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15.建国神話はポピュラーみたいです

「本…よねぇ…やっぱり…」

「ん?リアどうしたんだい?」

 食後のデザートを食べながら、建国神話に関しての呪いとかの調べ方についてぼーっとしながら考えているとお兄様に声をかけられた。

 どうやら考え事が声に出ていたみたいである。


「あ、いえ…ちょっと調べたい事がありまして…」

「何についてかな?僕で分かる事であれば教えてあげられるけど」

「えーっと…あの…王家の呪いというか…そういうの調べたくて」

 ゲームの中で王家は呪われているとレオンハルトは言っていた。

 それは建国神話に描かれているらしい。ただ実際のリアーナの記憶の中には該当がなかった。仕方なく曖昧に言葉を濁す。


「それなら『天からおちた王さま』が有名じゃない?絵本だけど」

「え!?なんですか、それ?」

 お兄様が知っているとは思いもよらず、思っているよりも大きな声が出てしまった。

「はっはっは、懐かしいな。昔リアにも読み聞かせたよ」

 もう既に食べ終えたお父様が笑って私を見ている。

 みんな知っているほど有名な絵本なのだろうか?


 そもそも建国神話ってこんなみんな普通に知っていたり、有名な絵本にもなっているものなのね。

 前世でイザナギとイザナミの国生みの話なんて家庭で出たようなイメージはないんだけどな…国民性の問題かしら。


「そうなんですか?全く覚えていないです…」

「そうね、建国神話の叙事詩をベースにした絵本よ。まだリアの部屋にあるのではないかしら?リアはあれが好きじゃなかったからあまり読み聞かせなかったのよね。覚えていないのも無理ないわ」

 お母様が「懐かしいわね」と微笑みながら教えてくれた。

 肩より長い銀色の髪は緩やかなウェーブがかかっており、アクアマリンのような青い瞳が優しそうに細められている。華やかなタイプではないが、清楚な美しさである。既に領から戻っている。


「そ、そうなんですね…」

 そんなに暗い話なのかしら?それとも怖い話?

少し怪訝そうな顔をしているとお兄様が笑いながら口を開いた。

「もっと詳しく建国神話について知りたいなら図書館にも色々置いてあるよ」

「図書館…ですか…?」

「あぁ、リアは行ったことがないか。国内では一番大きい王立図書館がこの街区にあるよ。衛兵が守っていて安心だし、機会があれば行ってみるといいよ」

「ありがとうございます。今度行ってみますわ」

 思い浮かべるとすぐに場所を思い出した。よく行っていた王立博物館や美術館の近くである。ただ利用した記憶はやはりなかった。


 ネットで検索することができないこの世界で、情報収集の場として図書館は重要であるはずだ。建国神話についても調べないといけないし、他にも今後調べる事が増えてくるだろう。できれば早めに行っておきたいところである。



 王国内の中央都市内はざっくり3つのエリアに分かれている。

 現在グラン公爵家があるのは通称高級貴族街として呼ばれている一番街区に位置している。王城から一番近い地域であり、公爵・侯爵までの屋敷がある。三つの中のエリアでは一番狭く、高級エリアとなっており王立の施設が目立つ。

 王立図書館や博物館、美術館などがあり、王家御用達のレストランや宝石店、高級ショップなどが並んでいる。基本的に必ず厳しい警備が敷かれている施設しかない。

 その上で身分制度も厳格であり、爵位によっては入れなかったり、従者ですら中に連れていけない施設もいくつかあるくらいである。


 次に二番街区は伯爵・子爵・男爵までの屋敷がある。また、平民の中でも大富豪の者の本屋敷もある。中流層のエリアとなっており一番広い。治安はそこまで悪くはないが、メインストリートから外れた細道などは注意しないといけない。

 民間の運営している娯楽施設が多く、高級なお店からリーズナブルなお店まで様々である。平民にも人気なブティックなど色々ある。格式ばったお店ばかりでもないし、安くて良質な品々も多い。以前呼んだ商人はこの街区に店を持つ商人であった。たくさんのお店や施設で賑わっている。またセントラルステーションがあるため国際色も豊かで、高級な宿泊施設も多い。

 セントラルステーションとはゲートと呼ばれるものが設置されている施設である。アトラス大陸内の他の国に行くのによく利用されているが、ゲートの設置されている場所にワープできる施設である。ただ全ての国ではなく、フォンレム帝国とテーレ共和国、聖国に四か国間のみである。また、主要都市にしか設置されていないので場所によってはゲートでなく、馬車や船などの移動手段を使った方が早い所もあるだろう。とても便利ではあるが国防の問題もあり、増やされることはない。また、古代魔術で複雑な円陣が組まれている為描ける者もかなり限られているらしい。


