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18.図書館に行きましょう② ※閲覧注意

閲覧注意です。

直接的な表現ではないですが性暴力が想像できる表現となっています。

 右耳にしているピアスの反応に驚いて、思わず持っていた本を落とした。

 そんな僕の不審な様子に並んで座っているアルは怪訝そうな目でちらりと見た。講師も不思議そうな顔で僕を見ている。


 このピアスは王家の特別な魔道具で、ペアとなっているピアスをつけている者が外した場合にのみ反応して場所を知らせるものである。王族が側近とペアでつけるもので、王族に何かあった際に側近に知らせられるようにするのが目的である。

 マティアスが側近になった日に、彼と一緒にペアでお互い右耳につけている。今このピアスが反応しているという事は、彼が何かしらの事態に巻き込まれたか何かで故意的に外して知らせている、どちらにしても助けを求めている可能性が高い。


「飽きた」

 一言呟いて立ち上がり、踵を返してドアに向かって足早に歩いた。

「おい、レオ!」

 後ろで咎めるようなアルの静止の声が聞こえたが、それを無視してドアを閉めると僕は風魔法を使って一気に加速して、共鳴先に向かって駆け出して行った。



 着いたのは図書館であった。中に入ると地下の方に反応を感じてそのまま階段を少し足早に降りていく。サロンの中に入ると、誰の気配もないのでそのまま走って奥に進んで行った。

 奥の方の床に僕のつけているのと同じ金色のピアスが落ちていた。僅かながら彼の魔力を感じる。〚感知〛を使ってみると彼の〚暗号痕跡〛の形跡があった。

 〚暗号痕跡〛は〚感知〛を使用した相手に居場所を知らせる特殊魔法で、使用者の現在地を追うことができる。ただその者の使用時から三十分以内に消えてしまうものでもある。時間との勝負になる。


 嫌な胸騒ぎがして急いでまたサロンを出て階段を上って少し足早に地上に戻った。

「レオンハルト様!」

 呼び止められて振り向くと、リアーナの従者が立っていた。時間もないし思わず少し眉を顰めた。

「お忙しい中申し訳ございません。リアーナ様が地下からまだ戻られないもので…下でお会いしましたか?」

 探るような彼女の言葉に心臓が嫌な音を立てる。地下のサロンは誰の魔力も感じなかった。つまりリアーナはあそこにいない。


「リアが降りて行った後、出入りした者たちは?」

「はい、シャルマン侯爵とリベル伯爵が出入りしました」

「リアは地下にいない。でも心当たりはあるよ。必ず連れ戻すから急いでその二人の家に行って何が何でも身柄を抑えてくれ」

「…リアお嬢様をお任せ致しました。ご命令の件はすぐに」

 彼女は下唇を噛み一瞬だけ悩んでいたようだが、すぐに何も聞かずに走り去って行ってしまった。色々聞きたいこともあるだろうに、本当に優秀な従者である。


 すぐにまた僕もマティの現在地を追う為に足早に図書館を出て、後を追うために走り出した。




 目を覚ますと床が見えた。体を動かそうとしたが動かない。

 後ろで腕は拘束されていて、更に足も拘束されていて身動きが取れない。足元の拘束を見ると縄で縛られているみたいである。

 体を捩じって何とか部屋を見渡すと同じように転がっているマティの姿が見えた。彼は更に目隠しと猿轡までされている。

 部屋の中はテーブルと椅子が置かれていて、更に奥の方には同じくらいの年齢のストロベリーピンクの髪の少女と銀色の髪の幼い男の子が同じように両手、両足を縄で拘束されていて転がっていた。服装から恐らく二人は平民だろう。


 気配に気づいたのか少女が顔を上げて此方を見た。グレーと薄いピンク色の瞳のオッドアイの目と合う。綺麗だけどとても珍しいなと一瞬驚いた。

「私はリアーナよ。ここがどこだか分かる?」

 話しかけると少女はフルフルと首を横に振った。かなり疲労しているようである。

 状況把握をしたかったが知らないのでは仕方ない。どうやらあの時気づかれて捕まったみたいである。

誘拐みたい…と思った瞬間、頭の中でピースがかちりと嵌まった。



 これってもしかしてマティアスの誘拐事件じゃない?


