ?」


「むぅ、それはまあ……」


 笑う老婆に、アタシは微妙に顔をしかめる。確かに日本でお正月に買っていたお守りも「健康祈願」とか「商売繁盛」とか、もの凄くフワッとした効果範囲だった。お守りなんてそういうものだと言われたら納得するしかない。


「それじゃアタシはこれで行くから、あとは精々頑張るんだね、キーッヒッヒッヒッヒ!」


「えっ? あっ!?」


 ハッと気づいた時、アタシの目の前からまた老婆の姿が消えていた。同時に周囲の喧騒が耳に戻り……あれ? そう言えばこんなところで話し込んでいたはずなのに、誰にも何も言われなかったし、声もかけられなかった?


「こう言っては何だが、何とも怪しい御仁だったな」


「悪い人って感じではなかったですけど……それにこれで、事件は解決ですか?」


「彼の御仁がいなくなるというのであれば、そうだろうな。悪事を働いていたわけでもないのだし、このくらいが私達にできる限界だろう。なあリナ?」


「そう、ね……」


 アリサ様の言葉を、アタシは頷いて肯定する。そう、これで事件は解決。イベントは終わり、ちょっとしたアイテムだけが手元に残ったわけだけど……


(何だろう、この気持ち……?)


 まるで掛け替えたばかりのベッドシーツに、寝る前から皺ができていたのを見つけたような、スッキリしない違和感。その意味がわからなくて、アタシは誰もいなくなった路地を、ただ黙って見つめ続けるのだった。

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