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20.鳥籠から出られない鳥のような気持ちです

 あれからずっと自室から出して貰えない生活が続いている。

 唯一出られるのは食事の時のみで、事件の時よりも厳しい軟禁生活を送っている。誰の姿も見えないまま、ただ寝て食べての生活を余儀なくされている。


 いつも通り一人で静かに夕食を食べた後、自室に戻った。

 家庭教師すらやってこないので自習しかすることもないし、庭に出る事もないので走り込みはできていない。



「内なる水よ、そのコップに氷で満たせ」

 杖を持って置いてあるコップに向けて詠唱すると、コップの中には薄い氷の張った水が現れた。

全てを凍らせたかったのに、思ったようになっていない。

 


 既に火の属性のコントロールの訓練は終えていて、水の属性にコントロールの訓練に移っていた。水を思い通り出す事はできるようになったので、今は温度のコントロールを練習している。



 軽くため息を吐き出すとそのままベッドに仰向けに寝転んだ。

 集中があまり出来ない。



 あれからどうなっているか全く分からないし、この状態がいつまで続くかも分からない。

 二人はどうしているだろ…マティとレオを思い浮かべた。


 きっとマティは…自分を責めているよね。申し訳ないことをしたわ。

 自分の力の無さを改めて思い知る。


 それでもマティがゲームシナリオのような酷い目に遭わなくて良かったと心から断言できる。私のした事は無駄でないと信じたかった。


 あの後、迎えが来て私は彼らとそのまま別れた。

 まさかあれからずっと会えなくなるとは思っていなくて、ちゃんとお礼も言えていない。



 結局あの事件は何だったんだろう?

 上位貴族の関わる子供達の誘拐事件ではあるのは確かだろう。ただ目的についてはあの会話だけでは私には理解できなかった。ゲームでも詳しくは載っていなかった。


 当事者なのに、自分の力が不甲斐ないばっかりに、一人取り残されているのが歯痒い。


 それに結局、本も借りられずに調べたかった王国の呪いについても何も進展がない。

 早くまた図書館にも行きたいな…



 扉がノックされて、促すとアナでない屋敷の侍女たちが入ってきた。

「リアお嬢様、湯浴みのお時間です」

「分かったわ」

 毎晩決められた時間に彼女たちはやってくる。もちろん毎朝の着替えも。


 いつもは私に合わせて支度を手伝っていたアナはここにはいない。

 あの日からアナにすら会えていなかった。彼女はどうしているのだろう…責任を取らされて解雇でもされたのだろうか?

 せめて置いて行った事を謝りたいのに…謝る事すらできていない。


 憂鬱な気持ちで入浴する。今日もちっともリラックスなんてできなかった。



 彼女らを見送って、ベッドで寝ようと思ったが寝付けなかった。

 心が沈んでいるし、眠くなんてない。

 薄いロングカーディガンを羽織って寝巻のまま、バルコニーの窓を開けた。

 

 心地よい風が入ってきて、長い柔らかい水色の髪の毛が靡いていく。

夜空はたくさんの星が煌めいていて綺麗だったのに、ちっとも心は動かされなかった。



「ねぇ、今いい?」

「え?」


 後ろの上の方から声がして、振り向いて屋根を見上げた。

 するとレオが空から降ってきた。


「っ!?」

「久しぶり」

 ビックリして声も出ていない私を気にする様子もなく、彼は手すりまで歩いて行き、その上に腰を掛けた。


「れ、レオ!?って、あっ」

 思わず大きな声を出してしまい、私は慌てて手で口を塞いだ。

「防音魔法かけているから平気」

「…そう、良かったわ…あの…中に入る?」

 ほっと胸を撫でおろして、塞いでいた手を下におろした。

「夜に令嬢の部屋に入るのは失礼だからここでいいよ」


 …どうやら正門から来る常識はないが、夜間に女の子の部屋に入っていけないと言う倫理観は持ち合わせているらしい。

 色々つっこみたい気もしたが、会えたという嬉しさの方が勝った。


「ふふ…」

 何だかそれが無性に可笑しくなってきて、笑ってしまった。

 彼の隣に立って、手すりの上に両腕をクロスさせて前方にもたれかかりながら、夜空を見上げた。さっきまで見えていた星がやっと美しいと感じられた。


「ずっとレオに会いたかったわ。あの日は本当にありがとう。お陰で私は助かったわ。あぁ、そうだわ!マティにもお礼を言いたいし、謝りたいの。あれから私誰にも会えていなくて…ずーっと軟禁状態なんだから」