 ゲーム上で見た事件はマティアス含めて三人の子供たちが誘拐されて、それをレオンハルトが救出した。私を除けばこの部屋には現在三人の子供たちがいる。

 この事件…レオが救出に来るまでにマティはどうなっていた?すごく嫌な予感がして曖昧な記憶を辿っていく。


 そう、マティアスはこの部屋から男たちに地下に連れて行かれて、酷い目に遭うのだ。


 そこまで思い出してハッとする。

 いつ男たちが来るかもわからないし、時間がないわ。急いで拘束を解かないと。


 右手の人差し指にしている指輪の石の部分を押すと、カチッと音がした。

 この指輪は特殊な細工がされていて、石の部分を押すと短い刃が出てくるような仕掛けが施されている。お父様が特注で作らせたという魔道具だ。

 見えないが恐らく刃が出ているはずだ。縄の感触を頼りに何とか急いで切って行く。暫くすると手の拘束が緩まったので、そのまま縄から腕を抜く。自由になった腕で、今度は足の拘束も指輪の仕掛け刃で器用に切りながら解いた。


 マティアスに近づいてまずは目隠しと猿轡を外した。

「あんた…どうやって?」

 どうやら意識は取り戻していたみたいである。

 驚いたような表情で小声で問い詰めるように言うマティに、右手の指輪の刃を見せてニッコリ微笑んでみせた。

「少し待って」

 小声で話しかけながら、彼の腕と足の拘束している縄を手早く切って解いていく。

「杖は取られたみたいね…」

 自由になったマティは立ち上がり残念そうに呟く。部屋内をキョロキョロと見渡しながら物色を始めている。


「はぁ…ビンゴみたいだけど最悪な状況ね。巻き込んで悪かったわ」

「気にしないで。それより脱出方法について検討しないと」

 マティが部屋内を物色している間に、残りの二人の拘束も解いた。

「小声で話して。大丈夫?」

 こくこくと首を縦にして頷く二人。幼い男の子の泣きはらした目が痛々しい。


「ダメね。上に窓があるけどあれじゃ小さすぎて無理だわ」

「ねぇ、この子なら出られるんじゃないかしら?」

 マティの指さした先の窓を見て、幼い男の子なら出られる可能性があるかと思い聞いてみた。多少怪我する可能性はあるが平気だろう。

「でも何階か調べないと…」

 椅子を動かして外を確認しようとするマティを私は止めた。

「大丈夫、一階よ。早くして」

「え?どういうこと?」

「説明はあとよ、急いでこの子を肩車して出るのを手伝ってあげて」

 言いながら男の子の手を引いて窓まで移動した。しゃがみこんで男の子と目を合わせる。

「ここは三番街区近くの森の中よ。外に出たら隠れて、三番街区まで逃げて知らせて。でも周囲にも悪い人たちがいるかもしれないし絶対に無理しちゃダメよ」

 男の子は不安気な顔をしつつも、こくりと頷いた。


 何か言いたげそうなマティアスは結局何も聞かずに、指示通り男の子を肩車して外に出るのを手伝っている。

 その様子を見ながら時間稼ぎについて考える。



 レオが来るのは分かるが、まだまだそれは先の話になるはずだ。時間稼ぎか、またはここを脱出しないといけない。

 …だめだ、緊張と恐怖で頭が上手く回らない。


 すぐに考えるのを諦めて、男の子を外に無事外に出したマティに小さな声で話しかけた。


「今から言うことを何故知っているかはお願いだから聞かないで欲しいの。ここからの脱出法について一緒に考えてほしい」

「どういうことよ?」

「ここは三番街区郊外の森の中にあるもう使われていない小さな一階建ての教会よ。中にいる見張りの犯人は恐らく三人いるわ。礼拝堂の中央部の両サイドに部屋があるの。ここはそのうちの一つよ。向かいにも部屋があってそこは地下の部屋に繋がっているわ。これから三人の男が誰か一人を地下に連れて行くためにここに来るわ。どうすればここから逃げられると思う?」

