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1. まずは記憶の整理をしましょう

 目を覚ますと自室のベッドの上だった。


「うっ…」

 可愛いピンク色の天窓カーテンのついた高級そうなフカフカな大きいベッド、高価そうな調度品で整えられているファンシーな大きい部屋内を見回す。

 どこからどう見てもいつもと変わり映えのない部屋なのに、愛用していた父からお下がりの古い大き目なデスクトップPCがないかと思わず起き上がって再度辺りを見回してしまった。

 当たり前だけどそんなのあるわけがない。だって私は…


「…私はリアーナ・グラン…」


 呟きながら、以前いた世界での私の名前は全く思い出せなかった。その代わりリアーナの今までの記憶と意識と同期して不思議な感覚に陥る。

 私はリアーナであるけど、それと同時に前世に日本人としてこのゲームを楽しんだプレイヤーの意識もあるのだ。複雑ではあるがきっと私は前世で死んでしまい、今ここでリアーナ・グランとして新しい人生を歩んでいるのだろう。


 徐々にリアーナとしての思考もクリアとなっていき、思わず両手で頭を抱え込んだ。

「ど、どうしましょう…」

 どう考えても取り返しがつかない酷い粗相だ。お父様とお兄様の面目を潰したどころか、第二王子に介抱されていたとこ…。


 …っ、て待って。私なんか言わなかった?

『レオンハルト国王』って言った?

 ダメだ、やっぱり声に出ていた気がしてきた。あ、それとも聞こえていない説ない?と、とりあえず今からでも遅くないはず。今すぐ神に祈ろう。神頼み大事。


 神様、まじで助けてください…転生したばかりですぐメインヒーローに目を付けられるとか嫌すぎるんですけど…



 胸の前で両手の指をクロスさせて静かに、でも心の中で必死にお祈りをしていると部屋の前で物音がした。

「リアお嬢様、お目覚めですか?入室しても?」

「…えぇ、大丈夫よ」

 全然精神状態は大丈夫なんかじゃないけど。それでもそんな動揺なんておくびにも出さないよう気を引き締める。


 軽いノックの音に反応して促すと侍女であるアナが静かに入室した。

 茶色の髪は頭の高くで三つ編みで編み込んでお団子状にまとめられ、毛先などは一切出ていない本人の完璧主義で真面目な性格がよく表れている髪型。キリっとした灰色の瞳は常に冷静で無表情、自発的に話すような愛想のあるタイプではなく口数は少ない。クールビューティである。

 彼女は入室するといつも通り淡々と声をかけてきた。


「お加減は?」

「…まだ少し頭痛がするから横になってもいいかしら?」

 あら、ちゃんと令嬢モード変換される。何この有能な機能。

「分かりました。あと2時間程で夕食のお時間ですので、また起こしに参ります」

 アナの後ろ姿を見送って、私は我慢できずに大きくため息を吐き出した。



 私は前世では元々ゲーマーであった。

 恋愛系にそんな興味はなく、SF、ファンタジー、RPG、ホラー、推理まで恋愛以外ならジャンルは何でもござれ。

 その代わりプレイ技術が高い訳でもなく、あくまでもストーリーを楽しむのが大好きなそんなライトゲーマーであった。

 そんなゲームライフの中で出会ったゲーム。


【呪われた王国~紡ぐ二つの魂~】


 乙女系ゲーのジャンルを謳っておきながら、どう考えても死にゲーRPGとしか思えないPCゲームであり、出てまだ一年経っていない新作オンラインゲーム名。

 イラストがドストライクだった事とそこまでラブラブな描写はないと聞いてプレイしてみた。


 そしてこのゲームの何がすごいってエンディングリスト数が非公開のせいで完全コンプリートまでいくつ足りないかが一切わからない。

 だってバッドエンド数がえげつなく多いし…そもそもゲームオーバーの数も負けていないんだけど…

ただバッドエンドはリスト埋め目的以外にも非常に重要で、集めた数に応じてそのヒーロー視点のショートストーリーが解放されていくのだ。それを見たさに心を抉られながらも(主に内容がえげつなくって)死ぬ思いでめちゃくちゃ頑張った。


 そんなエンディングリストの多いゲームだが、メインヒーローにのみトゥルーエンドは存在する、というのは運営によって名言されていた。が、まだ誰も辿り着く人がいなかった。

 会った順序でも選択肢でも好感度上昇率が変動し、戦闘に至っては誰得なんだ?とビックリするレベルで頭を使う。ゴリゴリ火力だけで押せるようなゲームでもなく、きちんと補助やアイテムなどを駆使しないと絶対に敵ボスキャラは倒せない。


