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午後の職場とか、マジで眠くて死にそうだったな……

「はーっ、何か一気に気が抜けた……でも、いいのかな?」


「いいんじゃねーか? まあ元々の中の人(・・・)からすりゃいい迷惑なんだろうけど、そんな事言われても困るとしか言えねーしなぁ」


 まだ若干目元の赤いリナに、俺は口をへの字に曲げながら言う。リナがそうだというのなら、俺もまた同じように主人公の体を乗っ取った存在なわけだが、元の存在であるシュヤク君が怒るのであれば「正直すまんかった」と土下座する準備は万端だし、体の所有権というか、主導権? そういうのに関して話し合う用意も心構えとしてはある。


 だがそれ以外の誰かに言われても、「他人にそんなこと言われてもなぁ」としか思わない。だって俺達人間は、ただ生きているだけで無数の命を犠牲にしているのだ。生きるために奪い、殺し、食らう。それと同じく「生まれるため」に誰かの犠牲が必要だったというのなら、その原罪は甘んじて受け入れるしかないだろう。


「ま、俺達の場合はなまじ元となる存在がこの世界でどう生きるかを知ってるから、余計に罪悪感を感じるってのもあるんだろうけどさ。


 てか、それはそれとして結経リナのパワーアップはどういう感じのものだったんだ?」


「ああ、そう言えばその説明もまだしてなかったわね。じゃ、今話すわ」


 俺の振りに、リナが軽く衣服の皺を整えてから皆を見回し、改めて話を始める。


「あの時ね、確かにアタシは女神様と話したの。でもその時してもらったのは女神様の祝福をもらうことじゃなくて……今言ったもう一人のアタシ、アタシのせいで生まれなかった本来の『モブリナ』と会うことだったの。


 で、何かいい感じに話し合った結果アタシ達は一つになって、結果としてアタシのなかに二人分の力が宿ったってわけなのよ!」


「肝心なところがスゲーふんわりだった気がするけど……まあいいや。つまり二重に魔法が発動したのは、二人分の魔法が同時に発動したからってことか?」


 俺の問いに、リナが得意げに胸を反らす。


「そうそう! アタシとあの子の両方が使える魔法なら、ああやって二重発動させられるのよ。どっちかしか使えない魔法なら今までと同じだけど、アタシは使えないけどあの子は使える魔法もあるから、実質新しい魔法が使えるようになったってのもあるわね」


「それがあの回復魔法というわけか。あれには驚いたぞ」


「ふふーん、でしょ? とはいえ二人分の才能が合わさっても、元が元だから特別に強くも凄くもなったりはしないんだけどね。でもこれなら、皆と一緒にこれからもダンジョン探索できると思うわ」


「やったニャー! 苦労した甲斐があったニャ!」


「改めて、これからもよろしくお願いしますね、モブリナさん!」


「このパーティで魔法を使えるのはお前とシュヤクだけだからな。ロネットのポーションも万能ではないし、魔力と違って寝れば数が回復するわけでもない。


 これから先長時間ダンジョンに潜ることが増えれば、お前の存在はそれだけ重要になる。頼んだぞリナ」


「ふふーん、任せて! あーでも、そのためにはちょっと皆に協力して欲しいことがあるんだけど……」


「ん? 何だよ?」


 妙にモジモジとしたしおらしい態度を取るリナに、俺は何の気なしに問いかける。するとリナは体をモジモジさせたまま、上目遣いで俺の方を見てきた。


「あのね、アタシだけレベルが大分離れちゃったでしょ? だから最低限皆に追いつけるようにレベリングしなくちゃいけないなーって……」


「ああ、それか。そこはちゃんと皆で手伝うから安心しろ」


「フギャー!? シュヤク、まさかまたあの地獄の特訓をするニャ!?」


 俺の言葉に、クロエが露骨に嫌そうな声をあげる。というのも俺達が「忘れられた神殿」に挑むために、少し前までかなりハードな経験値稼ぎをやったからだろう。


 確かに幾ら効率がいいからって、レッドドラゴンを倒しまくるのは色々な意味で辛かった。最初の内はメンバーが一人欠けてる状態での戦闘だし、レベルもトントンだったから普通に命の危機であったが、何度も倒してレベルがあがり、敵の攻撃パターンも覚えきってしまうと、そこから先に待っていたのは途轍もない作業感だ。