「あのね、あんたね…一応レオが来るから」

「彼はまだ来ないわ」

 マティの言葉を遮って私は断言した。彼は驚愕の表情を浮かべている。


「んもう…いいわ。後で聞くわ。そうね、来る男たちはどんな奴ら?武器は?」

「ガタイがよくて魔法は使わないと思う。ゴロツキみたいな雇われ連中よ。ナイフは持っていると思うわ。」

「まっ、油断している可能性が高いわね。あんたどれくらい動ける?」

「護身術程度よ。力はないわ」

「そうよね、あたしも期待しないで。でもそうね…あたしが入口で待機して椅子を使って男たちを押して道を作るわ。その間に二人とも走って。みんなで出口を目指すわよ」

「分かったわ」

「もう仕方ないわ。出たとこ勝負よ」



 入り口付近で耳を澄まして待機する。

 静かに待っていたらドアの外から複数の足音が近づいてきた。心臓が跳ね上がり、緊張して唾を飲みこんだ。

 扉はすぐに開き、その瞬間入ってきた男達に向かってマティが椅子で突進して道を開けた。

「今よ!」

 その声にそのまま飛び出す。少女もついてきてくれている。

 出るとやはり寂れてボロボロな礼拝堂で、入り口も左手にすぐに見えた。そこを目指して全力で走って行く。


 入口の扉に着いて、思い切り扉を押した。ガチャガチャ音がして少しだけ開くだけでそれ以上前には進まない。恐らく鎖のような物で、表の扉は塞がれているみたいである。あまりの絶望感に頭がクラクラする。


 くぅ…レオは扉を壊して入ってきたわけか。さすがにそこまでゲームに載ってなかったから分からなかったわよ…


「ご、ごめん」

 呟くように二人に謝り、扉を背にして目の前を見た。

 追いかけてきた男たちの後ろで見える礼拝堂のステンドグラスからは、キラキラと光が差し込んでいて、薄汚れた女神像を照らしている。

 近づいてくる三人は逃げられないのが分かっているのか、ニヤニヤしながらゆっくりと近づいてきている。

 やはりこの中に追っていた高位貴族の男の姿はない。


「ひっひっひ…残念だったっすね」

「逃すわけねーだろ」

「…ちっ、一人足りねーな」

 ガタイのいい風体の男たち三名を前に、緊張で喉がカラカラとなる。これは絶体絶命だ。

 

