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そこにあるとは思わなかったが、言われてみればそこしかねーよな

 縦長の細い階段をあがると、まず出たのは薄暗いすり鉢状の場所だった。頭上には何かがいくつか重なって見え、部屋の外周からは光が差し込んでいる。なので緩やかな坂を登って外周の方へと移動していき、途中にあった階段を上って……そうして辿り着いたのが、この「真実の塔」の真の最上階。


「おぉぉ、これは幻想的な景観だな」


「世界がキラキラしてるニャー!」


「観光名所にできたら、莫大なお金が儲かりそうですね」


「いきなりそれかよ! まあわかるけどさ」


「スマホがあったらバズりまくりそうよね」


 外から見た、塔の先端……蝋燭の火の部分とか言えばわかるか? 全周をでこぼこしたアクリルのようなもので覆われており、見渡す視界全てが複雑に重なり合った光景は、通常人の目で見える景色とは一線を画すものだ。


 そしてそんな外観から内側に目を向けると、外周から中央に向かって東西南北四本の道が延びており、中央には巨大な鏡の埋め込まれた太い柱が立っている。


「それでシュヤク、目的の宝があるのは、あの中央部分か?」


「そのはずだ。んじゃ行こうぜ」


 アリサの言葉を頷いて肯定すると、俺達はそろって短い空中回廊を歩いていく。今までの場所と違ってここは極めて常識的な広さしかないので一分どころか一〇秒も歩けば柱の所に辿り着いたが、この段階だと特にめぼしいものはない。


「? 何もありませんね?」


「クンクン、でもお宝の匂いがするニャ」


「ここの最高のお宝は、ちょっと特殊な感じだからな……てことで、皆ちょっとここに集まってくれ」


 鏡の前に立つ俺が、全員に呼びかける。そうして一カ所に身を寄せると、鏡のなかに映ったのは、五人のヒロイン……若干一名モブが混じってるが……に囲まれたイケメンの姿。うーん、実に主人公。


 そしてそれがトリガーになったように、再び頭上から何処かの誰かの謎の声が響いてきた。


『真の絆を結びし者達よ。その絆を讃え、揺るぎなき真実を見る目を与えよう』


ピカッ!


「うおっ!? 突然何だ!?」


「ギニャー!? 目が! 目が潰れるニャ!?」


「あ、そっか。すまん、光るって言っときゃよかったな……悪い、大丈夫か?」


「はい、何とか……シュヤクさん、今のは一体?」


「今の光がお宝なんだ。あれを浴びたことで、俺にちょっとした力が宿った……はずなんだ」


「アンタばっかりズルいわよね! むしろその能力こそアタシに譲るべきじゃない? まったく……それでどう? 使えそう?」


「焦るなって。アリサ、ちょっとそこに立っててくれ」


「私か? 構わんぞ」


 リナの言葉に、俺はジッとアリサの顔を見つめながら、何か色々やってみる。目に力を入れる? それとも意識を集中? 片目を閉じたり顔を近づけたりと色々やってみたが……


「……駄目だ、わからん!」


「えー? 軽く予想はしてたけど、本当に駄目なの!?」


「……二人共、そろそろ私達にもわかるように話してくれんか?」


「そうですよ! お二人ばっかり内緒話は、意地悪です!」


「ははは、悪い悪い。いやな、今の光って、アリサ達が俺をどう思ってるかがわかるようになるって力だったんだよ」


 そう、それは「好感度の可視化」。ゲームでは通常五段階に分かれて表示されるそれが、〇~一〇〇までの数値として表示されるようになるのだ。マスクデータが見えるようになるため人によってはとんでもない神機能だったらしいが、正直俺にはどうでもいい。


「? 私が貴様をどう思っているかなど、今更確認する必要があるか?」


「そうですよ! あーいえ、シュヤクさんは意図的に鈍い振りをしていたりしますから、事実に目を向けてもらうという意味では有用かも……ほら、私の方も見てください、シュヤクさん! どうですか? 見えますか?」


「近い近い! そんな顔近づけなくてもわかるから! いや、違う。わかんねーんだ。それを見るために必要な前提条件を達成してないから、結局わかんなかったんだよ」


 アリサを押しのけ迫るロネットに、俺はタジタジになりながら告げる。


 好感度が表示されるのは、あくまでもステータス画面上でのことだ。そして今の俺にはステータス画面は見られない。なのでもしまたステータス画面を見ることができるようになれば、そこには好感度の数値が加わってるんだろうが、今の俺には完全に無意味な拡張機能である。