 部屋に入り、出現したドラゴンを狩り、ドロップアイテムを拾ったらすぐに部屋を出る。何回かならともかく何十回、何百回……しかもそれを何十日と繰り返せば、良くも悪くも慣れてしまい、飽きてくるのは必然だ。


 しかし相手は曲がりなりにもドラゴン。慣れたからといって危険がないわけではないので、集中しながら単純作業をこなすというある意味矛盾した状況を続けるのは、心身共になかなかの辛さだった。


「戦闘してるのに眠くなるとか、生まれて初めての感覚だったニャ。本当に寝たら死んじゃうってわかってるのに、気を張っても瞼が落ちてくるのは呪いでもかかったみたいだったニャ」


「本当に、あの感覚は何なのだろうな……状態異常の一種だろうか? 簡単に倒せるようになった後半の方が、むしろヒヤッとする場面が多かった気がする」


「ドラゴン相手にあんな状態になるなんて、ちょっと前なら想像もできなかったですね……」


「あはは……まあほら、今回はもうそこまで急ぐ必要もねーし、ゆっくりレベル上げ……経験を積めばいいさ」


「それじゃ皆、アタシに協力してくれるの?」


「「「勿論!」」」


 リナの問いに、俺達は笑顔で頷く。するとリナはパッと表情を輝かせ、胸の前で手を打ち鳴らした。


「やった! ありがとう! それじゃ皆、よろしくね! あとシュヤクは猫耳水着メイドカフェのビラ配り、頑張って!」


「任せ……待て、ちょっと待て。ビラ配り? 何で?」


「え? だってアタシに協力してくれるんでしょ?」


「いや、そうだけどそうじゃなくて! レベル上げするって話なのに、何でビラ配りなんだよ!?」


 戸惑いながら言う俺に、リナが大きくため息を吐く。


「ハァー。いい、シュヤク? レベル上げってことはダンジョンで戦闘するわけだけど、アタシは後衛だから強敵と戦うなら前衛は必須。アンタでもいいけど、守ってもらうって点ではアリサ様の方がいいのはアンタもわかるわよね?」


「そりゃあ、な」


「で、アタシは斥候なんてできないから、クロちゃんも必須。アタシの回復魔法なんて『とりあえず使える』程度だから、サポーターとしてロネットもいるわ。でも、それで十分じゃない!


 それに間近に迫った学園祭だってアタシにとっては大事なことだし、色んな人に協力してもらってるんだから、そっちも疎かにできないの。アタシがレベル上げに専念するなら、それを誰かに引き継いでもらわなきゃで、それにはアンタが最適だったってわけよ。


 どう、わかった?」


「それならモブローとかに頼めばいいだろ? それにアリサだけじゃなく、俺も一緒に戦ったっていいじゃん!」


「いいけど……経験値って人数で頭割りでしょ? ならできるだけ少人数の方がレベルは上がりやすいんじゃない?


 あと、そもそもモブローは最初からこっち側よ。追加要員にはならないわ」


「……………………」


 俺の感情を抜きにすれば、リナの言い分はとても正しい。なのでどうにか反論したいが、これといった言葉は思いつかない。


「じゃ、シュヤク。アタシは頑張ってレベルを上げて、一日でも早くアンタ達と一緒にダンジョンに潜れるようになってくるから、アンタにはアタシの……アタシ達の夢である『猫耳水着メイドカフェ』を託したわよ!」


「お、おぅ…………」


 もの凄くいい笑顔で肩を叩かれ、俺は生返事をすることしかできない。こうして皆がダンジョンに潜るなか、俺は学園の広場にてビラ配りをすることが決定するのだった…………ぐぬぅ。

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