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2.とりあえず魔法よね

 さて、強くなる為にはどうすればいいのか。

 膨れたお腹をさすりながら部屋に戻ると、早速机に向かって私は先程の思考の続きを頭の中で巡らせた。


 まず死を回避するのは覚えている事のメモもしておかないといけないけど、それよりも前に自身の強化方法について考えなければいけない。



 ゲームでは授業を受けたり、模擬戦、課外実習などでの戦闘、イベントなどでレベルアップをして、経験値を貯めて、それをそれぞれ戦闘スキルなどに振り分けしてステータスを上げていった。またそもそものスキルの取得は本を入手した時点で自動取得できた。


 でもここは当然、ゲームじゃなくて現実。戦闘のチュートリアルも無ければ、ステータス確認画面も見られない。

 どうレベルアップできるかが分からない。魔力の上げ方も、攻撃力の強化も、防御の強化も、スキルの取得方法も何一つ検討すらつかない。


…うわ、そもそもレベルの概念も絶対ないわ。



 ちなみに今、私が毎日家庭教師から習っている授業といえば大体は座学中心で語学や歴史や算術などの勉強と、マナーや裁縫、ダンスなどの貴族令嬢としての嗜みである。

 やっていてもちょっとした護身術用の体術であるが、これはあくまでも相手が油断していたり、魔法を使わないような相手への緊急的な対処であって、武器や魔法を使う者の前ではあまりにも無力である。


 魔術や魔法実践などは十三歳の魔法学園への入学から始められるが、魔力測定自体は既に七つの時に教会で終えていて自分の各属性数値から魔力量まで既にきちんと把握している。

 お兄様は普段王城で殿下たちと勉強しているので実際何を学んでいるかは不明だが、以前簡単な魔法を私に披露してくれた事がある。

 つまり、私も入学まで待たずとも勉強さえすれば魔法は使えるはずなのである。



 あーだこーだ考えても何も始まらないし。まずは現在進行形で魔法の勉強中であるはずのお兄様を頼ってみましょう。

 というわけで、勢いに任せてお兄様の部屋の前まで来てしまったけど本当に良かったのかしら?

 でも引き返すのも面倒だしと一瞬にして頭を切り替える。私は考えるより行動派なのだ。


 よし、とりあえず腹を括りませんと。

「お兄様、今よろしいでしょうか?」

 内心少しだけ緊張しながらもノックをして声をかけてみる。

 すぐに目の前の扉が開き、ロバートの近侍であるロイが扉を抑えている。促されて中に入ると、ロバートがニコニコと此方に向かって歩きながらご機嫌そうに招き入れてくれた。

「リア、どうしたんだい?嬉しいけど明日は殿下たちへの謝罪で僕達と登城するんだから早めに寝た方がいいんじゃないか?」


 …そうなのよね。夕食時にお兄様と話し合って登城する事になったのよね。先触れはお兄様の方でやってくれたけど。

 忘れたかった現実を前に少し戦意喪失しそうだわ…何とか気持ちを奮わせないと。


「ご心配には及びませんわ、お兄様。夕飯前までぐっすり眠っておりましたもの。それよりお兄様にお願いがあるんですの」

「なんだい?僕の可愛いお姫様」


 少し話が長くなるのを感じ取ったのか、テーブル席まで私をエスコートして座らせてくれた。

 すぐにロイが目の前に淹れたての紅茶を優雅に置いた。ロイは相変わらず上品で、センター分けで緩くカーブしている癖のある茶髪に、桃色の瞳が優し気なイケメンを更に際立たせている。お礼にニッコリ微笑んでみると、穏やかな笑みで微笑み返してくれた。彼の家は伯爵家の三男坊である。

 ゲームでは名前すら出てこなかった使用人でこのレベル…この世界ってイケメンしかいないのかしら…いや、金持ちだからか。富の集中箇所に美も集まるのは当然よね、うん。


「私ね、お兄様みたいに魔法を使ってみたいの」

 上目遣いでお兄様を見つめる。

 急に強くなりたい!なんて言っても相手になんてされないのは目に見えている。お父様同様お兄様だって私に対しては過保護で激甘なのだ。それであればまずは魔法の勉強方法から知る必要がある。


