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17.図書館に行きましょう①


『…っ。…』

『…!…!!…‥…』


 呼ばれているような、呼ばれていないような。

 話しかけられているような、それとも話し声がただ聞こえているだけなのか。


 聞こえそうで、聞こえない。

 

 もどかしくなるような不思議な感情に、また何も反応ができない。

 夢か現か、よく分からない。


 

 目を覚ますとやっぱり私は一筋の涙を流していて、何とも言いようのない不思議な感情に引きずられていた。あれから何度か同じような夢を見ている。

 夢の中で金縛りのように動けず、目の前で見えているはずなのに何故か認識がどうしてもできないもどかしさとか色々と不思議ではあるが、覚醒するに従って徐々に気持ちが落ち着ていく。


 そもそも夢は夢だし、気にしたって仕方ない。



 朝食を食べ終えた後、部屋に戻りアナに王立図書館に行くための馬車の手配をお願いした。今日は特に予定も入っていないし、ちょうどいいタイミングだろう。

 訓練などは帰宅後にすればいいし、早い時間に図書館に行って本を借りてきてゆっくり読めばいいだろう。

 その後、準備できた馬車にアナと乗り、一緒に王立図書館へ向かった。




「わぁ、すごい大きい…」

 中に入ると想像以上に豪華で大きく、思わず感嘆の声を上げた。

 図書館というよりはまるで博物館のような内装で、美しい女神像などの彫刻に本棚や柱などは立派な装飾が施されていて見ているだけでとても美しい。本棚にびっしりと本が並んでいなければ、図書館だとは思えないくらいである。

 吹き抜けで地上三階までフロアが見える。中央部分一階が閲覧スペースみたいである。よく見ると地下への階段もあるが、下の様子はよく見えなかった。地下への階段は衛兵が二人立っており、降りられるかもよく分からなかった。


 まずは図書館の案内板みたいなものがないか辺りを見回したがよくわからなかった。仕方なく受付に向かって歩いた。私に気づいて一人の司書が手を挙げたので、彼女の座っているブースに腰を下ろした。

「ごきげんよう。初めて利用するのだけどフロアガイドについて知りたくて…」

「ごきげんよう、可愛いレディ。そしてようこそ王立図書館へ。置いてある本の検索に関してはあそこに並んでいる機械から情報の検索が可能です」


 司書に指をさされた先を見ると4台の機械らしきものが並んでいるのが見えた。

 ちょうど一人の男性が使用しており、彼の操作画面がいくつも浮かび上がって展開している。空中に浮かぶ透明なタブレットのようなものを指で操作しているようである。

 遠くからなので魔法なのか科学なのか不明である。

「フロアガイドについては此方でご案内させて頂きます。まず当館は地下を含めて4フロアございます。1階から3階までの本は貸出自由で閲覧も自由です。一階の中央付近に置かれているテーブルでごゆっくりどうぞ。場所が分からない場合は此方でご案内させて頂きますのでお気軽にお申し付けください。それと地下一階は貸出不可の書庫とサロンが御座います。但し決められた爵位の貴族のみしかご利用できません。以上、他に何か聞きたいことはありますか?」


 どうやら地下は利用制限があるらしい。まだ検索していないので本の所在は分からないが、一応興味はあるので対象かどうか確認しておこう。

「ありがとう。あの…私が地下を利用できるか知りたいのですが…」

「レディは…身分証明を確認させて頂けますか?…問題ありません。ご利用可能です。身分証明を地下への階段に立っている衛兵に見せれば問題ございません。それに偽っていれば結界で強制的にはじかれます」

 私は司書に分かりやすく上げた右腕にしているブレスレットをちらりと見た。


 このブレスレットは身分証明代わりのもので私の個人情報が刻まれている。特定の特殊魔法で読み取る事が可能で、貴族であれば必ず所持しているものである。誕生時に国から支給されるものである。戸籍に該当するものであろう。

 爵位によってブレスレットの色自体も異なっている。私のブレスレットの色は紫色である。またグラン公爵家の紋章も魔法で刻まれているので、よく見ればどこの家の者か分かるようになっている。


 お礼を言ってから受付を後にする。先程案内された機械の前に立った。

「初めまして。何をお探しでしょうか?」

 機械に話しかけられて思わずびくっと肩を上げて驚いてしまった。

 まさか自動音声機能だとは…AIみたいなものなのかな…?


