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待望のお宝タイム! のはずが……!?

「やりました! 大勝利です!」


「お、おぅ……ロネット、今のって?」


 嬉しそうな顔でガッツポーズを決めるロネットに、俺は微妙に引きつった笑みを浮かべる。「神雷の小瓶」は、俺が渋るモブローに「お前だって水着、見たいだろ?」という悪魔の囁きを行うことで一つだけ譲ってもらった切り札だ。だというのに何故それをロネットが……?


「あ、はい。モブローさんにおねだり(・・・・)したら、『皆には内緒ッスよ?』と言ってもらったんです! 一〇個ほどもらったので、ここまで凄いものだとは思わなかったんですけど……」


「あー、そうなんだ。ふーん……」


 モブローの奴、手玉に取られてるなぁ。いや、それともロネットが一枚上手と見るべきか? ……うん、そっちの方向で考えると色々と怖いから、モブローがチョロいってことにしておこう。主に俺の心の平穏のために。


「ほらシュヤク! そんなことよりお宝よお宝! ヤッホーイ、待っててアタシの水着ちゃーん!」


「おいリナ、まだ室内の調査が終わってないんだ、危ないぞ!」


「リナは言っても聞かないニャ。あと戦闘を想定した部屋だから、多分罠はないと思うニャ」


 どこぞの大泥棒の三世みたいな勢いでダバダバ走り出すリナをアリサが諫め、クロエが呆れと諦めの籠もった口調で言う。そうして俺達もまた、顔を見合わせ苦笑してからゆっくりリナの後をついていったのだが……


「ない! ない! お宝が、ない!」


「何だよリナ、そんなに慌てて……?」


「ないのよ! アタシのお宝が、何処にもないの!」


「えぇ、マジで?」


 カサカサとその辺を探し回るリナに釣られて、俺も周囲を見回す。だが言われてみれば確かに宝箱とかが置いてあるわけでもないし、石壁に扉があるわけでもない。


 え、マジか? 本当に何もないのか!? 水着はどうでもいいけど、これだけ苦労して報酬ゼロは流石にレビューが星一つになるぞ? その煽りを食うのは制作者サイドの俺自身だけれども!


「おや、この壁画は……?」


 と、そこで静かに後をついてきていたヘンダーソンさんが、壁の模様を見つめて小さく声を漏らす。そのまま壁に近づくと、ブツブツと何かを呟き始めた。


「ふむ、これは太陽の……じゃあこっちは塔ですから……これかな?」


ゴゴゴゴゴ……


「うおっ!? 壁が動いた!?」


「ヘンダーソン殿、一体何を?」


「あ、いえ、ちょっと見覚えにある仕掛けだったので……どうやら上手くいったみたいですね」


 はにかむヘンダーソンさんの横では、壁にごく小さな……それこそ人差し指がやっと入るくらいのくぼみがある。ダンジョンの壁が不壊であることを考えると、意図して押さなければ絶対に押せないやつだ。


 なるほど、あのガズってやつの誘いに乗って最強武器を手に入れていた場合、マギメタルゴーレムは楽勝で倒せるけど、最後のお宝は手に入らない仕掛けだったってわけか。いやまあヘンダーソンさんが待っててくれる可能性はゼロじゃねーけど、普通自分の依頼をほっぽり出して他の奴の依頼を受けたら、断られたと思うだろうしなぁ。


「やった! 今度こそお宝……ぐえっ!?」


「リナ、流石に自重しろ!」


「隠し部屋に突っ込むのは流石に駄目ニャ! クロが調べるから、少し待つニャ」


 アリサに襟首を掴まれ、燃え尽きた猫のような顔をするリナをそのままに、クロエが壁が動いてできた空間を調べていく。そうして一〇分ほどしたところで、クロエがこちらに戻ってきた。


「罠とかはなかったニャ。部屋の真ん中に宝箱が一つと、あとよくわかんないガラクタがその辺に転がってたニャ」


「ガラクタ? それってまさか、モブリナさんが言っていた……!?」


「かもな。それじゃヘンダーソンさん、お先にどうぞ」


「えっ!? 皆さんのおかげでここまで来られたのに、私が最初でいいんですか?」


「勿論。ヘンダーソンさんの遺跡調査を手伝うのが後援の条件でしたし……あとほら、うちの猛獣が荒らす前に、ちゃんと室内を見た方がいいですよね?」


「誰が猛獣よ! ガルルルル……!」


「……あ、ありがとうございます! では、失礼して」


 唸るリナに肩をすくめてみせた俺に、ヘンダーソンさんが本当に嬉しそうな顔をして部屋に入っていく。


「ああ、凄い! これがこんなに綺麗な形で残ってるなんて! え、まさかこれも!? うわ、こっちは失われた魔導回路が完全な状態で残ってる……!?