「はぁ、手間かけさせやがって。おい、お前ら早く縛れ」

 リーダー格風の男が二人の男たちに指示をする。ここで暴れても怪我するだけである。大人しくまた腕を縛られる。

「ったく、どうやって解いたんだ…?おい、もう一人の小さいガキは?」

「さぁ、起きた時にないなかったわ」

 マティアスの返事と同時にバシンと頬を叩くような音が響き渡った。


「てめぇ、舐めやがって」

「ぺっ」

 口の中を切ったのか、マティの口元から血が出ている。近くにいる少女は青ざめて震えている。


 …めちゃくちゃ怖い。

 体の芯から恐怖で冷えていくのを感じる。怖いけれども時間さえ稼げばレオは必ず来る。私は何とか震えを止めて男たちを見る。


「外よ。さっきいた部屋の窓から逃したの」

 私が答えるとリーダー格の男は舌打ちをした。

「おい、お前。外を見て来い」

「…あいよ」

 言われた一人の男が仕方なさそうに、向かいの部屋に入って行ってしまった。


 入り口はどうやら地下室のある、あの部屋みたいである。

 あの部屋に出入りできるくらいの大きさの窓でもあるのか、それとも地下に外へと続く出入口があるのか…今となっては分からない。



「ちっ、とっとと元の部屋に戻れ」

 腕しか縛られていないが、この状態での抵抗は無理だろう。

 マティを見ると彼は首を横に振った。やはり大人しくしてろという事だろう。


 せっつかれながら、男たちに挟まれて縦に並んで部屋に戻る。

 元いた部屋に着くと、すぐに足も縛られて元のように床の上で転がされた。


 リーダー格の男は置いてある椅子に座ってこちらを見ている。もう一人はニヤニヤした顔で睨みつけている私とマティを交互に見ている。


「なぁ、なぁ、アニキ。今回の商品は命だけで指定がないっすよね?どっちかと遊んでいいっすか?」

「…おめぇは本当にガキが好きだな」

「このくらいが最高なんっす」

 既視感のある会話に体が凍り付いていく。

「…夜までだ。好きにしろ。地下を使え」

 そう言うと彼はすぐに部屋を出て行ってしまった。


「ひっひー。どーちーらーにーしーよーおーかーなー」

 男はニヤニヤと私とマティを交互に指差し、最後にその指は私で止まった。

「決―まった」

「やめろ!俺でいいだろ!!!俺を連れて行けよ!!!!」

 私に近づいてくる男に、マティが叫び出す。彼の地の話し方はもしかしたらこっちなのかもしれない。


「ちっ…うるせえな」

 そのまま男は力一杯マティを蹴り上げた。

「ごほっ」

「やめて!!!私が行くからもうやめて」

 マティが苦しそうにゲホゲホとむせている様子を見て、男に懇願して叫んだ。涙目で睨みつけていると男はニヤリと笑った。

「ひっ、ひっ。行くぞ」

 再び男が近づいてきて、私を軽々と持ち上げて丸太を担ぐように肩に担いで歩き出した。

 マティと少しだけ目が合った。何か言おうとする彼に向かって、何とか私は口角を上げて微笑んでみせた。


 本当は「大丈夫」とか何か言いたかったが、流石に怖くて言葉が出なかった。口角を上げるだけで精一杯だ。

 不安と気持ち悪さで感情がぐちゃぐちゃになっていく。



 男の服しか見えないが、どうやら地下に降りているみたいである。視界にちらりとたまに物が乱雑して汚れている地面も見える。

 ひんやりとした感触と共にどこかに置かれたみたいである。縛られている後ろ手が挟まっていて痛い。

薄暗い部屋の中、男がニヤニヤと笑っている。

「ひっひっひ、どうしようかな」

 吐き気のするような視線に、精一杯強がりで睨みつける事しかできない。それでも男の手が自分へと伸びてきて、これから起こる事への恐怖に諦めてきつく目を閉じた。


「うっ」

 呻き声と、触れられるはずの腕が来なくて目を開いた。

「…っ、リア大丈夫か?」

 男が床に倒れていて、肩で息をしているレオと目が合った。急いできたのか、顔からは汗が流れ落ちていて、髪の毛も顔に張り付いている。

 返事をしたいのに喉がカラカラで声が出てこなくて、こくこくと何度も首を縦に振る。そのうち段々とレオの姿が歪んで見えなくなっていった。


「うう…っ」

 堪えきれなくなった涙が勝手に溢れていき、そのせいで視界が見えなくなったのだと気づいた。

 彼の近づく気配がしてそのまま体をふんわりと抱きしめられた。

「もう大丈夫だから」

 彼は抱きしめながら、器用に私の後ろの腕の拘束を解いていく。自由になった腕で、私は思い切り彼の身体を抱きしめた。

「うわーん!!」

 もう限界で声を上げて大声で泣き叫んだ。


 正直もう無理だと一瞬諦めたし、覚悟したけど本当は失神したいくらい怖かった。安心感で涙が止まらない。



 その後も暫くの間トントンと私の背中を優しく叩きながら、泣きじゃくる私をレオは何も言わずに抱きしめてくれていた。


人攫いよくない

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