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ゲームだったら何の疑問もない展開なんだがなぁ

「終わった……のか…………」


 目の前でガズの体が消えたのを見届け、俺は握っていた剣を鞘に収める。流石にここから復活は無法過ぎるし、それができるのにあんな空気は出さないだろう。だが……


「どうしたのだシュヤク? あまり嬉しそうではないが?」


「うーん、いや、何かなぁ……」


「何か問題でも? 当初の目的は全部達成できたと思うんですけど」


「そうなんだけどさ」


 リナをパワーアップさせパーティに復帰させようという目論見は成功した。加えて諦めていたはずの俺のパワーアップもついてきたし、突発的なバトルにも勝利し、仲間の損失はゼロ。これ以上ないほどの成果だが、どうも俺の中でスッキリしないものが燻っている。


「頑張って勝ったって言うよりは、誰かの都合で勝たせてもらったって感じよね。アタシが言うことじゃないだろうけど」


「あーそう! それだよ! 流石リナ、わかってるー!」


 リナの指摘に、俺は思いきり頷きまくる。そうか、このスッキリしない感じはそれか!


 確かに勝った。その勝ち筋は俺が必死に考え、仲間と協力して辛うじて掴んだものだ。だがガズの言動から、まるでそうなることが最初から決まっていたような……目隠しをしてるのに手を引いてゴールまで連れてきてもらったような、そんな感じがずっと俺の中に残っているのだ。


「つまり実力で倒せなかったのが不甲斐ないということか。それならば私も理解できるぞ。もしまた同じような敵と戦うことがあるならば、今度は正面から攻撃を受け止め、この剣で倒してやりたいところだ」


「クロは偶然でも何でも、楽に倒せる方がいいニャ。皆が無事だったことに比べたらどうでもいいニャ」


「そうですね。シュヤクさん達は実際に剣を振るう立場なのでそういう思いが強いんだろうというのは理解できますけど……」


「はは、悪い悪い。別にスゲー引きずってるとかじゃねーんだ」


 訝しげな表情を向けてくるロネットに、俺は笑ってそう告げる。その後はガズがいた場所に視線を戻すと、奴の言葉を頭の中で反芻した。


(生まれ変わったら、か……)


 ゲームなら雑魚魔物は無限湧きする。どいつもこいつも同じ見た目、同じ能力、同じ名前の存在だ。だが現実でなら、俺達が屠って来た無数の魔物はそれぞれが別の存在であり、命であったと言えるだろう。


 ましてやこいつは、名前付きのボス魔物として登場した。わずかに交わした会話からも、俺達と同じような意志があり、心があったんだと思う。


 ならばそいつに「次」なんてものがあるのか? 正直、俺にはわからない。俺自身が死んで「次」に来た存在らしいとは言ったが、本当にそうなのかすらわかりゃしねーんだ。


 だってここが本当にゲームの世界だっていうなら、そこに俺の人格データとかをコピーしたんじゃないと、誰が言える? 今この瞬間だって、日本にいる本物の俺が、ゲームのなかにいる俺を観察してたり……あるいは操作してる可能性だって否定はできない。


 そしてそれを悩んだって仕方ないのだ。そんなことを考え出したら日本にいた俺だって更に上の次元にいるどっかのどいつかが作ったキャラクターでした、とかもあり得ちまうわけだからな。


