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流石に無茶苦茶やりすぎじゃねーか?

 突如として巨大化したガズ。そのあまりのでかさに圧倒されていると、アリサが珍しくやや焦った声で問うてくる。


「シュヤクよ、どうするのだ!?」


「どうするったって……」


「ハンッ! こんなのただでっかいだけよ! それにこんだけでかかったら当て放題じゃない!」


「……そうだな。よし、引き続き遠距離攻撃だ! ガンガンぶち当てろ!」


「「「了解!」」」


 リナの強がりに乗っかった俺の言葉に答え、再び強力な遠距離攻撃がガズの体に炸裂していく。その全てがリナの言う通りガズの巨体に命中したが、その巨体は身じろぎの一つもしない。


「ゲハハハハァ! どうしたどうした? そんなの痛くも痒くもねぇぞ?」


「チッ」


 かわせないのかはわからねーが、かわす必要がないってのは間違いなさそうだ。余裕で笑うガズに、俺は思わず舌打ちをする。予想通りではあるが、こっちの攻撃は全く通らないらしい。


「どうしますか? また転ばせるとか?」


「そうだな、転ばせて頭が下がれば、目や喉を狙えるかも……」


「それじゃそろそろ、こっちからいくぜぇ!」


「!? マズい、全員散らばって逃げろ!」


 作戦を検討していると、ガズの大きな足があがる。アリサの警告に皆が咄嗟に走り出したが、こんなので踏みつけられたら助かる気がしない。


 クロエは……まあ逃げられるだろう。ロネットは……リナがサポートしてる。アリサは……盾があれば平気か? なら一番ヤバいのは……


「まさか俺か!? うぉぉぉ、タンマタンマ!」


「ほぉら、潰れろぉぉぉぉぉ!!!」


 破れたダンジョンの天井の向こうには、何故か快晴の青空が広がっていた。降り注ぐ光を遮って巨大な足が俺を影に包み込み、せめてもの抵抗に俺はギュッと体を丸くする。だが……


ズズーン!


「ゲハァ!?」


「あ、あれ?」


 どういう理屈か不明だが、ガズが突然仰向けに倒れ込んだ。猛烈な振動と共に部屋の瓦礫が崩れて煙が舞うが、俺達に被害はない。


「くそっ、何だ!? でかくなったせいで体の動きに違和感が……?」


「……はっ!? 今がチャンスだ! 顔を狙え!」


「任せるニャ!」


 一瞬呆気にとられるも、すぐに俺が指示を飛ばす。それをきいて真っ先に走ったのがクロエだ。倒れ込んだガズの顔を駆け上がり、大きく開かれた目に短剣を突き立てる。


「急所突き……ニャ?」


「ゲハハ、何かしたか?」


「そんな!? えいっ! えいっ!」


 クロエが何度もガズの眼球に短剣を突き立てるが、ガズの目には傷一つつかない。攻撃されても無傷……その現象には心当たりがある。


「テメェ、まさかHP持ちか!?」


「ゲハハハハ、当たり前だろ! 全部削りきるまでは、オデにはかすり傷一つつけられねぇぞ!」


「なら、これでどう? 『バラージ・ウォーターボルト』!」


 リナの手から、通常の倍、四〇本の水の矢が飛んでいく。


「リナ? 何を?」


「モブローが言ってたのよ。HPってどんな弱い攻撃でも一ダメージは受けるって! なら下手に強力な攻撃をするより、弱くても手数が多い攻撃なら着実に削れるはず!」


「しかし私はロネットには、手数の稼げる技などないぞ?」


「ならその辺の石でも拾って投げて! どうせ一ダメージならそれで十分だから!」


「わかりました!」


 リナの呼びかけに、アリサとロネットが近くにある遺跡の破片を両手で抱えてガズの巨体に投げつける。相変わらずダメージが出ている感じはしないが……いや、ここはもう効いてると信じて攻撃するしかない。


「オラオラオラオラ! テメーのHPがいくつか知らねーけど、ちまちま全部削ってやるよ! あ、クロエだけは顔から降りて、普通に連撃系の技を使え! 眼球で駄目なら何処殴っても同じだ!」


「わかったニャ! 黒影乱舞!」


 俺とアリサとロネットがひたすら石を投げ、リナは謎の力で二重化した魔法を、そしてクロエだけは普通に乱舞系の技を発動させる。それに対してガズは何とか体を動かそうとしているようだが、どうやら上手くいかないらしい。


