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彼が見つめるひと①

 重く垂れ込めるもやを散らすと、まっ先に演劇部員たちが見せてくれたダンスが思い浮かんだ。メロディーが脳内を駆け巡る。

 夢のように舞い踊る衣装たち、手を振り合った一体感、そしてたくさんの笑顔。その中心でダグラスは純白の礼装をまとい、青空のマントをなびかせて誰よりも輝いていた。


「私が元気ないって気づいてくれたの、うれしかったな」


 頬に触れたやさしい感触を思い出すだけで、くすぐったくなる。ダグラスはいつも私を気にかけてくれてるのかしら、なんて舞い上がってしまう。家路を行く歩みが自然と速まった。

 また恋人に戻りたい。

 そう願ってもいいかな。

 ダグラスと両想いになれたら、きっと記憶も戻る。根拠もない確信に胸がふくらんだ瞬間、彼の隣で可憐に揺れる緑髪がちらついた。


「でもあれは、役になりきってただけだよね……」


 にわかに空っ風の冷たさが身に染みて、ジェーンは見えてきたシェアハウスの扉をすばやく開けた。


「わあ!? ジェ、ジェーンおかえり……!」

「わっ、あ、これは違うから! 事故だから!」


 玄関を潜るや否や、飛び込んできた光景にジェーンは目を剥いた。プルメリアがダグラスを押し倒している。扉の開く音に驚いて振り返る直前まで、ふたりは見つめ合っていた。


「ほんと違うから! そこの電球が切れて交換してただけ!」

「そう、それで私がバランス崩して倒れちゃったの……」


 ダグラスとプルメリアは慌てて離れ、壁かけランプを指さす。その下には倒れた脚立と古くなった電球が転がっていた。

 よろめいたプルメリアを受けとめようとして、ダグラスともども倒れたのだとジェーンも状況を理解する。

 だが、互いに怪我はないかと気遣うダグラスとプルメリアから漂う空気に、ジェーンは呼吸を忘れる。それはふわふわと妙に心を揺さぶった。

 けれど、演劇部の歌とダンスのような心地よさはない。一体感どころか、場違いなところにいるとジェーンをせっついてくる。


「なんスかあ? なんか大きい音がしたっスけど」


 そこへルークがキッチン・ダイニングからひょこりと顔を出した。ダグラスとプルメリアの意識がそちらへ移ると、妙な空気も消えていく。

 ジェーンは結局なにも言えないまま、逃げるように自室へ向かった。

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