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俺がディレクターなら、シナリオ書いた奴をぶん殴ってる流れだぜ

 そうして俺達は、洞窟にてサハギンを狩りまくった。だが一仕事終えて戻ってもやはり海の氷は溶けておらず、俺達はそのまま砂浜にて野営をした。


 次の日、まだ海の氷は溶けていなかったので、仕方なく洞窟にて狩りを行う。更に次の日、まだ海の氷が溶けていなかったので、やむを得ず洞窟で狩りをする。そして次の日……


「……嘘だろ、まだ溶けてねーんだけど?」


 正味四日目だというのに、海の氷は溶けていなかった。流石の異常事態に皆が顔をしかめるなか、普段はあまり表情を動かさないオーレリアが珍しく眉根をよせて考え込む。


「流石にこれは不自然。幾らモブローの使った魔導具が強力だったとはいえ、ここまで効果が残るなんてあり得ない。


 私の魔法で溶けなかったのは私の実力が足りなかったからでいいけど、ダンジョンの仕掛けでもない現象がここまで長続きするのは異常」


「だよなぁ、でもそうすっと、どういうことだ?」


「多分だけど、モブローの使った魔導具に、誰か……あるいは何かが魔力を供給し続けてるんだと思う。だからずっと効果が切れず、海が凍ったままになってると予想できる」


「えぇ? そんな事可能なのか?」


 当たり前の話だが、ゲーム時代では使い捨ての攻撃アイテムに魔力を込めて効果を維持し続けるなんてシステムはなかった。そして現実であるこの世界でも、そんなことができるなんて話は聞いたことがない。


 だが首を傾げて問う俺に、オーレリアは冷静な表情のまま振り向く。


「可能。現にロネットがやってる」


「え!? 私ですか!?」


「そう。普通の魔導具は、制作時に込められた以外の魔力を受け付けない。だから私が使ってもモブローが使っても、誰が使っても同じ効果を発揮する。


 でもロネットは違う。魔導具の発動時に自分の魔力をほんの少し上乗せすることで、その効果を高めてる」


「ほう! ロネットはそんなことをしていたのか」


「してません! いえ、少なくともしてる自覚はありません。私、そんなことしてるんですか……?」


「してる。無意識でそんなことができるロネットは、私とは違う種類の天才」


「確かにロネットが使うと、色んな魔導具が強くなってたニャー。ロネットは凄いニャ」


「はぅぅ……」


 オーレリアに断言されクロエには感心され、ロネットが戸惑ったように顔を赤くする。なるほど、ロネットのパッシブスキルである「アイテムの使用効果増幅」は、現実だとそういう感じの内容になるのか。


「ふむ。言わんとすることはわかったが、ならば一体誰が何処から魔力を供給しているというのだ?」


「少なくとも見える範囲には誰もいないですし……あ、ひょっとして海の中からでしょうか?」


「あるいは氷の中の可能性もある。凍り付いて仮死状態とか、動けない状態で魔力だけ放出し続けていると推測される」


「そりゃあ何とも……気の毒って言うべきなのか?」


「何言ってるのよ! そいつのせいで氷が溶けないなら、今すぐ倒すべきでしょ! どうせ魔物なんだから、同情なんていらないわ!」


「魔物かぁ……」


 俺の頭に浮かんだのは、遺跡ダンジョンにいたマギメタルゴーレムだ。あそこと同じで、ここにもイレギュラーなボスが出現していたんだろうか? でもそれが出現する前に、モブローが先制攻撃で凍らせちまった?


 わからん、何もわからん。悩む俺の目の前で、しかしオーレリアだけは真剣な表情で凍った海を見つめ続けている。


「私としては、戦闘はお勧めしない」


「何で!? オーレリアちゃんだって海で遊びたいでしょ!? 遊びたいわよね!? 遊びたいって言って!」


「この国の貴族の一員としては、強い魔物を放置するのはあまり好ましくないのだが……その理由はなんだ?」


「これだけ長時間、これほど大量の魔力を生み出せるなんて、尋常な存在とは思えない。そんなものと戦って勝てる気がしない。


 でも今なら、そいつは自分の魔力のせいで溶けない氷に包まれて、身動きができなくなってる。ならこのまま放置して、いつか私達がもっと強くなったら倒しに来ればいい。それまでは迂闊に触れるべきじゃない」


「ふむん? 確かに一理あるな」


 オーレリアの主張に、俺は再び思考を巡らせる。この前のマギメタルゴーレムは、相応に準備を整えたうえで何とか勝利した形だ。今はあの時より戦力があるが、だからといって氷の下に眠る何かがマギメタルゴーレムより弱いとは限らない。


 加えて、確かに今無理に倒す必要があるかと言われればない。俺達が帰ってしまえばこのダンジョンには誰も入らないはずなので、誰かが余計な手出しをして今の均衡を崩す可能性もかなり低い。