 そもそも学園入学時のリアーナ・グランのステータスが著しく低かったのは全て彼らのせいであるとしか思えない。

 ゲーム上、彼女は魔法を使ったことがない初心者の為の魔法基礎コースから平民のヒロインと一緒に勉強していたのだから。扱いが完全に箱入り娘すぎる。


「リアが?」

 少し驚いたような顔のお兄様に向かって、予め考えておいた理由を畳みかける。

「去年見せてくれた炎の蝶々、とっても綺麗だったんですもの。お兄様ばっかずるいですわ。私だって見るだけじゃなくて作ってみたいもの」

 ダメ押しにちょっと拗ねたように視線を斜め下に向けて、わざとらしくぷくっと頬を膨らませて見せた。


「…はっ!僕のリアが今日も可愛いすぎる…死ぬ…っ」

 ちょっと威力が高すぎてしまったのか、暫く金縛りにかかったように停止していたロバートは、そのまま座っているソファに横になって沈みこんでいってしまった。



 …思っていた以上に効果抜群だわ。嬉しいけどお兄様はこんなんで本当にいいのかしら?こんなんでいいなら前世での私の持っている技がたくさん有用になりそうだわ。

 美人であった見た目を利用して、仕草からポーズ、どうしたら相手に好感を持って貰えるのか、色々と研究していた。

 持っているものを最大限利用して楽に生きていく、そんなスタイルで前世は生きていた。今世では特上の容姿を手に入れたのだ。きっちり活用して生きていかないと。暇な時に鏡でもチェックしてリアーナの表情の研究でもしよっと。



「ロイ、図書室から基礎魔法の本を」

 漸く復活したお兄様は先程の醜態を気にする様子もなく、手早くロイに指示を出した。

 流石はお兄様。テキパキとできる男風でとってもかっこいいわ。さっきの事は忘れてさしあげましょう。


「承知いたしました」

 すぐに静かに退室するロイをちらりと見てからお兄様に視線を戻す。

「リアは魔法の種類についてどれくらい知っているかな?」

「えっと…自然魔法に特殊魔法、固有魔法…あと古代魔法です」

 ロバートからの突然の質問に一瞬だけ詰まる。リアーナの頭脳にはない記憶みたいだ。ゲームの記憶を思い出しながら答えた。

「うん、そうだね。古代魔法なんてよく知っていたね。もうほとんどが失われた魔法ではあるけどまだ研究はしているし、古代魔術としても残ってはいるからね。ただ僕たち魔法使いが使うのは基本的には自然魔法や特殊魔法だ。我が国では自然魔法の方がよく使うけどね。ちなみに自然魔法の属性については?」

「光、闇、火…水と風と…」

「土だね。リアは本当に物知りだね」

 少し詰まっていたらロバートはさらりと付け足して、ニコニコと笑いながら私の頭を撫で回してほめてくれる。

「あ、ありがとうございます。//」

 何だか少しくすぐったいような不思議な気持ちになり、はにかみながらお礼を言った。


 お兄様ではあるけど、威力の高いイケメンには変わりはない。これはもうご褒美タイムすぎる。自分に絶対手を出さないイケメンとかまさに理想すぎる…

 はぁ、もう貴族の結婚とかめちゃくちゃ面倒そうだし、一生ここで住めないかな…ニート枠いけるんじゃないかしら…?


「魔法は基本的には杖を使って行使するんだ。基礎魔法とスキルを使う魔法の二種類がある。基礎魔法は対象に向けて杖を振って、発動させたい属性と動作してほしい具体例な命令を声に出すんだ。動作の命令が抽象的すぎても発動しないし、言い方のニュアンスが曖昧だと思ったのと違う発動の仕方をする事もあるから気を付けてね。魔法にとって感覚やイメージ、表現の3つが一番大事になるんだ」

「難しそうですね…それに杖がないと魔法は使えないんですね…」

 思わず声に少し落胆が混じってしまった。


 確かにゲームキャラはみんな杖を持っていたと思う。勿論今の私は杖なんて持っていない。まさかそこから入手しないと修行できないとは…すぐに修行というわけにもいかないみたいである。やっぱり現実は世知辛い…


「基本的にはね。あと魔力量やコントロール力によっても持てる杖の大きさは変わるよ。大きさは三段階に分かれていて、自分にとって適切な武具を使うのが大切なんだ。相性があるからね。杖以外には指輪もあるかな。お父様は指輪だから、いつもつけているし今度右手の人差し指を見てごらん。後はそうだなぁ…他に騎士とかが使う特殊な魔法兼用の剣などの武器もあるからそれを使う事もあるね。レオみたいに武具がいらない魔法使いもいるよ。まぁ、レオは無詠唱でもあるけどね」


「す…すごいお強いんですね…」


 …少し待って、気持ちの整理をさせて。本編開始の三年前から既にその強さなの?魔王様か何かなの?

