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6. とりあえず強くなる為には地道な修行が大切なのです①

「な…何の事でしょう?」

「昨日気絶する前に僕を見て言ったよね?」

「ど、どうだったかしら…?」


 可哀そうなくらいガタガタと震えて青白くなって下を向くリアーナに内心溜息を吐き出す。

レオンハルト・ヒュンメルシュタインである僕が怖いのか、それとも昨日の失言に心当たりがあるのか。全く分からない彼女を無表情に見つめて暫くどうしようかと考える。


他の令嬢であればこんな事気にも留める必要はなかった。


 但し彼女はリアタタール王国にとってただの令嬢なんかではない。

 四大公爵家の中でも筆頭公爵家であるグラン公爵家の令嬢である。

 現在どちらの派閥にも属さず、一貫として中立派を貫いているはずのグラン公爵家の娘がまさか僕の方を国王と呼ぶとは。

  

 正直真意が全く分からないし、冗談でも全く面白くない。


 僕の気を引きたいにしては、さっき僕の事を完全に忘れたかのようにアルと話してこんでいたわけだし。それとも…


「グラン公爵家は中立派をやめたのかな?」

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 どうせグラン公爵相手でなくただの12歳の小娘だし、普段よりわざと分かりやすいようにストレートに言ってみた。

 リアーナはその言葉を聞くと驚いたのか勢いよく頭を上げて僕を見た。ただその海のような深い青い瞳には先程の怯えはもう見当たらなかった。


「…ごめんなさい、本当に緊張していてよく覚えていないの。それにお父様の考えも私にはよく分からないわ。だからもし言ってしまったとしたら…きっとそれは言い間違えだと思うわ」


 視線すら合わなかった先程までの態度とは打って変わって、強い意志を感じさせるリアーナの目はまっすぐと僕の目を射抜いた。 

 更にその瞳は挑むような挑発的な色を帯びていて。


「だって王になるのはアルだもの」


「くっ…あっはっはっはっは」

 あまりに真っ直ぐと僕を見て君は堂々と言い放つから。

 もう可笑しくて仕方なくて。


 誰だってどっちかなんて断言しないのに。

 しかもよりにも寄って本人を、王族を目の前にしてお前じゃないって言うなんて。


 あぁ、君はハッキリとアルだと言ってくれるんだね。


「くっくっく…あぁ…ごめん。こんなに…くくっ、笑ったのは久しぶりすぎて…っ」

 目の端に溜まっていた涙を軽く指で拭って、リアーナ嬢を見上げた。


「ねぇ。それなら君は僕が何になると思う?」

「分かりませんわ。だって私たち知り合ったばかりで好みとかあまりよく分かりませんし…レオンハルト殿下のお好きなことって何かしら?」


 …好きなこと…?

 この血に流れるのは責任と義務であり、好き嫌いで生きるなんて考えたこともなかった。先程から彼女から出る言葉は僕の予想を遥か斜めに裏切っていく。


 ただ悪くはなかった。


 何て言おうかと思案する前に馬車が静かに止まった。恐らくもうグラン公爵家に着いたのだろう。

「それなら僕とも仲良くしてよ、リア。僕の事もアルみたいにレオと呼び捨てで呼んでいいし敬語もいらないから。それじゃ、また」


 開いたドアからリアーナの反応を待つ事無く、レオンハルトはすぐに駆け出して行ってしまった。




 私はレオンハルトの後ろ姿をぽかんと口を開けたまま、ただただ茫然と見送っていた。

 

 な、なんだったのー!?


 レオンハルトは振り返らずに出て行ったが、本当にそれでよかった。今きっと私はとんだ酷いアホっぽい間抜け面を晒しているだろうから。


 そもそもレオってあんな笑い方するの!?何あれ?大口開けて笑って崩れた顔も絵画みたいに美しいってどういうこと?え?でも待って、もしかして既に気が触れているの!?しかも『また』って何なのよ―――!?!?