「建国神話についての本を」

「分かりました。少々お待ちください。……お求めの本は此方です」

 いくつか画面が目の前に浮かび上がってきて、タイトルと大体の場所の地図が表示されている。

 魔法なのか科学なのか使用してもよく分からなかった。

 どうやらお目当てのものは地下フロアに多くあるみたいである。折角なら最初に向かってしまおう。


 地下への階段前に行き、衛兵にブレスレットを見せて通った。

「リアお嬢様、私は入れませんので此方でお待ちいたしております」

「…わかったわ、また後で」

 残念ながらアナの身分では入れないみたいである。今まで屋敷の外でアナと離れた事なんてなくて若干不安ではあったが、学園に入園すればそれが当たり前の生活になるだろう。予行演習くらいの気持ちで慣れていくしかないだろう。

 地下に続く階段を降りながら少しため息を吐き出す。降りていくと大きな扉が見えてきた。そこにも衛兵が二人立っており、近づくと扉を開けてくれた。

 

 中はかなり広く、地上階以上に豪華な装いとなっていた。敷かれている絨毯にしても、大理石の柱に、壁などに装飾として刻まれているレリーフもとても繊細で、恐らく金細工だろう。

 テーブルと本棚が交互に設置されていて何とも不思議な間取りではあるが、テーブルに置かれているソファはどれもフカフカで屋敷にあるような高価そうな物であった。

 人気は少なく、利用者も普段多いわけではないのかもしれない。ただ本棚で遮られている為、奥の様子があまりよく分からないので、もしかしたら思っているよりも人がいるのかもしれないが。



 とりあえずお目当ての本の場所の位置まで行くのに、奥に進んで行く。確か手前から三番目であった。

「あら」

 一番目の本棚を通り過ぎたところでよく見た顔と目が合った。

「マティ。ごきげんよう」

 ピンクゴールドの髪を上に高く一本に結んで、座って本を読んでいるマティアスがいた。テーブルの上には本が山積みとなっている。長い脚を組んで、ソファにもたれかかって本を読んでいる姿はそれだけでも美しくて絵になる。


