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8.来月はガーデンパーティーに参加だそうです

 いつも通りの朝食の時間。

 ただこの時期お母様は不在でお父様とお兄様の三人だけである。お母様はお父様の代理でグラン公爵家領に戻っている。

 この時期の領は繁忙期で現地決済など必要な手続きがあるので毎年半月から一ヶ月程度は不在にしている。


「リア、明日仕立て屋を呼んでいる。ドレスを数着仕上げておきなさい」

「ドレスを、ですか?何かあるのですか?」

 思わずお父様に聞いてみる。途端にお父様は苦々しい表情に変わる。

「来月王子たちの誕生日会があってな。不本意ながら対面してしまったから今年からは王家の招待状が握り潰せなくなってしまった…あの野郎…」

 

 …お父様はギルベルト国王様に不敬すぎますわ。

 今まで王家の招待状を握り潰していたってそもそも貴族としてどうなの…?そんな事しなくてもそもそも面倒な王妃なんてヒロインに押し付ける気満々だし。きっとヒロインもその方が幸せよね。

 あ、でもこのゲームグッドエンドが一般的なグッドとは大分ずれているからヒロインの愛が正解かどうか分からないわ…トゥルーエンドは幸せな事を信じましょう。どちらにしても私は主人公じゃないから関係ないし、何より面倒事はご免だし。

 思わず少し遠い目をしてしまう。


「やっぱ嫌だよねええええ、今からでも断ろう!大丈夫!リアの為ならギルの命令なんてどうでもいいから!」

「大丈夫です、お父様。私も直接アルとレオにお祝いを言いたいですし」

 どうやら遠い目をしている場合ではなかったらしい。

ただそんな私の発言に被せる様に二人の大声が屋敷中に響いた。

「「アルとレオ!?!?」」

 まぁ、綺麗にお父様とお兄様の言葉がはもりましたわ。

「い、い、い、いつのまに仲良くなったのかな?やっぱ昨日温室までついていけばよかった…っ」

 どこから取り出したか分からないハンカチを噛んで、ギリギリと噛んで悔しがっているお兄様は完全に残念イケメンですわ。面白すぎるから動画でも撮りたいわ。


 ってまずい、面倒すぎてつい他人事になってしまったわ。早く止めないと。


「だめだ、やっぱり近づけるのはよくない。今年も欠席だ」

「お父様、王家からのご招待なのですから安易にお断りするのはよろしくないかと」

 ピシャリとお父様の言葉を否定する。仕方ないので暴走している二人にやんわりと諭すことにした。

「公爵家令嬢として恥じない行動を致しませんと。領民にも申し分が立ちませんわ」

「うう…リアがこんなに立派になって…」

「そもそもお誕生日会なんて存在初めて知りましたわ」

 ギロリとお父様を見ると悪びれた様子もなく「どうでもいいお茶会だ」と吐き捨てた。

「私は二人ともっと仲良くなりたいの!絶対に出席しますからね!」

 その後まだぐずぐず文句を言う二人を説得して、何とか参加の方向での確約を貰い食堂を後にした。



 思わぬ形で入ってきた王子たちの誕生日のガーデンパーティーイベント。

 正直決意はしたもののあれから情報収集の進展は全くなかった。

 現時点で箱入り娘化している引きこもり令嬢には仲の良い友達がいないから情報収集も何もあるわけがない。お兄様は毎日忙しそうでたまにしか捕まらないし、唯一のシェロことアルは唐突に訪れるので此方から訪ねる事もできない。

 それにしてもイベントが早速入ってくるとは…想定外ではあるが渡りに船である。今の私に必要な情報収集に王子たちのお誕生日のお茶会はピッタリだろう。


 二人の誕生日会であれば当然メインとしては婚約者候補としての高位貴族令嬢たちが呼ばれるだろうし、お兄様のように年齢の近い側近候補にあたる四大公爵家の子息たちもきっと何人かは集まる。何より10歳の誕生日で側近が決まったはずだから、パーティーの時に紹介して貰える可能性は十分ある。

 つまり、まだ会っていない同じ四大公爵家で王子の側近になるヒーローに会える確率が極めて高い。


 それに令嬢たちにしても王立魔法学園で必ず会う。だってその中の彼女たちは悪役令嬢やキーパーソンであるから。そこの仲も私が仲良くなることで、ヒロインのアリアへの当たりを少しは緩和したり、ヒーロールートの解決に繋がる可能性だってある。