 絵柄の美しさとヒーローの格好良さで手を出したライト系女性プレイヤーを完膚なきまでに叩きのめした。途中で諦める人が続出。

 このゲームは基本的には月額課金のみで、強化やアイテム課金は一切ない。


 普段オンラインゲームの課金なんて邪道!金持ちは悪!!という所謂、微課金ユーザーであった私だが生まれて初めて、お願いだから強化課金させて下さい!とガチで全力で泣いた。


 金で買える強さ、ジャスティスっ!!と初めて共感できた。


 それなのに無情にもその熱い想いが運営に届く事はなかった。リリースから変わらず強化での課金は一切なかったし、ステータス調整のメンテナンスすら入らなかった。


 ただグラフィックもアバターも美しく、戦闘も鬼畜すぎてやりこみ要素あるという評判を聞きつけた男性プレイヤーも増え、非常に有名で人気の高いゲームになった。日夜、活発な掲示板での情報交換は欠かせなかった。


 登場する攻略対象であるヒーローキャラは全部で5人。

 ヒロインである平民のアリアが聖女といて成長していき、その稀有な魔法を使ってヒーローたちを助けて困難に立ち向かい愛を育んでいく、はずのゲームであるがヒーローたちのそれぞれ抱える闇が凄まじい。

 どのキャラも大抵は恋愛?なにそれおいしいの??というレベルで甘いムードを求めるのは無意味であるエンディングリストに、制作陣に対して一層清々しさすら感じた。

 グッドエンドですらグッドでない。ともかく人が死にまくる。ヒーローにもヒロインにも容赦ない。それでもあってダブルネーミングで『死にゲー』として呼ばれるようになった。



 通称、乙女系死にゲー。



 その中で誰よりも一番印象深く覚えていて、恐怖でしかなかったメインヒーローの一人の第二王子、レオンハルト・ヒュンメルシュタインである。


 このゲームはメインヒーローである第一王子アルベルト・ヒュンメルシュタインと第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインのルートを攻略するのには、他の3名のヒーローのノーマルエンドとグッドエンドをそれぞれ出さないとそもそもルートが現れない。

 全てのルートをとりあえず出現させたかった私の前に立ちふさがり、全力で邪魔してきたのがこの第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインである。


 前半と後半に分かれているゲームにおいて、彼はあるヒーロールートでの後半の正真正銘のラストボスキャラである。

 ともかく鬼のように強い。超攻撃特化型なのに防御も信じられないくらい固い。且つ神に愛されているのかというレベルで、確率で当たる必殺技攻撃は彼の前では絶対に当たらない。これを成功して当てられるという人は掲示板に張り付いて血眼で探しても現れなかった。

 そのせいで地道にHPを削っていくしかない。それなのに彼の高火力必殺技は全て必中である為、あともう少しの所で死ぬという事態も数知れず…

 正直当初からバグをずっと疑っていた。それは他のユーザーも同じ思いだったみたいで、公式もあまりに問い合わせが多かったのか「仕様です」という端的な回答が通知で上がっていた。

 あまりの鬼畜仕様に戦意喪失が大半だったと思われる。


…私も何度挫けた事か…

…何度絶叫した事か…

本当に涙なしでは語れないレベルである。


 ちなみにゲーム上では第一王子アルベルト・ヒュンメルシュタインのみが第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインの攻撃を完全無力化できるらしい。

 らしい、というのもこのゲーム、前半パートの学園編の途中で必ずどちらかの王子が死ぬ。どちらも助かるというルートが未だ発見されていない、というのが通説だ。


 第一王子アルベルト・ヒュンメルシュタインが死亡して第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインが王位を継ぐと、大抵何故か狂王となり彼がラスボスとして立ちふさがる。


 第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインが死亡して第一王子アルベルト・ヒュンメルシュタインが王位を継ぐと、必ず隣国である軍事国家の帝国に侵略戦争を仕掛けられて、帝国の皇太子がラスボスとして立ちふさがる。ちなみにこの皇太子、レオンハルト・ヒュンメルシュタイン並みに恐ろしく強い。

 ただ、レオンハルト・ヒュンメルシュタイン死亡後のアルベルト・ヒュンメルシュタインは覚醒してめちゃくちゃ強くなる。お陰で攻略はまだマシとなる。



それよりも少し冷静に自身の立ち位置をおさらいしておこう。

 

 リアーナ・グラン


 四大公爵家の中でも筆頭として頭一つ抜き出た王家に一番近い家柄で、サブキャラであるが彼女は二人の王子たちの筆頭婚約者候補でもあった。実際ゲームではヒロインが他のヒーローを攻略対象とした場合、どちらかの王子死亡後の残った王子の婚約者となる。