「おっかしいな、全然思い通りに動かねぇ。何処と何処が繋がってやがんだ?」


「チャンスだチャンス! 今しかねーぞ、死ぬ気で投げまくれ!」


「ぬぅぅ! しかしこれは効いているのか?」


「わかんねーけど、投げるしかねーだろ!」


「ゲハハハハ……効いてはいるぜ? 一応なぁ」


 俺の言葉に、何故かガズが笑いながら答えてくれる。しかしその顔から余裕の笑みは消えることなく、むしろ醜悪に歪んでいく。


「でも無駄だぜぇ? 何せオデのHPは、二一億あるからなぁ」


「……は? 二一億?」


 プレイヤー側のHPは、九九九九でカンストだ。魔物側のHPはそれより多く、裏ダンのラスボスのHPは確か三〇〇万くらいだったはずだが、それすら足下にも及ばない、文字通りの桁違い。


 石投げなんて現実じゃできない手段を使っても、俺達が削れるHPは一秒に数十。それが二一億に辿り着くには、果たしてどれだけ時間が必要なんだ?


「それになぁ……フッ!」


ガタガタガタガタッ!


「うぉぉ!? 何だ!?」


「地面が!?」


 先ほどまでとは比較にならない程の振動。それに合わせて地面が隆起し……いや、これは!?


「フニャニャニャニャ!? 四角い地面が出たり入ったりしてるニャ!?」


「何コレ、世界がバグったの!?」


 一片が五センチ四方の石柱となった地面が、波打つように盛り上がったり引っ込んだりする。物理的には絶対にあり得ないその現象に、ガズが汚い笑い声をあげる。


「ゲハハハハ! どうだ? オデの魔力で世界を構成する情報を分割して揺らしてんだよ! 流石にこんな無茶すりゃ、いくらオデの魔力が二一億あるからってすぐに尽きちまうが……ゲハァ!」


 一瞬ガズの体が光り……しかし何も起きない。俺が内心で首を傾げていると、ご親切にもガズが説明してくれた。


「オデの数値はループする。ゼロを超えてマイナスになっても魔力供給は続き、しかも次の瞬間には最大値に戻るんだよ! 実質魔法使い放題みてぇなもんだぜ!」


「何それ、卑怯過ぎるでしょ!?」


「おうよ、これこそチートってやつだ! 表面だけをなぞった薄っぺらいイカサマじゃなく、システムの根幹に書き込んでるから、むしろハックか? まあどっちでもいいな!」


 ガズがそう言い終わると、不意に床の異変が終わった。あれだけグシャグシャに揺れてたのに何事もなかったかのように切れ目一つなく整然とした床に倒れ込むと、俺は這いつくばって皆の方に向かう。


「うっ、ぐっ……皆、大丈夫か?」


「すまん。相当に鎧を打ち付けた……誰か回復を頼む……」


「ごめんなさい、私のポーションは全部割れちゃってます……」


「ならアタシが。気休め程度の効果しかないけど……ヒール!」


 リナの手から淡い緑の光が迸り、アリサの体を包み込む。それをうけてアリサが顔をあげたが、その表情はまだ辛そうだ。


「ふぅ、助かった。これなら何とか動けそうだ」


「うぅぅ、気持ち悪いニャ……頭もお腹も揺れ揺れで、またゲロゲロしちゃいそうニャ……」


「頑張れクロエ。ほら、背中さすってやるから」


 顔色の悪いクロエを介抱しつつ、俺はガズの様子を見る。普通に考えれば魔力切れで魔法を止めたんだろうが、そうはならないってのはさっきこいつが自分で自慢したことだ。


 ならば何故? その答えは頭上にあった。


「ねえ、何か暑くない?」


「暑いってか、熱い? あ、これ伝わるか?」


「皆さん、上を!」


「「「上?」」」


 ロネットに言われ、俺達は上を見る。するとそこには燦々と輝く太陽が……二つ!?


「ゲハハハハ、どうやらオデは動けねぇみてぇだからよぉ。こいつでみんな焼き尽くすことにしたんだ。


 オデの魔法が完成するのが早いか、兄ちゃん達がオデのHPを削りきるのが早いか、最後の勝負といこうぜ」


 ニヤリと笑うガズの口から出たのは、事実上の死刑宣告であった。

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