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彼が見つめるひと④

 戸惑い逃げているうちに端まで追いやられたルークは、押し返そうと試みる。しかしディノの圧迫が強いのかびくともしない。ついにルークはソファから弾き出された。


「マジでなんなん!? ちょ、無言やめて! 怖いからやめて!?」


 喚くルークをよそに、ディノはゆったりとカップをすする。さっきからじっと見ているテレビ番組はお笑いのはずだが、目は一ミリも笑っていない。

 岩石のごとくその姿に一種の悟りを開いたのは、ジェーンだけではなかった。

 ルークは軽く肩をすくめ、ジェーンに首を振ってみせる。「俺はもう寝るっスよ」と扉へ向かうルークに、ジェーンは礼を言った。

 彼は片手を挙げて応え、最後に視線でディノを指した。

 私が聞いても結果は同じじゃないのかなと思いつつ、ジェーンはディノの顔をうかがった。


「ディノ? なんで急にあんなことしたんですか」


 ところが、ディノはそれを待っていたかのようにパッと振り向いた。笑みがにじむ若葉の目に捉えられて、ジェーンはドキリとする。

 薄く弧を描く唇から八重歯を覗かせる彼は、意地悪な顔をしていた。


「追い払ったんだよ。ルークがあんたをひとり占めしてるから」

「なっ。なに言ってるんですか。普通に話してただけです」


 ディノはローテーブルにマグカップを置いて、大きく詰め寄ってくる。ギシリときしむソファの音がやけに耳についた。


「だったら俺と話せばいいだろ」

「ルークたちの芸大時代の話をしたかったんですよ……!」


 ソファの中央を越えてもディノが止まらないと気づいて、ジェーンは慌てて下がった。しかし足が滑って、スリッパが片方脱げる。

 そちらに気を取られているうちに、ディノのひざはジェーンまで辿り着いていた。とっさに立ち上がって逃げようとした行く手を、ひじかけについた腕に阻まれる。


「気に入らないな。あんたが俺以外の男に興味を持つのは」


 照明がディノに遮られて、ジェーンを影が覆う。わずかな光を照り返すディノの目が迫ってきた瞬間、ジェーンは顔を背けまぶたをぎゅっと閉じた。

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