11. とりあえず強くなる為には地道な修行が大切なのです④
『…』
『っ、…。…』
どこからか誰かの声が聞こえている。
近いような、遠いような、不明瞭な声。
私を呼んでいるのか、それとも他の誰かを呼んでいるのか。
私は何か反応したいのに、指一つ動かせなくて。
見えているはずなのに、阻害されているような不思議な感覚。
でもこの場所が何だかすごく懐かしい気がして、何だか胸が締め付けられるような不思議な感情がもどかしくて。
私は起き上がると、目の端に溜まっていた涙が頬に一筋こぼれ落ちた。
何とも説明し難い不思議で、でも何だか懐かしいような、そんなよく分からない感情になる夢だった。
私は暫くその感情に引きずられたまま動けずに、アナが来るまでぼーっとしていた。
「今日から早速コントロールのトレーニングね!」
「そうですね、リアお嬢様。やっと魔法のトレーニングができますね」
今までの瞑想はどうやらアナの中ではトレーニングに入っていなかったらしい。
「どうすればよいかしら?」
気を取り直してアナに指示を仰ぐ。
「そうですね…とりあえず何かあっても危ないので魔法に関してはきちんとコントロールできるまでは外で行いましょう。それと集中力をかなり使うので今迄通り魔法に当てる時間は1日30分で区切らせて頂きます」
「分かったわ。それじゃ早速着替えて向かいましょうか」
幸い今日は既に全ての授業が終わっている。実際はまだ課題の裁縫が残っているが夜に仕上げてしまえばいいだろう。
いつもよりもまだ日が高く、春の心地いい風がそよそよと吹いている。ランニングを終えた後、すぐに魔法のコントロールのトレーニングを開始することにした。
「では早速、火のコントロール方法から始めます。折角なので以前言っていた蝶を作りましょう。まずは杖を構えてください。そして頭の中で蝶をイメージしてください。実物も見た事がありますし。詠唱呪文は『内なる火よ、蝶となりて空を舞え』」
アナは黒いシンプルなペンサイズの杖を振り、実際に炎の蝶を出してみせた。アナの出した赤い火の蝶はひらひらと舞っている。
少し緊張する。とりあえず一呼吸置き、杖をアナと同じように軽く振った。
「内なる火よ、蝶となりて空を舞え」
すると、杖の指した先から赤い炎の蝶っぽい形のものがゆらゆらと舞った。
形として子供の落書きのような蝶であった。一番近い表現では▽と▽が繋ぎ合わされたようなものである。
すぐそれは宙の中に消えてなくなってしまった。
「まずもう少し繊細な魔力コントロールが必要みたいですね。それと生の蝶をきちんと観察してみて下さい。想像力が足りていない可能性もあるかと。まずは本物に限りなく近い蝶を炎で作るのが最初の課題です。これがクリアできれば大きさや時間、数を増やしていって、他の属性のコントロールに移りましょう」
「分かったわ」
それにしても想像力…ね…
考えてみれば私は絵心もなかったわ…少し落胆したがすぐに気を取り直した。辺りを見回してひらひらと舞う本物の蝶をよく観察してみる。
触覚もついているのね…きちんと見てみた事がなかったわ。
その後、暫くいくつか蝶を出していたが二十分程度経ったところで久々にものすごい疲労感に襲われて動けなくなった。たまらずにその場に座り込む。
「かなり魔力を消費したみたいですね。魔力量は多いはずですが…作るのに余分な魔力量を使いすぎなのだと思います。もう少し少ない魔力で作る事を明日からはイメージしてください。今日はもうこれで湯あみにしましょう」
「そうね…それが良さそうだわ…」
重くなった体を何とか起こして、私は今日の特訓を終了させた。
ハンカチに課題の紋章を細かく刺繡しながら、やっと動き出したトレーニングの成果に改めて感慨深い気持ちになる。
素振りの方も大分回数が増えてきていて、当初より大分様になった気がするし、やっと魔法もこれからコントロール力を身に着けて、目指すは初級魔法!というところまでステップアップの目途が立ってきた。
ただ実践となるとやはり別のトレーニングが必要になるだろうなとは思っている。剣術にしても魔法にしても打ち合いや魔獣の盗伐など、学園に入学さえすれば勿論授業として選択可能であるが三年後を待つのには流石に遠い。
「何かないかしら…?」
呟きながらもいいアイデアは特に浮かばなかった。
まだまだ魔法の訓練も必要だろうし、焦っても仕方ないだろう。もう少ししてからでもいいかもしれない。
それにそろそろガーデンパーティーの開催も大分近くまで差し迫っている。
改めて当日の目標について整理しておかないと。
まずは令嬢たち、そして側近のヒーローに少しでも近づくこと。
令嬢たち、特に婚約者候補に一番近い四大公爵家の令嬢たちには改めてきちんと挨拶して彼女たちの動向を探らないといけないわ。
ゲームではそれぞれの王子ルートではその王子にアプローチをかけていた。でも恐らく現実ではどちらかに狙いを定めているはずである。二兎追うものは一兎も得ず、というしどちらにもアプローチするのは難しいはずであるから狙いを絞っているはずである。
引いてはそれがその家にとっての派閥にも繋がるだろう。派閥を把握するのは必須であるはずだ。
また、年齢の近い令嬢であれば侯爵家、伯爵家までが招待されているはずである。彼女らはヒーロールートでの悪役令嬢役としても一部出ていたのだ。王子たちだけが狙いではなく、四大公爵家の次期当主狙いも当然考えられる。此方もちゃんと把握する必要があるだろう。
ああ、でもせっかくの王族のお茶会。絶対美味しい物しか出ないよね…この世界の食べ物は前世と同じような物も多いが、食材自体が美味しいのかシンプルな調理法で食べても驚くくらいとても美味しい。魔法でも使っているのかしら…?(実は正解)
ただこの世界を楽しむのは二の次にして、一番はやはりこの世界でこれから起こる事件への対処や自分の命について優先しないと…
それにはゲームタイトルである「呪われた王国」という意味深さについても考えないといけない。これがリアーナの死やレオンハルトが狂王になる原因の可能性があるからだ。
ただその「呪い」という単語を直接言っていたレオンハルトであり、彼のルートを私は一切攻略していない。王国の呪いが何なのかさっぱり分からない。
仕方がないのでどこかのタイミングで図書館に行って関係するような呪いや伝承についても探してみないといけないだろう。
それと特にそれぞれのヒーロー達の心の闇や問題などの解決の糸口も探して、ゲームとは違う関係など少しでも不確定要素を増やしていかないと。面倒だけど生き残る為には手駒が多いに越したことはない。
二人の誕生日も祝いつつきっちりと目標の為の情報収集の場にしようと決意した。
やっとコントロールのトレーニングです。でもまだまだ魔法を使えるのは先です。
何でこんな長い設定にしちゃったんだろう。。(遠い目




