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ガチで似せてくるのは勘弁してもらえないですかね?

「お、次はロネットか。おーい、ロネット!」


「「シュヤクさん!?」」


 シリンダーのなかにいたのは、アリサの時と同じく見た目そっくりな二人のロネットだった。俺が声をかけると、二人もまた揃って俺の方に顔を向けてくる。


「私、気づいたらここにいたんです! シュヤクさん、早く出してください!」


「アリサさんが一緒ということは、私が二人目ですか? どうせなら最初か最後がよかったんですが……」


「おいおい、随分余裕だな? てか、偽物の方はその辺を合わせたりはしねーのか?」


 この時点でおおよそ見当はついてしまったので、俺はあえて推定偽物と思われるロネットの方にそう問いかけてみる。すると偽ロネットは更に慌てた様子で言葉を返してきた。


「違います! 偽物はそっちの方です! だっていきなりこんなところに閉じ込められて、冷静な方が変じゃないですか!」


「あー、うん。それはそう」


「それにその偽物、こんな時でも『この魔導具は幾らになるでしょうか?』なんて言ってたんですよ! いくら私でも、仲間皆が捕らえられてるかも知れない時に、そんなこと考えたりしませんよ!」


「……だそうだが?」


「え? だって順番はともかく、シュヤクさんが必ず皆を助けてくれますよね? なら私にできることはお金を稼ぐ事かなぁと」


「そ、そうか……まあ、お金も大事だよな」


「はい!」

「違います! 仲間の方が大事です!」


 ……何だろう、人として正しいことを言ってる方が偽物っぽいという事実は、つっこむべきだろうか?


「何ともロネットらしくていいのではないか?」


「それで片付けていい問題か? まあわかりやすくはあるけど。さて……」


 隣で苦笑するアリサをそのままに、俺は剣を構える。すると俺の背後から、もう一人のロネットが悲鳴のような声をあげる。


「そんな!? どう考えても私の方が正しいのに! どうしてそっちを割るんですか!?」


「いやだって、俺が助けに来たのは綺麗なロネットじゃなくて、本物のロネットの方だからな」


「そんなの間違ってます! 私の方が絶対にシュヤクさんのお役に立ちます! 何だって買ってあげますし、この体だって……!


 だからお願い、私を見捨てないで!」


「フッ、わかってないですね」


 悲痛な叫び声をあげる自分自身に、しかし俺の正面にいるロネットが小さく笑う。


「何がですか! わかってないのはそっちでしょう!」


「いいえ、わかってないのは貴方です。いいですか? 同情を引いて欲しくもない商品を押しつけようとするなんて、下策中の下策です。真の商人なら、売りたい物の価値を高めることにこそ力を注がなければいけません。


 さあシュヤクさん。今選ばなかったら二度と手に入らない最高の一品……決して後悔させませんよ?」


「おう、期待してるぜ」


 ニッコリと笑うロネットに、俺はそう告げながらガラスを剣で割る。すると背後の偽ロネットはゲル状になって排水溝に消えていき、本物のロネットがフラリと倒れるようにシリンダーの外に出てきた。