 二人のバースデーパーティーを純粋に祝わないで利用する形になって申し訳ないが、この機会を利用しない手はない。



 午前の最後の授業である歴史の授業が始まりそう、といったところで軽いノック音と共にアナが入ってきた。

「授業中に大変失礼いたします。リアお嬢様、午後にアルベルト殿下がいらっしゃるそうです」

「あら、それであれば料理長にお菓子を数種類お願いしておいて」

「分かりました。今日もお庭でよろしいでしょうか?」

「ええ、お茶の用意も任せたわ」

「分かりました。では失礼致します。エマ夫人、大変失礼いたしました」

 アナはそれだけ確認すると軽く頭を下げてすぐに出て行ってしまった。


「あら、それなら今日はもう終了した方がよろしいかしら?」

「いえ、お気遣いありがとうございます。エマ先生。私は準備する事なんてありませんのでいつも通りで問題ないですわ」

 気を遣って声をかけてきた家庭教師であるワトソン伯爵家のエマ夫人に断りを入れる。


 そりゃ第一王子が来るとなれば通常であればすぐにでも湯あみをしてコルセットをしっかり締めて煌びやかなドレスに身を包み、時間をかけてしゃれこむ必要があると勘繰るのは当然だ。

 もちろん、アルの前でそんなかしこまった格好なんてするつもりはない。このままの格好で会うつもりである。


「…分かりました。では、時間も惜しいので早速始めましょう。今日は久々なので簡単に私たちの大陸にある主要な各国のおさらいから始めましょう。まずは位置関係についてですが私たちの国がどこかを指でさしてみてください」

「ここです」

 エマ先生の広げたアトラス大陸の左中央部を指で指した。

「そうですね。では私たちの使う言語を何て言うでしょう?」

「タタール語です」

「その通り。では我が国の大臣数は?それぞれの管轄する全ての省の名称は?」

「5人です。軍務省、魔法省、法務省、財務省、外務省の五つです」

 元のリアーナ・グラン自身の記憶能力は非常に優秀なのだろう。スラスラと頭の中に浮かんで答えられる。ちなみに省のトップの多くは四大侯爵の当主が務めている。


「その通り。問題ないですね。では、次に左隣の国名と言語は?」

「フォンレム帝国で言語は西語です」

「その通り。我が国と一緒で国民のほとんどが魔力を持っている国です。実力主義を掲げていますので、基本的には長子相続ではありません。今は12代皇帝アドルフ・フォンレムが治めています。代替わりが激しく任期も短いことが多いので皇帝の名前は三代くらいまで覚えていれば問題ないでしょう。次に上の国と言語は?」


「テーレ共和国です。古代語です」

「その通り。テーレは古くから大陸にある国で、技術大国であり、知恵の宝庫として有名です。魔力のない平民が集まって暮らしているので、魔法使いは少数派です。ジャック・ロックハート大統領が治めている極寒の地で、基本的には地下都市で暮らしています。では次に右上の国名と言語は?」


「聖国です。ここは古代語です」

「その通り。世界最大の宗教である聖教の総本山です。聖皇の治める国ですね。聖皇は就いてから亡くなるまで名前がありません。基本的には聖教の信者が数多く暮らす世界で一番狭い国となります。ではここにある二番目に狭い国の名前と言語は?」

 エマ先生は右下の地域の出っ張っている一番右に位置している地域を指さした。


「大和国です。大和語です」

「その通り。巫女が治める国ですね。一神教である聖教と違い、この国の宗教は多神教となります。外交は全く行っていない山の中にある国です。料理などは伝わっていますが文化や歴史含めて排他的なのであまりよく分かっていない国でもあります。では世界で一番大きい右下の国の名前と言語は?」

「ゾーレ連邦です。共通語はアロー語です」


「その通り。7つの部族から成り立つ資源豊かな観光名所やリゾート地としても有名な国ですね。観光が盛んなのと、外交もとても活発です。我が国とも交流がとても深いですね」

 勿論他にも国はある。ゾーレとは異なる独自の小さな国々がある。また大陸近くで交易のある島々も含めればかなりのものだろう。ただ基本的にリアタタール王国と付き合いのない国々については細かく勉強しない。政治的に鎖国をしている国だってある。そういった国々も含めて大抵ギルドは置かれているから民間ベースでの交流はある。

