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さて、新学期も頑張りますか

 時は流れ、九月一日。俺達の夏休みは、何事もなく終了した。海から戻ってからは取り立てて大きなイベントもなく、適当に休み限定のサブクエをこなしたくらいだったしな。


 久しぶりに再会したクラスメイトと軽く雑談し、ヴァネッサ先生からのありがたーい挨拶を聞き、初日ということであっさり目に終わったその日の午後。改めて二学期の目標というか、今後の方針を話し合うべくいつもの広場に集まったわけだが……


「うぅ、夏が……アタシの夏が、何もなく終わっちゃった……」


「この世の終わりッス。世界には絶望が満ちてるッス……」


「休み明けだというのに、リナもモブローも元気がないな」


 悲しみに打ちひしがれているリナ達を見て、アリサが何とも言えない表情を浮かべる。そりゃいきなりこんなテンションでいられたら困惑もするだろう。


「お前らは小学生か! 昨日までは普通だったじゃねーか」


「そりゃ昨日までは夏だったからよ! でも今日からは秋でしょ!? 夏と秋じゃ全然違うのよ!」


「そんな事言われてもなぁ」


 ちなみにだが、ゲーム時代の名残というか、世界がそういう風に作られているからというか、この世界の季節の移り変わりはかなりはっきりしている。一応まだ暑いが、残暑が続くのは精々半月程度で、その後は一気に秋へと変わっていくのだ。


 現実の日本は五月くらいから三〇度超える日もあったし、最近だと下手すりゃ一一月入っても夏日とかあったからなぁ……夏と冬しかないみたいなのに比べたら、ちゃんと季節があるというのは、きっといいことなんだろう。季節のイベントとかもあるしな。


「元気を出してくださいモブロー様。秋は秋で楽しいことが沢山ありますよ? ほら、孤児院でお芋を焼いたりしますし」


「おおー、芋掘りからのたき火で焼き芋! いいよなぁ、そういうの。なら一〇月入ったら、『黄金の豊穣』にでも潜るか」


「いいですね。なら私の方で早めに予約をとっておきますね」


「おう、頼むぜロネット」


 王都近くにある「黄金の豊穣」は、主に食料系のアイテムが取れるダンジョンだ。普通に畑で収穫されるものより味がよく、またこの辺の気候では栽培できないようなものも取れるため、人気のあるダンジョンである。


 ただ人気がありすぎるのと、如何にダンジョンとはいえ一日に採取できるアイテムの量には当然限りがあるので、入るには事前の申請がいる……らしい。


 らしいというのは、ゲームではそんな仕様なかったからだ。だってダンジョンに入ってるのは、実質プレイヤーだけだったからな。好きに入れたし好きなだけアイテムを取れたし、それで誰かに何かを言われることなどない。


 が、ここは現実。俺達以外にも数え切れない程の人がダンジョンに潜り、そこで得られるものを日々の糧としているのだから、こういう取り決めは必要だろう。俺の認識だと不便を強いられる形になるわけだが、そこに不満はない。


「焼き芋は美味しいニャー。サバ缶の次くらいに美味しいニャ。クロは今から楽しみになってきたニャ!」


「読書の秋……本が私を呼んでいる……」


「ハッ!? 秋と言えば芸術ッス! 確かヌードデッサンのイベントが……」


「ねーよそんなもん! あーいや、何か絵のモデルになるサブクエとかはあったような……?」


「それに学園祭! そうよ、学園祭の出し物で、猫耳水着メイドカフェをやればいいのよ!」


「ふぉぉー!? 超ミニスカで色々見えちゃっても、パンツじゃないから恥ずかしくないやつッスね! 自分、二万までなら出すッス!」


「随分とやる気のようだが、リナとモブローはクラスが違うだろう? 複数のクラスで同じ出し物をするのか?」


 妙なやる気を見せるリナとモブローに、アリサが苦笑しながら問う。だがリナはニヤリと笑うと、その口から欲望(ことば)がこぼれ落ちる。


「ふっ、甘いわねアリサ様! メイドカフェの前ではクラスの壁なんて些細なもの……いえ、いっそ一年全体を巻き込んで、超巨大なメイドキャッスルを作り上げる? 何なら執事カフェも併設させて、顔だけはいいシュヤクに活躍してもらえば……」


