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プロローグ 六年前の僕たちへ

 春という季節が嫌いじゃなくなったのは、恐らく六年ほど前からだ。


 それまでは、適度に暖かく、花が咲き、これでもかというほどに始まりを予感させてくれるこの季節が大嫌いだった。


 常に終わることしか考えていなかった僕にとっては、まさに天敵みたいなものだ。


 周囲の人々が希望と不安に表情をほころばせていた時、僕はため息をつく。


 それがどこか癖付いてて、六年経った今でも、ふとため息をつきそうになる。


 けれど、そのたびに、また背中を叩かれるんじゃないかと思って、僕は背筋を伸ばす。


 君は、いつだって明るくて、どんな時も強くて、何が待っていようと誰かのために生きようとしていた。


 まるで流れ星みたいに。


「そろそろ行こうか」


「うん。車、もう荷物は全部乗せきったはずだよ」


 背から声を掛けられ、僕は言葉を返しながら立ち上がる。


 懐かしいメモ帳も一緒だ。


 それを持って、大学の友人と一緒にアパートの部屋の外へ出た。


「にしても、それ何だ? 空っぽになった部屋の中で見入っちゃってたけどさ」


「あぁ、これ? これは……」


 何て答えよう。


 階段を下りながら、一瞬考える。


 そして、答えた。


「昔書いたラブレターみたいなものだよ。懐かしくて読んでた」


「おいおい。それは気になるやつだな。見せろよ、後で」


「無理無理。そんなことしたら、たぶん彼女が怒るだろうから」


「彼女って、別にその子と付き合えたわけじゃないんだろ?」


「そりゃね。彼女、流れ星だから」


「親友、お前何言ってんだ?」


 何を言ってるんだろうね、と僕は笑って返す。


 それは、六年前、僕と彼女が交わした会話と似ていた。


 拝啓、君へ。


 六年経っても、僕は君にもらった生きる意味を大切にできているよ。


 きっとこれは、僕がおじいちゃんになっても、死に際まで持ち続けられるものだと思う。


 君と過ごした約一か月はかけがえのないもので、胸の奥底にいつまでもしまっておきたいものだ。


 だから、またいつか会えた時、今度は僕も笑えているはずだ。


 僕と君が初めて会った時、僕は酷い顔をしていただろうから。


 君はどんな顔をしているだろう。


 昔と変わらず?


 それとも、変わっていたりするのかな?


 わからない。


 でも、これだけは言える。


 君は、恐らくまた僕からしてみれば光り輝いて見えて。


 あの時みたいに笑っているんだろうなって。


 そう思う。


 いや、思う、じゃない。


 そのはずだ。


 君は、流れ星だから。


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