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任意保険もない世界で高級車を借りるのって怖いな……

「え、あそこってイベントダンジョンじゃねーの?」


 店から出た俺とミーアを待ち構えてたリナ達。その話を聞いて俺の口から飛び出したのはその一言だった。


 ダンジョン「真実の塔」……そこは仲間との真実の絆がどうたらという、ゲーム中盤以降にありがちなイベントで訪れることのできる場所だ。だが俺の知る限り、そのサブクエを発生させなければ行くことはできなかったはずなんだが……?


「アタシもそう思うけど、これもイベントって言えばイベントなんじゃない?」


「む、まあそれは…………」


 肩をすくめて言うリナに、俺は思わず顔をしかめる。確かに今聞いたやりとりは実にゲーム臭いというか、イベントっぽいものだった。


 だが当然、ゲームにこんなイベントはなかった。一連の流れや前後関係を無視して切り取っても、「謎の占い師にダンジョンに行って水晶玉を持ってこいと言われる」というもの自体がないのだ。


(元のゲームに存在しないところまでゲームっぽくなってきてる? それとも何か別の……うーん、駄目だな。わからん)


 この前のガズとの戦いは特大のイレギュラーだったが、現実においてサブクエみたいなお願いをされることをそれと同列には考えづらい。色々と疑問とか矛盾は浮かぶのだが、追求するべき相手がここにいないのだから尚更だ。


「『真実の塔』ニャア……聞いたことないダンジョンだけど、どういうところなのニャ?」


「うん? あー、構造としてはシンプルな塔型のダンジョンだよ。出てくる魔物がそこそこ強いのと、最上階に特殊な魔物が出るから、ちょっと注意は必要だけどな」


「そうね。推奨攻略レベルは四〇だから……『久遠の約束』の三〇階層を安定して攻略できるならいけるかなって感じね」


「フニャ!? ちょっと待つニャ!」


 何気ない俺とリナの言葉に、ミーアがギョッと目を見開いて言う。


「そりゃ調べて欲しいってお願いしたのはウチだけど、一年のアンタ達に三年でも辿り着けない奴がいるような場所に行かせられないニャ! ウチはそこまで恥知らずじゃないニャ!」


「ハハハ、大丈夫ですよミーア先輩。今の俺達ならその部分は全く問題ないんで」


「そんなわけ……うーん? 確かに強がってる感じには見えないニャー……?」


「シュヤクよ、私はそのれべる? という概念は未だによくわからんのだが、大丈夫なのだな?」


「ああ、へーきへーき。この前攻略した『忘れられた神殿』より、魔物が一回り弱い感じだから」


「ああ、確かにそれなら問題ないですね。ちなみにクロエさんは同行してもらっても……?」


「占い師と出会うのに相性が悪いからってだけだから、ダンジョンには一緒に行ってもいいでしょ」


「なら盤石だな。確かに油断はできぬだろうが、特に不安要素もない」


「えぇ……? アンタ達、一体何者なのニャア……?」


「ミーア先輩だってご存じでしょう? 最近ちょっと調子に乗ってる一年生ですよ」


 呆れた顔をするミーアに、俺はニヤリと笑ってそう告げる。リナをパーティに復帰させるためにアホみたいなレベリングをしたせいで、言い訳のしようがない主人公パーティになってしまった気はするが、それはもう済んだことだ。


「てわけなんで、ここは任せて下さい! まあヤバそうだったら逃げるんで、絶対解決するとまでは言わないですけどね」


「フフッ、そう言えるくらい余裕があるなら、お任せするニャア。お礼をたーっぷり用意しておくから、ちゃーんと無事に帰ってくるニャ」


「お礼!? そのお礼って、当然アタシももらえるのよね!?」


「尻尾の毛一本まで搾り取らせていただきますね。フフフフフ……」


「あー……まあ、うん。何か色々、ほどほどにな」


 怪しく目を光らせるリナとロネットを適当になだめつつ、ひとまずの目的は果たしたということで、今日はそれで解散となった。


 そして翌日。クロエも合流してフルパーティとなった俺達は、王都の正門前に集まっていたのだが……


「うわ、何これ可愛い!」


「すっごく豪華な馬車だニャ!」


 当たり前といえば当たり前だが、「真実の塔」に向かう馬車など存在していない。なのでやむなく徒歩で向かおうかと思っていたのだが、何とミーア先輩が艶めく夜のような色合いの、立派な馬車を用意してくれていた。