「おい待て、何でいきなり俺を巻き込んでんだ? やらねーぞ?」


「いける、いけるわ! やるわよモブロー、今から全力でロビー活動して、一大勢力を作り上げるの! ある程度人が集まっちゃえば、学園側だって何も言えないでしょ」


「うぉぉ、やってやるッス! 自分達で夢の一夜城を築き上げるッス!」


「何だか凄くお金の匂いがするので、私は裏方で、目立たないようひっそりと財務方面のサポートをしますね! 水着メイドは他の皆さんでお願いします」


「サバ缶くれるなら、水着くらいなってもいいニャ」


「天然猫耳!? 勝った! もう勝ったわよアタシ達!」


「人生の勝利者ッス! 天空の城は本当にあったんス!」


「おい、聞いてるか? 俺はやらねーからな!?」


 こっそり自分だけ安全な立ち位置を確保するロネットと、相変わらずサバ缶で大抵のお願いを聞いてくれるクロエを前に、リナとモブローが拳を振り上げ叫ぶ。どう考えても無理な提案だと思うんだが、こいつらならやりかねないという気がちょっとするのが怖い。


 だが俺はやらん。執事カフェなんてまっぴら御免だ。「学生なんだから楽しまなきゃ」みたいな空気で押してこられそうな気がするが、絶対にやらないという硬い決意だけは表明しておきたい……頑張れ、未来の俺!


「はぁ、まあそれはいいよ。でもそれより前に、とりあえず目先の……明日からの予定の方を詰めようぜ? 元々そういうつもりで集まったんだし」


「そんなの今更話す必要ある? どうせメインダンジョンに潜るだけなんでしょ?」


「まあそうなんだけど……」


「他のダンジョンには度々潜っていたが、『久遠の約束』は久しぶりだな。では明日は二一階に入るのか?」


 アリサの問いに、俺は大きく頷いて答える。


「皆がよければ、そのつもりだ。マギメタルゴーレムもでかかったけど、他にもサハギンとかスカベンジャープニョイムとかも倒しまくったから、レベル……あー、見えない実力的なやつも想定より大分高くなってるはずだからな。


 これ以上は先延ばしにする意味もねーし、むしろそれをやると危ない気がするんだよ」


「危ない? 何故ですか?」


「ほら、良くも悪くも俺達って戦闘に慣れてきただろ? この状況で格下相手だと、どうしても気が緩みがちになりそうでさ」


「確かに、ちょっと強くなった奴が狩りで調子に乗って怪我をするのは、ありがちな失敗談だニャ」


「多少の怪我でしたら私がすぐに癒やせますが……」


「痛みから学ぶこともあるだろうけど、失敗する原因がわかってるんだから、わざわざ痛い思いをすることもねーだろ。それに今日からは、俺達とセルフィ達は別行動だぜ?」


「あ、そう言えば……」


 海ダンジョンを二パーティ合同で攻略したのはあくまで例外であり、普通に人がいるダンジョンでそれをやったら大変なことになる。戦闘難易度もそうだが、自分達の獲物をかっさらわれる他の討魔士達にも睨まれるし、あと学園からスゲー怒られる。


 流石に退学にはならないだろうが、停学くらいはくらいそうだ。せっかく二学期になったばかりだというのに、そんなアホなことをして時間を無駄にするつもりはないのだ。


「てわけだから、頼むぜリナ。モブローは好きにすりゃいいだろうけど、あんまりサボり過ぎんなよ?」


「大丈夫よ。ちゃんと実績がある方が人も集めやすいしね!」


「そうッス! さっくり三〇階を突破して、『自分また何かやっちゃったッスか?』って言うッス!」


「……まあ、好きにしてくれ。他の皆もいいか?」


「いつでも準備万端だ!」


「クロもいいニャ」


「私も平気です!」


「ん、問題ない」


「頑張りましょうね、モブロー様、オーレリア様」


俺の問いかけに、皆が笑顔で頷く。よしよし、なら新学期も頑張っていきますか。

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