「ふーん? 何だかんだで頭の上に数字が浮かんだりするかと思ったんだけど……」


「俺もちょっと思ったけど、それはそれで何か嫌だしなぁ。まあとにかく、一番のお宝はもらったけど、使えなかったってことだな」


「そんなー! あんなに頑張ったのに……」


「落ち込むなって、ロネット。気持ちはわかるけど、今回ここにきた目的はそもそも別だろ?」


「あっ、そう言えば……」


 苦笑しながら声をかけると、落ち込んでいたロネットがハッと顔をあげる。ゲームではこれがここで手に入る全てだったが、今回は違う。


「老婆の依頼は、塔の最上階で水晶玉を手に入れるというものだったな。だがそれらしきものはないが……?」


「それなんだよな……」


 ゲームには存在しなかったアイテムなので、俺も入手法がわからない。ワンチャンそれっぽいオブジェクトでも出現しているかと思ったのだが、そういうこともない。


「まさか屋根の上まで登るニャ?」


「それともこの、外側を囲んでいる不思議な物体……これを砕いて持っていくとかかも知れませんが……」


「それならそうって言うだろ。わざわざ『水晶玉』って言ったんなら、そのものがあると思うぜ」


 通路のない外壁をよじ登った先とか、どうやっても手が届かない、そもそも物理的に触れられるのかすらわからない謎物質の採取とかは、流石に主旨から外れすぎている気がする。


 何か見落としがあるのでは? と首を傾げていると、不意にリナが声をあげた。


「ねえシュヤク。アタシいっこだけやってみたいことあるんだけど」


「うん? 何だよ?」


「ほら、あの鏡……あれって、割ったらどうなると思う?」


「えっ!?」


「いやだって、あれ凄く意味深な感じじゃない? ゲームだったらどうしようもないけど、現実ならこう、バリーンていけると思うのよ!」


「思うのよって……」


 俺のなかでは、あの鏡はゲームのギミックというより、背景であった。なので壊すなんて考えもしなかったが……確かにこの場で干渉できるオブジェクトがあるとすれば、あの鏡は最有力だろう。


「そうだな……やってみるか」


 少しだけ考えてから、俺はリナの意見を採用することにした。だって他に何もないのだ。あれを割ったら奥に宝箱がありましたー、などという可能性は否定できない。


 それにダンジョンの一部なら、壊しても勝手に直るだろうしな。ということで皆を少し下がらせてから、俺は満を持して剣を抜き……えいっ!


ガシャーン!


「お?」


「あった! うわ、本当にあったわよ!?」


 割れたガラスの向こう側は、小さな空間になっていた。そこにはそれっぽい台座と、その上には如何にもそれっぽい水晶玉が置かれている。


「……これ、持ってってもいいやつか?」


「散々ダンジョンのお宝を漁っておいて、それは流石に今更じゃない? それにそもそも、アタシ達はそれを入手する目的で来てるんだし」


「それもそうだな。じゃ、失礼して」


 何となく周囲をキョロキョロと見回してから、俺はそっと水晶玉を掴んでとり、鞄にしまい込む。幸いにしてとった瞬間ダンジョンが崩壊するとか、怒った店主が分身しながら襲いかかってくるとかはないようだ。


「……大丈夫か? なら長居するのも落ち着かねーし、サクッと帰ろうぜ。あ、ちなみにそこに、一階へのショートカット出てるから、そこに入るぞ。その後は一階にいつもの学園へのショートカットがあるから」


「了解だ。降りなくていいのは楽だな」


「シュヤクー、馬車はどうするニャ? また乗って帰るニャ?」


「あ、そっか。どうするかな……」


「ミーアさんは呼べば来ると言ってましたけど、学園に戻ってから呼んだら、やはり来るまで三日かかるんでしょうか?」


「どうなんだろ? 戻ったらミーア先輩に聞いてみたらいいんじゃない? で、もし問題があるようだったら、誰かがもう一回こっちに戻って馬車に乗ってくるとか?」


「ならクロだけ馬車に乗って帰るニャ! クロは占いのオババに合ってないから、どうせ一緒にいってもすることないしニャ」


「いいのか? ありがとなクロエ。全部終わったら、絶対サバパーティやってやるからな」


「クッキーにケーキに、クロエさんのお好きなものを沢山用意しておきますね」


「やったニャー! それじゃクロはスズキとマッカレルと一緒に帰るニャー」


「待て、その名前ひょっとしてあの猫のか? 何でスズキにマッカレル?」


「魂がそう叫ぶニャ!」


 謎のネーミングセンスを見せつけるクロエに首を傾げつつ、俺達はまず一階へのショートカットに入っていく。こうして何だか色々イレギュラー続きのダンジョン攻略は、ひとまず終わりを迎えるのだった。

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