 彼女は『人形姫』という愛称で、美しいドール人形のようにいつも穏やかな笑みを称えつつ、物静かで慎ましやかな性格だった。聖女のような優しさで、淡雪のように溶けて消えてしまいそうな儚さ。折れそうな程の細い肢体なのに、出るところはきちんと出ているという女性らしい体型。

 ゲームの中でも、プレイヤーの間でも男性人気はダントツの一位だった。ヒロインのアリアが霞むレベル。女性プレイヤー人気でいえばヒロインのアリアとの差はそこまでではないが…つまり男受けナンバーワンキャラである。

 立ち位置としてはヒロインのアリアの親友やサポート役で、平民であるアリアが攻略対象者である王族や高位貴族に近づけたのは彼女のお陰と言っても過言ではない。


 王子殿下たちのルートでもヒロインよりヒロインらしい彼女は、その穏やかな心優しい性格で幼馴染としてがっちりハートをキャッチしていて、ルートに登場する悪役令嬢なんかよりずっとずっと手強い相手だった。


 しかしこのリアーナ・グランはゲーム上で唯一絶対死ぬ、一切の救いのないキャラクターであった。

前半で起こるどちらかの王子かが亡くなる事件に居合わせて、ヒロインのアリアに守られて生き残るか、守られずに死ぬか、ここが最短。

 でもここを生き残っても最長で十八歳の誕生日を迎える前に必ず自殺か第二王子レオンハルト・ヒュンメルシュタインに殺される、何とも不遇なキャラクターなのである。




 このままでは最短で私は5年後の冬に死ぬ。

 二人の王子に関わらなければ死なないかもしれない。が、現時点で第一王子とは王子だと知らずに仲良くなってしまっている。今更王子はちょっと…って言える雰囲気なのだろうか?すごく嫌な女じゃない?むしろ悪役令嬢にランクダウンしそう…

 第二王子に至っては第一王子を攻略中だったせいで、ルート攻略に一切手を付けていない。

 

 …こんな事なら詳しく見るべきだったわ。詳細を知らない時点で注意しないといけない人物でもある。

 最善は第二王子のみ全力で避けるというのがいい気もするけど…全く現実的ではない。それよりも殺されるのは分かっているわけだから理由を探らないと。



「めんどくさ…」

 思わず本音が零れ落ちる。

 前世の私はそもそもイージーモードの人生だった。

 ある程度裕福な中流家庭に生まれて、美形の両親の下、読モするくらいには美人としてそれなりにモテて楽に生きてきたのだ。傍から見ればきっと幸せな家庭だ。

 難点としては三次元の人間に興味がなく、二次元が好きだったこと。そもそも恋愛自体に興味がない。そのせいで隠れオタクでもあった。ゲーマーである事もほとんどの人がきっと知らなかっただろう。だからどんなにイケメンに口説かれても、素敵だなとは思ってもそれまでで特に心動くことはなかった。


 それなのに生まれはもう前回よりも最高クラスなのに、今回は運命がハードモードすぎません?しかも乙女系の恋愛ゲームの世界って…私じゃなくてもっと適任な恋愛脳を転生させてくれよ。人選間違えすぎでしょ…せめて完全攻略しているゲームにして欲しい。


 普通に楽してそれなりの幸せを享受して穏やかに平穏に暮らしたいだけなのに。だって平和主義者だし。こんな物騒な世界に放り込まれて、もうため息が止まらない状態である。



 とりあえず方針としては死にたくない。できれば攻略対象者とも関わりなんて持ちたくもない。イケメンは見て楽しむのであって、恋愛なんて面倒すぎる。

 ただリアーナが殺される理由は建国神話に描かれている王国の呪いが関係しているような匂わせの描写があった。それについてもちゃんとクリアしていないせいで、何の事だかサッパリ分からない。みんな死にまくるという縁起の悪さから呪いという言葉は正しいとは思うが。

 …いずれにしても時間がある時に十八歳の生死に関わる事だから、この国の呪いについても調べないといけないだろう。


 それによりもまずは最初の分岐点の事件である。

 それには守って貰えないと確実に死ぬか弱いリアーナ・グランのままではダメなのだ。

 何があってもある程度は自衛できる強さがないと、強くならないと、この世界では恐らく生き残れないのだろう。



 十歳の誕生日の今日、私は生き残るためにまずは強くなろうと決意した。


これからも人いっぱい出てくるし、外国人っぽい名前覚えるの苦手だから自キャラなのに既に混乱中。

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