 最後に三番街区は中央都市に住んでいる平民の居住地のあるエリアである。治安としては特に貴族にとっては狙われやすいのであまりよくはない。

 ギルド支部が設置されており、中央都市に安く泊まりたいような冒険者にはお勧めのリーズナブルな宿やお店が多い。また露店なども多く並んでいる。それと二番街区に商品を卸しているような工房も多いので技術的な職人もたくさん住んでいる。



 部屋に戻り、先程の絵本を探すため本棚を見る。前世ではよく本を読んでいたが、リアーナ自身はあまり読書が好きではなかったみたいで贈られたであろう本はどれも新品のように綺麗であった。そもそも読んだ記憶もなかった。

 最近忙しくて改めて自室を見る事がなかったけど、思っていたよりも本棚には本が置かれているし、時間がある時に読んでみようかな…

 教科書として使用されている本も多く並んでいるが、少女向けの小説や画集など色々と置かれている。


「天からおちた…天から…」

 一つ一つ背表紙を確認しながら見ていくと、一番上の段の端に薄い本があるのが見つかった。

「はい、リアお嬢様どうぞ」

 お願いするよりも前に、すぐにアナが本を取り出し私に差し出してくれた。

「ありがとう、アナ」

 お礼を言いながら彼女から本を受け取ると、私はベッドサイドに腰を掛けて開いてみた。パラパラとめくっていき読んでいく。

 本としては絵本である為か薄く、色鮮やかな色彩で描かれている。


 内容は神様とこの国の初代の王について描かれている。

 抽象的な表現が多くよく分からないが、元々天界みたいなところに住んでいて、争いをやめない人々に神様が怒って地上に落として言語を分けたみたいである。そして王家に双子の王子が生まれたら国が亡びるという呪いをかけたみたいだ。


「うーん」

 後ろに倒れこみ、ベッドに仰向けになった。ベッドの天窓が目に入る。

 確かにこれは元の伝承である建国神話を読んでみた方が早いだろう。他にも王国の呪いの呪いに関連しそうな伝説や伝承も調べないといけないだろうし…


 それにしても…確かに何故かよく分からないけど、不思議な感情の沸く本ではある。この既視感に近い違和感の正体は何だろう…?

「あ。バベルにちょっと似ている…?」

 塔の建設などは勿論していないが、神様が怒って言語を分けたというのは少し似ているかもしれない。

ただバベルの塔で言語を分けた理由は人々の団結を防ぐ狙いであって、この絵本の話とは多少意味合いが異なる点ではあるが。

 この気持ちは前世の世界の話と少し似た話だからかもしれない。ただ幼い時のリアーナがどうしてこの本を嫌がったかは考えてもよく分からなかった。


 日本での神話にしても、旧約聖書の創世記にしてもこんな事は簡単に思い出せるのに、日本人として生きた自分の名前とかは全く思い出せないのは何だか不思議な気分である。

 そういえば輪廻転生の本について読んでいた時、前世の記憶を持つ人たちの話で正確に名前や住んでいた場所まで言えた人もいたわよね…私には当てはまらないみたいである。思い出したからと言って何かあるわけではないけど。


 暫くゴロゴロしているとアナがやってきた。

「リアお嬢様、眠るなら湯あみを済ませてからでないと」

「わかったわ、今から入るわ」

 私はゆっくりと起き上がり、湯あみの為に浴室に向かっていった。




 使用人を含めて誰も入れさせない自室は静かである。

 一人で使うにはあまりにも大きい部屋だろうがそれが当たり前で、怖くて泣いてアルベルトと一緒にベッドで寝たのはもう遠い昔の過去の事である。その彼がこの部屋に長居することもまたずっと前の事だろう。


 僕はマティアスから直接渡された手紙を読み上げると、そのまま無詠唱で火を出して燃やした。灰も残さずに燃えて消えていった手紙の中身を反芻しながら腕立て伏せを始める。

 

