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結果さえ出せればって言うけど、過程も結構大事なのよ?

今回もモブリナ視点です。

「出たわね、妖怪占いオババ!」


「誰が妖怪だい! 口の悪い小娘だねぇ」


 思わず叫んでしまったアタシの言葉に、謎の老婆が切れのいいツッコミを返してくる。ふむ、どうやら意外とノリのいい人なのかも知れない。


「まったく……そんな調子じゃ占ってやらないよぉ?」


「へー? ならきちんとお願いしたらアタシの好きな人のことも占ってくれるの? ならお願い、素敵なお婆様!」


「キッヒッヒ、今度は調子のいい娘だねぇ。なら早速あの小僧の……」


「ちょっと待って、誰がシュヤクのことを占って欲しいなんて言ったの?」


 薄気味悪い笑みを浮かべながら水晶玉をなで始める老婆に、アタシはニヤリと笑って告げる。


「アタシの好きな人(・・・・)のことを占いで教えてくれるんでしょ? ならアタシが知りたいのは……お婆ちゃん、アンタのことよ!」


 これぞ日本語の妙。LOVEやLIKEだけじゃなく、Anyすら同じ言葉に包括するという、世界でもトップクラスに習得が難しい言語の真骨頂である。


 まあ普通に友達の事とか聞いてる人もいるらしいから、こんなトンチみたいなことを言う必要はないかも知れないけど、こういうのは勢いが大事なのだ。ビシッと指を突きつけて要求するアタシに、しかし老婆は戸惑うでもなくニヤァっと笑う。


「キッヒッヒ、そうかいそうかい。アタシのことを知りたいなんて、随分と珍しい子だねぇ」


「そう? でもまずお婆ちゃんのことを聞いておけば、頻繁に会って何度も占ってもらうコツとかわかりそうでしょ?


 なら初手はこれで決まりじゃない! むしろ他のことを聞く子の気が知れないわ!」


「一度しか会えないとは考えないのかぃ? そもそもアタシくらいの腕があれば、会いたくない相手と二度と会わないことくらい簡単だと思わないのかぃ?」


「そうかもね。でも本当に何でもわかってるなら、アタシがこう質問することもわかってたはずだから、聞かれたくないなら『会わない』こともできたんじゃないの?


 そう考えたら、やっぱり会えた時点でこれを聞くべきなのよ。ということだから、お婆ちゃんのこと教えて!」


「キッヒッヒ、よく口の回る小娘だねぇ。まあそこまで言うならアタシのことを教えてやってもいいんだけど……でも、そっちの娘達は、本当にそれでいいのかぃ?」


「えっ?」


 老婆の視線がアタシから逸れ、アリサ様を捉える。


「アタシは知ってるんだよぉ? アンタには意中の相手がいる。だがその男はアンタのことなんて眼中になくて、積極的にアプローチしても今以上の進展は望めない。そうじゃないかぃ?」


「む、それは……」


 アリサ様が口籠もると、今度は老婆の視線がロネットの方に向く。


「学生時代の三年なんてあっという間さぁ。その証拠にもうすぐ一年経っちまうだろ? あと二年でアンタの意中の男は振り向くのかぃ? 安定しちまった関係を崩すには、それなりのきっかけが必要さね。


 でもそれは待っていて手に入るようなもんじゃない。このままズルズル時間を無駄にして、何も起こらないまま卒業……それでアンタは満足、いや納得できるのかぃ?」


「……………………」


「正直になりなよぉ! 自分だけ男の情報を聞けば一歩先に行けるし、それが気が引けるっていうなら、二人で共有して一緒に進めばいい。どうでもいいババアの話と意中の男と懇意になれるチャンス、どっちが重要かなんて考えるまでもないだろぅ?」


 誘うような試すような老婆の言葉。でもアタシは二人の表情を確かめることすらせず、そのまま老婆の顔を見て鼻で笑い飛ばしてやる。


「ハッ! ばっかじゃないの! 何処の誰ともわからない相手からそんな重要な情報を聞いて、真に受けるわけないじゃない!」


「リナ!?」

「モブリナさん!?」


「だってそうでしょ! 何かこう、凄くセンシティブなことを教えてくれそうな雰囲気だけど、それが嘘とか間違いだったら目も当てられないし、本当だったとしてもそんな話を他人から聞き出す女とか、アタシなら絶対お断りだもの!