 狂王にしかならないレオが王になるのはまずいから、消去法で王をアルだと言ったのにめちゃくちゃ嬉しそうだったの謎すぎるんですけど。だめだ、やっぱりルート攻略していない人と話すの怖すぎる。



 悶々とした気持ちを何とか宥めながら部屋に戻った。

 時間は有限なのだから、気を引き締めていかないと。


 まずは大切にしまっていた教会での測定結果の紙を改めて広げて確認する。


〈光:5 闇:5 火:5 水:5 地:5 風:5 魔力量:大〉


 魔力持ちであればどの属性も必ず持っている。ただしそれらの数値は著しく血筋が関係してくる。優性遺伝となる為、両親の魔力属性や量によって引き継ぐ数値が変わってくるからである。それなので基本的に魔力持ちは貴族に多い。特に爵位が上がるほどその傾向が著しい。

 ただし、リアタタール王国は平民もほとんどが魔力を持つ国だ。隔世遺伝や特異変質などで魔力量の高い平民が現れる事もある。だからこそ王立魔法学園の存在が重要になってくるわけだが。


 四大公爵家であるリアーナ・グランの素の能力値は文句のつけようのない極めて高い最高ランクなのだと改めて感心する。しかし、能力があっても扱えない事も多々だ。ゲームでのリアーナ・グランが弱かったように。

 属性によって威力は異なり、火>地>風>水の順である。光と闇に関してはスキルとしては特殊なものなので正確に威力を表す事ができない。


 測定結果を眺めていても何も始まらない。

 改めて深呼吸してから昨日お兄様から渡された基礎魔法の本を広げてみた。



 最初の方は昨日お兄様から教わった種類や属性などについて詳しい説明が、図解も交えて分かりやすく載っている。

 魔法は全部で四種類存在し、基本的にこの国では魔法といえば自然魔法の事を指すことが多い。それなのでメインで学ぶのは自然魔法である。使いたい属性とどうしたいかの命令を言うだけで発動する。

 そして自然魔法の中にはスキルを使用する魔法があり、主に戦闘で使用する魔法スキルである。スキルというのは基本的には特別な詠唱で発動する魔法で、一字間違っても発動しない。初級、中級、上級の三種類がある。


 特殊魔法はその名の通り特殊な魔法で、自然界にある五つの属性の力を応用して組み合わせられたオリジナルの魔法であり、スキルを使用しての発動となる。

 ただしその習得にあたっては全て古代語での詠唱となる為、発音など少し注意しないといけない。ユニークなスキルや攻撃力の高いものなど様々である。古代語習得ができていて、魔力コントロールさえできればこのスキルを覚えるだけで簡単に行使できる魔法だ。


 固有魔法は種類によって無詠唱で使えるが、そもそもあくまでも本人の才能や遺伝によって自動的に発動するものである。基本的には本人しか扱えない才能で、一人一つという訳でもない。もちろん、誰もが目覚める物でなく希少な魔法であるが、高位貴族となると持っている割合の方が実は高い。無詠唱で使えるものだと、希少すぎて魔法内容によっては本人が気づいていないで発動させているものもある。

 また固有魔法の種類によっては秘匿する傾向にあり、他者に漏らさない事もある。それくらい特殊効果の奥の手のような魔法でもある。

 ただ、継承させる事もできる。継承方法は血の継承であり、基本的には血縁関係さえあれば簡単に行える。



 魔法を出現させる為には体内にある魔力と自然にある魔素を上手く繋げ合わせないと出てこない。まずは体内の魔力の流れを感じ取り、そしてイマジネーションを働かせてその魔力で現わせたい魔法へと変換させる。

 魔法を発現できるようになれば、次はそのコントロール方法を学ばないといけない。コントロールは魔力量やセンスによって習得はかなり個人差がある。



 …言っている意味がさっぱり分かりませんわ。

 そもそも体内の魔力って何かしら…?思わず遠い目をしてしまう。生まれてこの方そんなもの意識して生きた事なんてないんだけど。だって自分の血液の流れを感じとるようなものでしょう?そんなの分かる訳ないわ。あ、昨夜お兄様の言っていた『感覚』の大切さの壁に早速ぶち当たっている気がするわ。