 近頃中央都市内の三番街区で起こっている平民の子供の誘拐事件。

 貴族みたいに平民の戸籍管理は厳格ではない為、実情は分からないが既に二件起こっていてまだ見つかっていない。


 人身売買なのか、小児愛者たちの犯罪なのか。いずれにしても目的は不明である。


 そして隣の帝国では数年前から類似の誘拐事件が頻発しており、貴族の子供たちもターゲットになっているみたいである。


 子供達の誘拐とはいつの時代からもある事ではあるが、誘拐された状況などから類似性もあり、どうやらこれは組織的犯罪みたいである。というのも誘拐される子供達の特徴としては魔力の高い子達が狙われているからである。

 確かに魔力持ち自体が帝国と王国に多いから妥当だろう。ただこうなってくると国際犯罪となる上に、発生地点が帝国からとなると組織の本体自体は帝国にある可能性が高い。そうなると色々と面倒である。帝国と協力して組織を探して潰すなど夢物語でしかない。

 ただ、王国内の協力者がいなければ発生しないだろうし、本体を潰せなくても帝国の犯罪組織と繋がっている国内の者たちは炙り出さなければいけないだろう。


 また面倒な事件ではあるが、貴族に被害が及ばない限り、国として動く事はないだろう。また、いつものように僕自身で動くしかない。



 それにしても彼の情報収集能力には舌を巻く。彼はどうやって他国の情報まで得ているのだろう?

 もちろん、彼自身の家は外交に特化していて大陸内であれば様々な諜報員を抱えているみたいであるが、あくまでもそれは当主の権限の話である。マティアス自身にその権限はないし、彼のパイプと、顔の広さは謎である。

 自分でも今回の国内の不穏な誘拐事件については、持っている情報屋を通じて入手はしていたが帝国までは知らなかった。


「ふぅ…」

 流石に腕立て伏せの次に腹筋をしていたら、汗が吹き出てきたので魔法で体を冷気で包み込んだ。更に汗で湿った服も風魔法で乾燥させても良かったが、面倒で上を脱ぎ上半身裸になる。

 起きてからと寝る前には必ず筋トレをするようにしている。考え事をするのに筋トレをしながらの方が何故か集中できるからである。習慣のせいかもしれない。

 

 机には山のように積まれている手紙が置かれている。

 その束から無造作にとり、片っ端から目を通していく。既に検閲済のものなので封は開いているから取り出すのは楽である。

 どれも興味のないラブレターであった。一度も返事を書いたことがないのに、よく何度も送ってくるのかと感心してしまう。勿論中には親に言われて仕方なく書いている令嬢たちも多いであろうが。いつも通り全てごみ箱に入れて湯あみ前のルーティンを済ませていく。



 ここ最近は街にもあまり行けていない。三番街区の様子も実際行って確かめたいのはやまやまだが、なかなか時間がとれない。

 何故なら誕生日パーティー以降ロバートに捕まるのでずっとサボれずにいる。勿論毎日講義や打ち合いがあるわけではないので空いている時にでも行けばいいのだが、アルだけでいいだろうとサボっていた視察までロバートに捕まり三人で強制的に行くようになっていて思うように時間がとれていない。

 最近のロバートの心境の変化の方がずっと難解である。同じく難解といえば彼の妹のリアーナもそうだろう。


 アルがここ一年間で城を抜け出して、こっそり通い詰めて会っている令嬢である事は知っていた。ただ調べた限り愛嬌のある純粋な世間知らずの箱入り令嬢、特にこれといった興味もなく関わるつもりなんてなかった。

 それなのにまさか様子を探るのに直接話してみたら意外に面白くて、何だか気に入ってしまったのは確かに自分でも意外ではあった。


 でもその判断は間違っていなくて、次に会った時は何故だか魔法のトレーニングをしているし、直近で会った誕生日会ではあのマティにも気に入られていたのは驚異的である。

 マティの人嫌いは色々あったから仕方ない事ではあるが老若男女問わないし、昔からの幼馴染である僕たち以外に懐く事なんてほとんどない。彼の天性の直観は宛になるし、マティが認めるくらいなら問題ないだろう。

 彼女はこの国一番の王妃候補であるから、人物面においても問題ないに越したことはない。他にも公爵家や上位貴族の令嬢も多いが、アルが気に入っているという事実の方が大事である。アルは今でも空いた時間に彼女に会いに行くくらいだし、大切にしているのだろう。

 今はまだ父上の意向が明らかにされていないので婚約者を立てられていないが、自分は王になるつもりもないし、いずれアルの婚約者としてリアが決まるだろう。



 僕のやるべきことはアルベルトを王にする事。いずれ邪魔になるようなら国外にでも僕は去ればいい。そしてその為には国内の憂いは早めに払わないと…



中央都市内のざっくりした設定紹介です。

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