彼が見つめるひと②
夕飯を済ませ、あたたかい湯船に浸かってもジェーンの心はすっきりとしなかった。
食卓のダグラスはルークと談笑し、プルメリアもカレンやジェーンにどこどこのケーキ屋がおいしいなどと話を振って、普段と変わりない様子だった。
しかしあのふわふわとした空気を感じたジェーンには、ふたりがあえて距離を置いていると思えてならない。勘としか言えないが、ジェーンには確信があった。
「嫌な予感ほど当たるって、テレビで言ってた……」
風呂上がり、そのままベッドに入る気にはなれなくて、ふらりとリビングを覗いてみる。するとルークがひとり、ソファに座ってテレビを見ていた。
ジェーンは廊下に誰もいないことを確かめて、中に入る。ソファの背もたれ越しにそろりと声をかけた。
「ねえルーク」
「うわ! びっくりした!」
お笑い番組に集中していたらしいルークは、目に見えて肩をびくりと震わせた。驚かせたことを謝りつつ、ジェーンはソファを回って横に腰かける。
「今ちょっといいですか」
「どうしたんスか」
不思議そうに首をひねりながらも、ルークはテレビの音量を下げてくれた。
「あの、ルークとダグラスとカレンとプルメリアって仲いいですよね。芸大時代からよくいっしょにいたんですか?」
単刀直入に聞くのは怖くて、ジェーンは遠回しに言った。
「ダグ先輩とカレン先輩はいっこ上だから、いつもってわけじゃなかったスけど。プルメリアがダグ先輩の相手役やることが多くて、それで仲よくなったんスよね」
「芸大からふたりは恋人役をやっていたんですか」
「そう。なんとなくふたりはコンビって流れができてたんス」
ルークはちらりとテレビを見やる。画面の中ではスタンドマイクの前で、コンビ芸人がコントを披露していた。
ロジャー王とジュリー女王が寄り添った時、ぴたりと合わさるような安心感があった。それは演技以上に、長年コンビを組んできた絆が生み出す波長なのだと知る。
ジェーンは焦燥にも似た喪失に強張る胸を押さえた。
記憶では、その絆を結んだのは自分だった。でも現実は別の人が彼の横にいる。その違和感にダグラスさえ気づかない。