 ついつい愚痴っぽくなってしまい、段々と声の大きさが尻すぼみになっていく。

「知っているよ。君が今誰にも会わせて貰えない状況なのは。でも大分片付いたから後少しでグラン公爵たちが屋敷に戻ると思うから…そしたら多分元に戻ると思うよ」

「そうなの?ねぇ、一体何があったの?あれは何だったのかしら?」

 私が問いただすと彼は少しの間押し黙った。


「…知りたい?」

「そりゃ!あんな危ない目にあったんだもの。いや、まぁ…それは自業自得かもしれないんだけど…」

 ついモゴモゴと口ごもってしまう…

 勝手について行くだけついていって迷惑をかけたのだ。脱出もできなくて結局レオ頼りになってしまったし…


「いや、マティがお礼を言っていたよ。それにあの子達も助かった」

「別に私は何もしていないわ。何もできなかったもの…」

「君の逃した男の子があそこを教えてくれたんだ。だから僕は早くにあそこを見つけられた」

「そうなの?でもよかったわ!あの子も無事なのね」

 嬉しくてつい声のトーンが上がった。

 ゲームシナリオにない行動の中で、正直一番の賭けであった。私がした事で思わぬ効果があった結果に嬉しくて頬が緩む。


「だから僕からも改めてお礼を言うよ。マティを、そしてこの国の国民を助けてくれて本当にありがとう」


 彼の真剣な言葉に驚く。

 彼はいずれ狂王となり人々を殺すかもしれないが、今は立派な王族なのだとこの時初めて知った。


「いいえ、私も貴族だもの。当たり前の事をしたまでだわ」

だから私もニッコリ微笑んでみせた。


「あれは魔力を持つ子供を狙った連続誘拐事件だよ。しかも上位貴族が関わっているね。君らを監禁していたのは雇われた下町のゴロツキだよ。全員取り調べは行ったけど、あくまでも下請けで何も情報は得られなかったけど。でも君の従者が図書館の地下で密談していた二人を生け捕りにしてくれてね」

「え?アナが?」

 ついつい驚いて話の腰を折って聞いてしまった。

 私を待っていたはずのアナは何故だかあの二人を拘束していたとは…

「僕の指示でね。でも残念ながら取り調べ中に突然発火して死んでしまってね…実際の証言は得られなかったから真相は闇の中…って感じかな」

「…発火…それに…真相は分からないのね…」

 何だか意味が分からなくてオウム返しにその言葉を繰り返す。反芻しても意味なんてさっぱり分からないが、なかなか壮絶な状況だったのだろう。


「いや、正確に言うと証言は得られなかったが君の従者のお陰で推測はできる」

「推測?」

「揉み合った際にシャルマン侯爵の胸元に蛇の、ウロボロスのタトゥーを見たそうだ」

「…ウロボロス?」

 よく分からなくて首を傾げる。

 ウロボロスといえば確か蛇や龍っぽいのでデザインされている∞だか○だかの形のマークだったわよね。


「帝国の話になるし噂話のレベルだけど…ウロボロスと名乗る秘密結社の連中がいる」

「え?秘密結社?」

 ゲームには出ても来なかった単語に思わず聞き返す。

 何それ?まるでイルミナティとか薔薇十字団みたいじゃない。どの世界にもあんな都市伝説みたいな存在がいるわけ?

 妙な悪寒が体を駆け巡る。


「まぁ、ウロボロスのマーク自体は昔からよく見るものだよ。実際はよく分からないけど、『不老不死』を掲げる謎の組織だと言われているね」

「それが関わっているの?」

「推測だよ。本当にタトゥーがあったかも、もう確認の仕様がないからね」

 小さくレオはため息をついた。


 自分が思っていたよりもずっと闇が深い事件みたいである。

 帝国の存在がちらつくのがまた不気味さに拍車をかける。いずれ、場合によってはリアタタール王国に侵略戦争を仕掛けてくる国なのだから…


「もう遅いしそろそろ行くよ」

 帰ろうとしたレオの腕の裾を思わず掴んで引き止めた。

 掴まれて動けない彼は少しだけ首を傾げて、私を見つめている。自分でも何故引き止めたかよくわからなくて混乱する。

「…また会いに来てくれる?」

 間近で彼の金色の瞳に見つめられると、何だか少し鼓動が早くなってしまう。やっぱり無表情であっても恐ろしいくらい美形だし、近いのはドキドキする…

「いいよ。またね」

 私が手を離すと彼はすぐにまた屋根の上に登ってしまい、暗闇の中に消えていってしまった。



 さっきまではウロボロスという不気味な組織に薄ら寒さを感じていたのに、今は何だかもう少しレオに傍にいて欲しいと思っている。



 この感情が何なのか自分でもよく分からなかった。



やっぱ悪の組織って秘密結社みたいなのですよね。ウロボロスが悪の秘密結社かはわかりませんが()

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