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5.謝罪は早くするに限ります

 朝食を食べるとすぐに支度をして、お城に向かう為にロバート・グランは父上とリアと一緒の馬車に乗った。


「父上、私は聞いていないです」

 開口一番、向かい合って座る父上に不満をぶつけた。

 


 昨日の王城での誕生日の挨拶の場。

 明らかにアルとリアは知り合いだった。


 思い返してみれば確かにアルを探しても見つからない時が何度かあった。その後すぐに見つかるから少し休憩でもしているのかと勝手に思っていたのだが。

 恐らくその間に我が家に来ていたのだろう。


 本当はすぐにでも問い正しかったが、昨日リアが倒れた後は父上に見送られてすぐに連れ帰った。昨日もいつも通り帰宅の遅い父上に会う事はなかったから。


 

「…こうなるからだな」

 僕の言葉の意図に正確に気づいてのその返し。


 父上だってリアにつく羽虫は許さない派じゃなかったのか!同志だと信じていたのに!

 少し裏切られたような複雑な気持ちになる。


「別に僕はアルベルト殿下と友達になるのがダメとは言いません。でもせめて私に言ってくれればついていったのに」

「お前だって分かっているだろう?それじゃ殿下にとって意味がないって」

「私はリアしか興味ないです」

 眉を下げて少し困った様子の父上の言葉に、不満気味に返した。



 傍から見てもとても仲良かったアルベルトとレオンハルト。


 周囲の身勝手な大人たちのせいでその関係がどんどん歪になっていく様子を、そしてそれらの悪意ある視線に押し潰されそうに表情が曇っていくアルを、僕はただ静観していた。


 城内では僕の立場でどちらかの王子に偏りを持つなんて決して許されない、というのは建前で、正直どうでもよかった。


 そもそも比べて勝手に傷つくアルの気持ちも、それを気にしてわざわざ距離をとるレオの気持ちも、自分には理解できない感情だった。

 比べても卑屈になっても意味がないし、大切な者は絶対手なんて離さないから。妹のリアーナのように。


 相変わらず二人の関係は悪かったが、ある時からアルの肩の力が少し抜けて元の生き生きとした表情に戻っていった。

 二人が顔を合わせる機会が減ったからかと邪推していたが、どうやらそれだけでなかったらしい。


 …まぁ、リアほど純粋で可愛らしい天使なんてこの世に存在しないのだから。癒されるのも当たり前だろう。



「お兄様、ごめんなさい…」

「え?」

 突然のリアの謝罪に驚き、隣を見る。

 眉を下げて申し訳なさそうな表情で僕を上目遣いで見つめるリアーナと目が合った。


「シェロ…じゃなかった、アルベルト殿下が遊びに来ていた事でしょう?お父様に内緒にしてってお願いしたのは私なの…お兄様はお城に行っちゃって寂しかったし…私だけの一緒に遊ぶお友達が欲しかったの。内緒にしていて本当にごめんなさい」


 …あぁ、リアを困らせたかったわけじゃなかったのに。

 リアーナの事になるとどうしても全て許せなくなる。

 自分の心の狭さを反省して、リアの頭上に優しく右手を置いた。

「僕の方こそごめんね、リアに寂しい思いをさせていて。内緒にされてちょっと寂しかっただけなんだ。いつもみたいに可愛らしく笑って?僕のお姫様」


 リアの可愛らしい笑顔を見て、昨日からモヤモヤして鬱屈していた気持ちはすぐ消えてなくなっていったのを感じた。




 馬車から降りてお父様とお兄様と別れた私は、待機していた騎士に案内されてお城の庭園の奥に進んでいた。

 お城の庭は迷路のように広く、大通りの両サイドに植えられている大きな木々はまっすぐと長方形に整えられていて、並ぶ木々の向こうはよく見えなかった。美しいレリーフの刻まれた噴水をいくつか通り過ぎていく。

 気が遠くなるような広さと、息を吞むほどの美しさ。胃に穴が空きそうな程緊張さえしていなければ、とても目で楽しみたい美しい立派な庭園である。


 黙々と歩く後ろ姿しか見えない騎士はとても背が高く、すぐに歩き出したから顔はあまり見えなかった。イケメンだったような気はする。サラサラの長めのストレートな黒髪が無造作に揺れている。