 気を取り直してそのままペラペラとページを捲っていく。


 ざっと目を通すとその後は体内の魔力を感知する練習方法、更にその後は長々とコントロールの練習方法について書かれていた。攻撃威力とか云々以前にただ魔法を出現させ、コントロールするというだけでとても気が遠くなる。

 光と闇以外の各属性のコントロールを学んでいかないといけないらしい。ちなみに光と闇は他の全てにコントロールがクリアできれば問題なく使えるらしい。


 うーん…何事も考えるより実践と言うし、とりあえず練習文を参考に詠唱してみようかしら。本の後半に書かれている簡易な詠唱を参照に杖を持って口を開いた。


「内なる火よ、この部屋を明るく灯す明かりとなれ」


 杖を持ち、詠唱するがその杖の先に火が灯る事はなかった。


 …


 …念の為、そのままの姿勢で1分間待ってみたが何も起こらなかった。


 ねええええ、私の知っている転生系は大抵みんなチートですぐに何でもできるんですけど!?最初から物凄い威力の炎が揺れたりしてもいいと思わない!?

 やっぱり私はヒロインでもヒーローでもないし、あくまでもサブなのだからこれも仕方ないって事かしら!?それにしても何の才能も感じ取れないわ…


「ねえええ、何で魔法が使えないんだと思う!?」

 部屋内の家具と化して静かに私の様子を見守っていたアナをそのままのテンションで勢いよく振り返って見上げた。

 彼女は静かに私を見ていたが、やがて不思議そうな表情で口を開いた。

「…僭越ながら確認させて頂きたいのですが、リアお嬢様は体内の魔力を感知できるのでしょうか?」

「全く分からないわ」

「それでは無理かと。魔力センスの才能がないのであれば感知の訓練を致しませんと」


 才能ないってハッキリ言われたわ!勿論知っていましたとも!特別でもチートでも何でもないただのサブキャラですからね、私!!!

 ダイレクトに私の心を鋭利に抉りにかかってくるアナは相変わらずいつも通り容赦ない。


「まずは本に書かれている通り瞑想するしかありません」

「うう…だって面倒だしよくわからないんだもの〜。アナはどうやって使えるようになったの?」


 アナはリアーナの侍女であると同時に、凄腕の護衛でもある。

 幼い時から出かけるときは必ずアナが帯同し、ちょっとしたトラブルを含めて様々な危機をその類稀なる武力で文字通り力づくで解決してきてくれたのだ。



「…すみません、リアお嬢様。私は最初からすぐに発動させる事ができましたので。こればっかりは感覚の問題ですし…説明は難しいかと」


 サブでも割とメインキャラ達と一緒にゲーム内に登場していた私よりも、ゲーム内で名前すら出ていないアナの方が上ってどう言う事…?世の中理不尽すぎません…?


 改めて本を手に取り、先ほど軽く読み飛ばした魔力感知の訓練方法である瞑想のやり方についての項目について目を通してみる。


 瞑想とはその名の通り、心を静めて無心になる、あの瞑想の事である。


 …前世も瞑想とかそういうの苦手だったんだもの…何もしないとか時間勿体無さすぎるし…じっとしているくらいならゲームしたいし。漫画読みたいし。


 でも確か集中力を上げたり、スピリチュアル系では宇宙人と繋がれるみたいな話も聞いた事があるわ。

あれ?この世界にも宇宙人っているのかしら…?

 思わず遠い目をして現実逃避して別の事を取り留めもなく考え出してしまう。


「リアお嬢様、現実逃避している中大変恐縮ですがそろそろ昼食のお時間ですので一旦食堂へ向かいましょう」

 もうお昼の時間…魔法の取得についてロクな解決方法も見つからないまま、無常にも時間は過ぎ去っていってしまったみたいである。

「すぐに向かうわ…」

 少しため息をつき、一旦本を閉じてから立ち上がった。


 想像以上に強くなるのは気の遠くなるような茨の道みたいである…


ひゅん、ひょいってできるもんではないらしい。

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