 あの、シュヤクさん! これ! これなんですけど……その、遺跡で見つかったものの所有権は皆さんに譲渡する条件だったんですけど……」


「あー……ははは。いいです――」


「いいですよ! 適正価格でお譲りします!」


 謎の金属パーツを手にして訴えるヘンダーソンさんに、俺の言葉を遮ってロネットが告げる。そっか、俺は別に価値を感じねーからあげちゃってもよかったんだが、ひょっとしてあれが三億エターの遺物? かも知れねーからか。


 うーん、でもそれってなぁ……


「ありがとうございます! ではこちら、三……いえ、五万エターで買い取らせていただきます!」


「……五万エターですか? 三億エターではなく?」


「え?」


 訝しげな表情を浮かべるロネットに、ヘンダーソンさんがキョトンとした顔で返す。そうして数秒お互いが固まると、先にヘンダーソンさんがその口を開いた。


「ははは、確かにこの遺物の歴史的価値は、三億エターくらいあるかも知れません。いえ、お金を出せば買えるというものではないですから、五億でも一〇億でも、類似品が見つからない限り無限の価値があるでしょう。


 でもじゃあ、これを実際にそんな大金で買うかと言われたら、おそらく誰も買わないと思いますよ? そもそもそんな大金、私の全財産をはたいてもとても支払えるものではありませんし……」


「うっ、それは……」


「諦めろロネット。価値があることと金になることは違うんだよ」


 怯むロネットの肩をポンと叩き、俺は冷たい現実を突きつける。そう、価値があるからってその価値で換金できるとは限らない。フレーバーテキストに三億エターの価値があると書かれてるからって、本当にその金額で売れたらゲームバランスが崩壊するから、売れるようにはできていないのだ。


「モブリナさん?」


「うえっ!? だからアタシ、どうでもいいって言ったじゃない! 嘘は言ってないわよ!?」


「……えっと、これお返しした方がいいですか? 貴族や王族のような立場で、歴史学を深く学ばれている方がいれば、そういう金額で売れる可能性も否定はしないですけど……?」


「……いえ、五万エターで大丈夫です。是非有意義な研究資料にしてください」


 怖ず怖ずと申し出るヘンダーソンさんに、ロネットが張り付いたような笑みを浮かべて言う。流石のロネットでもこれを高額で売りつけられるような人物には心当たりがなかったんだろう。


 あー、それとも一度結んだ契約を一方的に反故にするのは商人のプライドが許さないから? そんな理由など俺には知る由もないわけだが……


「ありがとな、ロネット。代わりってのとは違うけど、後で俺がしっかり稼がせてやるよ」


「本当ですか!? なら将来の結婚資金のために、二人でいっぱい稼がないとですね!」


「お、おぅ!? 将来……将来な。確かに将来、ロネットが誰と結婚してもいいように稼いどくのは重要だよな」


「はい! 二人で一緒に稼ぐのは重要です!」


「……ロネット、正妻の座は譲れんぞ?」


「伯爵家の面子を潰すようなことはしませんよ。むしろそんな横紙破りをしたら、商会の方にまで迷惑がかかってしまいますし。


 それに旦那様が平等に愛してくれるなら、肩書きくらいどうでもいいと思いませんか?」


「ならばよし! 得体の知れぬ女ならば眉をひそめもするが、腕利きの商人が脇を支えてくれるなら、私としても大歓迎だ!」


「宜しくお願いしますね、アリサさん」


「……おい、待てよ。何か俺の知らないところで、スゲー勢いで外堀が埋められてる感じがするんだけど?」


「シュヤク……やっぱりアンタはアタシが直接もぐ(。。)必要がありそうね」


「やめて! 俺何もしてないのに!」


 何かをギュッと握って潰すようなハンドジェスチャーをするリナに、俺は思わず内股に鳴りながら距離を取る。何故だ? 何故俺は敗色濃厚だった超強敵のマギメタルゴーレムと戦った時より追い詰められているんだ!?


「く、クロエ!」


「クロは何も知らないニャー。大人しく端っこでサバクッキーを囓ってるだけの存在ニャー」


「へ、ヘンダーソンさん!」


「いやぁ、私に話を振られても……あ、この欠片も遺物ですね! 綺麗に拾い集めないと……」


「シューヤークー?」


「ひょぇぇぇぇ!?」


 こうしてボスより怖いモブ女に睨み付けられ、俺は情けない悲鳴をあげながらボス部屋を駆け回ることを余儀なくされるのだった。

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