 ペラペラ話されるのも苦手だけど、何も言われないのはもっと不安だわ…せめて行先だけでも知りたかったけど、もう聞けるような雰囲気でもないし。


 段々と大通りから離れていき、細い道を歩いていると、ガラスでできた温室が見えてきた。

 前を歩く騎士の後に続いて入って行くと、息をするのも忘れてしまいそうなくらいの色鮮やかな美しい植物園が目の前に広がっていた。

 中央付近のテーブルには既に二人が座っている姿が見えた。


「お待たせして申し訳ございません。」

 慌てて小走りで駆け寄る私にアルベルトが立ち上がって静止した。

「大丈夫だよ、ゆっくりで。それより昨日は大丈夫だった?無理していない?」

「お気遣いありがとうございます、アルベルト殿下」

「アルでいいよ」

「あ、アル様。昨日は本当に」

「敬称もいらないし、いつも通りにしてよ。俺たち…これからも変わらず友達だろう?」

 食い気味に私の言葉は遮られた。

 少し不安気に寂しさを滲ませた青い瞳に見つめられて、できれば関わりたくないと思っていた私の心はグラグラ揺れてつい言葉に詰まる。


 うう…子犬のようなそんな目で見つめられると…イケメン付与で効果が倍だわ…王子なんて嫌ですぅって言える雰囲気じゃないし。

 悩んだのは一瞬ですぐ諦めた。私は面倒くさがりであると同時に諦めも早い性格なのだ。すぐにいつものようにアルを見て可愛く微笑んで見せた。


「分かったわ。これからも友達としてよろしくね、アル」

「良かった。俺の方こそよろしくね、リア」


 美少年の天使スマイルのビジュアル強すぎる…

 嬉しそうにはにかむアルベルトの殺傷能力のあまりの高さに、少し心を落ち着かせようと視線を外した。

 私たちのやりとりの様子を片手で頬杖をつきながら、どうでもよさそうな視線で見ているレオンハルトとばっちり目が合った。


 や…やば…っ。完全に忘れていたわ!


「れ、レオンハルト殿下。ご挨拶遅れて誠に申し訳ございません。昨日は大変のご無礼を重ねてお詫び申し上げましゅっ…。」

 ついついアルと話し込んでいたせいで不本意ながら無視する形となってしまったのだ。慌てて話しかけたら、思わず舌を噛んでしまった。

 言えていないし、めちゃくちゃ痛いし。我慢できずに思わずちょっと涙目になる。


「レオ、リアが怖がっているだろ」

 いつもよりも低いアルの強い口調にゲームを思い出す。

 そう、アルベルトはレオンハルトに対していつだってピリピリしていて仲が悪かった。


 で、でも。これは本当に違う。完全に悪は私。確かにレオンハルトは怖いけど、涙目なのは舌を嚙んでしまっただけなのに~…っ。

 テンパりすぎていてなかなか言葉が出てこない。


「ふーん、それは悪かったね」

 先に口を開いたのレオンハルトだった。全く悪びれる様子もない台詞にアルベルトが更に険しい表情を浮かべる。

「お前なっ!」


 って、まずい。もちろん実際に悪くないし。慌てて止めに入る。

「ち、違うの、アル!慌てて舌嚙んじゃっただけなの。だからレオンハルト殿下は何も悪くないわ。むしろ挨拶が遅れた私の方が失礼だったわ」

「…リアがそう言うならいいけど」

 少し不満気なアルはあまり納得していないみたいである。まぁ、仕方ない。とりあえず昨日一番迷惑をかけたレオンハルトにちゃんと謝罪しておかないと。


「改めて昨日は本当にご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした。お手まで煩わせてしまいまして」

「謝罪は受け入れたよ。もうそろそろいいかな?」

「お忙しい中、お時間を取らせてしまい申し訳ございません」

 私の返事を最後まで聞くことなくスタスタと振り返る事もなく、用が済んだとばかりにレオンハルトは温室から出て行ってしまった。

 その後ろ姿にまたアルベルトがため息をつく。

「はぁ…本当に失礼な奴でごめんね」


 レオンハルト第二王子様の心意を知っている私は少し複雑な気持ちになりながらも気にしないでと笑って、これ以上引き止めるのも悪いのでその場を後にてして別れた。



 それにしても…少しだけ肩透かしではある。

 何も聞かれなかったわけだし、やっぱり声に出ていなかったって事でいいのよね?それともただ聞こえていなかっただけだとか?

 どちらにしてももう心配事は解決したし、早速家に帰って魔法特訓スタートだわ!


 ウキウキした気持ちでエントランスまで戻るとグラン公爵家専用の馬車が見えた。帰りも同じく案内してくれた騎士は相変わらず無口であったが、エントランスで一礼するとすぐに城内に入ってしまった。

 リアーナの姿に気づき、グラン公爵家の従者が馬車の扉を開けてくれたので、中に入って腰を掛けた。閉まりかけた扉の隙間から従者の困惑気味な荒げる声がして、急に勢いよく扉が開いた。

 入ってきたレオンハルトは当たり前のように私の目の前に座った。


「で、君は僕をどうして国王だと?」



 先程より低いその声を聞いて、私の喉は思わずヒュッと鳴った。

10歳の迫力ちゃうねん。でも日本人じゃなくて欧米人のイメージで見て貰えれば…

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