 なら俺にできることは、俺として精一杯生きることだけだ。そして……


「そうだな。もし次があるなら……その時は正々堂々戦おうぜ? あーでも、巨大化は勘弁な」


 消えてしまった強敵に、俺はそう言葉を残す。伝える相手のいない想いは虚空へと消えてしまったが、同時に俺のなかにあったモヤモヤも一緒に消えて空に溶けた。


「うっし、なら帰るか! って、そうだ。おいリナ、結局お前のパワーアップってどういう感じだったんだ? 何か魔法が二重に発動してたっぽいけど?」


「ふふふ、知りたい? 乙女の秘密を探ろうなんて、イヤーン、シュヤクさんのえっち!」


「……………………」


「せめて何か言いなさいよ! まったくもー!」


 小ボケをスルーされたリナが不満げに頬を膨らませたが、皆がジッと次の言葉を待っていることに気づくと、苦笑いを浮かべながらその口を開く。


「説明は……うん、してもいいんだけど、少し時間をもらってもいい? 流石にここでサラッと話せるような内容じゃないから」


「お、おぅ、そうか……何か、ごめんな」


「何でアンタが謝るのよ?」


「いや、ちょっと軽く聞きすぎたかなって……」


 さっきのリナの表情を見れば、おどけて見せたのは一種の強がりだったのではないかと思えてくる。俺のパワーアップはかなり雑な感じだったからリナもサクッと強くなったのかと思ったけれど、そうじゃない可能性だって想定して然るべきだった。


「ふむ、確かに私も疲労困憊だ。まだ帰り道もあることだし、話は明日ゆっくり聞く方がいいだろう」


「クロもくたびれたニャ。今長い話を聞いたら途中で寝ちゃいそうだニャ」


「大事な話なら、場を整えた方がいいですよね。学園に申請して部屋を借りますか?」


「うーん、それもちょっと違うっていうか、あんまり人気のあるところでは話したくないから……じゃあ明日、またここに来るのはどう? ここならアタシ達以外は絶対誰も来ないし、ショートカットのポータル付近なら魔物も出ないでしょ?」


「わかった。ならそうするってことで、今日はもう帰ろうぜ。あー、さっさと帰ってベッドに倒れ込みたい……」


「私もだ。今なら貴様と同じベッドに倒れ込んでも、そのまま寝てしまいそうな気がするな」


「クロもサバ缶枕で寝たいニャ」


「サバ缶枕……!? それ絶対痛いだろ?」


 金属製の枕とか、拷問器具にしか思えない。だが顔をしかめる俺に、クロエがキョトンとした目を向けてくる。


「痛くないニャ? ふかふかの柔らか枕ニャ」


「何で……いや待て。え、それ実在するやつなのか!?」


「ロネットにもらったニャ。他にもサバ缶柄のパジャマとかもあるニャ」


「手広いなアンデルセン商会……」


 本来の鯖ならまだわかるが、缶詰型の枕に缶詰模様のパジャマとか意味がわからん。そんなもの量産できるとは思えないんだが、まさかクロエの為にオーダーメイドで作ったんだろうか?


 それとも俺が知らないだけで、実は世間ではサバ缶枕が流行ってるとか……? そんな世間嫌すぎるだろ。いやでも、グッズとか訳わかんねーのが妙に売れたりすることあるしなぁ……えぇ、マジか?


「好きな模様の寝具か……私もシュヤク柄のパジャマを作ってもらうべきだろうか?」


「それ絶対怖いから止めた方がいいって」


 俺の顔だか全身だかが無数にプリントされたパジャマとか、傍目には呪いのアイテムにしか見えない。少なくとも俺がゲーム中に手に入れたら、インベントリの片隅にしまわれるだけで二度と触れないだろう。


 ちなみに、売らないのはその手のアイテムは大抵一品物だからだ。昔のゲームと違って今は所持数制限とかないからな。


「ちょっと皆、何やってるのよ! 早く帰りましょー!」


「悪い! 今行く!」


 リナに呼ばれて、俺達は歩き出す。帰り道も魔物が出るので、まだ油断はできない。


「んじゃ、いつも通りクロエが斥候でアリサが前衛、ロネットとリナが中衛でサポート、俺が殿ってことでいいか?」


「うむ」「わかったニャ」「はい!」「平気よ」


「なら出発! 家に帰るまでがダンジョンだからな!」


 こうして五人パーティに戻った俺達は、そのまま危なげなく学園まで帰り着くのだった。

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