「先輩、これ本当に貸してくれるんですか?」


「ニャハハ、ウチが頼み事をしたんだから、このくらいは当然だニャア。まあガーランドのお姫様やアンデルセンの娘でも似たようなことはできたんだろうけど、ここはウチの顔を立ててもらうニャ」


「むむむ、確かに馬車を用意するくらいはできましたけど……」


「流石にこの程度のことで実家を頼りたくはないからな。私としてはありがたいことだ」


「見て見てシュヤク! 馬車の屋根のとこ、猫耳ついてる!」


「おぉぅ、確かについてるな……」


「これぞウチらが代々受け継いでいる、猫獣人の至宝……まではちょっと言い過ぎだけど、大分凄いお宝ニャ。見てるニャよ……ニャオーン!」


シュォォォン……


 ミーア先輩が雄叫びをあげると、馬車の前方、本来なら馬がいるべき場所に巨大な二匹の黒猫が出現した。何かザリザリした見た目で軽く向こうが透けて見えたりするあたり如何にも幻影という感じだが、その存在感は半端ない。


「これでこの子達が車体を引っ張ってくれるニャ」


「なっ!? これ、とんでもなく貴重な魔導具ですよね!? すみません、ご厚意はありがたいんですが、正直私これを借りるの怖いんですけど……」


 それを見て、ロネットが素でビビった声をあげる。素人目に見てもくっそ高いのは明白だから、正直俺もそう思う。


 しかしミーア先輩はケラケラと笑いながらそれを否定した。


「ニャハハ、別にこれに何かあっても、アンタ達に賠償を要求しようなんて思わないニャア。壊されない限りはこっちで呼べば勝手に戻ってくるし、これだけの貴重品、普通の盗賊とかなら絶対壊さないニャ。


 失われるとしたら魔物に襲われた時とかだけど、アンタ達を守ってくれるならそれで本望だニャア。


 ウチの子達のために、ウチでは手が出せない高難易度ダンジョンに挑んでくれるんだから、せめてこれくらいはさせてもらうニャ」


「先輩……ありがとうございます」


「ニャハハ、構わないニャア。それじゃアンタ……クロエって言ったニャ? これを呼び出す方法を教えるから、ちょっとこっちに来るニャ」


「わかったニャ!」


 ミーアに呼ばれ、クロエが小走りに近づく。そうして二人してニャオニャオと声を上げ始め、辺りに発情期の猫のような声が響き渡る。


 何だろう、凄く落ち着かない。だがこの馬車……猫車? 形的には馬車だし、猫馬車? 馬車でいいなもう……を使うために必要なことなのだろうから、ここは我慢するしかないだろう。


(にしても、よりにもよって「真実の塔」か…………)


 確かに通常の攻略推奨レベルは四〇だが、最後のギミックだけは仮にレベルがカンストの二五〇であっても油断できない。まあ対策はできるし、そもそも今の俺達なら問題ないとは思うんだが……


「ほら、じゃあやってみるニャア」


「わかったニャ! すぅぅ……ニャオーン!」


シュォォォン……


 クロエが雄叫びをあげると、ミーアが呼び出したのよりも幾分丸顔というか、愛嬌のある黒猫が二匹出現した。どちらも微妙にやる気が感じられない雰囲気だったが……


「こら、シャキッとするニャ! 仕事が終わったら、秘蔵のサバ缶をちょっとだけわけてやるニャ!」


 その言葉に、黒猫二匹の表情がシャキンと引き締まった。「いつでもいけますぜ、ボス!」と語りかけてくる眼差しに、俺達は顔を見合わせ笑ってしまう。


「よし、じゃあ行くか! ミーア先輩、吉報をお待ちください」


「気をつけてニャア。無理しちゃ駄目ニャーよ?」


「ご褒美! ご褒美を期待してます! アタシにもLOVE 4 MAXを体験させてもらいたいです!」


「……まあ、それでいいなら四人でも五人でも、やりたいって子を集めるけどニャア?」


「ぐぬぬぬぬ、これを借りてしまった以上、悔しいですが色々相殺するしか……」


「シートのクッションも素晴らしいな。これなら尻が痛くならなそうだ」


「出発進行ニャー!」


 クロエの元気なかけ声と共に、俺達はミーア先輩に見送られながら、一路「真実の塔」へと馬車を進めていった。

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