 ならじっくりレベルをあげて、来年やってきた時に倒すというのは現実的な選択肢に思えるが……


「皆はどう思う?」


「私はやはり倒しておきたいな。ここで見逃した結果、私達がダンジョンを離れた後で暴れ出し、被害が出たら後悔するだろう」


「クロはサバ缶が取りに行きやすいから、このままがいいニャ」


「倒すに決まってるでしょ! せっかく海に来たのに水着……ゲフン、泳げないなんてあり得ないじゃない!」


「そうッス! 自分も討伐に賛成ッス! 水着の為ならアイテムは幾らでも使うッス!」


「私達がこの場に居合わせたのも何かの縁ですから、脅威は取り除いておくべきだと考えます」


「討伐の方が多数か。なら……ん?」


 と、そこでオーレリアがスッと手を上げるのが見えた。俺が顔を向けると、オーレリアが静かに語り始める。


「ごめん、もっと根本的なことを指摘し忘れてた」


「根本的な事? 何だ?」


「何がいるにしろあるにしろ、そこに辿り着く方法がない。そもそも私達にはあの氷が壊せない」


「「「あっ」」」


 その指摘に、俺達は揃って間抜けな声をあげてしまう。そっか、そうだよな。あの氷をどうにもできなかったからこうなってるわけだしな。


「海に潜って下から見れば、原因が見える可能性はある。でもこの状態の海に潜るのは自殺行為。万が一何かあっても、水中じゃまともに戦えない」


「な、なら今度こそ自分が『神炎の小瓶』を投げまくったらどうッスか? それなら溶けると思うッスけど」


「それやったら辺り一面が火の海になるから今までやらなかったんだろ? てか、それで今度は火が収まらなくなったらどうすんだ?」


「そう、単に氷が炎に入れ替わるだけの可能性もある。そして氷ならともかく、火だと『何か』を閉じ込めるには向かないし、何より私達が巻き込まれたら抵抗ができない。


 現状が安定しているのだから、迂闊に手出しはしたくない。臨機応変な対応ができるようになるためにも、私が自分の力でモブローの魔導具と同じ火力を出せるようになるまで待って欲しい」


「そんな!? それじゃ海は!? 水遊びは!? アタシの水着は!?!?!?」


「諦めろリナ。こりゃ一旦退いた方がよさそうだ」


 言われてみれば、確かに今の俺にはモブローの消費アイテムに対抗できる手段が何もない。多少軽減できたところで、あのレベルの威力を出されたら一発で全滅するからな。


 なら専門家であるオーレリアやセルフィが育つまで待つのは、仲間の命を守るという点でも納得できる内容だった。


「そうですね。もうしばらく時間が経てば、また状況が変わるかも知れないですし」


「それじゃ夏が終わっちゃうじゃない! どうにか、どうにかならないのシュヤク!? アンタなら……」


「無茶言うなよ! ここがイベントダンジョンだって、リナも知ってるだろ?」


 通常のダンジョンと違い、ここはあくまでも学園からクエストを受けた時だけ辿り着けるダンジョンだ。つまりこのダンジョンには、学園からのショートカットが通じていない。だからこそ俺達は、わざわざ砂浜で野営していたのだ。


 それでも現実ならダンジョンが消えるわけじゃねーから、来ようと思えば来られるんだろうが、その場合馬車による往復の移動時間はどうしようもない。九月の授業再会を無断欠席する覚悟でもなければ、今年もう一度ここを訪ねるのは無理だろう。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! アタシの水着がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「往生際が悪いぞリナ。それに私達の水着なら、ロネットが用意してくれたものを試着した時に見ただろう?」


「そうだけど! でも海で見るのはまた違うのよぉ! それにほら!」


「キャッ!? モブリナさん、何を!?」


 突然服を脱ぎだしたリナに、ロネットが悲鳴をあげる。だがリナの服の下から出てきたのは、白いビキニの水着……と、その上に重ねるように身につけた「あやしい水着」ことエロ下着……ゲフン、水着であった。


 普通の水着の上から重ね着すりゃいけるんじゃね? とアドバイスしたのは俺だが、実際に見てみると……まあ、うん。扇情的ではあるが、一応お洒落の範疇に収まる程度にはなった、のか?


「うぉぉ、何スかそのエグい水着!? それを直接身につけて欲しいッス!」


「うっさい馬鹿、それは駄目よ! でもこれならオプションパーツだから、ビキニでもワンピースでも、どんな水着の上からでも身につけられるでしょ? そういう感じでゲームでは無理だったファッションとかを、皆と一緒に楽しみたかったのよぉ! ……ハックチュン!」


「あらあら、モブリナさん? こんなところでそんな格好をしたら風邪を引いてしまいますよ?」


「うえーん、夏の海なのにー!」


 セルフィにそっと上着を掛けられ、改めてリナが泣く。こうして散々引っ張られた俺達の海イベントは、まさかの水着にすらなることなく終わりを迎えるのだった。

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