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女帝の黒い噂②

「お前だけを嫌ってるわけじゃねえよ」


 ふと、レイジがこぼす。だが彼はジェーンと目が合うと、口を押さえて顔を逸らした。それは拒絶ではなく気遣いに見えて、ジェーンはこれ以上踏み込んでいいものかわからなくなる。

 そこへ大きなため息が落ちた。クリスは迷いを払い、強い光を宿した目でジェーンを捉える。


「女帝が嫌いなのは新人だよ。特に若い女性のね。整備部に女性っていなかったでしょ、あの人を除いて」


 ジェーンはハッと目を見張った。整備士という職業から、なんとなく男性が主体の職場なのかと思っていた。

 けれどそうではないと、重い口を開いたレイジから真相が語られる。


「ジェーンが来る前にも、ひとり若い女性が入ったんだ。だが、突然辞めちまった。なにがあったのか聞く暇もなかった。前日までにこにこしてたんだぞ? 不自然過ぎるだろ」

「それってつまり……」

「ジェーンはもうすぐ本採用が決まって正社員になるから、簡単にはクビにできない。けれど女帝ならやりかねないんだ。ジェーンも気をつけて」


 痛みを堪えるかのようにクリスが目を細めた時、出勤初日にかけられた言葉を思い出した。


――きみ、ここ向いてないから。さっさと辞めたほうがいいよ。


 あれはジェーンを突き放すものではなく、傷つく前に逃げろという警告だったのだ。

 レイジとクリスは今も辞めた女性を案じている。そして、こんな話をしてジェーンを怖がらせるのではと、渋ったやさしい理由も理解した。

 出口のない迷路でふたりの先輩にやっと会えたと思ったら、目の前の道が突然塞がれてしまった。そんな途方もない心地がして、ジェーンはしばらくなにも言えなかった。




 その日の帰り道。路面電車から降りたジェーンは、レイジとクリスに言われたことを気にして、とぼとぼと歩いていた。


「アナベラ部長は本当に……。でも女性に辞めなければならない事情が急にできたってことも……」


 そうだとして、果たして事情を話す間もなく消えるなんてことがあるだろうか。

 もし話せない、話したくないなにかが、女性の身に振りかかったんだとしたら――。


「ううっ。なんか思考がどんどん悪いほうへ流れていってる。ダメ。なにか楽しいこと考えないと」

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