 その後も更に詳しい講義がお昼までみっちり続いた。




 春の日差しが心地いいガーデンテラスでのお茶会。

 この時期のガーデンエリアで薔薇よりも目を引くのは大きな桜の木だろう。大和国が原産の花木で咲いても良し、散っても良し。どんな姿も風流な美しい木である。

 現在は花びらが散ってひらひらと舞っていて、それはそれで幻想的で美しい。三月下旬が見頃であるが、もうそろそろ緑の葉の方が目立つようになってくるだろう。


 椅子に座って待っていると、薔薇のアーチをくぐり抜けて入ってきたアルベルトはいつもと違って正装をしていた。

 私に気づいてにこやかに声をかけてくる。

「リア、久しぶり。今日の髪型も編み込みにそのリボンの組み合わせは可愛いね」

 トレーニングをするようになってから髪は下ろしているよりも結ぶことが増えて、今日は編み込んでもらい上でまとめて赤と金色に縁どられたリボンで結んでいる。


「久しぶりね、アル。…で、その格好は?」

 聞かないのも失礼かと思い、早々に聞いてみた。万一の可能性で私の為に正装してきたとかであれば怖すぎるし、確認しておかないと。

 白いスーツに見ただけで王家と分かる紋章が入っているし、スカーフネクタイを留める大きな宝石は綺麗な青い石で細かいカットで凄まじいカラット数であろう。とても豪華な装いだ。

 ここにいつもよりもキラキラした美少年が爆誕している。


「実はこれから視察があるんだ。時間ができたから行く前に少しだけ寄ったんだ」

「あら、お忙しいのね」

 良かった、分かっていたけど私の為じゃなくて。内心ほっと胸をなでおろす。

「ごめん、慌ただしくて申し分ないんだけど…いつもより今日は時間が取れないんだ」

「気にしないで大丈夫よ、顔を見られただけで嬉しいもの」

 それにしてもキラキラの王子様スタイルの美少年はいくら眺めても飽きない。思わずまじまじと見つめてしまう。あら、でも何か今日の表情は硬いわね…


「改めてリアに謝りたい事があるんだ」

「え?」

「正体を隠して嘘をついていた事。この間はレオがいたし、ちゃんと謝れなかったからさ」

「いいの、いいの。それにきっと最初から王子様なんて言われたら身構えちゃっていたわ。だから気にしないで大丈夫よ。私もアルの立場だったら黙っていたかもしれないもの」

 まさかそんな素直に謝られるとは思わず、あまりの誠実さに一周回って心が洗われる気持ちだ。前世でもこんな心まで天使な美少年なんていなかったし。何となく拝んでおこうかしら…

「ありがとう、リア。そう言って貰えてホッとしたよ」

 ニコニコとほほ笑む私に、安心したような顔でアルもやっと笑ってくれた。

 その笑顔がまた眩しすぎる…何だかショタに目覚めそう…あ、私も10歳だからセーフか。


「でも本当にビックリしたんだからね。友達がまさか王子様だったなんて」

「あはは、ってもしかして倒れたのは俺のせい?」

 急に表情が曇り、不安そうな声を出すアルに慌てて否定する。

「そんな事ないわよ!元々緊張でいっぱいいっぱいだったんだもの。それにレオが支えてくれたから怪我もしなく」

「え?レオ?」

「ん?」

 話の途中にアルに遮られて、思わず首を傾げた。

 あの様子見ていたわよね?急にどうしたのかしら?


「呼び捨てだなんて…いつの間にレオと仲良くなったの?」

 って、あ!まずい。仲良くなったのはあの後の馬車の中だわ。む、無理。理由が説明できないわ。馬車の中で二人きりなんて誤解しかない状況だもの。

「あ…あの後街で偶然レオと会ってそれで…」

「…そうなんだ。はぁ…レオは最近よく街にいるみたいだからね。授業もずっとサボっていて何してんだか…」

 セーフ!私の嘘は何とかバレずに済みそう。それでも少し不機嫌さを滲ませるアルに以前の様子を思い出した。


「アルはレオと仲良くないの?」

 ゲーム上でももちろんアルベルトはレオンハルトに対してピリピリしていて、非常に刺々しかった。

ただ思い出してみたらそれはこの間見た時よりもずっと酷かったのだ。


 ついいつも穏やかなアルがピリピリして声を荒げていたからゲームの時みたいだと思ったが、あの時の様子を考えればもしかしたら二人の関係はまだ修復可能なのではないのだろうか?

