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のち虹③

 束の間、見惚れているうちにジェーンは手を掴まれた。ジュリー女王がいたずらめいた笑みを湛え、ジェーンにくるりと回るよう手を導く。ふいのことで足がもつれるジェーンを、ジュリー女王はやさしく支えてくれた。

 その振る舞いは無垢な少女でありながら、紳士のような高貴さを帯びている。女王は胸に手をあて、ドレスの裾をつまみながら軽くお辞儀をして離れた。

 あとには花の香りが漂う。

 その時、目の醒めるような青がジェーンの視界を奪った。空色のマントを羽織ったロジャー王が、恭しくジェーンに手を差し伸べる。瞳の青さに吸い込まれそうになりながら、ジェーンは王に手を委ねた。

 すると彼はフッと微笑み、白のグローブに包まれた指でジェーンの頬に触れる。


「笑ったな。なんだか元気がないように見えたけど、安心した」


 鼓膜をやさしく打つダグラスの声に心が震える。思わず名前を呼ぼうとしたジェーンを、ダグラスは口に立てた人さし指で制した。

 そして、唇の動きだけでなにか伝える。


――またあとでな。


 確証はないけれど、ジェーンはそう言われた気がした。


「パレードの時間だ!」


 音楽を止めて、ジャスパーは演者たちを送り出す。それぞれ手を振ってくれるルームメイトたちを見送りながら、ジェーンは高まりが収まらない胸に触れた。

 体の内側から叩きつけてくるその情動は、ダグラスを目に入れると熱を帯びる。

 やっぱりダグラスが好き。

 記憶があいまいだろうと、今目の前にいる彼に惹きつけられてやまない。叶うなら夢のように、彼と触れ合える特別な存在になりたい。

 けれど、大扉に遮られるその瞬間まで、ロジャー王は差し出した腕に掴まるジュリー女王と見つめ合っていた。




「はあ」


 ため息がひとつ転がり落ちてくる。これを聞くのはもう三度目だなと思いながら、ジェーンは衣装から目を起こした。

 マネキンに着せた衣装を検分するクリスがいる。その目は油断なく生地の状態に注視しているが、彼は自分がため息ばかりついていることに気づいているのだろうか。

 ジェーンは迷ったが、次の衣装をマネキンに着せたところで切り出してみた。

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