「あんたが利用するなんて初めて見たわ。たまにロバートには会うけど」

 まるで常連のような口ぶりではあるが、お兄様もここを利用しているらしい。

「初めて来たわ。マティはよく来るの?」

「王城から近いし、時間が空いたら割とここね」

「読書が好きなのね」

「知識は力、情報は武器よ。それにここは制限があって静かだからいいわ。あんたは何しに?」

 確かに情報は武器だろう。私もその為にここに来たのだから。


 ゲーム上でのマティアスはただ顔が綺麗なオネエキャラだと思っていた。実際話してみると大分印象は変わってくる。

 あまりゲームでの知識に引きずられないよう先入観を捨てないといけないかもしれない。



「建国神話を調べに来たの」

「へぇ、物好きね。〚選択〛分かりやすい建国神話の本を」

 マティアスが取り出した杖を振ると、一冊の本が目の前に飛んできた。

 彼の持つ杖はペンサイズの大きさで、銀色のゴテゴテした装飾のある綺麗な杖であった。

「なっ」

「ん?あら知らなかったのね。地下一階ではこの呪文で全て手に入るわよ。他のフロアは残念ながら地道に探すしかないけどね」

 口を開けて驚いている私にクスクス笑いながらマティが教えてくれた。彼の反応に少し顔が熱くなる。ちょっとビックリしすぎてしまって恥ずかしい…

 でもめちゃくちゃファンタジーっぽくて感動しちゃう…


「そ、そんな魔法あるのね…」

「特殊魔法よ。まぁ、地下のみだから知らない人も多いかもね。上位貴族様らしい特権よ。そういえば古代語分かるのね」

「ええ、勉強したもの。話せるし、読み書きも問題ないわ」

 私の回答に「やっぱそうよね…」と何やら一人呟いている。


 先程マティアスが言った〚選択〛は古代語であった。ふわふわ浮いている本を手に取ると『わかりやすい建国神話の解説』と書かれていた。


「まっ、でも折角図書館に来たんだしちょっと来なさいよ。建国神話の置いてある棚に案内してあげるわ」

 マティアスは読んでいた本をテーブルに置いて立ち上がった。

「え?いいの?」

「ふふ、特別サービスよ。行くわよ」

 本を持ったままマティに続いて歩き始めた。三番目の本棚の裏に回ると端に向かって歩いていく。


「ここにあるわよ」

 マティアスが「ここからここ」と指を動かす。指の指された本の背表紙を一通り確認していく。

〚建国神話』『神の怒り~神話から読み解く』『空中都市レムリアの伝説』など色々気になるタイトルが並んでいる。



「しっ」

 突然マティに口を抑えられてそのままずるずると引きずられて、何かから隠れるように棚のサイドに移動した。

 突然の緊張感にとりあえず静かに首を縦に振って、彼に合わせて屈みこむ。

「〚感知〛」

 彼が杖を持って呟く。何が起きたかも、その魔法の意味も特殊魔法を勉強していないから一切効果が分からない。

 困惑した表情でマティを見つめていると、私の視線に気づき耳元に顔を近づけてきた。

「…防音魔法の気配を感じたけどビンゴよ。黙っててね。〚認識阻害〛」

 小声でマティが教えてくれるがいまいち状況がよく分からない。彼は自身に杖を向けて呪文を呟いた後、姿が見えなくなってしまった。

 私は目を見開いて驚きながら彼のいたはずの所に手を伸ばすと、何かに触れて彼の姿が見えた。姿が見えた事に安心して、触れた手を離すとまた見えなくなる。

 どうやら触れている間しか見えないみたいである。

「ちょっと気になるから見に行きたいんだけど…」

 どうやらマティは私を置いて、防音魔法をかけている人たちの様子を探りに行きたいみたいである。

 移動しようとするマティの袖の裾を右手で思い切り掴んで引き止めて、左手の人差し指で自分を指して、自分にもかけてと猛アピールする。

 流石に何だか気になるし、私だってついて行きたい。


 彼は少し考えた後小さくため息を吐き、私に杖を向けて「〚認識阻害〛」と小さく呟いた。

「こっちよ」

 静かにマティが移動を開始したので、同じく静かにその後ろ姿についていく。

 部屋の奥の方に二人の男性が立っていて話し込んでいる。


「あと何人か欲しい所だな」

「流石に魔力持ちを集めるのは我が国ではリスクが高すぎる…あの忌々しい学園のせいで」

「仕方がない。魔力なしでもいいが魔力持ちの方が量も取れるし、質もいい。あれを体験したら忘れられんよ…」

「私は魔力持ちのでは体験した事がないから今から楽しみですな」

「とりあえず後一人確保したら儀式を始めよう」

「分かった。もう一人入手するよう伝える」


 何の話だがさっぱり分からないが、隣で聞き耳を立てているマティにはある程度分かる話みたいである。真剣に二人の話を聞いている。


 彼らは話が終わると足早に入り口に向かって歩いていく。

マティは小さく舌打ちすると、すぐに耳にしている金色のピアスを外して何故かそれを床に置いた。

「〚全解除〛、〚暗号痕跡〛。あんたのもこれで解けているわよ」

 いつも余裕そうなマティの、余裕のない態度に何だか言い知れない不安が押し寄せる。きっと彼は追うつもりだろう。でも私は彼を一人にさせちゃいけない気がする。


「マティ、待って」

 咄嗟にすぐに彼の腕をつかんで引き止めた。歩くのを邪魔された彼は苛立った表情で私を睨んでいる。美人な分その迫力もすごい。

「時間がないの。邪魔しないで」

「嫌よ、私も行くわ。じゃないと離さないわ」

マティは眉を顰めて更に睨みつけてきたが、すぐに諦めたようにため息をついた。

「大人しくしてよね。危ない事はしないのよ」

 それだけ言うと入り口に向かって走っていってしまった。慌てて私も彼の後を追いかけて走る。扉を開けて、階段を上っている途中でまた〚認識阻害〛をかけられた。

 階段を登りきると立っている衛兵は私たちに気づいていないみたいである。近くに待機しているアナも気づく様子はない。内心彼女に謝りながら図書館のエントランスに向かってそのままマティを追いかけて走っていく。



 外に出ると先程の彼らの後ろ姿が見えた。そのまま彼らに向かって走っていくと、一人は近くの馬車に乗り、もう一人はそのまま歩いていく。

 マティは馬車を通り過ぎると、歩いて行った男の後ろ姿を追っていった。私もその後を追っていく。

 最近のトレーニングの成果か少しきついがまだペースは落ちずについて行けている。

 正直関わらない方がいいのは分かっている。それでも勝手に腕が動いて引き止めてしまったのだ。今更引き返せない。


 追っていた男は二番街区に入って行き、曲がって路地の方に消えて行った。マティも私もそのままの勢いで曲がって路地に入ろうとしたが、思い切り誰かにぶつかってしりもちをついた。

「誰だ、こいつら」

 低い男の声が聞こえたと同時に布か何かで顔を塞がれた。



 すぐに私の視界は真っ暗となり、状況が分からないまままそのまま意識を手離した。


図書館のイメージはオーストリアで見た国立図書館イメージ。めちゃくちゃ良かった…っ。

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