 私が生き残るためにも、やはり周りの仲間はお互いある程度協力できるような信頼関係が望ましいだろう。


「えっ、いや…仲が悪いわけじゃないんだけど…レオは王族としての自覚が足りないのか誤解されるような態度が多くて…なんていうか傍若無人というか…だからつい注意してしまうばっかりで…」

 歯切れの悪いアルベルトはとても困ったように言葉を紡いだ。


 恐らくこんなにストレートに聞いてくる人もいないのだろう。一歩間違えれば不敬になる。それでもダメ元で解決の糸口になればいいなと思い聞いてみたのだ。

 誤魔化すことなくでもそれが全ての本心かは置いておいて、今答えられる範囲で真面目にきちんと答えてくれるアルの誠実さと優しさ。やっぱり天使教に入信しようかな。見た事ない神様よりありがたいし、見ているだけで心洗われるし。

 基本的には私ファーストだけど、信者としてアルの命もできる限りは救う努力をしないと!


「心配なのね!」

「え?」

「だってレオが悪く思われるのが嫌だから直して欲しくて注意しているんでしょ?それはレオがどう思われるか心配しているから出る言葉だもの。アルは本当に優しくて素敵ね」

 私の言葉にハッとしたような表情をした後、暫くアルベルトは静止している。


 …あら?どうしたのかしら?

 急に黙って固まってしまったアルを首を傾げながら見つめる。


「アル、そろそろ行くよ」

 よく見知った声が庭に響いた。薔薇のアーチをくぐってきたのはロバートだった。

「お兄様!」

 姿が見えたのが嬉しくて駆け寄る。

「ただいま、僕の天使。といっても残念ながらアルと一緒にすぐ出掛けるんだけどね」

 私が駆け寄って来たことに嬉しそうに笑うお兄様はそのまま両手を広げたので、躊躇いなくその胸の中に飛び込んだ。

 今日もお兄様は甘々だしイケメンで大好き。前世一人っ子だし、お兄様分を堪能しないと…っ。


 しっかりハグを交わす私達兄妹の元までアルもやってきた。

「本当に仲良いね」

 何故か少し羨ましそうな声のアルに、お兄様は見当違いにガルガルと威嚇している。


 もしかしてやっぱりアルはレオと仲良くなりたいのではないかしら?ゲームではどこか軽蔑の視線も混じっていたのに今はそれがないわけだし。何とかならないのかしら…?


「そうだわ、アル。来月のお誕生日会招待してくれてありがとう。当日に直接お祝いができるのを楽しみにしているわ」

「来てくれるんだね、嬉しいよ。俺もリアに会えるの楽しみにしているから」

「そろそろ本当に出ないとまずいから行くぞ。リア、行ってくるよ」

「また遊びに来るね、リア」

 少し引き止めてしまったせいか、最後の方は二人とも慌ただしく出て行ってしまった。お兄様とアルが二人で並んで話す姿も福眼だわ…仲良さそうに話す二人の後ろ姿をニマニマと見送った。

 でもあれ…何か違和感がある。


 改めて仲良さそうだったお兄様とアルの姿を思い出して、ここで漸く初めて違和感の正体に気づいた。


 あの二人って今はまだこんなに普通に話せるほど仲が良いの?


 そう、ゲームの中でのロバート・グランはアルベルト・ヒュンメルシュタインに対してよそよそしく冷淡な態度であった。何より、最後に帝国に攻められて何とか倒した後のアルベルト・ヒンメルシュタインを後ろから刺して殺害するのはロバート・グランである。

 どうしてそのような行動を取るのかは一切分からなかったが、アルベルト・ヒンメルシュタインと、それを看取って泣きじゃくるヒロインのアリアとのグッドエンドの姿はとても切なかった。グッドエンドの概念について本当に考え込んだけど。

 だって折角何とか苦労して倒して、これから二人で手を取り合って王国を復興させて生きていくって流れの中でこの仕打ち。なかなか鬼の所業である。

 でもそれほどまでにロバート・グランはアルベルト・ヒンメルシュタインを憎んでいたからこその出来事である。


 何が原因なのかしら…?まだ先の未来であるけれど二人が生き残っても、アルがお兄様に殺されてしまうのでは意味ないわ。



 改めてアルとレオの仲、そしてお兄様とアルの仲については注意深く気を付けて見守ろうと決意した。




今回は周辺の国の状況のチュートリアルみたいなものです。

覚えていなくても大丈夫です。

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