はっ、もしかして魔王様が間違って転生してきたんじゃ?ありえる、だって私だって転生してきたわけだし。さすがにちょっと恐怖すぎる。

 ガチ目に若干引いてしまったのはご愛嬌として許してほしい。


「レオは天才だからね。戦闘において魔法の発動の速さはかなりのアドバンテージになるからね。スキル使用の魔法は詠唱を覚えないと戦闘では使い物にならないよ。いくら威力があっても発動が遅ければ剣で切りつけた方がよっぽど早いからね。詠唱は短ければ短い方がいいし、技名のみで重い通りに発動できたらそれだけでも最強だよ。あぁ、でも縮めると大抵威力が落ちるから余裕があったら全て詠唱した方が確実だね」

「な、なるほど…」


 魔法を使うのは想像以上にゲームの世界と大分異なっていて大変そうみたいである。

はぁ…ゲームではスキルボタン1クリックで発動だったんですけど。ちょっと魔法へのテンション下がっちゃうわー…


 …が、頑張れ、私。頑張ろう、私。


「…ちなみにお兄様は詠唱なしでもいけますか?」

「うーん…基礎魔法であれば無詠唱だってできるけど…ほら、この間の蝶みたいにね。流石に他はね。初級魔法でやっと技名のみのは得意なのだけで、発動で精一杯だよ」

 ロバートは少し肩をすくめておどけたように茶目っ気たっぷりにウィンクしながら軽く微笑んだ。


 待って、お兄様は12歳で技名のみの詠唱も可能なの…?末恐ろしすぎません?

 考えてみればロバート・グランのルートでは唯一後編での戦闘シーンがなく、乙女ゲーらしい選択肢のみが展開されていくルートであった。

 操作したことがないから全く強さが分からないのよね…


「お兄様はどのような杖を使っているのですか?」

 確かゲーム内でのロバート・グランの立ち絵は指輪を嵌めていたと思う。


 ちなみに杖の大きさは人によって異なっていた。レベルが上がるごとにヒロインの使う杖の大きさはどんどん小さくなっていき、絵面的には最初に使用する初級用の杖である大きい木の杖の方が見た目的には魔法使いっぽくて好きだなと思った記憶がふと蘇った。


「これだよ」

 意識を彼方に飛ばして遠い目をしていた私はお兄様の言葉に反応して、テーブルに置かれた箱に意識を戻した。

 そこにはペンサイズで装飾の美しい青い杖が収まっていた。

「…綺麗…」

 うっとりとする繊細な細工と綺麗な青色の見た目に思わず感嘆する。

「リアにはこれを」

 ロバートは左手で隠し持っていたらしい傘くらいの大きな木の杖をリアーナの前に差し出した。

 


 そう!これよ、これ!!これがゲームで見た初級用の杖!!すごい!!そのまんまの見た目だわ!!

 思わず大興奮しそうな気持ちを何とか抑えようと思ったが無理だった。気づいたら私は満面の笑みで勢いよくお兄様に飛びついていた。


「嬉しいです、大好きお兄様!!ありがとうございます!!頑張ってお兄様と一緒に蝶々出せるようになってみせます!」

「くぅ…健気な僕の天使……」

 暫くロバートは悶絶してそのままぎゅうぎゅう抱き締め返してくれた。

「リア楽しみにしているよ。もし分からない事があったら何でも僕に相談してくれて構わないからね」



 これでやっと魔法の修業ができる、そのスタートラインに立つことができた。



進撃の巨人アニメ面白い。けど、ワンピースも気になる…ってか何故今迄2つとも見てなかったんだろう…追いかけるの時間足らん。

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