 慌てて俺が抱き留めると、ロネットが照れくさそうに微笑む。


「おっと危ない! 大丈夫か?」


「えへへ……はい。事前の作戦通りできるだけ平常であるように頑張りましたけど……正直、大分辛かったです。あの閉塞感は、かなり心に厳しいですね」


「そっか。よく頑張ったな……アリサ、少しついてロネットを休ませてやってくれ。ここは通常の魔物はでねーはずだけど、念のためな」


「わかった。貴様はどうするのだ?」


「まだ二人いるからな。そっちを迎えに行ってくるよ」


 ゲーム時代はパーティを分割なんてできなかったが、現実は違う。それに全員揃うまではどうせやることは同じなので、俺一人でも問題ない。


 ということで、俺は二人を残すと、そのまま暗闇の散歩を再開する。すると今度もフッと二機の魔導具シリンダーが出現したわけだが……


「「フニャァァァァァァァ!!!」」


「クロエ!?」


 響き渡る鳴き声の輪唱。驚いて俺が声をあげると、斜めに向き合うシリンダーのなかから、そっくりの顔の二人が全く同じ声をあげる。


「シュヤクー! ここは狭いニャ! 早く出して欲しいニャー!」


「暗くて狭いニャ! 早く出して欲しいニャー!」


「お、おぅ……?」


 ヤバい、今までの二人と違って、発言内容まで完全に同じだ。これはちょっと……いや、かなりマズいぞ?


「フニャー! 早く出してニャー!」

「フニャー! 助けてくれニャー!」


「まあ待て、クロエ。てかお前、狭いところ好きだろ? 何でそんな、泣くほど嫌なんだよ?」


「シュヤクはわかってないニャ! 自分から狭いところに入るのと、狭いところに閉じ込められるのは全然違うニャ!」


「そうだニャ! 自分で入るのは落ち着くニャ! でも押し込められるのは恐怖の拷問なのニャ!」


「そ、そうか。わかる! わかったからひとまず落ち着け? な?」


「「わかったなら早く出して欲しいニャー!」」


(えぇ? これマジでどうすりゃいいんだ……?)


 正直に言うと、今俺にはどっちが本物のクロエかが全くわからない。そしてこれが本来のこの「絆の試練」の難易度なのだ。


(ゲームと同じで、どうにかすりゃ確実な判別ができるようになってるのか? それがなかったら二分の一にかけて、適当に割ってみる? さっきはああいったけど、現実で失敗したらどうなるかなんてわかんねーから、あまり迂闊なことはしたくねーんだけど……あーくそ、リナが先だったらなぁ)


 もしも先にリナを助けていたなら、その持ち前の執着心で本物のクロエを見分けられたんじゃないかと思う。あいつコピペしたデータだろうとどっちがオリジナルかわかるって言ってやがったからなぁ……何だよそれ、見分けられる方がこえーよ!


 で、当然俺はそんなことできないので、クロエに対してのみ有効な手札を一つ切ってみる。


「もうチョイ我慢しろって。そしたら秘蔵のサバ缶をやるから」


「サバ缶!? ぐぅぅ、それならもうちょっとだけ我慢するニャ……」

「そんなものより早く出してニャ! クロはもう耐えられないニャ!」


「よし、そっちだ!」


 あらゆる判断基準の頂点にサバ缶を置く女。俺はそんなクロエの在り方を信じて剣を振るう。すると……よしっ!


ゴボゴボゴボゴボ……


「うわーん、シュヤクー! 怖かったニャー!」


「よしよし、よく頑張ったなクロエ」


 割れたシリンダーから飛び出して抱きついてきたクロエを、俺はそのまま優しくなだめてやる。どうやら冗談や誇張ではなく、本当にかなり怖かったようだ。


 いや、そうだよな。気づいたらガラスシリンダーのなかって、相当怖いよな。アリサが平気そうだっただけで、ロネットだって大分憔悴していたわけだし。


「この分だと、リナも早めに助けてやった方がよさそうだな……クロエ、もう平気か?」


「フニャー……」


「あー、そしたらあっちにアリサ達がいるから、そこで少し休んどいてくれ」


「わかったニャ……指示されてたとおりにできなくて、ごめんニャ」


「気にすんな。今は全部終わったあとのサバパーティを想像して、気分を盛り上げとけ」


「サバパーティ!? そんな夢のような催しがあるニャ!?」


「あー、多分な」


「やったニャー! ならクロは向こうで待ってるニャ!」


 耳と尻尾をシャキンとさせたクロエが、元気いっぱいに走って行く。サバパーティー……別に俺もサバは嫌いじゃねーからいいけど、パーティって言うほど大量に食いたいかって言われると……うん、未来の俺に頑張ってもらおう。

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