 二人共、聞きたいことがあるなら直接シュヤクに聞けばいいのよ。そしたら教えてくれるだろうし、教えたくないようなことなら他人づてにだって聞かれたくないことなんだから、知らないままの方がいいわよ」


 まさかの全否定に、流石のオババも大きく目を剥く。ギョロリとした二つの目が予想以上に大きく感じられて、正直ちょっと怖いというか気持ち悪い。


「キヒッ!? まさかアタシの目の前で、アタシの存在価値を全否定してくるとは思わなかったねぇ。そっちのお嬢さん方も、同じ考えかぃ?」


「……ああ、そうだな。すまないご老人。私の頼りになる友が、私の目を覚ましてくれたようだ」


「情報収拾は商売の鉄則ですけど、弱みを握るような取引は長続きしません。大切なのは自分になら弱みを話してもいいと思ってもらえるくらいの信頼を築くこと……そんな基本を忘れていたなんて、帰ったら父さんに怒られちゃいそうです」


 老婆の言葉に、アリサ様とロネットがそう言って微笑む。うーん、やっぱり二人共最高のヒロインね! 現実の女友達だったら、「そんな綺麗事とかどうでもいいのよ! 高収入のイケメンを捕まえるためなら、弱みにつけ込んでズブズブに依存させるくらい秒でやるわよ!」とか恥も外聞もなく言いそうだもの……まあそれはそれとして。


「てわけだから、アタシ達はシュヤクの情報なんていらないの! だからお婆ちゃんの情報を頂戴! お婆ちゃんは何処の誰? どうして急にこの辺に現れて、うちの女子生徒に声をかけてるの? 占いの範疇とは思えないピンポイントな個人情報をバッチリ言い当てられるのって、何か秘訣とか秘密があるの?」


「キッヒッヒ、欲張りな小娘だねぇ……制作者に似るってのはこういうことかい」


「え?」


「おっと、こっちの話さね。そこまでしてアタシのことが知りたいって言うなら、教えてやってもいいよぉ? でもタダってわけにはいかないねぇ」


「えー!? 他の人の秘密は教えてくれるのに、自分のは駄目って、ちょっとズルくない?」


「キーッヒッヒッヒ! 誰だって自分が一番可愛いのさぁ! 安売りはしないよぉ」


「ちぇっ。まあ仕方ないけど……でもじゃあ、どうすればいいの? まさかお金?」


「そんなもんに困っちゃいないよぉ! そうだねぇ……ならアンタ達には、あるアイテムを手に入れてきてもらおうかねぇ」


「アイテム……?」


 何だか一気にゲームのイベント臭くなって、アタシは思わず首を傾げる。とはいえ当然だけれど、プロエタにこんなイベントは存在していない。


 つまり、何を要求されるのかがわからない。身構えるアタシに、老婆は笑顔で要求を告げてくる。


「そうだよぉ。王都から北東に行ったところにあるダンジョン、『真実の塔』……その最上階にある水晶玉を取ってきて欲しいのさぁ」


「えっ!?」


「リナ、知っている場所なのか?」


「う、うん。知ってはいるけど……」


「塔の上の水晶玉……魔導具の類いでしょうか?」


「そうだよぉ。その水晶玉があれば、アタシの占いは更に冴え渡るのさぁ! アタシの秘密を知りたいっていうなら、そのくらいの苦労はしてもらわないとねぇ」


「む……私にはそれがどんな場所なのかわからんから、判断できん。ここはリナの意見に従おう」


「私もです。どうしますか、モブリナさん?」


「……………………わかった、受けるわ」


「キーッヒッヒッヒッヒ! なら取引成立だねぇ。水晶が手に入ったら、またこの辺に来るといいよぉ!」


 頭の中でダンジョンの仕様や構造、出てくる魔物のレベル帯なんかを思い浮かべて、今のアタシ達なら十分に達成できると踏んだアタシがそう言うと、老婆が耳障りな笑い声を上げてその身を闇に溶かしていく。


 気づけばさっきまで目の前にあった横道が綺麗さっぱり消えてなくなり、そこにはただ壁があるだけだった。

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